25話 豊穣の舞と草むしりの妖精
数日後、日が傾き始める頃から人々は歓喜の声を上げ動き始めた。
水が滲み出始めたポイントを掘り起こし亀裂を木の杭で拡張、そこに岩石をかき集め湧き出るポイントを保護し、目詰まりしないように敷き詰めていく。
岩石はいくらでもある。
まだ規模は小さいが湧き水なら安定供給も問題ないだろう。
最初は小さく、ある程度供給が出来るようになってから拡大をする予定だそうだ。
私は誰にもバレないように、夜な夜な少しずつ亀裂を広げていった。木の杭で広がったように見せかけながら。
水圧はバッチリ。
数箇所に渡り、この水脈を辿ってオアシスを作っていけば……水問題はいずれ解決するだろう。
次は……ここの食料。
到着日から、オアシス作りと同時進行で数日に渡って聖石を王宮付近に等間隔で埋め込んでもらった。
念の為、内情を知るベンとアズィーズ、レヴィの三人に。
2日目には土の性質変化が起き始めたので、住民達に埋めた範囲を耕してもらった。
皆、信じてないが藁にもすがる思いという表情で、受け取った種を植えていたっけ。
そんな事を思い返しながら私は支度を済ませた。
バサッ
重たいコートのフードを目深に被り、
私は今日も外に向かう。
いつもはベンが迎えに来るが……今日は王宮付近。
少し歩くが一人で行ける。
あまり人に頼るのが苦手な私はコソコソと部屋を出た。
「ぶえっぐしょい!!!」
回廊にくしゃみが響き渡る。
コソコソ動いてたのが物凄い無駄。
だが幸いにも今ここの客間に宿泊しているのは自分だけ。
定期的に騎士さんが巡回に来てくれるが、大体の時間は分かる。
居ない隙を掻い潜り、スパイの如き動きで華麗に私は外に出た。
歩く度に冷たい空気が体温を奪っていく。
この国の、この寒さだけは本当に慣れない。
「ガチガチガチガチガチガチ……何度外に出ても……ざぶい!!(寒い)」
温度差の激しいタガール。
何度も言うが夜中はアホのように寒い。
毎回動き出すと、汗かくから気にならないが、それまでが地獄。
昼は暑いし夜は寒いし、湿度もほぼ無い。
そりゃ枯れるわな。
私は民が耕してくれた、褐色の砂が濃褐色に性質変化して、くっきりと正方形に仕切られた場所にたどり着き、足を止める。
ゴキッ
ボキッ
首を鳴らし、手首と足首を捻る。
準備運動だ。
かれこれ神聖力放出など3年ぶりだから。
呼吸を整え、手のひらに神聖力を集中させていった。
神聖力を維持したままゆっくりしゃがんで砂に触れ、土の中に成長速度を早める栄養を満遍なく満たしていくイメージをした。
直径100mほどの正方形に耕された土地が神聖力で白金色に輝き、満たされていく。
「よし、一斉に発芽させるには少し気合いがいりますな」
手に付いた砂を払い、屈伸するようなポーズでしゃがむ。
「ん〜!!!!! ……ほい!!」
そして勢いよく立ち上がり、両手を広げた。
すると
ポポポポポポポポン!!!!
