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(更新10)

【ガンズ】


野営の仕度が済み、解体した魔物を俺が鍋に煮込んでいると、ディーラが覗き込む。


「美味しそうな鍋だ、ガンズ様…さんはいつもこうやって?」


「そうだな、狩った獲物は食うべきだ。無駄にすることは無い」


「解ります。私どもも野外演習の際にはよく魔物を料理しますから」


「へぇ、温室育ちかと思えば…見直したぜ?」


「よして下さい、今この場では私も冒険者の一人ですよ」


煮えるまでのひととき、アドレアの話を訊いた。


アドレアでは回復魔法の研究に行き詰まっているらしい、その為に使節団を派遣してこの国と交流を深めたいそうだ。


「…もちろん、それだけでは無く、交易などにも力を入れたいと考えていますが」


「…鍋が煮えた。さぁ食おうか」


正直、俺達冒険者には縁の無い話ではある。


もっとも、交易が盛んになれば冒険者や傭兵が隊商の護衛を務めるだろう。ダンジョンに比べれば実入りが少ないが危険性は低い。


めいめいが毛布を被り、俺とディーラが見張りになった。


「…静かなものですね?もう少し魔物退治に忙しいものかと」


「期待外れか?」


「いえ…考えてみたら何日もダンジョンに居るのだから、しょっちゅう戦っている訳がありませんね」


薪をくべながら俺は言う。


「俺も始めは同じ様に感じた。歩いている方が長いと。魔物に出会っても毎回戦う訳でも無いしな」


そこが戦や外の魔物退治とは違う。


ダンジョンでは必要なら魔物を見逃す事もこちらが隠れてやり過ごす事もある。


「生き残る事が仕事みたいなものだ、生きて帰る事が」


「名誉の死は要らない、と」


「そうだな、戦との違いだ」




────────


ディーラの剣が鋭い突きを入れ、魔物の腹を穿つ。


イライザとアイシャも負けてはいない、それぞれ剣と盾を巧みに操り魔物を屠っていく。


五階層で俺達は吸血猿の群に出くわした。


吸血猿はさして大きい魔物では無い、ヒューマンの腰くらいだろう。


しかしこの魔物は大きな群を作る。


天井によじ登って飛び掛かってきたり、群の後ろから石を投げたりと、統制のとれた戦い方をしてくる。


「ぐっ!?」


かわし切れなかった投石に当たり、ディーラの額が血を噴いている。


エドが剣を振るい、ドラスが魔物の首をはねる。


ザップの短剣が刺さった魔物を俺が凪ぎ払う。


「ノラ!あそこだ!」


ザップが指差したのは、群を統率する長の様だ。


吸血猿達の隙間をすり抜けた矢が、群の長を弾いた。しっかりと胸に突き刺さって、魔物の長はくずおれた。


統率を失い、逃げ惑う魔物達。


「深追いはするな!…ディーラ、無事か?」


「このくらい…」


「無理するな。ヴィーシャ、回復してやってくれ」


辺りには十数匹の死骸が残った。


手当ての為に立ち止まり、通路の脇で一休みする。


「連戦は無ぇ、と思うが気を付けな」


「吸血猿は数が多くて面倒ですね」


エドとドラスが見張りに立ち、ヴィーシャとノラの回復魔法で手傷を治す。


俺は今のうちにと、死骸から心臓をえぐり出していた。


「…よう旦那、どうする?これ以上進むのは厳しくないか?」


「そうだな、そろそろ戻るか」


俺達の会話を聞いていたのだろう、ディーラが勢い込んで口を開いた。


「私どもならまだやれます!見くびらないで頂きたい!」


「そうじゃ無ぇよ、そろそろ準備してきたものが減ってきたのさ」


ザップの説明を補足する。


「帰りの分というものがある。まだ余裕はあるが、あるうちに戻るのがコツなんだ」


何らかの事情で帰りの予定が狂う事はままあるものだ。


「ま、宝箱も結構漁れたし、売り物の心臓も充分だ。ここらが潮時なのさ」


戦では戦わない従者や小者達が、帰還の際の食糧などの差配をする。ディーラ達貴族が考える事では無い。


「…あぁ、なるほど。そういった事も念頭に入れて置かないといけないのですね」


「そういう事、さ、帰ろうぜ」


まぁ、本心ではこれ以上ディーラ達を連れ回していられる余裕が無いのは事実ではある。使節団の日程もあるからな。




────────


宿屋の食堂で、皆が疲れた身体を椅子に沈める。


ザップは持って来た魔物の心臓やらアイテム類をカウンターで換金していた。


「疲れたか?ディーラ」


「いえ、野外演習で鍛えてますから…演習より面白かった…あ!ごめんなさい」


「いいんだ。楽しめ無い奴は冒険者じゃ無い」


ダンジョン探索は命懸けだと釘を刺したが、だからと云って楽しむなとは言わない。


楽しみがあるからこそ、死と隣り合わせであってもダンジョンに潜るのだ。


興味本意の物見遊山とは違う。そう言ってやった。


ディーラ達は解ってくれたと思う。




