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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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御曹司、挑戦の3日間





翌日から、蓮の挑戦の日々が始まった。



課題のビジネスプランコンテストは、

見た目以上に手間がかかる。




企画書の構成、数値の根拠、競合分析……




普段の遊びや豪遊で鍛えられた頭脳ではなく、

実務と調査力が問われる世界だった。




最初の数日は途方に暮れた。


アイデアは浮かぶが、

数字を根拠に落とし込む作業が全く追いつかない。



(なんだこれ……こんなに難しいとは思わなかった……)


机に資料を散らかし、ペンを握ったまま、蓮は天井を見上げる。


いつもなら「どうにかなるさ」と

笑って済ませるだけだったのに、今回は逃げられない。


課題を出してくれた桜庭さんの顔が頭をちらつく。


「……負けられない」


蓮は拳を握りしめる。


自分の挑戦が、単なる自己満足では済まされないことを実感した。


まずは優里が整理してくれた取引先のメールの雛形を活用し、

数字や情報をコピペで整理。


そこから、自分なりの分析や改善点を付け加えていく。


「無駄な社交辞令、って思ってたけど、ここで活きるとはな……」


過去に遊びで培った人脈作りや、ちょっとした話術が、

取引先や応募フォームの文章に生きることに気づく。


次第に成果が見え始めた。


まずは小さな部分だ。


コンテスト提出用の企画書のフォーマットを完成させ、

表紙や目次を整えた。


数字の計算や競合分析も、

自分なりの方法でまとめることができた。


「よし……これなら、桜庭さんに見せられるかも」


初めて、自分の手で作った資料に誇りを感じる。






夜になると、晴人に進捗を報告するため居酒屋に足を運んだ。


「見てくれ、晴人! 今日ここまでできた!」


蓮は資料を広げ、完成したフォーマットと分析表を見せる。


「おお、すごいじゃん。ちゃんと形にしてる!」


晴人は目を丸くして感心する。


「これ、初めて優里さんに直接課題もらって、必死になってやった成果なんだ! やっと、俺、役に立ててる気がする!」


蓮は手を叩き、嬉しそうに笑う。


晴人も笑みを浮かべながら、

「やっぱり本気になったら、星野さんもできるんだな」と一言。


蓮はその言葉に、改めて実感する。




(俺、本気になるとここまでできるんだ……)


(よし、受賞する。そして、桜庭さんに認めてもらう……!)



蓮は机に向かい、完成間近のビジネスプランを最終チェックしていた。


数字の整合性、文章の表現、競合分析……


ここまで来るのに、何日も徹夜を重ねてきた。



「よし……あとは提出するだけだ……!」




その時、優里の声がスマホ越しに響く。



「星野さん……ちょっと、相談があります」


「な、何ですか?」


蓮は緊張して返す。


「競合のプランが、似たようなアイデアで先に提出されているみたいです。どこかで話しましたか……?」


その瞬間、蓮の頭のなかで思考が一気に回転した。


(あっ……! そうだ、あの飲みのとき、晴人にペラペラ喋ってしまったんだ……!)


昨日の居酒屋で、嬉しさのあまり

晴人にコンテスト課題の内容を詳しく話してしまった。




「優里からもらった課題! こんなアイデアで応募するんだ!」




あの時の軽口が、

まさかこんな結果につながるとは思わなかった。


「……やっちまった」


蓮は小さく呟く。


焦燥が胸を締め付ける。



提出期限はあと1週間しか残っていない。


「大丈夫です、星野さん」


「まだ時間はあります。少しアイデアを調整して、独自性を出せば、十分に勝機はあります」


蓮は深く息をつく。


(独自性……俺にできるのか……?)



しかし同時に、胸の奥で小さな炎が燃え上がる。



「……やるしかない。1週間で、俺の全力をぶつける」


疲れた顔のなかに見える、わずかな期待の光。


「星野さんなら、やれます」


(この壁を越えなければ、桜庭さんに認めてもらえない……!)



蓮は自室に戻ると、資料の山に囲まれて再び机に向かった。


「独自性……どうやって出すんだ……!」



アイデアは出るが、どれも似たようなものばかり。


思考が空回りして、ペンが止まる。



「うー……ダメだ、全部平凡すぎる……!」


夜を徹して考え、図を書き、

データを集め、修正を重ねる。



だが、どれも腑に落ちない。



「……俺には無理なのか?」


1週間のうち半分を費やした段階で、提出は目前。


蓮は自分の作ったプランを見返してみる。



(……何これ……こんなの出せるか……!)



