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第2話 兄が姉で、姉が兄。


「フユキさん?」

※同姓同名の為、主人公を冬樹。女の子をフユキと表記。


友奈は僕と同じ名前である「フユキ」に驚いた顔を向ける。

きっと、今の僕も同じ様な顔をしていると思う。


「え?さん付けなんてやめてよ…。それとも私をからかっているのかしら?」


顔は笑っているが友奈の真剣な表情と場の雰囲気を察知したのか、フユキの笑顔は引きつっている。


「冬樹、ちょっと来なさい」


フユキが名前を告げたタイミングで居間からいそいそと離れ、台所に居た婆ちゃんが僕を呼んだ。

友奈に「この場は任せる」と目で合図し、重い雰囲気になりかけている居間から逃げる様に台所へ向かう。

婆ちゃんは、尋常じゃない位に驚いていたし、きっとフユキの事についての話に違いない。


「婆ちゃんどうした?」


台所ののれんをくぐり頭を少し出して、普段と様子が違う婆ちゃんを窺うよう尋ねる。

婆ちゃんは脂汗をかいていて、伏せていた顔をゆっくり上げながら口を開いた。


「冬樹…。あの子はお前だよ…」


「は?」


恐る恐る尋ねてみたら、随分とトンチンカンな事を言い出す。

しかし、婆ちゃんの真剣な表情と心がサワサワする感覚は何だ?


「え?どういうこと?」


話が見えない。空を掴む思いで再び問いただす。


「あの子はお前と同じ名で、同じ血が流れている。もちろん婆ちゃんは私で友奈は妹だよ」


「…」


やはり空は掴めなかった。

サッパリ話が見えなく話が進まないから、冬樹は脳ミソをフル回転させて再度質問する。


「えっと…。実は双子だったとか?あの子も母さんから産まれてきたってことだよね?」


海外出張で長いこと会っていない、母親をカードとして切る。


「血は同じと言ったろう…。けど双子ではない。まだ冬樹が5歳だった頃に事故に遭った事は覚えとるか?」


「いや、覚えてない」


僕は昔、事故に遭ったらしい。

車の後部座席に僕と母さんが座っていて、後ろの車に追突された事故。

それは前に聞いていたから知っている。

幸い誰も死んでいないんじゃないっけかな?けれども、その時の記憶が全くない。

そもそも小さい時の思い出だからと納得出来るのだが、断片的にも覚えていない。


「今から話す事は全て本当のこと。出来る事なら一生知らなくとも良いこと…」


後半は声が小さくて、よく聞き取れなかった。

婆ちゃんはまた顔を伏せて話し出す。僕は沈黙するしかなかった。


「お前が産まれた時は確かに女だった。でもあの日事故に遭った日を境に冬樹、お前は男の子になっていたんだ」

「お医者様も原因が分からない。騒ぎにもなったが幸いお前も小さく、今まで男として育ててきたんだよ」


やっぱり意味が分からない。

じゃあ、あの子は昔の事故の前の僕ってこと?

普段の僕ならば笑って流すのかもしれないが、状況が状況だ。頭の中グッチャグチャ。


「それじゃあ…」


話について行けなくて、また同じような質問をしようとした所で話は遮られた。


「この話は終わりだよ」

「私の口から話すべきじゃなかったかもしれん…。お前の母親が全てを知っているから帰ったら聞きな」


母さんが帰って来たらって。連絡もつかなくて何時帰ってくるかも分からないのに…。

家の中は居心地が悪い所だらけな気がして、冬樹は家を飛び出そうと玄関へと飛び出す。


「ッ!!!」


のれんの向こうには友奈が立っていた。

全て話を聞いていたみたいだ。


「…。」

「お兄ちゃん…」


ヒシッ。

友奈は僕に抱き付いてきた。


「大丈夫だよ、大丈夫。」

「私にとって、お兄ちゃんはお兄ちゃんだよ。」


ざわついていた心が、嘘のように鎮まっていくのが分かる。

友奈は、混乱して言葉を呑む僕に優しく語りかけてくれた。


「もしそうでも、私が産まれてから知っているのはお兄ちゃんだよ」

「ね?そうでしょ?」


「…。」


冷静を取り戻してきたら何だか恥ずかしくなってきた。

「ありがとう」と手短に伝えて友奈を引き剥がし、照れ隠しに話題を変えた。


「あの子は…?」


「ん。疲れてたみたいで眠っちゃった」


優しく微笑む友奈に、照れ臭い感じがして視線を外す。

あの子の様子が気になって、居間へ早歩きで戻る冬樹。


起こさないように、擦れてスカスカ気味の襖をゆっくり開けると、フユキは幸せそうな顔をして眠っている。この様子なら、体調は大丈夫そうだな。

しかもヨダレ垂らしてるし…。

婆ちゃんも居間に戻って来た。

先程の険しい顔はもうしていなく、寧ろニコニコしている。


「今日からフユちゃんも同じ、ひとつ屋根の下で暮らすからね。それと、さっきの話はこの子に内緒にね」


小声で僕と友奈にそう伝えてきた。

あ、やっぱり?ぶっちゃけ、さっきの話を完全に信じた訳じゃないけど、それでもいいか。こんな可愛い子と一緒に住むなんて悪い気がしないし。友奈は嬉しそうにニコニコして頷いていた。


それに、「一緒に住む」と婆ちゃんが言うのだし、初対面の人にはそんな事言わないだろうよ。それが冬樹自身と、フユキの疑惑を少しずつ解き始める後押しとなった。


「お腹空いたねえ。フユちゃんが起きたら、何食べたいか聞いといておくれ。私は後で夕食の買い物に行って来るよ」


婆ちゃんは友奈、それと(冬樹)とフユキの顔を2回ずつ見てからそう伝えた。


「婆ちゃん。僕が行ってくるよ」


さっきは行くのが嫌で、婆ちゃんに会わないように避けたおつかい。気分転換に外に出たい。ってのもあるけど、今は何だか行きたい。そんな気分だった。


「今から行って来る」


婆ちゃんからお金を受け取り、折り畳んで財布にしまう。


「それと、友奈。フ…、フユちゃんが起きたら何食べたいか聞いて連絡してくれ…」


斜に視線を向けている冬樹は恥ずかしそうに、口を尖らして呟く。


「フフッ。分かったよ、お兄ちゃん。『お姉ちゃん』が起きたら聞いとくね」


友奈はニコっとイタズラっぽく微笑む。

しかし、友奈は順応が早すぎるな。それじゃあ僕はどういう立ち位置になるんだ?親戚の子とか…?


まあいいや。さて、行って来るか。

サンダルを履いて玄関の扉を開ける。夏の暑い空気が、アスファルトの匂いと共に室内へ流れ込む。

何だか今度は扉が軽く感じた。



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