6─後半
「――ハッ!」
碇賀元はゾクッとする気配を感じた。
こちらの、だらしなくシートにもたれて煙草を吸っている現実世界の方でなく、スマホの画面の中の仮想世界からであるが。
「おっほほぉ~、狙われてるねい」
碇賀はおどけながらも、その表情は眼光鋭く真剣なものへと変わる。忍びの、あるいはアサシンの“それ”のように。
タコ忍は竹林に入る。
背をかがめながら走り、潜む。『じょ、じょ、じょ、じょ……』などと声を出しながら。
「何が“じょ、じょ”やねん」
碇賀はつっこみながらも、このタコを操作してやる。
敵の気配を、殺気を感じていた。
どこか、同じ忍びのような気配のような気がするが……
すると、
――シュッ……
と地味に、だが高速で空気をつんざく音が、自分のすぐ脇をかすめたのが分かった。
確認して見るに、近くの竹に“何か”、大きな箸のような鉄の棒が刺さっているではないか。
「棒手裏剣か……」
碇賀は呟いた。
そもそも、手裏剣とは投げるのが難しい。漫画や映画ではさも簡単に投げているように見えるが実際はそんなに簡単ではない。ましてや棒手裏剣など、なおさらである。
『じょ!』
タコ忍は自動拳銃で撃ち返す。
すると一瞬、竹林のカーテンを縫って、しなやかな女体のようなシルエットが見えた。
「おっほ!」
碇賀はテンション上がる。
しかし同時に反撃も受けており、「うおっ!?」と、一度に3、4本飛んできた棒手裏剣の対処に迫られる。
両サイド、そして真ん中と投げられて逃げ場がないように見えるが、分身のようにしてタコ忍はかわす。
「ああ、ちかれる! 厄介な姉ちゃんだねい!」
碇賀は思わず声にし、煙草を灰皿に捨てる。
とりあえず、今の攻撃はなんとかかわしたので、一旦竹の茂みの影にでも隠れようと思った、その時、
――ヒュッ……! ――バスゥッ!!
「――え”ぇっ!?」
と、まさかの時間差で飛んできた棒手裏剣に、碇賀は不意を突かされたように驚いた。
『じょーっ!?』
ダメージを負い、倒れるタコ忍。
そこに敵の女キャラが現れ、こちらも自動拳銃らしきものを持っていたのか、そのままタコ忍に向かって発砲してきた。
「ズルやん!」
碇賀は声をあげるも時遅し、二、三発撃たれてタコ忍は絶命した。『や、やられたじょ~』などと断末魔の声をあげていたが……
「あっちゃ~、勘弁してくれよ、いいとこだったのに……。お前も『やられたじょ~』じゃねぇっつんがよ……」
碇賀はやれやれと言いながら、もう一本煙草に火をつけて咥える。
倒れた碇賀のタコ忍を、屠った女が見てきて顔があった。
「んあ? かわいい萌えキャラだねい、しかもセックシーだし」
碇賀は言った。
女キャラは“くノ一”のようであり、水色のミドルロングヘアに、黒のタイトセクシーなSF風のくノ一衣装がエロかった。
すると、
『ハァイ♪ ごめんねタコさん♪ タコさんも忍びでしょ?』
水色髪のくノ一が聞いてきた。
『そうだじょ。タコも忍びの末裔だじょ』
デフォルトで“――じょ”が語尾にくっつきながら碇賀は答える。忍びの末裔などと宣ったのはうっかり八兵衛だったかもしれないが……
そう思っていると、
「あらん? 奇遇ね。私も忍びの末裔よ……♪」
「――?」
と、まさかの声がしたのはこちらの、現実世界の方からであった。
碇賀は間抜けな顔をしながらも、振り向いて気がついた。
「……んあ?」
「おはよう♪ 『じょじょ』のタコさん♪」
フランクな様子で言いながら、そこには女の姿があった。
先ほどのくノ一のアイコンに似ており、見かたによっては同世代の、峰不二子のようなスレンダーな大人の女性にも見えるし、あるいは大人びた妖しい雰囲気の中学生にも見えるという、年齢不詳な外見――
「ういぃ……。おっは……」
碇賀元は咥え煙草にローテンションで答えた。
女の胸元には、龍の紋章のようなネックレスが覗いていたように見えていたが……
──続く