第03話 シャルロットとの出会い(石田紗菜の自信)
本日の21:30に、第04話を公開します。 ぜひ、お読みください。
わたしは、石田 紗菜と申します。 サナと呼んでください。
神様、ごめんなさい。 わたしが間違っていました。 世の中には無理というか、将棋や囲碁の詰み状態からは逆転できないことを身をもって感じましたので、ゆるしてください。
◇
ある日、親友のアユミが何度も何度も熱心に乙女ゲームと呼ばれるWEBブラウザゲームを勧めてきました。 物語がいい感じに進むたびに入るCMがうっとうしいゲームでした。 CMが終わるまで他のことをしていたら、CM視聴確認クイズがあるのです。
乙女ゲーム制作者は、策士でした。
『CMを見れば無料という賞品だけでは、本当にCMを見ているかどうか信用できない。 だから、CMを見ていないと答えられないクイズをCM後に出すことにしました。 という訳でスポンサーの皆さんは、安心してCM料をお支払いできます。
そして、CMを見るプレイヤーは、進行した部分までのセーブ権が掛かっているので真剣です。 それが嫌なら課金してセーブしてください。』
という方式で、無料プレイできるようにしたという話を知りました。
紗菜
「悲しいですね。 ひとを信じることが出来ないなんて。
CMを見ていないことがバレていたとわ。
それにしても、この制作者は賢いですね。 わたしと張り合えるくらい賢いひとはスーパーレアですね。
誉めてあげましょう。」
◇
苦労して、乙女ゲームをクリアした感想ですが、悪役令嬢のシャルロットの打つ手が甘すぎますね。
オソラゼル王太子の婚約者の座が大事なら、ヒロインのスィーティを責めるのではなく、オソラゼル王太子を攻めるべきでしょうに。 安っぽい挑発に乗りすぎですわ。 ヒロインのスィーティが裏で笑っていることが想像できますわ。
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「言うは易し、行うは難しですよ。 そこまで言うなら実際にやってみませんか?」
石田 紗菜
「はあ、わたしが口先だけの三下だと言うのか? だったら、悪役令嬢をわたしが言う通りに動かしてみてよ。」
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「ディスプレイの中の世界に入れてみろ!ですか? 屏風に描かれた虎を追い出せと言う小坊主と逆ですね。 良いでしょう。 向こうにも聞いてみるのでお待ちください。」
石田 紗菜
「誰だか知らないけれど、時間稼ぎですか? いつまで待てばいいですか?」
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「わたしは、第8神 願望実現の女神 グローリア と申します。
お待たせしました。
では、こちらをご覧ください。」
グローリアという女神が示す方向を見ると四角い窓が有った。
窓の中には、金髪縦ロールの美しいが気の強そうな女性が驚いたような目で、まばたきをしながら、私を見ていた。
第8神 願望実現の女神 グローリア
「では、石田 紗菜と シャルロット・ホワイトウィングの人間関係を築きましょう。 ふたりでチカラを合わせて、それぞれの願望を実現するために、協力してくださいね。 あなたたちの未来がより良くなることを願います。
それでは、シャルロットは、紗菜にお願いしてください。 セリフは覚えていますね。」
金髪縦ロールの美しいが気の強そうな女性が、大きく縦に首を振った。 シャルロットという名前のようだ。 シャルロットは私に右手を伸ばしてきた。 私は、女神 グローリアにうながされて、左手を伸ばすことになった。 わたしたちの手のひらが重なった。
シャルロット・ホワイトウィング
「もう一人のワタシ! チカラを貸して! ソーシャライズ サナ!」
「socialize」(別表記:ソーシャライズ)とは、社会的な交流を持つ、人間関係を築く、または他人と親しくなることを意味する英単語である。
https://www.weblio.jp/content/ソーシャライズ
◇
なんということでしょう。 わたし=石田 紗菜は、シャルロットに呼ばれて、入れ替わってしまったようです。 そして、目の前には、ゲームの中に描かれていた豪華なベットや家具がありました。
