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御曹司なのに不採用!? ~冷徹女社長と始めるゼロからの恋と成長録~  作者: 優里


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13/64

未熟な劣等感





翌日、オフィスでは、社員たちの会話が活気を帯びていた。


昨日の笑顔が、どうしても頭から離れない。


オフィスのざわめきも、書類の音も、全部遠くに感じた。



「あの星野さん、優里社長の横に立つと妙に様になるよね」


「新人が社長に気を使うのは当然だろう。ただ、昨日の食事会でのあの距離感……ちょっと嫉妬心が見え隠れしてたな」


蓮はデスクに座りつつも、社員たちの声が耳に入る。


昨日の優里の横顔や、感謝の笑みが頭をよぎる。


(……昨日のあの笑顔……忘れられない……)


彼はふと自分のデスク横の鏡に映る自分の姿を見た。


髪を軽く整え、スーツの襟を直すその姿に、

少し自惚れ混じりの笑みを浮かべる。


だが、優里はその姿を見て、苦笑混じりに心のなかでつぶやく。


(……本当に、この人、自分に自信あるんだ。でも、もし私もあんな風に自分を信じられたら、今の状況も変わっていたのかな……)




蓮は優里のデスクへ向かう。


「桜庭さん、昨日はありがとうございました」


蓮は昨日の食事会のことを思い出しながら、

少し照れくさく声をかける。


「星野さん、昨日はお疲れ様です」


その瞬間、蓮の心はまたざわつく。



蓮にはもう、単なる付き纏いなどでは

済まされない感情が芽生えていた。


優里を守りたい気持ちと、

嫉妬や疑念が入り混じり、心を揺さぶる。


蓮は優里に目を向け、

つい少し嫌味交じりに口を開いた。


「たいそうモテたんでしょうね、桜庭さん」


ほんのわずか皮肉を込めて言う。


優里は一瞬、驚いたように目を見開くが、

すぐに小さく肩をすくめ、弱々しく笑った。


「……モテた、なんてことは……ないです。星野さん……」


蓮は眉をひそめ、少し首をかしげる。


「え……?いや、でも、昨日の食事会とか、取引先の社長とか……」


優里は視線を下に落とし、小声でつぶやく。


「私は……人が苦手なんです。自分の顔も、声も……好きじゃなくて……それに、誰と話すのも緊張して……だから、仕事以外のことで注目されることなんて……ほとんどありません」


蓮は一瞬言葉を失った。


思わずデスクの角に手を置き、優里の表情をじっと見つめる。


「……そ、そうだったのか……」


蓮の声は意外と優しい響きを帯び、

普段の皮肉混じりの口調とはまるで違った。


優里は小さくため息をつき、肩の力を抜くように息をつく。


「……だから、昨日も……心配してくれて、ありがとうございました。星野さん」


これまでの嫉妬や疑念が一気に溶けるような感覚が走った。


蓮は心の奥で、優里の弱音に触れた瞬間の

自分の感情を整理しようとする。


(……本当に、俺は何を考えてるんだ……遊び慣れた女だと思って、勝手に嫉妬して……でも、これが本当の優しさなんだな……)


