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――翌日のこと。
世間はやはり“その話題”で持ちきりになっていた。
正体不明の団体によって日本のすべての情報網、コンピュータへのハッキングもとい乗っ取りが行われ、『月に棍棒を投げる会』などというブッ飛んだ放送が行われたのであるから無理もない。
悪質なイタズラのようにも思えるが、それにしては規模が大きく、政府機関も詳細を調査しているところであった。
そのように、ハロウィンにふさわしいというべきか、奇妙にざわめく世の中であるが、そんなこともおかまいなしに今日も東京都は、世界はいつもどおりに回る。
晩秋深まる朝の東京駅前――
赤レンガにドームのある、近代日本の象徴にして美しい駅舎。
駅周辺、現代的なソリッドで精錬されたエレガントな高層ビル、建築群に囲まれながらも堂々と佇んでいた。
駅前は朝の通勤ラッシュ、或いは全国津々浦々から訪ねて来た人々で雑踏ができ、賑やかに行きかう。
そんな人ごみの中、流水に佇む葦のように“彼”は居た――
長く麗しい黒髪に、割烹着を着た美しい女と思しき姿。
また、その黒髪の左右の耳の位置には椿の花を模した髪飾りが彩る。
その顔も整って美しい女のように見えるが、よくよく見るとおかしなところがあった……。
まずは目の――瞳の色が左右で異なっており、左の目は漆黒の瞳に、それから左の目はまるで漆喰のように白かった。
さらに、おかしくつっこむべきことに、頭にはまるで猫耳や犬耳ならぬ狐耳がひょこんと生えているではないか! 傍から見れば、コスプレのように見えるかも知れない。
そして、そんな狐耳の者の前には、何やら販売台のように陳列された軽量机のようなものが置かれてあった。
すると――、
「油揚げいかがですか~♪ おいしいですよ、コーン、コン♪」
などと、狐耳の者は呼び声をあげた。
どうやら油揚げや揚げサンドイッチなるものを路上販売しているようであり、それだけでなく、ちゃっかりとコーヒーや、さらにはエナジードリンクまで売っていた。
通勤中のサラリーマンやOL、学生、あるいは物珍しさに国内外の観光客が寄ってくる。
「――狐さん、これ貰ってくよ!」
「ねぇ、揚げサンド頂戴」
「ありがとうございます♪ コーン、コン♪」
狐耳の者はニコニコしながら礼を言う。
ただ、売れた商品と一緒に何かついているようであり、まるで街頭ティッシュ配りのような、宣伝チラシらしきものであり、『――事務所』、『――承ります』などの文言がのぞいていた。
その後も、狐耳の油揚げは飛ぶように売れていた。
朝から油揚げとはどうかと思うところであるが、香ばしい香りが食欲を誘うのと、また腹持ちのよさからウケているのだろう。
そのようにして商品が少なくなってきたころであった。
「……?」
妖狐は目を点にし、行き交う雑踏を縫って“何か”を見た……
昼間から仮装をしたような姿――パンク風のジャケットを着た長身の男のようだが、その顔はなんと驚くべきか、ハロウィンでお馴染みのカボチャのジャックオーランタンのそれではないか。
さらにその隣には、紫がかった黒づくめの魔女のかっこうをした少女の姿があった。
小学生か中学生くらいか、典型的な魔女の大きな尖塔帽子をかぶっており、全体として背が高いようにも見える。
へんてこな二人組は、こちらへ近づいて来る。
「――狐さん、おはよ♪」
朗らかに、魔女の少女が声をかけてきた。
狐耳の者は「……?」と、キョトンとしながらも、
「おはようございます♪ コーンコン♪」と、こちらも柔和な態度をとって挨拶を返してやった。
続いて、カボチャ頭の男が、
「揚げサンドとエナジードリンク、二つ頂けますか?」
「どうぞ、コーンコン♪」
と、持っていたスマホでピッと電子決済をした。
すると――、
「……?」
狐耳の者は決済完了を確認するとともに、こちら側のタブレット画面に何かが映っているのに気がついた。
それは西洋風の、“龍の紋章”だった。
「今週の、ハロウィンの夜が愉しみですね。狐さん」
「愉しみですね~♪」
カボチャ男と魔少女がそう言った。
少女の方はまるで遠足を楽しみに待つように本当に無邪気そうな笑顔であったが、カボチャ男はどこか含み隠したような笑みを浮かべているように見えた。
また続いて、
「狐さん、あげるー」
「……?」
魔少女が狐耳に何やら手渡ししてきた。
見てみると、そこには何やら外国語のパッケージの、チョコレートと思しきものが3つあった。
「――では、失礼しますね。狐さん」
「じゃあね~♪ 狐さん♪」
「――♪」
狐耳の者は無言だが、にっこり微笑み返した。
カボチャ頭と魔法少女の二人組は、そのままどこかへ消えて行ってしまった――
──続く