第8神 願望実現の女神 グローリア
「では、石田 紗菜と シャルロット・ホワイトウィングの願望である「ヒロインとの戦いに勝利」を頑張ってくださいね。 できるまで元の世界には帰れませんし、断罪されて処刑されたら、ゲームオーバーです。 そのときは、来世に期待しないでくださいね。
まったねー。」
シャルロットの中にいる紗菜
「ちょっと待って、これはダメでしょ!」
部屋の外から、バタバタと走ってくる音が聞こえる。 ドアがバンと大きな音をたてて開きました。
メイド
「どうしましたか? 至らない点があれば、おっしゃってください。」
メイドの声が震えている気がした。
そうか、オソラゼル王太子との仲良くできないから、シャルロットは情緒不安定で不機嫌をまき散らしているのね。 そう言えば、不機嫌ハラスメントって言葉があったなあ。
サナ
「ごめんね。 びっくりさせちゃったわね。 愛しのオソラゼル王太子が、スィーティという女の子に夢中になっていることがダメだと思うのよ。」
メイド
「サステナは、いいえ、わたしは、シャルロット様には、ばか兄のオソラゼル王太子よりも、賢い弟ダイチゼル王子の方がふさわしいと思います。 あんなのスィーティという世間知らずにくれてやれば良いではありませんか?」
このメイドは、サステナというのか? シャルロットの記憶によると、小さいころから支えてくれる頼りになる存在だけれど、自分の意見を押し付けてくるところがうっとうしいときがある。 なるほどね。 でも、サステナは正しいわ。
サナ
「ありがとう。 サステナ。 ダイチゼル王子の名前は久しぶりに聞いたわ。」
サステナ
「そうですね。 シャルロット様が最後にお会いになった日は、3年ほど前になりますね。 後継者争いにならないように、辺境で修行させられているのでしたね。」
わたしの胸がドキドキしている。 どうやら、シャルロットにとっては、ダイチゼル王子の方が魅力的にかんじるらしい。
サナ
「そうね。 ダイチゼル王子はお元気かしら。」
サステナ
「大丈夫ですよ。 王太子ではないという一点を除けば、あらゆる面において、オソラゼルよりもダイチゼル王子の方が魅力的ですからね。」
サナ
「サステナ? 呼び捨てではなくて、王太子を付けましょうね。」
サステナ
「はーい。 でも、災い転じて福となすですよ。 ダイチゼル王子にお手紙でも書けばどうですか?」
サナ
「そうね、そうするわ。 サステナのおかげで、気持ちが軽くなったわ。」
サステナ
「良かったですわ。 それでは、手紙を書き終わったころに一休みできるように、お茶の準備を致しますね。」
サナ
「ありがとう。 よろしくね。」
手紙を書くことで、頭の中がすっきりした。 絶望的に思われた状況だが、なんとかなりそうだ。
サナ
「わたしが本命じゃない男性って、どうでもいいのよね。 というわけで、オソラゼル王太子は、さよならしてもいいや。」
◇
わたしは、久しぶりに、社交界に来ていた。
映画に出てきそうな美しいドレスで着飾った女性たちが扇子を口元に当てて、ひそひそ話をしながら、こっちを見て大笑いしていた。
うんうん、分かるよ。 人の不幸は蜜の味って、ゲームの中の異世界でも変わらないのね。
貴婦人A
「まあ、シャルロット様、よくパーティに参加する気になれたわねえ。 わたしだったら、自分の部屋で寝込んでいますわ。」
サナのシャルロット
「まあ、お身体の調子が優れないのですか? 無理なさらないでくださいね。 でも、あなたが話しかけてくださったおかげで、ここに来て良かったと思いましたわ。 ほとんどの方は遠くから見るだけですからね。」
貴婦人A
「話しかけてくるなんて、礼儀知らずだとおっしゃりたいの?」
サナのシャルロット
「パーティに参加してきたひとに声を掛けることは、歓迎のためではありませんか? ここについて一番に声を掛けてくださったあなたと最初の一杯の紅茶を飲みたいですわ。 今日、美味しかったケーキを教えてくださいませんか?」
貴婦人は、きょとんとした顔をしていたが、いっしょにケーキを食べてくれた。
サナのシャルロット
「あなたのおかげで、パーティの良いスタートを切れました。」
わたしたちは、笑顔で分かれて、つぎの社交相手を探しに行った。
◇
しばらくすると、ヒロインのスィーティが目に入った。 探していなくても、Gがカサカサ歩いていたら、気付いてしまうようなものなのだろうか?
