ツいてる日
巨大な観覧車に見下され、白スーツの男が一人、歩いていた。どう見ても堅気の者を思わせない。
と、男が急に振り返る。その視線の方角にはお化け屋敷があった。
「幽霊の癖にお化け屋敷に行きたいのか?」
周囲からは男が独り言を呟きながら歩いているように見えたが、実は男は一人ではなかった。
祈島結介。彼は祈祷師を生業としていて、今日は除霊をした女性の幽霊が最期に遊園地でデートをしたいと言い出し、仕方なくその希望を叶えてやっていた。
祈島の目からは白い上着にデニムのズボンを履いている二十台前半の女性の姿が見えている。靴は低めのヒールだが地面には着いていない。
「で、楽しかったか?」
お化け屋敷を出たところで祈島は彼女に尋ねる。
「ま、こんなもんかな。やっぱり大好きな人とじゃないといけないのね。勉強になった」
「何故あの男に憑いていたんだ?」
除霊の依頼をしてきた山根という人物は、会社でも目立たないタイプの眼鏡を掛けた中肉中背の男性だった。彼女ができないことをこの女の幽霊の所為だと言っていた。
「なーんでだろ。たぶんね、捨て猫にミルクを上げてたからかな」
寂しげな微笑を見せた彼女は、今度はソフトクリームが食べたいと祈島に二人分買うように要求した。
「ところであんた、人間じゃないよな」
「幽霊って言いたいの?」
「いや。その、元人間じゃないだろ? 別の生き物だ。人間の霊じゃない」
「確かにあなたたちの言葉で言えば異星人てことになるのかな。ずっと人間のことを研究してた。人間ってさ、不思議な生き物だよね。あんただってさっさとワタシを成仏させちゃえばいいのに、こんな無駄なことに付き合ってくれてさ」
「俺はな、そいつにちゃんと成仏して欲しいって思ってるんだ。悔いのない人生なんてものはない。それでもな、できる限り後悔なくあの世に旅立って欲しい」
「そっか」
そう言って彼女は初めてちゃんとした笑顔を見せた。
「そろそろ時間、か」
ベンチの上で灯っていた明かりだけを残し、全ての電飾が消えてしまった。よく見れば地面から草が生え、鉄柱は錆びついている。施設の看板は倒れ、売店の窓は割れてしまっていた。
ここもまた、ゴースト遊園地だったのだ。
「それじゃあ、いくぞ」
祈島は数珠を取り出し、それを握りしめながら祝詞を唱える。女の霊は寂しげな笑みを湛えながら、光に飲み込まれるようにして消えてしまった。
あとには食べ残したソフトクリームが、ぽとりと落ちただけだ。




