4─前半
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「ふむ……」
その妖狐・神楽坂文は顎に手を当て、何か考えているような仕草で定祐たちを眺めていた。狐耳をヒョコヒョコさせ、尻尾を振りながら。
「……まったく。何だ? また変な現れ方しおって。普通にドアから入ってこいよ」
「そうですよ、もう! 文さん、いきなり何するんすか! 尻餅ついたじゃないすか!」
「フハハハ、見てみろ定祐よ、この上市を……! 見事なパンチラではないか!」
定祐と上市が憤るも、妖狐はスルーするどころか露骨な煽り顔で嗤って指をさした。
なお、その声は先ほどの駅前での女の声のそれでなかった。重量感のある鬼畜紳士とでもいうべきか、いわゆるイケボな男の声質であり、見た目とはかなりのギャップのあるものであったが。
ただ、ここではそれよりつっこむべきことがある。
そもそも女の上市から見ても恐ろしく美しすぎる女の姿をしているにもかかわらず、この狐耳のヤツはまさかのパンチラなどと宣っているのであるが。
「まったく。何を言っとるんだ、お前は……」
定祐はしかめっ面をしながらも、オレンジのパンツが目に入ってしまい、若干目のやり場に困る。
なお、上市の“それ”であるが、ハロウィンカラーでも意識したのか、カボチャ色がかったオレンジと黒の組み合わせであり、しかも割かし大人めいたエレガントかつセクシーなそれであったが――
「もう! 何てこと言うんすか、文さん! セクハラですよ! セ・ク・ハ・ラ!」
当然、上市が顔を赤らめ、狐のヤツに抗議の声をあげる。
「おお? 残念だったな。隠されたぞ、定祐よ。この上市理可のハロウィンパンティが」
「やかましいのう……」
「ぐぬぬ……! いい加減にしとけよ、クソ狐。いつかしばいたろうか……」
パンチラを隠す上市を指さして嗤う妖狐に定祐は顔をしかめ、上市は歯を食いしばって妖狐をクソ呼ばわりしつつ怒りをこらえた。
また、妖狐・神楽坂文は今度は定祐のデスクの方へ寄る。
妖狐は何やら書類の束を手にし、「……」と無言でジッ……と見た。
「おい? どうしたのかね?」
怪訝な顔する定祐。
すると――、
「字が小さすぎて、読めぬゎい……!」
と、妖狐はふざけて書類の束を上に放ち、先ほどの定祐のマネをしてみせた。
「先ほどの貴様のモノマネだ。人間のカス……いや、人間のクズめ」
「いちいちムカつくやつだな。書類を放っただけでカス扱いか? というか、わざわざクズに言い直ししおってからに」
定祐は嫌そうな顔をするも、妖狐はさらに続ける。
「――さて、この低級動物ども。朝から何も仕事をしてないにもかかわらず、コーヒーブレイクとは舐め腐ったことをしてくれたものだ。いい加減に、そろそろ仕事をせぬか」
「いや、ほんと何だろう? やめてくれないですかね? 人のこと低級動物呼ばわりて」
「まったくだ。――というより、だいたいお前こそ重役出勤もいいとこではないか。いったい、どこをほっつき回ってたのかね?」
「ふむ、私か? ちょっと駅前で揚げを売ってきたのだ。宣伝もかねてな」
妖狐はそう言いながら、先ほど商品と一緒に配布していたチラシを見せた。
「「いや、何をやってんだよ、お前……。――てか、揚げを売る調査事務所とか、今日日そんな調査モノなんてないだろに」」
「まあ、そういきり立つな、低級動物ども。まあ、これでもやる――」
「「何だよ、いきり立つって――て? 何これ……?」」
シュールな顔してつっこんでくる二人を妖狐はスルーしつつ、何やら取り出して差し出してきた──
──続く