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(更新12)

【ザップ】


「俺達で組むってのは気分的に楽だけどよ」


ガンズとヴィーシャの三人で班になったのは悪かない。


「よぅヴィーシャ、こんなに離れて歩くのかよ?」


十三階層はだいぶ広い。おまけに狭い通路ってのが無い。


どこもゆったりとした造りの遺跡モドキだ。階段も無理すりゃ十人横に並んで歩ける。


探索する場所を区切ってそれぞれの班が探索する訳だが。


「…仕方無いでしょ、これくらい離れていないと『擬態生物』が襲わないわ」


…俺は襲われたく無ぇ、断じて。


旦那が走って間に合う距離か?ひどく落ち着かない。


ガンズもヴィーシャも単独でダンジョン潜ったりするから慣れてんのかも知れねぇが、斥候役は独りで潜ったりしねぇんだよ。


「どうも落ち着かねぇなぁ」



だいたい、どうやって見分けるんだよ?


「怪しい所をナイフでつついたりしてみてくれ、ザップ」


言いながら旦那は籠手で壁を軽く叩く。


しゃあねぇなぁ、とナイフで石壁を小突く。


カツカツ…カツカツ…カツカツ…ゴツッ。


ぅお!?違った、木の板かよ。


「あ~やだやだ…ん?誰だ?」


隣の班の奴が間違ってこっちに迷い込んだらしい。


俯いたままで近付いてくる。こっちに気付いて無ぇな?


「お~い!ここは俺達の割り当てだ!戻りな~!」


…無視か?何か用があるなら手を振るなり駆け寄るなりしそうなもんだが?


ゆっくり近付いて来たソイツが顔を上げると…誰だお前!?


見た事の無い奴だった!


誰かに似ている様で他の誰かにも見えるソイツが、俺にしなだり掛かって来やがった。


「おい?…お?ぉわわっ!」


咄嗟に身を引く事が出来たのは幸運だった!


野郎、目の前で溶け出しやがった!


ヒューマンらしい姿がドロドロと溶け、そこからでかい角やら牙やら生え出してきやがる。


いくつも開いた目ン玉が俺を見る。


ばかでかい口がぱっくり開いて涎まみれの舌が見えた。その時。


爆音と共にソイツがぶっ飛んだ!


