1 闘いが終わり・・・・・・
目を開けると、そこに雲ひとつない真っ青な空が広がった。
そして心地よい風が、俺の前髪を揺らす。
どうやら俺は眠ってしまっていたようや。
というか、俺は生きてるんやろうか?
それとも結局守菜ちゃんの爆発を抑えきれず、そのまま死んでしもうたんやろうか?
とりあえず、ムクッと上半身を起こしてみる。
そしてグルッと周りを見渡してみると、俺を中心にした半径五十メートル程の地面が、見事なまでに焼け野原になっていた。
しかしここは昨日と同じ奈良の山奥。
どうやら俺は、まだ生きてるみたいや。
自分の体に目をやると、ワイシャツやもんぺ(・・・)はボロボロの血だらけになってはいるものの、変身腹巻きのおかげで、体の傷はすっかり治っていた。
そして俺はその傍らに目をやった。
そこには守菜ちゃんが目を閉じたまま横たわっていて、静かな寝息を立てていた。
良かった。
守菜ちゃんも無事やったんや。
そう思って心の底からホッとした俺は、守菜ちゃんの頭をそっと撫でた。
すると守菜ちゃんが、
「ん・・・・・・」
と声を上げたので、俺は慌ててその手を引っ込めた。
そしてそれを誤魔化すように、笑みを浮かべて言った。
「お、おはよう」
それに対して守菜ちゃんも、寝ぼけ眼をこすりながら言った。
「おはよう・・・・・・」
無防備な守菜ちゃんの寝起き姿。
かわゆい。
とか思っていると、守菜ちゃんはムクッと身を起こし、自分の体をあちこちペタペタ触ってから、俺に訊ねた。
「ウチ、生きてんの?」
「うん、生きてるよ」
笑顔で答える俺。
すると守菜ちゃんは、続けてこう訊いてきた。
「鏡助が、助けてくれたん?」
「うん、そう」
「そう、なんや・・・・・・」
守菜ちゃんはぼんやりとした声色でそう言うと、そのまま俺にピトッと身を寄せてきた。
「わわわっ⁉す、守菜ちゃん⁉」
突然の出来事に慌てふためく俺!
しかし守菜ちゃんは相変わらずぼんやりした調子で、俺に言った。
「爆発、凄かったんやね」
「え?ああ、そうやね」
「『逃げて』って言うたのに」
「そんな、守菜ちゃんを置いて逃げれる訳ないやんか!」
「十年前は、一目散に逃げたのに?」
「う、それは、返す言葉もございません・・・・・・」
「ふふっ、冗談やよ。逃げずに助けてくれて、ありがとう」
「守菜ちゃん・・・・・・」
守菜ちゃんの言葉に、じ~んときた俺。
あかん、ちょっと泣きそう。
すると守菜ちゃんは真剣な顔になって俺を見詰め、こう言った。
「なあ、鏡助は何で、こんなに必死にウチの事を助けてくれたん?」
「えっ?」
「やっぱり、地球を守る為?」
「ええっ⁉」
守菜ちゃんの問いかけに、言葉を詰まらせる俺。
その答えは考えるまでもないんやけど、この状況でそれを言うてしもうてええんやろうか?
いやむしろ、こういう状況やからこそ、言うべきなのかもしれん。
よし!言うぞ!
今までずっと募らせてきた、守菜ちゃんへの想いを!
