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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第九乃段
89/100

天使の粛清

 マンションの一室に制服姿の男が集まり、カメラのシャッターを切っていた。景山はフラッシュを焚いている知り合いの鑑識かんしきに断りを入れ、被害者の足元に落ちていたそのメッセージカードを手にする。

 ――天使を殺した。

 今回はそういう意味のスペイン語だ。ただ被害者はどう見ても日本人で、近所の人に聞いても特定の宗教をやっていた様子はないという。

 この半年の間に三件。多いとは言えないしそれぞれの事件の被害者に関係性が全くないことから、捜査本部でも見解が別れていた。共通点は現場に残されたメッセージカードのみで、最初は英語、次はフランス語、今回はスペイン語で「天使を殺した」と書かれている。

「ん? 何だこれ」

 リビングのテーブルの上に置かれていた被害者女性のポーチだ。その脇に奇妙な形のキーホルダーが落ちている。前の事件で被害者男性の携帯電話の背景画像になっていた模様とよく似ていたから目に付いた。


 景山は個人的に付き合いのある雑貨屋に入り、出所を聞いてみた。

「アングラのオークションサイトで出品履歴があったよ。たぶん知ってる奴だが、連絡取るかい?」

「ああ、頼む」


 目的のテナントビルは駅から十五分ほどだった。紹介してもらった男の名は津守と言った。

 オフィスに入るなり「ようこそ同志」というポスターが目に付く。その文字の背景に大きく蝶のようなマークがあったからだ。

「これは一体何なんですか?」

「俺も最初は分からなかったんですが、最近になってやっと教えてもらえたんです。これね、天使の印だそうです」

 それを耳にしてやっと「繋がった」という感触を得られた。

「少しお話、宜しいですか」


 津守の話では徐々に同志が減っていると言う。同志とはあの印に共鳴した人間のことで、津守自身、街中であの印を見つけ、事務所に辿り着いた。天使殺人事件のことは知らないが、もし印を持つ同志が殺されているのだとしたら何か恨みを持った人間の犯行ではないか、と。

 景山は印を持つ人間を探すようになった。

 しかしそう簡単には見つからない。津守から購入したキーホルダーを付けていたが、誰も声を掛けてこないし、同じような人間もいなかった。

 一方で事件は続いていた。一月、あるいは二月と間が開いたものの、確実に天使は殺されていった。

 ある日、松山から津守が亡くなったと聞いた。自殺だったらしい。

 ただ現場には遺書の代わりに「天使は滅びた」と書かれたメッセージカードだけが残されていたという。


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