1話:退屈な日々からの逃走
宇宙の化身
この宇宙の神であり絶対的な地位を持ち、同時に支配者の鏡でもある宇宙の化身。人類にはとても理解が追いつかない不思議な力を持ち、全生命体を統べる主人
「主人様、いかがなさいましたか?」
その任をになっている者は、誰もが崇め、絶対的な自信を持ち、厳格で真面目な……
「……暇」
……と言うわけでもない
宇宙の中心部、宇宙の化身がいる城にて。たくさんの部下が今日も忙しそうに右往左往している。そんな中私は、自分の執務室の机に突っ伏している。
私は零、永遠の10歳、現宇宙の化身だ。今は日々宇宙の管理に追われて飽き飽きしていて、その証拠に白髪ロングが机に広がり、頭の後ろの光輪がくるくると回っている。
「今更だけど、10歳の少女である私に宇宙の管理をさせるなんておかしい、この宇宙終わってる」
「だいぶ今更ですね……大前提として、主人様は普通の10歳の少女ではないです。何せ、この宇宙を統べる絶対的な力を持っているんですから」
「確かにそうだけど、私が永遠に10歳なのには変わりないよ」
「見た目はそうですね」
「……中身もだよ?」
「そこら辺にいる10歳の少女は主人様のように大人びたポーカーフェイスではありません」
ああ言えばこう言ってくる私の秘書のサラ。いつものように山のように積まれた書類を私の机にドサッ。そして腰まで伸びている銀髪ポニーテールを掻き上げ、「早く仕事をしてください」と言わんばかりの鋭い水色の瞳で私を見てくる。
彼女に人の心はないのだろうか。
「先ほど主人様は暇とおっしゃいましたが、今の状況、私は主人様を愛でれるほど平和なので好きですよ」
「それは本当に主人に向ける認識で合ってるの??」
「はい、少なくとも私の中での主人様は愛でる対象です」
「……相変わらずだね、まあ別にいいんだけど」
しかしこうして話していても問題は解決していない。そう、私はとてつもなく暇なのだ。近頃の宇宙内部は平和寄りで、反乱や異常は全て部下が対処できるレベルのもの、私の出る幕はない。
「そんなにお暇なのでしたら、見回りにでも行かれたらいかがですか??」
「見回り、ねぇ……もっとこう、面白そうなことない??」
「面白そうなことですか、そうですね……」
サラは相変わらずのポーカーフェイスで腕を組み考える素振りをしている。
飼い主に似るとはこういうことだろうか……いやまあ飼い主というより主人なのだが。
そこで私はハッと思い出す。サラに面白いことを求めるといつも碌でもない答えが返ってくることを。
「変装して宇宙の見回りに行かれるのはいかがでしょうか」
お、意外とまともな答えが返ってきた??いやまともではないけど。いつもなら「私に撫でられましょう」やら「主人様の愛おしさを宇宙に広めましょう」やら言ってくるのに。
「主人様が宇宙の化身ということを隠して各地に赴き、皆様の反応を見ましょう」
「うーん……」
「安心してください、主人様の隠し子とでも言っておけば皆様納得するでしょう」
「ちょっと待って??」
それで納得するわけがない。宇宙の化身とはいえ私は正真正銘の10歳、そんな私が隠し子を持っていたら。間違いなく社会的、いや宇宙的に大問題になる。
「隠し子設定はめんどくさくなりそうだから却下……だけど、正体を隠すのはいい考えだね」
「……え、本気ですか??」
「うん、サラ、仕事は頼んだよ。私はちょっと出かけてくる」
「ちょ、お待ちください……本気で正体を隠してお出かけなさるのですか??それにどれくらいでお戻りになられるのかは教えていただかないと……」
自分で提案しておいていざ実行しようとすると止めてくる。サラは昔からそうだ。しかしここで止められて折れる私ではない。
