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(更新11)

【ガンズ】


それからばたばたとした日々が続いた。


十二階層の最初の部屋、通称『避難小屋』に俺達は何度も往復して、そこに薪やその他消耗品を運び入れた。


集めるのが一番大変なのは薪だった。


宿屋から安くわけて貰うのだが、宿屋が使う分まで買う事は出来無い。他の品物と一緒に仕入を多く頼み、待たなければならなかった。


その間、三組で訓練をした。誰とでも連携が出来る事が狙いだ。それは戦闘ばかりでは無く、行動も。


無作為に組分けして、部屋の扉を開けて中に入る訓練。部屋に突撃する者を後ろに控えた者が素早くフォローする。


通路の角を曲がる時、曲がった先の様子をまず確認したり、隊列を組んだ際にどの位置にいる者がどこを警戒するかを決めたり。


訓練だけでは無く、座学も行われた。主にダンの組に対して『サイフォン』と『擬態生物』の知識を頭に叩き込んだ。


地味な作業の繰り返しだったが、既に全滅したパーティーがあるのだ。


手を抜ける話では無い。


「兵隊になった気分だぜ」


「じゃあ止めるか?」


「いんや、俺は死にたかねぇよ」


そんな言葉が挨拶代わりに使われる様になった頃。


俺達は食堂に一堂に会した。


「皆、よく今日までついて来てくれた。俺達の準備は調った。明日、ダンジョンへ入る」


沸き上がる喚声。それは俺達だけでは無く、宿屋に居た他の冒険者達からも溢れていた。


「狙いは十四階層突破!…しかし無理はしない。俺達が失敗すれば、後に続く者が居なくなるだろう」


テレンスの言葉は事実だ。このやり方で失敗すれば、誰も続かない。他の方法を思い付ける冒険者が出てこない限り。


そんな者が出てくるとは思えない。


「今日は深酒などせず、早めに休んでくれ。先は長いぞ」




────────


「さてと、行くぜ」


十一階層の終わり、目の前には十二階層への扉がある。


俺達はここで一晩を明かした。十階層との間にある転移位置から一本道のこの場所へは数時間。たったそれだけの移動の後、野営をした。


十二階層の『避難小屋』は集めた備品の倉庫に成り果てている。この人数が寝泊まり出来る場所では無い。


野営の道具類を片付ける。探索の最中、十一階層が変化しないとは限らない。道具類は『避難小屋』に置き、野営の度に十一階層へ上がる予定だった。


十二階層、その『避難小屋』の扉を開き、安全を確認しつつ皆が出て行く。


ここで使うのは松明と油壺。


俺達の身体を流れる血と共に魔力も身体を流れる。その流れを感知して『サイフォン』は襲ってくる、それがヴィーシャの推測だ。


魔力の流れでこちらを知覚し、まばらに生えた毛に感じる風でこちらの動きに対応するのだと。


そこで決めた作戦は『誘き寄せ』だ。


『避難小屋』の前の場所を確保し、薪を集めて火を点ける。


野営のものより大きな焚き火が幾つか出来上がり、勢い良く燃えている。


「中央に固まれ、天井に気を付けろ」


焚き火が俺達を囲む形だ。


俺達が一ヶ所に固まっていれば、魔力の流れは強く感じるだろう、『サイフォン』にとってはいい目印だ。


「…来たぞ、油壺の用意」


数匹の『サイフォン』がゆらゆらと現れる。


『サイフォン』は頭の上から舌を出し入れしながら俺達に向かって来るが焚き火のそばで戸惑っている様な動きに変わる。