とトウモロコシの双葉が一斉に顔を出す。
「おお! イメージ通り! 私やるぅ! ……ん? あれ?」
後ろにも余計な雑草が生えてしまった。
相変わらずコントロールが下手くそ。
「まあいい。とりあえずトウモロコシ……だっ!!」
同じ動作を繰り返す。
その度にトウモロコシの苗と雑草が少しずつ少しずつ成長していった。
「いっぱーい、いっぱーい、実らせろぉぉぉ……よっと!」
何度も何度も、変な儀式をする私。
きっと誰かに見られたら一発で変質者扱いだな。
正直、こんな面倒くさくて様子がおかしい事しなくても手で地面に触れ、一気に流し込めば急成長はできるんだけどねぇ。
それだと……害虫まで土の中から大量に生まれてしまうんだよね。
何故か。
アズィーズ達と旅をしていた時の事、直に触れる方法で一気にトウモロコシを作ったんだけど……その時同時にてんとう虫とアブラムシが大量発生してしまった。
身は直ぐに収穫したから無事だったが……
今日は違う。
気に留めた事もなかったが、たしかに過去、松茸を生やすために赤松育てたりした時も、毛虫が大量発生して神官様に怒られたっけ。
バルムの時は何も気にせずに彼らを弔ったけど、あの時もきっと何かしら生態系の変化はもたらしていた事だろう。
私のこの能力は万能じゃない。
最強でもない。
もちろん一気に砂漠を消すことも可能だろう。
地面に手を付けたまま神聖力を最大出力で一気に流せば訳ないはずだから。
あの時は、ただ国の懸念でできないと言ったけど、
今はもう他にも懸念が出来てしまったから尚更出来ない。
私のせいでこの国の生態系が一気に変わり、色んな害虫や害獣も発生させてしまってもね。
人々を困らせたい訳じゃないから。
人間にとって害でも、生き物にとっては必要不可欠なもの。
それを事細かに選りすぐることは私にはできない。
結局、力があっても
役たたずのままなんだよな。
おっといけない。少しアンニュイな気持ちになってしまった。寒いのがいけないんだ。
私は自分の背丈程に成長したトウモロコシを見て、満足気に腰を叩いた。
「はぁ……よし、後は残りの加護で明日にはたくさんの実がなるだろ!アブラムシにやられないといいんだが……どうかなぁ……」
独り言を呟いて後ろを振り向くと、そこに大量の雑草が生い茂っている。
むしろもう、トウモロコシより鬱蒼と。
「っぬぁぁ!!! なんでススキ林ができてるんだぁぁぁ!! ううう。夜中に草むしりなんて最悪だ……まさかこんなとこに来てまで草むしりせねばならんとは……ああああああ」
神官様に、鎌を記念にくださいって言えば良かった。
こりゃ素手はかなりキツイ。
トウモロコシ畑より厄介な作業を増やしてしまった事に
気が遠くなる。
明日には枯れるかな?と自分に都合の良いように考えるが、根が生えたら後できっとアズィーズに怒られる。
いや……でも、もう明日でいいや。
すんません。明日ちゃんとします。マジで。
最近ずっと寝不足だった為、眠気がピークの私は明日必ず草むしりするよと雑草達に約束をして、その場を後にした。
***
翌日、早朝にも関わらず多くの人が集まっていた。
私の目測通り、トウモロコシは大量の実をつけて、収穫されるのを待っていた。
アブラムシやてんとう虫はそこまで発生しなかったとの事。
少しずつ気温も温度差がなくなっていくように調整を続けているし、良かった良かったと思いながら、雑草を茂らせてしまっていた方向を見た。
「……あれ?」
何も無い。
騎士たちが大喜びして収穫を民と手分けしている最中、雑草だらけだった場所に駆け寄る。
やっぱ何も無い
「……え? なんで!? いやいいんだけど、なんで!?」
するとアズィーズが首を傾げ近づいてきた。
「ん? どうしたの? テレサ様」
「ここら辺一帯がね、雑草だらけになってたんだよ、私のコントロールがうまくいかないせいで。だから今からむしっておこうと……あれ? なんで無いんだ!?」
アズィーズはなぜか隣に立つレヴィに視線を向けた。
珍しく欠伸をしながら視線をそらしている。
エルフも欠伸をするのか……。
「……妖精さんが、テレサ様に力を貸したのかもしれないね」
アズィーズはクスクス笑いながら私に微笑んだ。
意味が分からない。
親指ほどの……妖精族が?
腐肉がすきなのに?
なんで雑草を??
え? 案外雑食……にしてもススキは食えん。
それとも、親切心で?
獰猛で、知能指数低いはずなのに……?
「……ゴホン!! ……行くぞ、民たちがお前の言葉を待っている」
レヴィが不機嫌そうに咳払いをして、アズィーズを連れて行こうとした。
「はいはい。……じゃあまた後で。テレサ様」
立ち去っていく二人を見送ったあと、
一人残された私はこのミステリーが解明できず、いつまでも、この場で頭を抱えていた。