「ザップ殿、大変お世話になりました。我々はこれで」


「おいおい、ちょっと待ちな。忘れちゃいけねぇよ」


ザップはそう言うとディーラに銭袋を投げた。


「これは?…いえ、これは受け取れません!」


「馬鹿野郎!お前らは王宮に戻るまではまだ冒険者だ!自分達の取り分放り出す冒険者があるかよ?三人分ある。ちゃんと分けな」


「ザップ殿、いえ、ザップ…ありがとう」


ディーラはアドレアの貴族令嬢だし二人の付き人も侍女ではなく同じく貴族の家の者だ。


はっきり言えば銭袋の中身など彼女達にとっては大した額では無いだろう。だがディーラはありがたく貰う事にした様だ。


「それからよ…ほら土産だ、これも持って行きな」


ザップが渡したのは宝箱に入っていた宝石付きの短剣。


「いやしかしこれは…」


「安物だよ、宝石も偽物。切れ無ぇ短剣に宝石なんか付けるか?見栄張る為に作られたものだが、旅の思い出にゃあ丁度いいだろ?」


「ふっ、ふふふっなるほど確かに、ありがとうザップ」


ディーラ達は王宮へ戻っていく。


見えなくなるまで皆で手を振った後。


「や~れやれ、帰ってったか。さ、俺は疲れたから寝るぜ」


そう言ってザップは部屋へ戻っていった。


皆も食堂へ戻っていく。俺はヴィーシャを見て首を捻った。


「なんでザップはガラクタをやったんだ?もっとマシな物もあっただろうに」


女性への贈り物にしてはおかしな話だ。


俺の疑問を聞いてヴィーシャが溜め息をつく。


「…ガンズ?貴方本当に解ってないわね?あれって本物の宝石よ、短剣自体研ぎに出せばちゃんと使えるわよ」


「ザップが勘違いしたのか?」


「そんな訳無いでしょ?あのお姫さま、アドレアに帰ったらびっくりするでしょうね?」


何だってそんな真似をしたんだ?ザップは?


「…想像してご覧なさいよ?ディーラが本当の事を知ってびっくりした時、どきどきしながら思い浮かべるのは誰?…ホント、女にマメよねザップは」




【ヴィーシャ】


ザップの元に東門の見知った人達が現れた。


一人はテレンス。以前合同で深層を探索したパーティーのリーダー。彼のパーティーは前衛役を主体にしたものだった。


もう一人はダン。この間ダンジョンで共に野営をしたパーティーのリーダー。


「ようテレンス、ダンと知り合いだったのか?」


「久し振りだなザップ、今日は誘いに来たんだ」


「誘い?」


「あぁ、ダンの組で全員の護符が集まったんでな、三組合同ってのはどうか?と思ってよ」


「………深層か、何処まで行く?」


「出来るなら十三階層を越えたい。十四階層が目標だが」


十二階層の『サイフォン』


十三階層の『擬態生物』


それらを下し、未知の領域に進みたいとテレンスが言う。


「面白ぇ、だがそれには綿密な準備が必要だぜ?」


「そこだ、俺達がザップに声掛けたのは」


「ダンの組はまだ深層を覗いちゃいない。だからこそあんたに頼むのさ」


確かに深層を知らないダン達だけと組むのは考えものでしょうね。


ザップが私達を見回した。


「どうする?俺はこの話、乗ってみたいんだが?」


「まずは打ち合わせだ、ザップ…テレンス、ダン、探索を始めるまで組の全員をこの宿屋で寝泊まりさせてくれるか?」


ガンズが言った。


つまりお互い気心が知れる仲になれる様に、という訳ね。


「あぁ、解った。今日中に全員で来る」


その言葉を聞いて、私も口を挟んだ。


「テレンス、ダン、…それにザップ。忠告、と言うより要求があるわ」


「何だよヴィーシャ?」


「一度の探索行で十四階層は無理よ。『サイフォン』が復活してるのを忘れちゃいけないわ」


以前十二階層攻略に使った方法。


「…あの時『サイフォン』退治の為に十階層と一階層を往復したわ。今度もそれをやらないといけないわ、護符を有効活用しないと」


『サイフォン』に有効な炎、その為に油壺を補充しに宿屋まで往復したわ。


「…つまり十三階層へ行くには十二階層を、十四階層へ行くには十三階層を、全滅させるのよ、補充しながらね」


「………キツいな、それは」


ダンの言葉通り、キツいわね。階層を全滅させるまでは宿屋を往復するって事だから。


「キツいが確実だ。三人とも、考えてみてくれ。深層の魔物は浅層と違い階層間を移動しない。そして全滅させれば復活までそれなりの日数がかかる」


ガンズが私の言葉を補足してくれた。その言葉にテレンスが頷く。


「確かに、そのやり方なら次の階層へ行く前に宿屋で疲れを取れる。一日二日でもベッドと落ち着いて飯を食える訳だ」


「問題は魔物の復活にどれだけ掛かるかだな」


「そいつぁ今考える事じゃ無ぇさ。テレンス、ダン、取り合えず仲間を呼んで来な。俺は妃殿下に部屋が足りるか訊いてみる」




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