結果はズタボロだった。


独自性どころか、既存案の焼き直しに過ぎない。



ある日の仕事終わり、カレンダーを見ると、

提出期限はあと3日しか残っていない。


焦燥が胸を締め付ける。



「……あと3日で、全部やり直すのか……」


途方に暮れ、蓮は晴人に相談することにした。


「晴人……どうすれば……?」


居酒屋で、蓮は資料を広げ、必死に説明する。


晴人は眉をひそめながら資料を眺める。


「……あのさ、蓮、お前それ、単なるビジネスマナーのチェックだよ。独自性とかじゃなくて、基本の形ができてるかどうかを見る課題だ」


蓮は言葉を失った。


「え……そんな……まさか……!」


頭を抱え、居酒屋の椅子に沈み込む。


(俺……独自性とか考えて空回りして……全部無駄だったのか……!)

打ちひしがれる蓮を、晴人は軽く肩を叩く。


「まぁ落ち着け。こういう時は感情的にならず、基本に戻るしかない」


その時、スマホが震えた。


画面には桜庭優里の名前。


「星野さん、今から来られますか?」


蓮は驚きと戸惑いで声をあげる。


「え、桜庭さん!? どうして……!」


蓮は胸が熱くなるのを感じる。


「資料、苦労されているのかなって思って…」


(優里さん……俺のために……?)


「もうすでに作成できたのならいいのですが…」


「いえ!一緒に作成したいです! 君のためなら何時間でも!」


「いえ…私ではなく、星野さんのコンテストで…」


蓮に優里の声が届くはずもなく、

蓮は優里の疲労と深夜に及ぶ作業の必要性を考慮して、

蓮の頭に浮かんだのは「家」だった。


(まさか…優里の自宅に誘われるのか!? それとも俺のマンションか!? 優里と二人きりで夜を過ごす!?)


蓮は興奮と期待で顔を紅潮させ、

身体がわずかに震えた。


「も、もしかして…家!? どうしよう! 優里、俺の部屋は今…いや、優里の家か! 準備が…!」


蓮の突拍子もない動揺と独り言を聞いて、

優里は深くため息をついた。


「何を言っているんですか。私の家も、あなたの家も、仕事をする場所じゃないでしょう」


「会社です。深夜でもセキュリティは万全だし、集中できますよ」


優里の現実的で冷徹な一言で、

蓮の頭のなかに描かれていた

「優里との秘密の夜」という

美しい幻想は音を立てて崩壊した。


「 …会社、か」




その夜、優里は直接会い、

残り3日間の作戦を一緒に練ってくれることになった。


「独自性ばかりにこだわらなくていいですよ。まずは基本を完璧に、そして少しの工夫を入れれば十分です」


蓮は頷く。


目の前の優里の姿に、決意が新たに燃え上がる。


「……分かった。今度こそ、絶対にやり切る」


提出まで残り3日。


蓮は会議室に籠もり、

優里と共に資料の作り直しに取り組むことになった。


「まずは基本を完璧にしましょう。そこから少しだけ工夫を加えるだけで十分ですよ」


優里はイヤホンを装着し、

別の会議を聞きながら、淡々と蓮に指示を出す。


まさに二刀流だ。


「ここはデータの引用元を明確に。こういう書き方にすると見やすいですよ。」


「なるほど……あ、こうですか?」


蓮が修正するたび、優里は確認しながら会議の声も聞く。


効率的で無駄がない。


作業が進むなか、蓮はふと、

横にいる優里の存在感に気づく。


微かに漂う香りが、心地よく鼻をくすぐる。


(……いい匂いだ……)


思わず心がざわつく。


しかし蓮は自分を戒める。


(いや、今は香りとかじゃない。課題だ、課題に集中だ……!)


それでも、優里が真剣な表情で

資料をチェックしてくれる姿に、蓮の胸は熱くなる。


「……俺、今までこんなに誰かに指導されながら真剣にやったことあったか……?」


優里は資料を指し示しながらも、淡々と声をかける。


「この部分は、こう直すともっと説得力が増します。あと、数字の見せ方も変えましょう」


蓮は頷き、手を動かす。


「……はい、桜庭さん」


「星野さん、焦らず、順番にね」


何時間も作業を続け、互いに疲れが溜まる。


だが、二人の間には不思議なテンポが生まれていた。


優里は耳で会議を聞き、

目で資料をチェックし、

口で指示を出す。


蓮は手を動かし、質問し、修正する。


作業の合間、優里が一瞬前髪を直した隙に、

蓮は香りに再び気づく。


ふわりと漂うその匂いが、やけに落ち着く。


(……くそ……集中しろ、俺……!)


