40話 二人の男2
エタると思った? 残念、更新です。
あと、今回、視点が変わりまくるのでご留意ください。
―カンダラ市営鉱山 乱磁の間―
「ならば私は貴様を倒さなければならない」
黒人の偉丈夫はネクタイを緩めると腰を深く落とし右手を腰元に置き左手を前に出した。どうやら格闘家のようだ。格闘家というのは武器を持たないので一見立ち位置が良く分からないジョブだが、ここトキシトートにおいては中々に合理的である。
格闘家はいちおう魔術師の一種と言われている。魔術師には例外もいるが主に2種類いて、杖を持つ魔術師と、杖を持たない魔術師があり、格闘家は後者に当たる。
彼らは身体の動きを魔術で補佐することで実戦的な戦闘力を編み出す。魔術というのは自分にかけるのが最も効率がいいらしい。なので自分に魔術をかけることが多い格闘家の技はどれも強力だ。流石に魔術専門の魔術師には敵わないが、それでも武器で攻撃するよりも威力が大きい時だってあるらしい。そして武器の手入れが要らないため旅人やいつ何時襲われるかわからない護衛の人などが多く身に着けているのだとか。ちなみに松明様情報である。
さて、どう戦うか。俺もこの世界に来て早一か月近く。いろいろ戦う手段も身に着けてきた。
まず後手に回ったらダメだ。俺はこの世界の住人の戦闘速度についていけない。なのでこちらから出向く必要がある。
まあだからといって俺から出向くといっても水鉄砲を食らわせるか、もしくはドリンクバーを決壊させるかだ。しかし、ドリンクバー決壊は意外と魔力を食う。一日に3回ってとこだ。先ほど2回使ったので今日使えるのはあと1回。
「黙っているのならば、こちらから行くが?」
「い、いや待ってくれ。誤解だ。お互いの理解を深めるところからやらないか」
まずは交渉。見た感じ交渉が通じない相手には見えない。もしかしたら誤魔化すことができるかもしれない。
「ほう? だが貴様は勇者と言ったな。それはどういうことだ?」
俺はしどろもどろになりながら言葉を紡ぐ。
「ゆ、勇者って言ってもあれだよ? 俺のパーティーリーダーの名前がヒーロって言ってさみんな弄って勇者って呼んでるんだよ。で、今はぐれちゃったからお前のことを仲間だと思ってさ。いや、本当だよ。マジで、本気でそうだから」
「……怪しいな」
黒人の偉丈夫はこちらを油断なく睨みつけながら顎を擦る。くそ、なにか無いのか。この場を切り抜ける画期的なアイデアは!
だが俺は天才じゃない。というかほとんど詰んでいる。どうすればいい。どうすればいい。
「というか貴様が勇者を追う者でなくとも聞かれてしまったからにはここで倒さねばなるまい」
「い、いやぁ、どうかなぁ。そんなことは無いんじゃない。もうちょっと考えてみればそんな暴論は出てこないと思うぞぉ。話せばわかる。話せばわかるから!」
やばいやばいヤバイ。どうすればいい。どうもできねえ。だが、このままでいると殺されるぞ畜生め。俺はなにもしてねぇんだ。確かにちょっと悪さはした。でもそれだってお茶目くらいの、そう雀の涙にも満たない悪さだ。殺されてたまるか。
俺はピンチにいた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ミケは目の前の男に注意を向けながら、思考を高速で駆け巡らせていた。
この男は何者だ。自分たち以外でお嬢様を追う者、つまるところ勇者を求める者。
これはお嬢様を名前ではなく勇者と表現したことから間違いないと推察できる。
では勇者を追い求める理由はなんだ。本国からの派遣ではないだろう。そのような通達は受けていない。とすると、敵かは判断がつかないまでも味方ではない。
もしかして……革命政府の追手か。リアンの言うのにはお嬢様はこの街にいる。もしこの街の革命政府が勇者の存在に気づけばきっとそのままにはしない。なぜならば勇者とは連合国の、人類の希望なのだ。利用価値が高すぎる。だが、この男は本当に政府のものなのか? 身なりはみすぼらしいし、挙動不審ぶりはみっともない。とても政府の人間には見えない。だとすれば雇われだろうか。できたばかりの政府に専門の機関があるとは考えにくい。外部から傭兵として雇うこともあるだろう。つまり、こいつは。
「敵か」
しかし、コイツは本当に傭兵なのか。正直言ってまったく脅威に感じない。大体、バッテリーが薄すぎる。これでは虫にも殺されてしまいそうだ。そこらの子供の方が持っている力は大きいだろう。
いや、逆に考えればこのような大迷宮の深淵で弱者が生きているはずが無い。そうか、これは欺瞞。私でも見極められぬほどの実力ということ。
リアンが居れば……、目を離したすきに魔物に攫われてしまった彼女がいてくれれば戦力的にも少しは余裕が出るのだが。
ならば、ここで戦うのは失策。冷汗が額を伝うのを感じた。
「名を名乗れ」
「へ?」
「話せばわかると言ったな。貴様がどのような存在か知ってからでも遅くはない。名乗れ」
