『6月6日あめザーザー♪』
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これは実際にあったお話です。
今から10年近く前、当時の私は大学生で、勉強の傍らアルバイトに励んでいました。
当時のバイト先は放課後デイサービスの職員補助で、子ども達と関わる仕事でした。
そんなバイト先には、職員だけでなく、知的障害があまり無い児童さえ認識している不思議な玩具がありました。
いわゆる、音の出る玩具。
それらは職場に複数個存在し、重い知的や脳性麻痺、自閉の子らが好んで遊んでいた事をよく覚えています。
そこそこ経営が長い職場だったからか、施設内の玩具の中には、支援学校卒業に伴い、放デイ(注:放課後デイサービスの略称)の利用を終えた児童の保護者からの寄付もありました。
そんな音の出る玩具の一つが、いつも突然ひとりでに鳴り響くというのです。
『6月6日あめザーz…………』
急に鳴ったかと思えば、歌の途中で止まったり、
『かえるじゃないよ、あひるだよ♪』
いきなり途中の歌詞から鳴り始めたりする物でした。"それ" を気味悪がって、徐々に触る人が居なくなりました。
『あんパン2つまめ3つ♪』
あまりに勝手に鳴るので、ある日とうとう、職員の一人が電池を抜きました。
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「ねー⚪︎⚪︎さん、また△△さんの靴にこれ入れるの手伝ってよ」
電池を抜いたと耳にしてから数日後、とある事情で放デイを利用していた少年が私に声を掛けて来ました。
私は呆れた様子で答えます。
「えー? 今度は何を入れるつもり? また△△さんに吊し上げられるよ〜?」
でも私は知っています。
彼は本気で学生バイト仲間の△△さんに懐いていて、構ってほしいから悪戯をしているという事を。
「良いからこれ、入れてよー」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、手に持っているのは紙の切れ端を四つ折りした物。恐らく中に何か小馬鹿にしたような文章でも書いているのでしょう。
(普段しっかりしてるのに、こういう所が年相応というか…)
微笑ましさに思わず心の中で笑みを浮かべながら、建前は呆れた態度を取ったまま紙を受け取りました。
なお、私の方はというと通う学校が違えど同級生のよしみで、悪戯加担について△△さんに苦情等言われる事はありませんでした。
△△さんもまた、満更でも無さそうに「あいつまた締めてやる」と口にする程度でした。
(また△△さんに追いかけ回されて、この子が笑いながら逃げ回るんだろうな)
恒例行事と化した光景を浮かべていた……その時。
『はっぱかな♪ はっぱじゃないよ、かえるだよ♪』
「「!!?」」
思わず音の出る方へ身体ごと振り返りました。
そこには扉が少し空いた玩具置き場が、
『かえるじゃないよ、あひるだよ♪』
電池を抜いたはずの玩具が、今現在誰も触れていなかったはずの "それ" が、また無邪気な声で歌を歌って………。
「ぎゃああああああ!!!」
「うわあぁぁぁぁ!! 出た! 出たぁぁぁ!!」
すっかり油断していた私と少年の二人は本気で怯えて叫びました。
「え!? 何どうしたの!?」
すると私達の声に驚いた様子の女性職員が、少し慌てた様子で駆けて来ました。
「あ、アレ…。アレ……」
「また勝手に音が…!」
震えながら少年と二人で指をさすと、職員は未だ音が鳴り続ける玩具をジッと見つめて……
『6月6日あめザーザー♪』
「あぁ、"これ" ね。注目して貰えて嬉しいんやろうね。多分悪戯感覚でやってるんやろうね、ここの子達と同じで」
「「…………」」
あまりに淡々とした口調で話す職員に、私と少年は言葉を失いました。
『コッペパン2つくださいな♪』
そして "それ" は "それ" で淡々と、静かになった空間で妙に響いていたのでした…。
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(あんな事も、あったなぁ…)
あれから10年近く。ご縁があり、私は今もその職場に居ます。
当時から居た上司の話によると、流石に月日が経ったので、"それ" は奥の棚のさらに奥へと移動し……最終的に処分されたそうです。
当時居た悪戯っ子な少年も、無事卒業しました。学生バイト仲間だった△△さんも、あの時冷静に分析していた女性職員ももう居ません。
年季が入った玩具達は少しずつ入れ替わり、時々職員や保護者からの寄附があるので、真新しい玩具を見る機会が増えて行きました。
「コンコンコン、入っても良いでしゅかー?」
「良いでしゅよー」
お人形遊びをする児童らを見守りつつ、あの『あめザーザー♪』は結局何の絵描き歌だったんだろう、と耳に残る音をたまに思い出しては、他人事のように考えていました。
そして現在、
『Head, shoulders, knees and toes, knees and toes ♪ Head, shoulders, knees and toes, knees and toes ♪』
勝手に歌い始める "それ" は、形を変えてまだここに居ます。