シャルロットの取り巻きたちが、ヒロインのスィーティを取り囲んで、なにやら文句を言っているようだ。 そして、スィーティは、声を殺して涙を流していた。 あっ? なんて上手なウソ泣きだろう。 私と仲良くなれそうだと感じたけれど、ここは、シャルロットの利益になるように動かなければならない。 つまり、オソラゼル王太子からは波風を立てずにフェードアウトしたい。 つまり、お別れしたい。 普通、別れ話をしようものなら、男が逆上して殺しに来るものだが、向こうから他の女性に心変わりしていくれるなんて、カモがネギしょって来た。いや、違うな、渡りに船というべきか。海が二つに割れて道ができるようなくらい嬉しいと感じる。
サナのシャルロット
「あなたたち、なにをしているの? おやめなさい。」
取り巻きたち
「ですが、わたしたちはシャルロット様のために、無礼者を説教しているのですわ。」
わたしは、心の中で思った。 うわあ、出た。 お為ごかしだ。 誰誰のためと言えば美談になると信じている卑怯者は、ゲームの中という異世界にもいるのだな。 そう言えば、人付き合いが上手という奴は、いじめの尻馬に乗る奴が多かったな。 やれやれ。
サナのシャルロット
「わたしは、そんなことを望んでいません。 今すぐ、おやめなさい。」
取り巻きたち
「でも、それだと、シャルロット様が可哀そうすぎます。」
サナのシャルロット
「わたしは、かわいそうなのですか? どうしてですか?」
取り巻きたち
「オソラゼル王太子は、シャルロット様の婚約者です。それなのに、色仕掛けで間に割り入ろうとするこの女が悪いのですわ。」
サナのシャルロット
「あなたたち、婚約というのは、お試し期間です。 結婚してからも上手くいけそうかどうかを確認するためです。 ですから、婚約期間中に現れてくれたスィーティさんには、感謝しかありませんわ。」
取り巻きたち
「そんな、シャルロット様は負けを認めるのですか?」
サナのシャルロット
「なぜ、負けになるのですか?」
取り巻きたち
「そ、それは。」
サナのシャルロット
「まとめに入りましょうか? 恋愛は自由です。 誰が誰を好きだ!という気持ちは止められませんし、変えられません。 それに、文句を言う方が間違っています。 もし、あなたたちが、わたしのことを好きだと言ってくださるのなら、二度と、このようなことはしないでください。
わたしを好きになってくださる方々が、誰かを泣かせているなんて、耐えられませんわ。」
ワタシは、涙を浮かべた。 ウソ泣きなら、わたしの方が得意だ。 感動した物語を思い出したら、涙なんて自然と出てくる。 ワタシの推しヒロインが、「冬香、冬香ー」と泣きだしたシーンを思い出したら、秒で泣ける。
取り巻きたち
「シャルロット様、ワタシたちが間違ってましたわ。」
サナのシャルロット
「分かってくださって、うれしいわ。 次に誰かを泣かせたら、あなたたちとの美しい友情は神にお返ししますわ。」
そうなったら、うちとの取引が無くなって、財政難になって、パーティに出るどころじゃなくなるぞ。と脅しをかけてやった。 さすがに、シャルロットを大義名分にしたイジメはできないと理解しただろう。
取り巻き連中の青ざめた顔を見て、ようやく理解したかと思えたのだった。
◇
パーティで、わたしがオソラゼル王太子をあきらめたという噂が、わたしの父と兄に伝わった。
父
「それで、シャルロットは、それで良いのか?」
サナのシャルロット
「オソラゼル王太子のことですか?」
兄
「わたしの可愛いシャルロットを泣かすなんて、ゆるせん。」
サナのシャルロット
「泣いてませんよ。 憑き物が取れたかのように晴れ晴れとした気分です。 それよりも、ダイチゼル王子との婚約を進めて頂けませんか? オソラゼル王太子の心変わりという負い目があるから、先方も断ったりしないでしょう。」
兄
「お前というやつは? でも、兄は、ダイチゼル王子の方が好きだな。」
サナのシャルロット
「わたしもですわ。 お父様、王様関連の利権については、影響ないですよね。 取引停止にならない限り、わたしは、王様に文句を言う気が有りません。」
父
「シャルロットは、しっかりしているな。」
サナのシャルロット
「お金こそ、この世のすべて。 お金において、なにに寄る辺ぞ。 ですわ。」
