1 そして新たな三角関係?
あの事件があってから、数日経ったある日の日曜日。
俺は近所にある小さな公園のベンチに座り、ウキウキとした気分で空を見上げていた。
空は何処までも青く晴れ渡っていて、まるで今の俺の心の中のよう。
俺は今、ある人と待ち合わせをしていた。
ちなみにそのある人とは、守菜ちゃんやった。
今日の午前十一時に、この公園で待ち合わせをしているのや。
すなわちこれは、
でえと
なのや。
聞きましたか皆さん!
デートでっせデート!
遂にこの俺が!
あの守菜ちゃんと!
デート出来る日がやってきたのや!
あの事件があって以来、守菜ちゃんと俺は一気に仲良くなった。
エリックのアホのおかげで、ちゃんとした告白は出来へんかったけど、守菜ちゃんの俺に対する態度は一変した。以前の様に俺を叩いたり叱ったりする事は(あんまり)なくなったし、何より俺に対して優しくしてくれるようになった。
そんなある日、守菜ちゃんは俺にこう言った。
『この前助けてくれたお礼をしたいんやけど、何かして欲しい事とかある?』
なので俺は間髪入れずにこう答えた。
『じゃ、じゃあ今度、俺と・・・・・・デートして!』
すると守菜ちゃんは快くオーケーしてくれた!
オーケーでっせオーケー!
オーケー牧場!
という訳で、今日デートする事になったのや。
待ち合わせの時間は午前十一時なんやけど、実は午前九時からここで待っている。
そして頭の中で、今日のデートの予行演習をしているのや。
今日のデートは何としても成功させんとあかん。
そしてデートの終わりに、守菜ちゃんにこう言うんや。
『俺の、子供を生んでくれ!』
違う違う。
早い早い。
それは早い。
そうやなくて、こう言うんや。
『俺の、恋人になってください!』
そうこれ!
これですがな!
俺の気持ちは守菜ちゃんに伝えられたんやけど、俺達は正式に恋人同士という訳ではない。
それに、守菜ちゃんが俺の事をどう思っているのかも、ちゃんと聞いてないし。
だから今日のデートで確実に守菜ちゃんのハートを引き寄せ、晴れて正式な恋人同士になる!
これが今日の俺の目標や!
よっしゃ!やったるでぇっ!
と、意気込んでいた、その時やった。
俺の目の前に、ひとりの女の子が現れた。
遂に来ましたか守菜ちゃん!
そう確信した俺は、彼女がまだ何も言っていないのに、
「いや、今来たばっかりやで?全然待ってないで?」
と口走り、その子の顔を見上げた。
するとそこに、何と。
黒ドレスのレラが居た。
「あへ?」
目が点になる俺。
何故彼女がここに?
ていうか無事やったんやな。
今日の彼女の服装は、あの時の黒いドレスではなく、一転して白のワンピース。
これはこれでよく似合うなぁ。
あ、いや、そんな事に感心してる場合とちゃう。
予期せぬ人物の登場に、俺は驚きの声を上げた。
「レ、レラ!お前、無事やったんか!」
それに対してレラは、妖しい笑みを浮かべて言った。
「おかげ様でね。誰かさんは私の事を助けるとか言いながら、そのまま帰っちゃったけど」
「あ・・・・・・」
痛いところを突かれてたじろぐ俺。
とりあえず、苦しい言い訳を試みる。
「い、いやぁ、あの時はホラ、俺らも壮絶な戦いの後でボロボロやったから、そこまで気が回れへんかったんや」
するとレラは、特に気を悪くした様子もなく、
「ふ~ん、ま、別に気にしてないけどね」
と言い、その後にとんでもない事を仰った。
「とりあえず、今日から私、あなたの家に一緒に住む事にしたから」
「あへ?」
再び目を点にする俺。
え?どういう事?レラが俺の家に住む?
え?え?
「どええええっ⁉」
しこたまぶったまげる俺。
しかしレラは構わず続けた。
「まあそういう訳だから、今日からよろしくね」
「いやいやいや!何を言うとんのやお前は⁉何でいきなりそんな事になんねん⁉」
「だって私、住む所がなくなったんだもの」
「そやからって何故に俺の家⁉」
「それはあなたが、これから私の主人になるからよ」
「何ぃいいいいっ⁉何で俺がお前のマスターにならんとあかんねん⁉」
「私の前のマスターを、あなたが倒したから」
「それでも俺がお前のマスターにならなあかん理屈はないやろ!」
「だったらあの時私にトドメを刺しておけばよかったのよ。なのにあなたはそうしなかった。それはつまり、『命を助けてやる代わりに、俺のモノになれ』という事でしょ?」
「そんな事ないやろ⁉とにかく俺の家には絶対住まさんからな!」
「そんな事言っても、あなたの両親にはもう許可ももらったし」
「何を勝手な事をしとんねん⁉しかも何でウチの両親もそれを許可すんねん⁉」
「それに明日から、あなたが通う学校に転校する手続きも済ませたし」
「うぉおいっ⁉何処まで勝手やねん⁉そもそも若い男女がひとつ屋根の下で暮らすっちゅう事が、どういう事が分かってんのか⁉」
「勿論分かってるわ。あなたはこれから私のマスター。だから私の心と体は、あなたに捧げるつもりよ」
「ええええっ⁉どええええっ⁉」
「これからよろしくマスター。いえ、鏡助」
そう言ってレラは、何と俺に抱きついてきた!