「投げ付けろ!」


一斉に油壺が数個『サイフォン』にぶつかる。ぶつからなかったものは床に落ちて割れ、『サイフォン』と焚き火の間を埋めた。


それが導火線になる。


火だるまになり悶え苦しむ『サイフォン』に俺達は斬り付け、殴り付ける。


「よし戻れ!焚き火の内側だ」


「火を絶やすな!」


時間を置いて『サイフォン』が現れると油壺が投げ付けられ、周囲には焼けた肉の臭いと焦げた臭いが強くなっていく。


「上手くいってるな」


「…強い炎は風を生む。『サイフォン』には目が無いわ、炎の内側にいる私達を感知出来ても、動きが判らなくなる」


「いい軍師になれるんじゃないかヴィーシャ?」


焼けただれ、縮む様に倒れる『サイフォン』。


油壺が手元に無くなれば、後ろの『避難小屋』から補充出来る。


次に『サイフォン』が現れるまでに倒した奴を一ヶ所に集めて燃やす。


「よし、そろそろ交替だ。休んでくれ」


「交替っても大して疲れちゃいないが、替わるか」


俺達は『避難小屋』に戻り休息を取った。


「呆気無いもんだ、最初苦戦したのが嘘みたいだぜ」


ザップがやれやれと腰を降ろす。


「弱点が判っているからだ。よく燃える」


暫くして『サイフォン』の襲撃が無くなったと報告が入る。


「よし、引き揚げだ。十一階層へ戻るぞ、明日またやってみて様子をみよう」


皆でぞろぞろと十一階層へ戻る。深層の魔物は階層を跨がないし、十一階層に魔物は居ない。


「楽勝だったな」


「この為に準備したんだ、当然だろ」


「準備無しでやり合いたか無ぇな」


野営を始める皆の表情は明るい。


そんな中、ヴィーシャ一人が眉を曇らせていた。


「…『サイフォン』は大丈夫。問題は次の『擬態生物』よ」




────────


二日経って襲ってくる『サイフォン』はいなくなった。


「恐らく全滅しただろう、前進しよう」


全員で壁を伝いながら十三階層を目指す。


「これで暫く…一月くらいは大丈夫なはずだ」


「テレンス、油断するな。まだ残ってる『サイフォン』がいるかもしれない」


先に進む俺達に襲って来る『サイフォン』は居ない。


時折、壁が動く音だけが周囲に響く。


俺はふと足許に転がるものに目を留めた。


「済まん、止まってくれ」


「止まれ!周囲を確認しろ…どうしたオーガ?」


俺はそれを拾って確かめると、ザップ達リーダーを呼んで見せた。


「『大鼠』じゃねぇか、それがどうしたんだ旦那?」


『大鼠』何処の階層にも普通に居る無害な魔物だ。結構大きい、中型犬くらいある。


普段、これはダンジョンの中で魔物や冒険者の死体をかじってるだけの、弱い生き物だ。


こちらを襲う事も無い為に冒険者は無視して放っておく。


「これは餌だ」


『大鼠』に付いた傷口を見せる。丸い傷だ、『サイフォン』に食われたのだろう、血が無くなった身体は軽い。


「『サイフォン』は普段…いや魔物の全てがこれを餌にしているんだ」


「…まぁ、そうだろうぜ」


「餌が無ければどんな魔物でも飢え死にする。これは俺の考えだが、『サイフォン』が復活するには充分な餌が必要なはずだ」


公爵様の造った魔物の復活装置がどの様な理屈のものでも、階層の魔力が『サイフォン』を復活させるより先に、まず餌である『大鼠』の数を一定数になるまで増やす様に出来ているはずだ。