兄
「その割り切りが見事としか言いようがない。」
父
「では、王様には、ダイチゼル王子のことを頼んでおこう。」
◇
そのころ、オソラゼル王太子は、スィーティさんを王様と王妃様に紹介していた。
オソラゼル王太子
「父さん、母さん、ボクたちは愛し合っているんだ。」
スィーティ
「シャルロット様も、わたしたちの仲を認めてくださいました。」
王様
「そうなのか?」
王妃様
「スィーティさんのような美しいお嬢さんはスーパーレアですわ。 本当に、オソラゼルを愛してくださるの?」
スィーティ
「もちろんですわ。」
王様
「では、オソラゼル。 平民として暮らすが良い。 異国の地に送るまでの間は、ふたり一緒に幽閉することにする。」
オソラゼル王太子
「幽閉とはいったい。」
王様
「分からないのか? シャルロットを射止められなかったお前には、なんの価値も無い。 王太子は、弟のダイチゼル王子に変更する。」
オソラゼル王子
「おまちください。」
王様
「待ったら、いくら払ってくれるのだ?」
王妃様
「美しい母を見て育ったから、美人に免疫があると期待していたのですが、全然でしたね。」
スィーティ
「そんな? 王太子ではないオソラゼル王子には魅力を感じませんわ。」
王妃様
「これからは、ふたり仲良く暮らしてくださいね。」
王妃様は、スィーティに満面の笑みを向けたが、冷たい微笑みだった。
◇
というように、無理ゲーだと思った悪役令嬢の逆転劇が、あっさりと実行できてしまった。 いいや、うぬぼれたら、また、あのグローリアという女神にどんな難しいゲームをさせられるか分かったものじゃない。 しばらくは謙虚に慎ましく生きようと心に誓った。
思い返せば、メイドのサステナのおかげで冷静になれた。 彼女がいなかったら
頭に血が上って、スィーティを暗殺する方法を考えていたと思う。 そうなったら、大失敗した所だ。
だから、日記に書いておこう。
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サステナが支えてくれたおかげで、運良く上手く行った。
サステナのことは、高い給料を払ってでも傍に仕えてもらうべきだ。
ぜったいに、金を惜しんではイケない。
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差し当って、お父様に高級ケーキをおねだりして、サステナといっしょに食べたいと二人分を買ってきてもらった。
サステナ
「シャルロット様、こんなに美味しいケーキは生まれて初めて食べました。 わたしは幸せです。」
サナのシャルロット
「そう良かったわ。 これからも色々なケーキを食べましょうね。」
サステナ
「シャルロット様、うれしいです。」
サナのシャルロット
「そして、いっしょに太りましょうね。」
わたしは、ニンマリと笑った。
サステナ
「それはダメです。 太ったら無価値になります。」
サナのシャルロット
「サステナは厳しいな。」
と、ふたりで笑いあった。
◇
気が付くと元の世界に帰っていた。
第8神 願望実現の女神 グローリア
「石田 紗菜 素晴らしかったですわ。
シャルロット・ホワイトウィングとのソーシャライズは大正解でしたわ。
これからも、おふたりの頑張る姿を楽しみにしていますわ。」
グローリアという女神は去っていった。
これから”も” という言葉が引っ掛かったが、気にしないようにしたかった。
ただし、もとの世界に戻ってきたら、6ヵ月も経過していた。 そして、シャルロットの6カ月についての記憶が私の頭の中に流れ込んできた。
そして、ワタシの日記帳にも、いろいろと書かれていた。
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あなたの素晴らしい成果に感謝します。
御礼として、それに見合う成功を収めておいたわ。
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第03話 おわり
【読者様へ】
あなたの30秒で、この作品にパワーをください。
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