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千文字小説百物騙  作者: 凪司工房
第八乃段
79/100

終末予測

 夕陽に鳥の群れが映っているのかと一瞬勘違(かんちが)いした。

 それらは全てミサイルで、地表へと落下し次々に巨大な雲を立ち上らせる。

 蒔島はその光景をただ黙って見つめているしかなかった。


「どうでしたか?」

 助手の鈴木の声で蒔島は目を開き、その狭苦しいカプセル型の装置の中で体を起こす。

「何度見ても同じだ。戦争が起こる予測のシミュレーションでは決して世界は滅亡しない」

「それなら何故マザーは終末予測を出したんでしょうか」

 終末予測。

 それは蒔島が開発した電子頭脳がある日突然出した、人類が滅亡してしまうという予測のことだ。通称マザーと呼ばれる彼女の予測はこれまでほぼ外れていない。終末予測で人類が滅亡する確率は約九十八パーセントだった。

「やはりウイルス説が強いのではないでしょうか。最近もほぼ無害だったものが変異して病院で多くの死者が出たという情報がありましたし」

「いや、ウイルスによる滅亡はなかった。そもそも宿主を全て殺してしまうようなことにはならない」

「では自然災害による住環境の悪化、そこからの自然淘汰(とうた)で徐々に衰退すいたいするということでしょうか」

「それもまたあり得ない。地表が汚染されても地下にシェルターを作り、そこで生きながらえる。多数が死んでも全滅には至らない。人類というのはね、かなりしぶとい生命体なんだよ」


 それは偶然だった。助手の鈴木がシミュレーションの設定を間違えたのだ。それによって見られた未来はこういうものだった。

 その未来は戦争が起こらない。今までで一番平和という言葉が似合うシミュレーションだった。多少の自然災害や環境の悪化はあれど、技術力により対応し、寧ろ人類はどんどんその数を増やしていた。

 だがある時点から急激に人の数が減っていく。

 何も起こっていないのに、だ。

 蒔島はその原因を探した。

 人が減り始める少し前の時点に戻り、何か新しい発見や発明があったのかと探すと、あるサプリメントが発端だと判明する。


「鈴木君、これは一体何だ?」

 現実世界に戻った蒔島は第一声、助手にそのサプリメントのことを尋ねた。

「争いを起こさないためのサプリです」

 誰も争わない世界。いさかいはなく、殺人は起こらず、ストレスも存在しない。

 けれどそれにより人類の発展は停止し、環境の変化に対応できなくなった。更に人類減少への危機感も存在しなくなり、自ら衰退して滅亡する道を受け入れたのだ。

 それが分かり、蒔島は助手の研究論文をすぐ破棄はきするように命じた。


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