優里は何も知らず、ただ自分の正直な気持ちを蓮に漏らしただけ。


だが、蓮にとってそれは、自分の心を揺さぶる衝撃であり、

同時に守りたいという感情を強める瞬間となった。





今日の取引先は大手企業で、社長自らが出席するという重要な会議。


優里は自分の机で資料を広げ、

何度も目を通しながらチェックをしていた。


蓮は隣で、「昨日の件、俺も手伝うぜ」と言ってみるが、

資料を渡すと社員たちに

「星野さん、これは違います」と即座に訂正される。


「え、ちょっと待って……なんでダメなんだよ!」


「基本的な数字の読み取りが甘いです」


蓮は思わず手を頭にやり、自己嫌悪に沈む。


普段なら簡単に片付けられることも、

今日はなぜかうまくいかない。


優里はそんな蓮をちらりと見て、微笑む。


「星野さん、焦らなくていいですよ。ゆっくりやれば大丈夫です」


蓮は苛立ちを抑えきれなくなった。


「どうせそうやって、いろんな人落としてきたんだろ!」


優里は驚きもせず、穏やかに答える。


「違います。私はただ、星野さんにもゆっくり休んでほしいだけです。では、私は先に行きますね」


軽やかに席を立ち、会議室へ向かう。


蓮はその後ろ姿を見て、

胸の奥でぐっと熱くなるものを感じながらも、

自分の苛立ちを引きずったままデスクに戻る。


このまま優里のそばにいたら、

酷いことを言ってしまうそうで怖かった。


生まれて初めて、誰かを傷つけたくないという感情が生まれた。


でも、蓮にはまだその感情の正体がわからなかった。


本気になったことなど、なかったから。





蓮はまだ昨日の自己嫌悪と嫉妬の余韻で怒りが抜けず、

参加を拒否していた。


「こんなお子ちゃまな態度でどうするんだ!」


社員たちは蓮に声を荒げる。


「遊びじゃねぇんだぞ、この会議は!」


(……うるせぇ、全部お前らの言うこと聞いてられるか)


蓮は黙ってデスクに座り、心のなかでやさぐれる。




その頃、優里は蓮の知らないところで取引先をフォローしていた。


社長に説明し、質問に答え、

社員たちの資料を整理しながら、会議をスムーズに進めている。


蓮がやさぐれても、優里は誰一人見放さず、

全体をまとめていたのだ。




蓮はまだ自分の苛立ちを引きずったままデスクで作業をしていた。


書類を乱暴に扱い、電話に出る手も荒っぽい。


そんなとき、松本が蓮の肩を軽く叩く。


「ちょっと来い」


「は……?」


蓮はいやいや立ち上がる。


松本が運転する車のなか、

蓮は完全に苛立ちを隠せなかった。


(…なんで俺がこんな目にあわないといけないんだよ)


蓮は星野グループの御曹司。

本社に帰れば仕事をしなくても、重役になれる存在。


そんな御曹司が仕事をする。


それだけでも、一歩前進のはずだったのに、

蓮が知らない世界は、

蓮の想像以上に生きることが難しかった。




松本に連れられた先は、ある会社の取引先だった。


会議室に入ると、優里は社長と真剣に話をしている。


しかし、ふと優里をみた瞬間、

社長の手が優里の頬に触れ、

柔らかく撫でているのを見た瞬間、蓮の胸はざわついた。


(ああいうのって、セクハラじゃないのか……。)


松本は冷たく言う。


「わかっただろ。社長は女の子だ。日本はまだ差別が大きい。あんな目に遭いながらも会社を守るために頑張ってくれているんだ。それを新人のお前が足を引っ張るようなことするなよ」


蓮はしばらく黙り込み、優里の姿をじっと見つめる。


(……そうか……俺がやさぐれても、優里は見放さずにそばにいてくれたんだ)


頭のなかで、昨日の自己嫌悪や嫉妬が整理されていく。


最も傷ついていたのは自分ではなく、優里だったのだ。


優里は笑顔で周囲に気を配り、

誰にも弱さを見せず、会社を守っていた。


(……俺は、優里の強さを知らなかった)


そして初めて、自分の心の弱さや嫉妬に向き合うことになる。


優里から視線を外せずにいる蓮の隣で、

松本が、突然、静かに告げた。



「蓮くん。実は、近々会社を辞めることになったんだ」


「 …は? なぜだ?」


「キャリアアップのため、アメリカにいくんだ。…社長には、俺からは言ってある。寂しくなるけど、仕方ない」


松本は蓮の目をまっすぐ見つめ、本題を切り出した。


「俺がいなくなると、優里を外の世界から守る人が一人いなくなる。…聞くけど、君はあの子を守りたい?」


蓮はすぐには答えられなかった。


松本の言葉が、妙に静かに響いた。


いつもなら皮肉を返すはずなのに、声が出なかった。


胸の奥で、何かが音を立てて動き始めた気がした。



優里は常に完璧で、冷徹で、

誰の助けも借りない「女王」のようだった。


(桜庭優里は完璧だ。何でも一人でできる。俺のような煩わしい存在など、必要としていないはずだ)


