2 剣士としてのユリア
ガキーン!
剣がぶつかり火花を散らす。
「どうしたユリア。お前の実力はこの程度か?」
サファンの余裕の声にユリアは一度剣を離し間合いを取る。
サファンは40代半ばの男性だ。力では18歳になりたてのユリアは圧倒的に不利だが呼吸を整えてまた一撃を繰り出す。
「おっと!」
サファンは剣でユリアの攻撃を防ぐ。
そのまま力でユリアを押し潰そうとするがユリアはその力を剣で横に受け流す。
まともに男性とやり合う時は力負けするのでその力を受け流す方法をユリアは目の前のサファンから教わっていた。
ユリアの動きにサファンの体勢が僅かに崩れた。
そこを見逃さずユリアは剣を突き出す。
サファンは体勢を崩しながらもその攻撃を剣で防ぐ。
さすがにサファンはユリアの剣の師匠だけあって強い。
「まだまだあ!」
気合いと共にユリアは剣を横に振りきる。
サファンはそれを避けるとユリアに剣を振り下ろしてきた。
だがその動きはユリアには想定内のこと。
いや、わざとそうさせるように仕向けたのだ。
そしてユリアはさらに一歩踏み込んだ。
間合いが近すぎてサファンは剣を振り切れない。
そこをユリアは素早くサファンの首元に剣を突きつける。
「そこまで!」
審判を務めていたオスカーの声が響き渡りサファンとユリアの動きは止まった。
二人はゆっくりと離れてお互いに礼をする。
「さすがだな、ユリア。あそこでさらに一歩踏み込む勇気はなかなかできない。まさに肉を切らせて骨を絶つだな」
タオルで汗を拭きながらサファンはユリアを褒める。
ユリアもタオルをオスカーから受け取り汗を拭いた。
「サファン師匠が教えてくれたことを実践しただけです。これぐらいやらないとサファン師匠からは一本取れないですからね」
ユリアはニコリと笑う。
その笑顔だけを見れば可憐な女性にしか見えない。
ユリアの剣の腕前は一族の中でも目の瞠るものがある。
だが剣術に優れていてもユリアの一族ではそれほど重要視はされない。
「お前には幼い頃から剣術を教えて来たがここまでの腕前になるとはな。天魔使いじゃなくとも充分剣士の仕事で食べていけるぞ」
「サファン師匠のようにですか?」
「まあな。俺は天魔無しで生まれたからな」
サファンは苦笑いをする。
そんなサファンの表情を見てユリアに複雑な気持ちが浮かび上がった。
『天魔』という言葉はユリアにとって心にのしかかる大きな重い岩のような言葉だ。
ユリアたちは『天魔使い』の一族である。
天魔使いの一族は生まれつき自分の天魔を宿して産まれてくるのが普通だ。
基本的には一人につき一人の天魔がついていることが多い。
この世界には人間に仇名す妖魔がたくさんいる。
妖魔は人間より力も強く魔力も持っていて人間を食べたりする妖魔もいるので人間にとって妖魔は脅威だ。
天魔は妖魔に近い魔力を持つが人間と一緒に生まれてくるため天魔が人間を食べることはないと言われている。
そして天魔使いの一族は妖魔に近い存在ではあるが妖魔と明確に区別するために一族の人間が宿している存在を『天魔』と呼ぶのだ。
天魔はその魔力の特性により四つのタイプに分けられる。
火の天魔、水の天魔、土の天魔、風の天魔である。
どの天魔が強いということはないが天魔の魔力が高いほど制御がしにくいとされていた。
魔力が高くなればなるほど天魔の自我が強いためだ。
天魔には人間と同じ自我がある。
自分の天魔だからと言っても自分の言うことを何でも聞いてくれるわけではない。
天魔使いの一族は自分の天魔を制御できて一人前の天魔使いとなり妖魔退治の仕事や病気を治したりする依頼を受けて生計を成り立たせている。
たまにサファンのように天魔使いの一族でありながら天魔を持たない『天魔無し』が生まれることもある。
その場合は自分で天魔使い以外のことで仕事を見つけて食べていかないといけない。
サファンは剣術の才能があったため天魔無しで生まれたが剣士としての道を選んだ。
今は一族の剣の師匠としての仕事をしている。
そしてユリアにも現在自分の天魔はいない。
だがそれはサファンのような天魔無しで生まれた訳ではない。
ユリアの祖母で一族の族長をしているキャシーの話ではユリアが生まれた時にユリアには四体の天魔が宿っていたらしい。
これは天魔使いでは非常に珍しいことだった。
しかしその四体の天魔はユリアを置いてどこかに行ってしまったのだという。
そのためユリアは自分の天魔と離れ離れで成長することになった。
まったくなんたる不運。
天魔使いの一族に生まれながら自分の天魔に逃げられてしまうとは。
なのでユリアは天魔がいなくても妖魔退治の仕事ができるようにサファンに弟子入りをして今ではサファンも認める剣術の腕前になった。
それでもユリアの中から劣等感が消えることはない。
「ユリア! すごいよ。サファン師匠から一本取るなんて」
審判の役目をしていたオスカーが興奮しながらユリアに話かける。
オスカーはユリアの一つ年下の男子だ。
ユリアとは幼馴染だが最近はユリアに告白めいた言葉を言うことがありユリアはちょっとうんざりしていた。
オスカーには幼馴染以上の感情は抱けない。
そこへもう一人の幼馴染でユリアと同じ歳の少女ナタリーがやって来る。
「ユリア! キャシー様がお呼びよ」
「おばあ様が?」
「うん。大事な話があるから呼んでくるように言われたの」
「そう。ありがとう、ナタリー。おばあ様の所に行ってみるわ」
ユリアは自分の愛剣『白夜の剣』を手に祖母のキャシーが住んでいる家に向かうことにした。
祖母とは少し前から別居している。別に仲が悪いとかではなく天魔使いの一族では18歳で成人とみなされるため祖母の家の隣にユリアが住む新居を建ててそこにユリアは住むようになったのだ。
(おばあ様の用事って何かしら? 妖魔退治の仕事でも入ったのかな)
簡単な妖魔ならユリアの剣術で倒すことができる。
これまでも何回か妖魔退治の依頼を受けて仕事をしたことがあった。
天魔使いの一族の主な仕事は妖魔退治だ。
自分の天魔を持たなくても一族に迷惑はかけたくない。
だからもっと剣術を磨き立派な剣士になりたいとユリアは願っていた。
そんなユリアを嘲笑うかのように運命の輪は回り始める。
天魔使いはどんなに足掻いても天魔使いの持つ運命からは逃れられない。
そのことを実感する時がユリアに迫っていた。




