お見舞い
「わっ」
太一が面食らって立ち上がった。
「百瀬…先生?」
伊吹は呆気に取られた顔をした。
「な、何で先生が?」
眉をひそめてから海斗の顔を見た。
「せ、先輩がジャージを貸してくれたんだ」
「え? 先生だったのか…」
伊吹は小さく呟いた。しかし、すぐに目を吊り上げると、太一を睨んだ。
「それで? ジャージ取りに来たの?」
「あ、ああ」
太一が咄嗟に頷いた。
海斗は焦って二人の顔を交互に見た。
「ま、まだ乾いていないんです。月曜日にお返しします。それでも大丈夫ですか?」
話を会わせて欲しいと、懇願するように見つめると、
「いいけど…」
と太一は頷いた。海斗は安堵する。
「それより伊吹、何か用事?」
「朝食持ってきた」
朝食を載せたトレーを突き出す。
「あ、ああ。ありがとう」
お礼を言ったが、伊吹はむすっとしたまま、じろじろと太一を見ている。
「伊吹っ」
早く出て行って欲しい。
目で訴えると、伊吹はムッとして何も言わずに部屋を出て行った。
いなくなってからほっとした。
「すみません、驚かせてしまって」
「いや……。本当に隣に住んでいるんだな」
「はあ……」
曖昧に言葉を濁し、また何か言われそうだなと海斗は息をついた。
「それで、例の話なんだが……」
そう言った時、またもやドアをバタンと言わせて伊吹が入ってきた。
「い、伊吹…っ」
目を丸くしていると、
「海斗、食ったか?」
むすっとして言う。
さっきの今なのに、食べ終えているはずがない。手をつける事すら忘れていた。
二人は唖然として、再び乱入してきた伊吹を見た。
伊吹は偉そうに部屋の真ん中に立つと、もう一度太一を睨んだ。
「すみませんけど、海斗はまだ熱があるんです。こじらせたら、月曜日学校行けなくなるんで」
海斗は目を丸くして、
「え? 別に僕はだい……」
と、言い終わらぬうちに、またも海斗に睨まれて口を閉じた。
「そうだな…。俺は帰るよ。海斗の顔を見に来ただけだから」
太一は立ち上がった。
「じゃあな、あまり無理はするなよ」
「はい」
海斗の頭を撫でてドアの方へ向かう。
「あ、玄関まで送ります」
慌ててベッドから出ようとすると、むんずと伊吹に腕をつかまれた。
「伊吹?」
「てめえは寝てろっ」
「で、でも、太一先輩はせっかく来てくれたんだよ」
「百瀬先生と海斗の関係って何?」
詰問口調で聞かれて、海斗は首を傾げた。
「何言ってんの? 伊吹」
「もう、いいよ。俺が送るから」
太一を強引に部屋から追いやると、二人は下りて行った。
静かになって息を吐く。
「ふう、疲れた…」
ベッドのふちに座るとお腹が鳴った。
夕べは何も食べなかったし、熱のせいで体力が消耗しているのかもしれない。
伊吹の言う通り、おとなしく朝食を食べて寝ていよう。
海斗はベッドから出ると、イスに座って素直に食事を採った。