(…完璧な優里の隣に、俺は必要なのか)



その問いは答えのない迷宮のようだった。


(……俺が本気になるなら、まずは俺自身が変わらなきゃな……)


優里が誰よりも不器用で、

でも誰よりも一生懸命に会社を守っていることを知った今、

蓮の心に小さな覚悟が芽生えたのだった。








ネオンの街が滲んで見えた。


酔ってもいないのに、心だけが揺れている。


蓮は晴人に誘われ、久しぶりに飲み屋に足を踏み入れる。


店内は笑い声とグラスのぶつかる音でにぎやかだ。


カウンター越しに女子たちが話しかけてくると、

自然と視線が蓮に集まる。


「蓮くん、こっち来て!」


「乾杯しよ、蓮!」


「ちょっと、その話もっと聞かせてよ」


声の方向を見ると、何人もの女性が笑顔で自分を求めている。


蓮は胸の奥がざわつき、思わず肩の力が抜ける。


「やっぱり、俺様はかっこいいんだな……」


小さく呟き、心のなかで酔いしれる。


自分に向けられる視線、笑顔、そして期待のまなざし。


それらが、疲れた日常のストレスや

優里への複雑な感情を一瞬忘れさせる。


晴人が隣で笑いながら言う。


「お前、やっぱモテるな。女の子の前だと堂々としてる」


「フッ、当たり前だろ。俺様に勝てるやつなんていないさ」


蓮は軽く言葉を返すが、

内心は完全にその場の高揚感に浸っていた。


グラスを重ねるたび、女性たちの距離はさらに近くなる。


肩に手を置かれ、軽く冗談を言われるたび、

蓮は笑顔で応じる。


けれど、心のどこかで優里のことを思い出すたび、

ほんの少しのざわつきが胸をよぎる。



目の前の歓声や笑顔に酔いしれつつも、

どうしても頭の片隅では、

あの真面目で不器用な女社長の顔が浮かぶ。


蓮は自分の感情を整理できず、自己陶酔と罪悪感が入り混じる。


女の子たちに囲まれ、注目を浴びる快感に酔う自分。


だが、優里に向ける感情がある限り、

この酔いはどこか空虚だと気づく。


「晴人、やっぱり俺は……モテる男だな」


冗談めかして笑いながらも、蓮は内心で自分を俯瞰する。


目の前の楽しさと、優里への感情が交錯する奇妙な夜だった。


蓮は晴人と一緒にカウンター席で乾杯し、

軽い酔いに身を任せていた。


周囲には何人かの女性がいて、

キャピキャピと笑いながら蓮の話に相槌を打つ。


久しぶりに女の子たちに囲まれるこの感覚に、

蓮は少し誇らしげな笑みを浮かべ、胸の奥が熱くなる。


「やっぱり俺様はかっこいい……」


酔った頭で自分を肯定しながらグラスを傾ける。




その時、入口からふたりの影が見えた。


蓮の視界の隅で、ひとりの女性。


間違いなく優里が、見知らぬ男性と並んで歩いてくる。


優里の表情は柔らかく、普段の仕事のときの厳しさや強さとは違う、

穏やかで自然な笑顔を浮かべている。


男は何かを耳打ちしているらしく、優里は笑って頷いていた。


「なんだ……あれは……」


蓮のグラスが手から少し滑る。


優里は蓮の存在にまったく気づかず、

目の前の男性に親しげに接している。


肩が触れそうなくらい近く、笑い声も少し弾むように響いた。


蓮の胸のなかで何かがはじける。


「彼氏……いたのかよ……」


それまでの自分の動揺や嫉妬、自己嫌悪が一気に押し寄せる。


食事会や社内での優里の振る舞いを心配し、

ちょっとした嫉妬で胸をざわつかせていた自分が、

まるで馬鹿みたいに思えた。


「今までのはなんだったんだ……俺ばっか、ばかみたいだ……」


周囲の女の子たちが笑いながら蓮に話しかけても、耳に入らない。


優里と男の距離感や笑顔、

そして楽しそうな声ばかりがリフレインする。



「おい、大丈夫か?」


晴人が横で声をかける。


蓮は必死で表情を作り、にやりと笑った。