まずは相手を知ることから始めよう。もちろん嘘をつかれることもあろうが、それ相応の態度には出るはず。
男は少し安心したように手を下すと深呼吸をして言った。
「俺の名前は和田健人。あんたは政府の役人なのか?」
どうやら雇われている側と雇っている側の相互認識は済んでいないらしい。これで少し安心できる。相手が政府の人間であるという可能性は潰え、また雇われだとしてもまだ嘘をついて味方に引き込むこともできる。もちろんこれがブラフだという可能性もあるが。
「質問しているのはこちらだ。貴様は、革命政府側の人間か?」
「……」
男は戸惑いながら答えた。
「あ、ああ。そうだ。俺は最近雇われた追加要員だ。さっきは動揺してたが、あんたが政府の役人なら話は別だ」
「なるほどな」
ふむ、それが本当だとすれば私はこの男との戦闘を控えて早々に離脱する必要がある。仲間を呼ばれれば面倒だし、この男に勝てるかも読めない。だが、これが全くの無関係の人物だった場合、情報の流出という観点から私はこの男を放っておくことはできないのだ。
ならば。
よし、こうしよう。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うわ、やべえよ。本気でやべえよ。雰囲気的にも状況的にも完璧に政府の役人じゃねえか。もし、政府の役人だとして追加要員の連絡を受けていないはずが無い。そもそもケム爺の話では政府の連中は技術局の一人が探索チームを雇ったとか言っていた。探索は連携こそ大切だ。どんな超人でも連携を土壇場で合わすのは至難の業。ケム爺や精霊ちゃんは年季の入ったコンビなので俺たちはそこに連携というよりも依存させてもらっている。そこにつけいる隙間などない。補充メンバーなどあっても邪魔なだけなのだ。100パーバレてるぞ、これ。
「お前が追加要員なら、合言葉を知っているはずだ」
お、落ち着こう。アイコトバ? 合言葉だと? そんなの知ってるわけねーだろっ、ばーか。
どうする。情報戦という観点からもこいつには完璧に負けている。正常に判断するだけの情報が無さすぎる。
くそ、どうしたらいい。どうすれば正解なんだ。
とりあえずあれだ。適当に言っておくか? いやそれまずいだろ。じゃあなにか、このまま黙ってろと。それもまずいだろ。
ん、ちょっと待てよ。
俺はこいつのことを政府の役人だと思っていたが、それだって可能性の一つだ。まったく無関係の、いうなれば俺みたく勇者を救出しに行く陣営の可能性も捨てきれない。
しかもこの男、おそらくだがウッドゴレムではない。それにしては目鼻立ちが自然すぎる。この国の反政府勢力のほとんどがウッドゴレムなことを考えると違和感がある。
確かめてみてもいいだろう。
「言えないのか? どうなんだ」
「な、なあ、あんたが本当に政府の役人かどうかわからねえ。そうでなきゃ合言葉を教えることはできねえな」
序盤で殺されるチンピラみたいな言葉遣いだが、まあいいだろう。
問題はこれで相手がどう出るかだ。正直言ってこれで政府の役人だと証明されれば、ほとんど打つ手がなくなる。牢獄生活で培ったキャバ嬢直伝のお色気作戦ぐらいだろうか。この場合ネックなのが俺が男だということだ。この男がホモだという可能性もあるが……たぶんその前に俺のSAN値がピンチだろう。できればやりたくない。
松明様が居れば少しはいいんだろうが無いものねだりだしな。
さて、どうなるのか。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「な、なあ、あんたが本当に政府の役人かどうかわからねえ。そうでなきゃ合言葉を教えることはできねえな」
なるほど、そう出たか。たしかに言う通りである。さてどうすべきか。
ここで適当なものを出して証明と言い張ってもいいが……この男の実力が分からない以上、安易な行動は避けたい。
となると否定、だがそうなれば敵対は免れない。逃走ならばどうだ。
いや、だが。
二人の男の間にはピンと張った糸のような重苦しい空気が流れていた。どちらかが話せばどちらかが死ぬような。
静寂は続く。二人の額には冷汗が流れた。
そして沈黙は意外な形で破られた。
「ていっ」
後頭部に軽い衝撃。杖で軽くたたかれたようだ。
驚き後ろを振り向くとローブ姿の子供がニマニマしながら立っていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
どう出る、どう出るっ。
と思っていると大男の後ろから忍び足で近づくローブ姿の子供がいた。背丈はアイシャよりも小さく、小学生高学年くらいに見える。
そして大きく杖を振りかぶったかと思うと、こちらに目線を配り、大男に振り下ろした。
「リ、リアン」
どうやら大男の知り合いのようだ。なんだろ、うらやましい。
俺もJSに「ていっ」とかってやられたい。