えええっ⁉
何なのこの展開⁉
メッチャ嬉しい!
あ、いや、そうやなくて、メッチャマズイやないか!
レラが俺と同じ家に住む⁉
しかも同じ学校に転校してくる⁉
おまけにこいつは俺に身も心も捧げる所存⁉
マズイやろそれは!
そもそも俺には守菜ちゃんという大本命の女の子が居る!
その守菜ちゃんと最近やっとこさ仲良くなれてきたのに、レラが入ってきたら話がややこしくなるやないか!
ていうか今その守菜ちゃんと待ち合わせをしてるんや!
もしこんな所に守菜ちゃんが現れたら、マズイどころじゃ済まへんぞ!
そう思って慌てていた、その時やった。
「あんた、一体何をやってるんよ?」
背筋が凍って砕けそうな程に冷え切った声が、俺の背後から聞こえた。
「ひぃっ⁉」
その声に心臓が止まりそうになった俺は、恐る恐る後ろに振り向く。
するとそこに、もう何人か人を殺ってきたんやないかという程の殺意を放つ守菜ちゃんが、それはそれは恐ろしい目つきで俺を見下ろしていた。
その恐ろしさは、彼女が地球破壊人間になった時よりも上やった。
こ、怖すぎる!
その守菜ちゃんが、俺に抱きつくレラの肩をガシッと掴んで言った。
「ちょっとあんた!何鏡助に抱きついてんねん!離れぇや!」
するとレラは、顔を上げて守菜ちゃんにこう返した。
「うるさいわね、邪魔しないでよ」
そのレラの顔を見た守菜ちゃんは、大きく目を見開いて驚きの声を上げた。
「あーっ⁉あんたはこの前、鏡助に告白した女!まだつきまとってたんか!」
そうか、守菜ちゃんはレラがワルダーの部下やった事は知らんのやな。
この状況ではどうでもええ事やけど。そんな中レラは、守菜ちゃんにキッパリと言い放った。
「私は今日から、鏡助と同じ家に住むのよ」
最悪や。もう何もかもが最悪や。
それに対して守菜ちゃん。
「な!な!何やってぇっ⁉それどういう事よ⁉」
「どうもこうもそのままの意味よ。だから今から、鏡助と一緒に家に帰るの」
「何を勝手な事を言うてんねん⁉鏡助は今からウチと遊びに行くんや!あんたなんかお呼びやないねん!」
「それはこっちのセリフよ。私と鏡助の邪魔をしないで」
「邪魔してんのはあんたの方やろ!そもそも鏡助は、ウチの事が好きなんやで⁉」
「それは昔の話。今は私に夢中なんだから」
あれ?そうやったっけ?
「それはあんたが勝手に言うてるだけやろ!」
この修羅場、どうすれば丸く収まるの?
「それなら本人に直接訊いてみればいいじゃないの」
ん?
「上等や!それが一番手っ取り早いわ!」
おや?いつの間にやら守菜ちゃんとレラが、凄く怖い顔で俺を睨んでいますよ?
そして二人ほぼ同時に、俺に向かってこう叫んだ。
「鏡助!あんたが好きなのはウチやろ⁉」
「鏡助!あなたが好きなのは私よね⁉」
そして俺にズズイッと詰め寄る二人。
ハッキリ言って、死ぬほど怖い。
えーと、こういう場合、どう答えれば俺は助かるのやろう?
そりゃあ俺の本命は守菜ちゃんなんやから、守菜ちゃんと答えるべきなんやろうけど、そう答えると、レラにどんな目に遭わされるか分かれへん。
かと言うてレラが好きやと答える訳にもいかんし、両方好きと答えるのも、勿論あかんやろうし・・・・・・。
その間にも守菜ちゃんとレラはズイズイ俺に詰め寄り、
「さあ答えぇや鏡助!」
「鏡助!答えて!」
と迫ってくる。
一体どうすればええんや⁉
ていうか何でエピローグでこんな厳しい選択を迫られんとあかんねん⁉
もう最後なんやから、ハッピーエンドで終わらしてくれや!
「鏡助!」
「鏡助!」
更に迫ってくる二人。
顔が近い!
そして怖い!
だああっ!
もうこうなったらしょうがない!
逃げよう!
そう考えた俺はベンチから立ち上がり、そのまま一目散に逃げ出した!
すると、
「あ⁉何処に行くんや鏡助!」
「鏡助!待ちなさい!」
と声を上げながら、守菜ちゃんとレラが追いかけてきた!
捕まれば、殺される!
そう直感した俺は、とにかく逃げた。
ひょっとこ仮面の活躍で、地球に平和は戻ったけど、俺の日常は、平和とは程遠いものになったのでした。
(著者注※めでたしめでたし)
いやめでたくねぇよ!
闘え!ひょっとこ仮面! 完