「ああ、ちょっと、飲みすぎただけさ……」


内心では自分の心臓がバクバクと音を立てているのを感じていた。


「くそ……こんなに悔しいのに、俺は何やってんだ……」


その瞬間、蓮は自分でも驚くほど怒りと焦燥に包まれたが、

同時に心のどこかで、

優里に惹かれている自分を認めざるを得ないことを感じていた。






優里が男と笑顔で話しながら歩く姿を見送り、

蓮は静かにグラスを置く。


酔いに任せていた表面上の自信は、もろくも崩れ去った。


だが、その崩れたなかで、蓮は初めて

「優里に、俺は本気で惹かれている」という

事実を自覚していた。




優里の笑顔が視界に入った瞬間、グラスが音を立てた。


自分の手の力に気づいたのは、ほんの数秒後だった。


店内のざわめきも、周囲の女の子たちの笑い声も、

すべて遠くに消えていくようだった。


「ちっ……俺なんて、眼中にも入ってなかったんだろ……」


蓮は小さく舌打ちし、拳を握り締めた。


(枕営業が得意な女……なんだよ、俺、馬鹿みたいだ……)


心のなかで呟く。


自分が嫉妬していたのは、

ただの自己満足に過ぎなかったのだと痛感する。


その瞬間、蓮はふと気づく。


「……なら、どうせ俺も楽しむしかないだろ」


すぐに思考は切り替わり、周囲の女の子たちに笑顔で声をかけ、

手を振り、ジョークを交わす。


酔いに任せて近くの女子社員と軽く肩を組み、

カウンターの端にいる女性にはさりげなくグラスを注ぐ。


みんなが「蓮、蓮!」と声をかけてくるたびに、

蓮は内心でニヤリと笑った。


「よし、今日だけは、思いっきり俺様モードだ」


彼はしばらくの間、女の子たちに囲まれ、

話を盛り上げ、笑顔を振りまいた。


笑っている自分と、嫉妬でやさぐれる自分。


どちらも同時に存在している違和感が、蓮をさらに刺激した。


「ふん……どうせ、俺なんて眼中になかったんだ。だったら、今日くらいは俺も自由に楽しんでやる」



酔いが回るにつれて、蓮はますます大胆になり、

近くの女性や常連客たちと軽い冗談を飛ばす。


誰もが蓮を中心に笑い、店の空気は明るく活気づく。


やがて、店内が最高潮に盛り上がるなか、

蓮は心のなかで自分に言い聞かせた。


(……今日は楽しむ。けど、あいつには、俺の本気を知られないように……)


蓮の表情は明るく、笑顔を浮かべていた。


だが、心の奥では嫉妬と自己嫌悪、

そして優里への揺れる感情が、

複雑に絡み合って渦を巻いていた。




蓮は意識が朦朧とするほど酒を流し込み、

周囲の喧騒も、笑い声も、

すべて遠い世界の出来事のように感じていた。


視界が揺れ、足元がおぼつかない。


体の芯まで熱が回り、頭はぐらぐらと揺れるのに、

心の奥底にはどうしようもない苛立ちが渦巻いていた。


揺れる視界のなかで、

優里は取引先から肩に手を置かれていた。


楽しそうに会話する姿を見て、

蓮の胸に鋭い針が突き刺さった。



「へぇ~……このあとホテルか……。明日は同じ服で出勤するんだろ。いいよな、彼氏持ちは……」



体が重く、意識が揺れるたびに、

蓮の心も揺れ、怒りと嫉妬が洪水のように押し寄せる。


自分がこれまで守ろうとしていた優里の笑顔は、

今や他人に渡ろうとしている。


目の前の現実に、蓮は言葉にならない苛立ちを募らせる。


「ちょっと、トイレ」


ふらふらと口にしながら歩く。


手すりに掴まり、ようやくの思いで歩を進める。


視界が揺れ、酒の熱気が頭をぐるぐると回る。


体の重さと混乱のなか、背後から声がかかった。


「あの……大丈夫ですか?」


かすかに漂う香り。


思わず立ち止まる。



(……マジで……いい匂い……)


(は……? この香り……優里なのか……?)