覚悟を決めた俺は、一度大きく深呼吸をし、改めて守菜ちゃんの方に向き直った。
そして若干声を震わせながら、口を開いた。
「す、す、守菜ちゃん・・・・・・」
「ん?何?」
「お、俺、前々からずっと、その、守菜ちゃんの事が・・・・・・」
「ウチの事が?」
「好───────」
その時やった。
「ぶはぁっ!死ぬかと思いました!」
という声とともに、近くの地面の中から、エリックが這い出してきた。
そして俺と守菜ちゃんの姿に気づくなり、爽やかな笑みを浮かべながらこう言った。
「良かった!鏡助君も小中さんも無事だったんですね!鏡助君が小中さんを愛する気持ちが、地球を救ったんです!」
「なぁっ⁉」
その言葉に俺は目ん玉が飛び出しそうになったが、エリックは構う事なく続けた。
「いや~、それにしても鏡助君は本当に小中さんの事が好きなんですね!そうでないとあの時の小中さんのばく大なエネルギーを抑え込めなかったですからね!本当に愛の力は凄い!」
「お~い・・・・・・」
「それじゃあ僕、国道の所まで行って、帰りの車をヒッチハイクして来ますね!鏡助君は小中さんをつれて後から来てください!僕は先に行きます!」
言いたい事を一通り言い終えたエリックは、軽快な足取りで国道のある方へ走って行った。
その後姿を俺は、ただただ呆然と眺める事しか出来へんかった。
何やろう、この展開。
今の言葉で俺の気持ちが守菜ちゃんに伝わったのは確かやけど、何という、この消化不良感。
おまけに死ぬほど気まずいやないか。
チクショウエリック!
俺の人生最大の決めゼリフを台無しにしやがって!
この落とし前どうつけてくれるんじゃああっ!
と、遠ざかっていくエリックに怒り狂っていた、その時やった。
「ぷっ、くっ・・・・・・あっははははは!」
やにわに守菜ちゃんが吹き出し、無邪気な笑い声を上げた。
「あー、えーと、あはは・・・・・・」
どうしてええのか分からんので、俺もとりあえず笑った。
何かもう、笑うしかないです。
「はははは!」
尚も笑い続ける守菜ちゃん。
ちょっと笑いすぎやないですかい?
でもまあ、その笑顔はホンマに無邪気で可愛らしく、それを見ていたら、俺の怒りもたちまちしぼんでしもうた。
そんな中ひとしきり笑った守菜ちゃんは、改めてニコッと微笑んでこう言った。
「帰ろっか」
それに対して俺もニコッと笑い、
「そうやね、帰ろっか」
と言って立ち上がった。
すると守菜ちゃんは俺に両手を差し出し、甘えるような声でこう言った。
「おんぶ」
「え?おんぶ?俺が?」
「うん」
目を丸くする俺に、守菜ちゃんはコクリと頷いた。
まあ断る理由もないので、俺はその場でしゃがんで守菜ちゃんをおんぶした。
普段から鍛えているだけあって、守菜ちゃんの体重は・・・・・・あ、いや、何でもないです。
ともかく俺は守菜ちゃんをおぶって、エリックが走っていった方に歩いた。
そして暫く歩いたところで、守菜ちゃんが真剣な口調で言った。
「鏡助、ウチを助けてくれて、ホンマにありがとうね」
「そんな、お礼なんかええよ」
「ウチ、ホンマに嬉しかった」
「そ、そう?」
「これはそのお礼」
「え?」
その時やった。
俺の右の頬に、やけに柔らかい何かが触れた。
全く前しか見てなかった俺は、咄嗟に守菜ちゃんの方に振り向いた。
すると守菜ちゃんはいたずらっぽくペロッと舌を出し、それ以上は何も言わへんかった。
一体何が起こったのか全く分かれへん俺は、首をかしげながらまた前を向いて歩き出した。
結局、守菜ちゃんは俺の事をどう思っているのやろう?
それが物凄く気になるんやけど、今ここでそれを訊く勇気はない。
ま、二人でこうして無事に家に帰れるんやし、それはまた今度でええか。
国道が見える所まで歩いて行くと、その道端にトラックが一台停まっていて、そこでエリックが大きく手を振っていた。
それを見た俺は、
「今行くわい!」
と叫び、守菜ちゃんをおぶったままトラックの所まで走った。
まるで、夕べの出来事が全て嘘やったかの様な、清々(すがすが)しい朝やった。




