6─前半
■■ 6 ■■
いっぽう、時間は少し遡って早朝、場所は変わって三重県は海沿いのコンビニ、その駐車場にて――
型落ちした黒の軽の運転席で窓を開け、煙草を吹かす中年の男の姿があった。その外見はやや天パー気味の髪に、スラッとしているが体躯が良い。
そんな男は少し肌寒くなりかけた秋の海風を感じながら、煙草をプカッと吹かす。
「――ふぅ」
ほんの4、5センチの紙巻きの棒切れがもたらす一寸した至福の一時だ……
ちょっと空気汚れっかもしれんけど、勘弁してくれよ、現代世界――
男はそう詫びつつも、思う。
世の中、喫煙者の肩身は狭くなったもんだ。
……だが、考えても見ろ? そもそも人類長い歴史を顧みるに、恐らく煙を吸ってきた期間の方が長いのではなかろうか?
我が日本の伝統、昔話や水戸黄門やらの時代劇に出てくる囲炉裏などまさにそれではないか。それどころか、つい最近の昭和や平成のはじめくらいまで地方のそこらでは焚火など当たり前のようにしてた記憶がある。自分がガキの頃だ。
そうすると人間、本来は多少とも煙を吸ってきた状態の方が実はデフォで、現代人はかえって煙を吸わなさすぎってもんかもしれない。
――って、ろっとぉ……、ここで自己紹介的なことをしておいた方がよいだろうか?
碇賀元。三十路はとうに過ぎた中年男だ。
顔は可もなく不可もなく――いやいや、人間顔などどうでも良い。
美男美女であれ、やがてはオッサン・オバサンの類になり、最後はジジババとなるものだ。ときに美男の方が面影残さない無残なオッサンになり、かえってブッサイクな男の方が味の出たオッサンになる――そういった逆転現象も、世界にはある。……いや、実によくあることだ。
まあ、そんな脱線した話は置いておき、何をしているのかというと、“ちょっとした調査業”に従事している。
それで、今は休暇で地元の方に少し戻っているのだが――
「はぁ……。また、連れ戻されっかな……」
ここで、碇賀は煙を吐きながら億劫そうなため息をした。
というのは、昨夜の、棍棒がどうだとかいった馬鹿げた話であるが、それによっては碇賀の職場も影響を受ける恐れがあった。
ゆえに、休暇中であるが招集される可能性があるのだが、
「まあいっか、連絡来たなら来たで、そん時考えっか」
と、碇賀は呑気にスマホでゲームでもすることにした。
背もたれを倒し、ゲームを起動させる。
某“荒野さんが行動”するゲームをパクったかのような、バトルロイヤル・サバイバルゲーム……
碇賀のキャラクターはタコの、――それもまん丸とデフォルメされたタコで、忍びのような装束に、後ろには忍者刀など背負っていた。
そんな碇賀タコは物陰に身を潜め、戦況を読む。
何事も余計な動きをしないことは大事だ。攻める時は瞬間、果敢に勝負に出るのだ。
そして、
「うっし! この下手くそども!」
と瞬間――、碇賀は思わず興奮の声をあげながら、ギアを切り替えて素早く攻める。
颯爽と飛び出した忍びのタコ――タコ忍は自動拳銃で敵を三人撃ち殺し、またすぐに隠れ潜んだ。
「おっほぉ……、やっぱ俺、忍びの血を引いてるってだけあっかねい」
碇賀は自ら感心した。
おっと、スマンスマン! 自己紹介を漏れちまったが、いちおう実家は先祖代々忍者の家系だ。まあ、とはいえ、親父やお袋は忍びやくノ一の面影が一切ない中年太りしたオッサン、かあちゃん化しちまってるがな。
――とここで、碇賀が自己紹介の捕捉をした。
何とも間の悪い男である。
また、このタコもタコで、忍者の格好してるならちゃんと手裏剣を投げろという話だが……
再びゲームの方に戻る。
ダラダラとしながらも戦闘は順調に進んでいた……が、その時──
──続く