視界の端に映るのは、心底穏やかそうに立つ優里の顔。


しかしその口元は少し強張り、

控えめに不快を抑えようとしているようにも見えた。


「明日の仕事に響くので……これ以上は……」


優里は小さな声で、蓮に距離を取るよう告げる。


その瞬間、蓮の理性が一気に切れた。


「関係ないだろ!」


言葉とともに拳を握りしめ、

胸の内に溜まった思いを吐き出す。


声は震え、頬は熱くなる。


「どうせ、俺のことなんて馬鹿にしてたんだろ? ばかな御曹司って……! お子ちゃまだって思ってたんだろ! 年上なのに、みっともないだろって、笑ってたんだろう……!」


感情の洪水は止まらず、

蓮は自分でも驚くほどの早口で矢継ぎ早に、

優里への苛立ちと嫉妬をぶつけた。


酒に酔っているせいもあり、

言葉は鋭く、容赦なく、胸の奥からほとばしった。


優里は動揺することもなく、蓮の暴言を受け止めている。


小さく息を吸い、ゆっくりとした口調で返した。


「星野さん……落ち着いて……」


その一言で、蓮の心はさらにもどかしさを増す。


落ち着けと言われても、胸の内は燃え盛る火のように熱い。


優里の声が、彼の苛立ちをさらに刺激するのだ。


「落ち着けだと? はぁ!? 俺がお前のこと考えて、心配して、なんだと思ってたんだよ! 俺ばっかバカみたいじゃねぇか! こんなふうに……こんなふうに……!」


言葉は酒と感情の混ざった怒声になり、肩が震える。


目の前の優里の小さく落ち着いた仕草、困惑の瞳、

そのすべてが、逆に蓮の心をかき乱した。


自分がどれほど優里に執着しているか、

そしてどれだけ自分の感情が暴走しているか。


酒のせいだけでは説明できない自覚が、

蓮をさらに苛立たせた。


「……だって、お前……仕事だって言うけど、きっと……俺なんか眼中にないんだろ……どうせ……枕営業とか……俺に関係ないんだろ……!」


言いながらも、蓮は内心で小さな自己嫌悪を感じていた。


自分がこんなにも優里に振り回され、嫉妬し、やさぐれるなんて。


これまでの豪遊や自信満々の俺様モードは、今や影も形もない。




「星野さん……わかってください。私……本当は……誰かと比べられたり、そういうこと、全然……得意じゃないんです。顔も声も、人も……自分でさえ好きじゃないくらい……だから……どうか、少しだけ、落ち着いて……」


その言葉は蓮の胸を打ち抜いた。


嫉妬と怒りの炎に、

優里の素直な弱音と不器用な告白が、一瞬の冷たい水を注ぐ。


体の震えが少しずつ治まり、しかし心のざわめきは消えない。


蓮はふと、視線を下げる。


優里の目をまっすぐ見られない自分の無力さ、

自分の感情の制御できなさ、

そして何より、優里が本当に弱く、

誰にも簡単に心を開けない存在であることに、初めて気づいた。


(……くそ……俺、バカだ……なんでこんなことで、こんなにも……!)


心のなかで叫びつつも、

視界の端に優里の背中がかすかに揺れる。


その小さな動きが、蓮に、怒りと嫉妬だけではない、

得体の知れない感情を芽生えさせた。


惹かれ、守りたくなり、

そして自己嫌悪に打ちのめされる複雑な感情。


蓮はもう一度深く息を吸い、手をポケットに突っ込み、

ふらつく足を何とか支えながら自分に言い聞かせる。


(……明日……仕事で……普通に……接するしかない……でも、くそ……悔しい……!)


その夜、蓮の頭のなかは酒と嫉妬と自己嫌悪、

そして優里への不可解な感情でいっぱいだった。


足元はふらついても、心のなかの嵐はますます激しく、

明日の社内でのやり取り、

そして優里との距離をどう保つべきか。


その答えのない思案だけが、蓮を静かに苛んでいた。

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