「大丈夫かザップ?」


言いながらガンズがソイツに殴り掛かる。


黒い籠手が蒼紫の火花を散らしながらソイツにめり込む。二度三度四度…


「…大丈夫?ザップ?…まさかね、まさか生き物にも擬態出来たとはね」


「ヴィーシャ、油壺有るか?」


痙攣しているソイツが炎に包まれる。暫くもがくと動かなくなった。


「…まさか待つだけじゃ無かったとはね。認識を改めないと」


「『擬態生物』結構、芸達者だな。ところでザップ、手を貸すか?」


ガンズの旦那が俺に手を伸ばす。気が付いたら尻餅をついていた…仕方無ぇだろ?驚いたんだから。




────────


全員が扉の前に集まった。班分けして事に当たってから丸一日ってところだろう。


エドの班と俺達のそれぞれから連絡を受けて、皆は壁や柱に松明の炎を押し付け、煙でいぶす作業に時間を費やした。


…結構見付かるもんだ。一つの班が割り当てられた場所に、だいたい五~六匹、多い所じゃ二十匹程の『擬態生物』が隠れていやがったと云う。


なかには俺達と同じ様に人の姿に化けて出て来た奴もいて、まとわり付かれたところに松明を押し付けて引き剥がすなんて真似もしなけりゃならなかったらしい。


取り合えず全員無事だ。


怪我を負った奴を回復魔法が使える面々で治していく。


その間、俺はテレンスとダンと一緒に打ち合わせだ。


「見ろ、扉が開く様になった。ここの『掃除』はもういいだろう」


「ヴィーシャの見立てが当たったな」


「問題は十四階層…何の情報も無い初めての階層だ。行ける様になったのは嬉しいが」


そうだなテレンス。


行ける様になったのは嬉しいが、だ。


何が待ち受けているのかも判らない、どんな場所なのかも判らない。


「…けどよテレンス、ダン、わくわくしねぇか?俺達が最初ってのはよ」


「…違い無いな。取り合えず全員で十一階層だ」


全員で十一階層まで戻って野営だ。これは元々決めていた事。


面倒臭ぇと思われるかもしれねぇが、安全の為だ。『サイフォン』が復活していない事を確かめる意味もあるからな。


「よ~し、皆、十一階層に戻るぞ!隊列を組め。念には念を入れろ」




────────


十一階層で野営をする。


いつもならガンズが狩った獲物の料理が食えるんだが、今回浅層に寄っていないから携帯食糧を鍋に入れる。


「先に野菜やら何やら運び込んでおいて正解だったな」


ホント、赤字覚悟の探索行だぜ、冒険者がやる事じゃ無ぇよ。


「なぁ、旦那、ヴィーシャ、公爵様に御願いして何とかならねぇかな?」


「報酬か?」


「このやり方が安全確実だ、それは認めるが、予算的にも人集めにも無理がある。何度も出来る事じゃ無ぇ」


こんなんじゃあ、他のパーティーが二の足を踏む。階層を進めば進む程、赤字になるぜ。


宝箱はあるにはあるが、集めている暇も無ぇしな。


公爵様もデータ取りがしてぇなら、ちょっとは考えて欲しいぜ…




【ヴィーシャ】


十四階層。


初めての景色は太い木々の間から始まった。


「十一階層の『森』とはまた違うな…臭っ」


ザップが臭いに顔をしかめる。


この森は松や銀杏の針葉樹で出来ていた。独特の生臭さがあるわよね、銀杏の実とか。


「十三階層と違って自然な感じだ。銀杏や松の実があるな…ダンジョンで無ければ集めたいところだ」


ノラが銀杏の実を一つ拾う。


食べられるのそれ…臭いわよ?


ドラスや他の斥候役が偵察から戻って来る。


「取り合えず扉の周囲に危険は無さそうです。少し行くと開けた場所がありますザップ殿」


「よし、皆、その開けた場所まで移動するぜ…おいノラ、臭ぇから捨てろそれ」


「上手いんだがな」


針葉樹の森を抜けた開けた場所…それは花畑だった。


王宮の中庭なんか比べ物にならないくらいの一面の花畑。花の匂いが辺りに充満する。


「森とは全然匂いが違うな」


「凄ぇ花の量だ。見ろよズボンや服に花粉が付いちまう」


「ずいぶん長閑な感じだ、十三階層がごちゃっとしてた分、広々として感じるな」


所々に生えた灌木も花を咲かせている。


…綺麗ね。ダンジョンなのを忘れそう。


「気を引き締めてくれ、ダンジョンだぞここは」


テレンスの声で皆が隊列を組み直す。


天井から見下ろせばこの階層は長方形をしているみたいね。


両側に壁が見え、正面には何か…山かしら?岩?


「あの小山に何か有りそうだな」


花畑にはあちこちに倒木が隠れていて、たまに足を取られる者もいた。


近寄っていくとそれは生物だった。脚の一本がガンズの背を軽く越えている。


「…何かしら?…亀?…蟹?」


背中の甲羅は亀に似ている。


が、脚の様子や鋏などは蟹の様に見える。


巨大な鋏が倒木を毟る様にして、とび出た目の間に運ぶ。ゴリゴリと音が聴こえた。


「まさかアレを倒せってか?」


「………なぁヴィーシャ、魔法でアレ何とかなると思うか?」


ガンズが指差すまでも無いわ。


「…無理言わないでよ」


魔法攻撃を与えるのは出来るでしょうけど、まるで効果が無さそうよ?


まだ結構離れているのに、これだけ大きいんだから。


「近寄ってみるか」




────────


近寄って行くうちに重々しい響きが聴こえてくる。


あの巨大な魔物の脚がゆっくりと動く音だろう。


その内に違う音が聴こえて来た。


鋭い風切音。


ヴヴヴゥゥゥ…と楽器の弦を掻き鳴らす様な音。


「おい!アレを見ろよ」


山の様な魔物の周りには、蜂の様な魔物が飛び交っている。


遠目で見てもかなりの大きさ…ヒューマンくらいあるわね。


『蜂』は花畑の蜜を取っては『巨大蟹』の甲羅まで飛び上がっていく。よく見れば『大鼠』を捕まえて運ぶ者もいる。


「アレは…甲羅の上に巣が有るって事か?」


「こちらにまで来ない様だが…」


『蜂』の飛び交う範囲内は両側の壁まで届いている。


…迂回するのは無理ね。


一人が少し近寄ると、一匹の『蜂』が目の前で滞空する。


「ぅおっ…!?」


ヴヴヴゥゥゥ…


ガチガチガチ!


『蜂』が大顎を撃ち鳴らした。威嚇行動の様ね。


「おい戻れ!…そぉっとだぞ?そぉっと」


離れると『蜂』は暫く滞空していたがやがて翔んで行った。


「…近寄れ無いわね」


ヒューマンと同じくらい大きな『蜂』だ。


それが何百と飛んでいる。


「こりゃあ参った、進めやしねぇ」


「さっきの『蜂』に攻撃したら、残りの『蜂』全部相手にする事になっていたな」


少し離れて話し合う事になった。


「この花畑に火を放つのはどうだ?煙に燻されて弱るんじゃないか?」


「…それは止めた方がいいわ」


周りをよく見てほしい、火の手がこちらに向いたらどうなるか?