それでも蓮は心の奥で、少しだけ笑みをこぼす。


課題の緊張感と、優里との近さに胸が高鳴る。


「よし……最後までやり切るぞ、俺」


残り3日間、蓮は初めて誰かのために、

全力で時間を費やす経験をすることになった。





あれから2日が経過した。残りわずか1日。


蓮は朝早くから資料の修正に取り組む。


前日の夜、優里は久しぶりに

ゆっくり眠れたようで、顔色も少しずつ戻っていた。


「おはようございます、星野さん。昨日は本当に助かりました」


優里は笑顔を見せる。


まだ少し疲れた様子だが、昨日の寝不足は感じさせない。



「いや、桜庭さん。俺も課題が進んだから嬉しいっす」


蓮は少し照れくさそうに返す。


残り1日で課題を完成させるため、

二人は再び作業に取り掛かる。



優里はイヤホンを装着し、

取引先や社内会議の音声を聞きながら、

資料の確認を続ける。


蓮はそれに合わせて手を動かし、

数字をまとめ、文章を整える。



「この表現だと少し説得力が弱いですね。こう書き換えてみてください」


「はい……なるほど、こうですか」


蓮は優里の言葉に従い修正する。


二人の呼吸は自然と合ってきた。


蓮は胸の奥で安堵する。


(よかった……桜庭さんが元気になってくれて、本当に……)


作業は深夜まで続く。


残り時間を惜しむように、

二人は資料の細部にまでこだわった。


蓮は資料の構成を整理し、

優里が簡単にチェックできるように段取りを組む。


優里は資料の内容を読み、細かい表現を指示する。


「ここはもう少し具体例を加えたほうがいいです」


「わかりました!」


蓮は手を動かしながら、少し笑みをこぼす。


(俺、初めて誰かのためにここまで必死になれたな……)





やがて夜も更け、最終日を迎える。


資料は完成し、提出の準備は整った。


優里は疲れた体を椅子に沈め、蓮に微笑む。


「桜庭さん、ありがとうございます。俺のためにここまで……」


「お礼は入賞してから言ってください。不採択なら、また不採用にしますよ」


提出期限ギリギリ、

オンラインの応募フォームに資料をアップロードする。


蓮は手を離すと、思わず背伸びをした。


(やっと、やっと終わった……!)


この3日間で、蓮は優里のために行動し、

優里も、疲れながらも蓮の成長を見守ってくれたのだった。






翌日、結果発表の日。


社内には小さな緊張感が漂っていた。


蓮はデスクの前でパソコンを開き、通知を待つ。


画面に「結果発表」の文字が表示される瞬間、

生まれて初めて手が少し震えた。



結果は、最優秀ではないが準優勝。




メールの文章に目を通し、

蓮の心臓は一気に跳ね上がった。


「……準優勝!? マジか!」


思わず声が出る。


そこへ優里がやってきた。


「星野さん、おめでとうございます。本当に頑張りましたね」


「ありがとうございます……でも、俺、まだまだです。桜庭さんの期待には届いてないかも……」


優里は笑みを浮かべ、少しの間蓮を見つめる。


「星野さん……今回の資料、あなたの努力があったから提出できたんです」


その言葉に、蓮の胸は一気に熱くなる。


(……これって、もしかして……認められた……のか?)


蓮は一瞬言葉を失う。


これまで父や周囲のために必死になってきた自分とは違い、

本当に自分自身の力で、誰かに認められた瞬間だった。


「そ、そうか……ありがとう、桜庭さん!」


思わず笑顔がこぼれる。


体の奥底から喜びが湧き上がった。


優里は少し疲れた様子で椅子に座り直す。


「でも、星野さん、ここで満足してはいけません。まだまだ成長できる部分はたくさんあります」


「はい……わかってます!」


蓮は胸の奥で、再び決意を固めた。


「でも…準優勝って……俺にとっては初めての、本当に認められた瞬間かも」


優里はふっと微笑む。

 


「誰かのために働くのが、こんなに嬉しいなんて…」


「桜庭さん、俺……あなたの隣で、もう一度挑戦してもいいですか?」


蓮の胸の奥は、熱く満たされていた。


初めて、ただの御曹司としてではなく、

蓮自身として誰かに必要とされ、認められる感覚。


それは、これまでの人生で味わったことのない、

確かな手応えだった。





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