ん、俺の後ろから足音がするぞ。もしかしてこれは俺も同じパターンなんじゃないか。
うちのJS枠は今いないからな。あるとしたら人間化した松明様か、ないし精霊ちゃんか。どちらにしろ絶対可愛い。松明を普通にかわいいと思える時点で洗脳は済んでいるのだろうが、実際かわいいしね。
お、なんか息を吸ってるぞ。ということは松明様じゃないな。
わくわくするぜぇ。こんなの久しぶりだからな。
「おりゃ」
掛け声とともに衝撃が訪れる。
その瞬間、背骨が折れる感覚を知った。この声は精霊ちゃんだろう。クソダサファッションの精霊ちゃんだ。顔だけはいい精霊ちゃん。
俺は二の腕フェチだが、それでも美少女の足蹴にされて死ぬというのは悪くないのかもしれない。
どさっと俺の体が地面にぶつかる。走馬灯のように今までの異世界ライフが思い浮かんだ。やりきった、俺はやりきったんだ。
「み、んな……あり、がとう。ガクッ」
「ケントぉおおおおおおお!!」
アンドレー君の声が脳裏で木霊した。
あ、あぶねえ。またもや死にかけた。
今、精霊ちゃんがアンドレー君と松明様のお叱りを受けている。
「え、あの、ずみません。はい、もう二度とこのようなこどは、いや、そんなわけ、もう、ケリ坊もなんか言ってよ!」
そんなケリ坊は知らんぷりをして相手方の偉丈夫と話している。ひどい。
さてと、なんでこんなことになっているのだか。アンドレー君の言われるままに敵対しなくてもいいということになったが訳が分からない。
「というわけで説明を頼む」
俺はローブ娘の肩に手を置いた。
「急に慣れ慣れしい方ですね。まあいいですけど」
まじか、いいの? 正直セクハラとかって言われるかと思ってたわ。だったら離す必要もあるまい。このまま、手を置いて「焼きますよ?」いや、俺は紳士なので離しておこう。
「さて、説明といっても私からすべて言えば偏りが生じますから自己紹介も兼ねた情報交換会でも開きませんか。丁度、お腹も空きましたし」
というわけでバーベキュー大会を開催することにした。
バーベキューといっても物資は限られているので食べるものはいつもとおんなじだ。よく分からない缶詰とよく分からない干物とよく分からない穀物のスープである。要は気分だ。
お鍋に入ったスープをみんなに手渡していく。黒人の偉丈夫の番になったので少し緊張したが、何の問題なく情報交換会が始まった。
「さて、まずは自己紹介からだな。私の名前はミケ。家名はない。正直に言えば我々は勇者家の召使だ」
「勇者家の召使? っていうかミケって……」
猫じゃないんだからさ。
「ああ、今代の勇者であるお嬢様は勇者という時点で連合国爵を叙勲されている。だが、もともとファルシナム家は大家でな。私のような召使が大勢いる。その中でも私たち二人はお嬢様とともに戦うことを命じられているのだ」
俺は一気に緊張の糸がほぐれたのを感じた。
いろいろ言っているが、つまりは、
「味方ってことじゃねえか」
ローブ娘が答える。
「それはあなた達の立場に寄りますね。あ、私の名前はリアン・リールラントです」
俺に目配せしてくるリアン。なるほど、こいつはガキのくせに聡明なようだ。
「俺の名前は和田健人。異世界から来た」
そういうと2人は拍子抜けた顔をした。まあそうか。この世界に来て、異世界人であることを言ってもあまり驚かれないのだが、普通驚くよな。
「異世界って、異相断界のことですか?」
「いや、違う。もっと遠い世界だ。たぶん」
異相断界ってのを見たことが無いからな、近いとか遠いとかはよく分からない。
さてと、これだけだと説明不足なのでアイシャと出会った経緯だとかいろいろしゃべった。弟子入りのこととかドラゴンのこととかそのあと消えたこととかな。
話している途中、何故か納得するように2人は頷いた。
「なんか思い当たることでもあったのか?」
ミケが顎を擦りながら答えた。……やっぱこんな黒人のおっちゃんがミケってスゲー違和感があるな。
「私たちが魔術でアイシャ様を探していたとき、封魔の草原辺りにいるということが分かったのだが着いた頃にはその位置はサンリンサン付近に変化していたのだ。いくら何でも移動が速いと思っていたのだが、そういうことだったのか」
なるほど誘拐の時、瞬間転移なのか超高速移動なのかは分からんが通常より早く移動していることには変わりないしな。
「それで、この骸骨はアンドレー。魔物だが襲うことはない。爺さんなのがケリオン・ハーモニウム。ダサいのが精霊ちゃんだ」
「なんで私だけ種族名!? フー・ケルビンだから! あとダサくねーから!」
いや、ダサいだろ。それに名前教えてもらってなかったし。
だが、それよりも気にかかることがある。リアンがケム爺の説明をした時にピクッと反応したのだ。
「ケリオンってどこかで……っあ」
何かに気づいたのかケム爺のもとに近づくとおもむろに握手を求めた。
「もしかして、ルナシタシアの、【無限水源】のケリオンさんですか?」
次回、説明回。