つまり、『大鼠』が減れば、『サイフォン』復活は遅くなる。


「十三階層にも『大鼠』は居た。この階層に居る間、こいつを見つけ次第仕留める様にしてくれ」


多少なりとも効果はあるはずだ。『サイフォン』復活を一日遅らせるくらいには。




────────


野外の遺跡を模した十三階層。


石壁を伝う蔦は自然に絡み付いたものでは無く、よく見れば所々糸などで補強されている。


あちこちに生えた灌木も移植して然程時が経っていない。


組まれた石壁や柱、床の石畳まで、切り出したばかりのもの。


「…なんで安っぽいんだ?」


ダンの疑問は当然だろう。


公爵様は凝り性だ、少なくとも浅層の造りを見ていれば誰でも感じる事だろう。


なら、この十三階層も本物の遺跡に見せるのが当然だ。


「…て、事はこの『新品遺跡』に意味があるって訳?」


「『新品遺跡』ってのはいい表現だな」


「なんで新品に見えるんだ?石の角とか丸くなってるのに」


まずは周囲の安全を確認する。全員が固まって行動するのは十二階層と同じだが…


「問題は向こうからこちらへ近付いて来ないだろうって事だ」


『サイフォン』はこちらを襲いに来たが、『擬態生物』はこちらが近付くのを待つタイプだろう。


ダンが言った。


「『擬態生物』ってのは群で襲っては来ないんだろう?無視して十四階層へ向かってもいいんじゃないか?」


ダンが言うには『擬態生物』がどれだけ賢いかは解らない。


しかし俺達がこの大人数で固まって動けば、襲っては来ないだろう。一匹の『擬態生物』が一度に四人も五人も相手に出来るはずが無い、と。


「…こっちは総勢十八人だ、知恵の無いスライムだって襲ってこないぜ?」


「そうだな、十四階層への扉も見付けていない事だし、まずは扉を探す事にしよう」


話し合いを終えたザップが俺達の元に来た。テレンスやダンも自分の組に説明している。


「ま、聞こえてたろうが、まず俺達は扉を目指す事になった。ひょっとしたら『擬態生物』が襲ってくるかもしれねぇ、注意だけはしといてくれ」


十二階層が升の目の様な造りなら、十三階層は入り組んだ形だ。


緩やかなカーブを描く道。登り降りする階段。視界を狭める石壁と蔦。灌木の陰から時折顔を出す『大鼠』…


階層全体も明るい。高い天井には魔法の光源が下界を照らす太陽の様に輝いている。


「こうごちゃごちゃしていると『擬態生物』に有利な環境ですね」


ダンのところのバーサが言った。彼女達はここが初めてなので物珍しく感じているだろう。


数時間かけて扉を見付ける。入り組んだ地形のせいで思ったより時間が掛かった。


「………おい、開かねぇぞ?」


俺が力を込めても扉はぴくりともしなかった。ヴィーシャが扉を調べて言う。


「…魔法で固定されてるわ」


「何故ですか?ヴィーシャさん」


「……恐らくだけど素通りさせない為じゃないかしら?叔父様は『擬態生物』のデータが欲しいからこの階層を造った。冒険者が戦闘しないならデータが取れないもの」


「逆戻りしなくちゃならないのかよ」


ヴィーシャが難しい顔をする。


やがて口を開いた。


「…ただ逆戻りしても『擬態生物』は襲って来ないわ。私達の数が多すぎる」




【エド】


ヴィーシャさんの提案は理屈には合っているものだった。


しかし…厳しいな。


「十八人の大集団では『擬態生物』は襲って来ない。『擬態生物』は待ちの狩人よ、蜘蛛と同じね。私達の数が減らないと姿も見せないでしょう」


「なら…パーティー毎に別れろという事か?」


「…違うわ、元々のパーティーより小さい班に分けるのよ…そうね、三人で六班」


当然反対の声が上がったが、ヴィーシャさんの説明は続く。


「『擬態生物』が待ちの狩人、奇襲専門なら、縄張りが有るわ。群では行動しない。三対一よ?それに待ちの狩人は戦闘が苦手」


確かに理屈はその通りで、僕達は今三人一組で探索している。


魔物にはそれぞれ行動パターン、戦闘パターンと云うものがある。


例えば以前戦った『狩蜘蛛』。


蜘蛛であっても巣を作らないあの魔物は、物陰からの奇襲が戦闘パターンだが、待ちの狩人では無い。


『擬態生物』は巣を作るタイプの蜘蛛に近いだろう。


ただし、ただ待っているのではなく奇襲してくるのだけれど。


「どこから出てくるか判らないのが嫌ですね」


ラースさんが辺りを見渡しながら溜め息をつく。


僕の班はテレンス組のラースさんとダン組のバーサさん。


バーサさんは僕にぴったりとくっついている。


「バーサさん、もう少し離れて下さい」


別に嫌っている訳じゃ無い。


固まっていると『擬態生物』が襲って来ない可能性が高いからだ。


『以前来た時、御手洗いに行こうとした人が襲われそうになったわ、班の中でもある程度離れて。お互いを囮にするの』


ヴィーシャさんの言葉が思い出された。


「しかし、『新品遺跡』とはよく云ったものだ…綺麗過ぎですね」


「ラースさん、なんでこんなに綺麗に見えるんでしょう?」


「それは、壁や柱などに汚れや日焼けが無いからでしょう」


なるほど、遺跡の偽物の様な違和感は、そういうところから来るのか。


「む?」


物陰から『大鼠』が顔を出すと、ラースさんが剣を一閃させる。


「なんだか可哀想」


「バーサさん、これも作戦だよ」


『大鼠』はここでも魔物の餌らしい。


警戒心がまるで無いので簡単に仕留められる。


『…餌を減らせば、焦って襲ってくるかもしれないわ。復活の時間を遅らせる為にも倒したら…燃やして』


油壺の中身を少し振り掛けて火を点ける。『大鼠』の肉が焼ける臭いが漂う。


焦がして『擬態生物』が食べられなくする為に念入りに燃やす。


煙のせいで石壁や柱に煤が着いて黒くなった。綺麗な石材だから目立つ。


「…ん?エドさんあれ見て。なんか変」


バーサさんの指差したのは煤で汚れた柱。


柱の一部が…白い。


思わずラースさんと顔を見合わせる。


「なるほど、『新品遺跡』の訳が解った。そういう事か!」


と言うなり、ラースさんの口から炎が走る。ドラゴニュートのブレスだ。


「ジイィッ!ギギギッ!」


柱の白い部分がのたくり、床に落ちた。


僕の剣が止めを差す。


「…奴等、汚れや日焼けなどを再現出来んのです。だからこその『新品遺跡』。エドさんバーサさん、松明の用意を」



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