「気が済むまで戻らないから。今の宇宙なら平和だし、私がいなくてもサラがどうにかできるでしょ」
「ですが主人様——」
「聞こえない聞こえなーい」
そう言って私は執務室から飛び出し、とある星へ向かった。
「……お、見えてきた」
私の今回の暇つぶしに選ばれた星、それは地球だ。他にも星は色々あるが、私はなんだかんだ言って地球が好き。
「人工衛星が回っている……姿を見られたら面倒だし、もうここで宇宙の化身の大部分を封じてからテレポートするかぁ」
そして私はその場で自分の能力を使い、力の大部分を封じる。
この世界の人間は確率で固有能力を持って生まれる。私の固有能力は”現実干渉”、簡単に言うと自分の感情と引き換えに現実を好きなように書き換えることができる力。後天的な力ではあるが、主に無敵だ。
そんなことをしているうちに頭の後ろの光輪がみるみる消え、神衣も光に包まれ、白髪ロングの虹色パステルの瞳、白いパーカーにデニムの短パンといった、いかにもそこらへんにいる少女の見た目となった。
白髪ロングと虹色パステルの瞳は私のアイデンティティ、消すわけなかろう。
「……よし、あとはテレポートでいいか」
そして私は地球にテレポート。一瞬で目の前の景色が宇宙空間から人気の全くない路地裏の景色になり、意識が鮮明になってくる。
「……臭い」
意識がはっきりして最初に目に入ったのはゴミの山。さすが路地裏といったところだろうか。
さてと……とりあえずここから動こう、諸々は歩きながら考えればいい。
私はわずかに光の漏れている方に歩き出そうとした——そのとき。
ガシッ
「よお、おチビちゃん、迷子かぁ?」
後ろから腕を掴まれた。振り返ると男たちが5人、ニヤニヤしながらこちらに近づいて来る。私は瞬時に理解した。地球に来て早々、めんどくさいのに絡まれたと。
「迷子か家出か、どちらにせよ俺たちには好都合だ」
「嬢ちゃん、おとなしくついてくれば、痛い目は見ないぜ」
うん、ドチャクソにめんどくさい。なんで来て早々にこんな人たちの相手をしなければならないんだ。
私は「はあ」と大きくため息をついた。
「なんだぁこいつ?状況わかってねぇのか?」
「別になんでもいいだろ、さっさと連れて行っちまおうぜ」
うん、めんどくさいからさっさと終わらせよう。
私は掴まれた腕を振り解き、そして問いかける。
「……ねえ、楽しい??」
男たちの目が一斉にこちらを向いた。一瞬の困惑の視線の後、笑い声が裏路地に響き渡る。
「こいつ、楽しいかだってよぉ!」
「ばっかじゃねぇの!状況わかってねぇだろこのガキ!」
男たちはお腹を抱えて笑っている。しかし構わず笑顔で問いかける私、空気がピリつく。
「ねえねえ、楽しい??」
私の声は水面に落ちた一つの水滴のように、路地裏に広がって消えていった。
「……なあ、なんかこいつ、おかしくねぇか?」
男たちが異変に気がつき始めたがもう遅い、私は殺意を解放。その瞬間、ブワッと殺意が空気に染み渡り男たちは一歩後退る。その場に座り込み始めた。
「な、なんだ……これ……」
「体が…動かねぇ……」
宇宙の化身の放つ殺意は尋常ではない。魂の底から恐怖が湧き上がり、殺意を浴びた者を動けなくする、いわば必殺技のようなものだ。
まあ、大体能力で片付くから、これを使うのは滅多にないけど。
「お、お前ら引け!!逃げるぞ!!」
「ま、待て!!置いてくな!!」
次から次へと路地裏の奥に逃げていく男たち。すぐにその場は静かになった。
逃げるなら、最初から構わなければいいのに。
そして私は殺意をしまい、何事もなかったかのように再び明かりがある方へ歩き出す。