私達が来た扉の周りは針葉樹、脂の多い木々。炎にまかれる可能性が高い。


それだけでは無い、『蜂』の巣を背負う『蟹』が煙を嫌がって暴れないとも限らない。


「確かにな、しかしどうする?あんな数を相手には出来無いぞ」


私達はその場で暫く立ち尽くした。『蜂』の羽音と『蟹』の関節音が響いていた…




────────


「結構食えるものだな」


「だろう?滋養にいいんだ」


ガンズが銀杏の実の感想を言うとノラが喜んだ。


私達は一度扉の前まで戻った。ここまで『蜂』は来ない。針葉樹の森には花の蜜が無いから。


小さな火を焚いてガンズとノラ、他に二~三人が銀杏の実を焼いて食べている。


「主人もどうだ?ザップさんは?」


「……結構よ」


「よくそんな臭ぇもん食えるな?」


「ザップ、美味いぞ?酒に合いそうだ」


現状、身体を休めるくらいしかする事が無い。


話し合ってはみたものの、これという案が浮かばなかった。


「…ねぇガンズ?食べるのはいいけど、何か方法を考えてよ」


ガンズが堅い殻を指で割り、中の銀杏の実をほじって口に入れる。


「そうだな……雨か霧でも降れば『蜂』の動きも鈍るだろうな、だがダンジョンでは無理な話だ」


「雨か霧?」


「『蜂』は飛べなければ恐く無いだろう?羽が濡れたら上手く飛べないさ」


もっとも、ダンジョンだからなここは。


「ヴィーシャは雨を降らせられるのか?」


「…さすがに無理ね、広範囲に雨を降らすのは」


そんな事をしたら魔力がすぐに切れるわ、たいして効果が出る前に雨は止んでしまう。


「範囲を絞れば降らせられるのか?どれくらい強く?」


「何か考えがあるの?ガンズ」


銀杏の殻をまた割って口に放り込みながらガンズが言った。


「なに、『蜂』の巣を流してしまえば、新しい巣を造るまではおとなしくなるだろう?」


………………え?


「まぁ、確実な話じゃ無いが、巣が無くなれば『蜂』は縄張りを主張出来無いからな。一から巣の造り直しだ、巣を造る場所探しから…あぁ、その前に『女王蜂』を護る為に一ヶ所に固まるな」


「ガンズさん詳しいな?」


「ノラはやらなかったのか?蜂蜜取り。森にも居るだろう?」




────────


「……け、結構恐いわね…」


足が宙に浮きっぱなしと云う状態は好きになれそうに無い。


「あんまり動かないで下さい」


ラースに抱えられ、天井近くまで運ばれている。


ラースの翼が一打ちする度に私の身体が大きく揺れて墜ちるんじゃないかと冷や冷やした。


「巣に向かって集中的に雨……水を掛ける事は可能よ?ただ、あの甲羅の上が見えないと何処に巣があるかハッキリしないわ」


…言った私が馬鹿だった。


眼下には綺麗な花畑が広がっている。鳥の視点とはこういうものか?


…なんて感動する余裕は今の私には無い。


「見えるかなヴァンパイアのお嬢さん?あそこだ、甲羅に巣がへばり付いている」


指差すのに腕を放さないで!


「…も、もう少し近寄って貰える?」


私が言った途端、ガクンという感じで高度を下げる。


落下してるんじゃないでしょうね!?


「まぁこれくらいかな?これ以上近寄ると『蜂』が襲って来そうだ」


「………あ、ありがと」


私は巣の様子を観察した。


『巨大蟹』の甲羅に『蜂』の巣がへばり付いている。


しっかりと貼り付いているわね、これはちょっとやそっとの水で流れるものじゃ無いわ…


「水を使って巣を流すのは無理みたいね」


「しっかりと造られている様だからね、どうするねお嬢さん?」


「…一度皆の処へ戻って頂戴、何かやり方があると思うから」


だからって急降下はやめてっ!




────────


「…どうにもならんな」


「雨、まぁ魔法で水をかけたとしても巣の中に引っ込まれちまったら、あいつらの羽は濡れ無いだろうぜ?」


「巣に水をかけてる間に通り抜けるか?」


「魔力がもたないだろう?それに一当てしないと…」


話し合いは先に進まない。


十三階層の扉の事もある。『蜂』をまるっきり無視しては、ここの扉も開かないはず。


「やり方ならあるぞ」


銀杏の実を食べ飽きたらしいガンズが言った。


「皆、油壺は残っているだろう?ラースが上から巣に落として火を放てばいい」


「凄ぇ騒ぎにならねぇか旦那?」


「ラースには悪いが皆は離れている事だ、巣に火が点けばそっちに躍起になる」


弓を使える者は用意していてくれ、魔法も。


ガンズはそう言って自分は足元の石を拾った。




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