表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

第18話 A

 これはミーナで合ってるよな?


 突然届いた『会いたい』という日本語のメッセージ。

 他に心当たりが無いとは言え、ミーナであって欲しいという願望が幻覚を見せているのかも知れない。


 こんな時間に一人で来るのか?


 日本語が書けないボクが送ったメッセージに『yes』とだけ返事がきたが、果たして本当に……急いで制服を脱いで、タイムカードを押した。


「オサキニシツレイシマス」


 店長に挨拶をして、自動ドアをくぐる。


 ミーナの家の方から、誰かが走ってくる。

 やっぱり……


 真っ赤な顔をして、目を潤ませた彼女だった。


「ダイジョウブ?」


 掛けたい言葉はこんなんじゃないのに、他に出てこないのがもどかしい。


「大丈夫じゃないの……おぉ……」


 ぼろぼろと泣き出すミーナにどう接していいか分からず、手がダンスした。


「コッチ、コッチ」


 ミーナの肩を抱きながら、少し歩く。

 ボクの家はマズいよな。

 公園とかでいいかな。

 ベンチを探す。


「アナン」


 ミーナが立ち止まった。


「ここでいい」


 ここ?ここって言った?道路に立って、泣いてる女の子の話をまともに聞ける自信が持てない。


「ゴメンナサイ、ココ、ゴメンナサイ」


 ミーナの背中を押す。


「あのね、聞いて欲しいの。私ね、アナンに絵をプレゼントしようと思って、一生懸命描いたの。結構、よく描けたの。見て欲しくって、でも、喜んでもらえるか気になって、なかなか渡せなくて……隠してたんだけど、見つかっちゃって、九条さんが知らない人に売っちゃったの。私、どうしても許せなくて、家出してきたの。あのね、アナン……?」


 情報量が多すぎて、まったく付いて行けない。

 ボクは両手を広げて、ミーナの前にかざした。


「Calm down」

「え。あ、そうだよね。分かんないよね、ふふふ」


 どうして笑った?

 怒ってるんだよね?


「モウイチド、オネガイシマス」


 人差し指を立てて、お願いする。


「大丈夫」


 そう言って、ミーナはボクの人差指を両手で掴んだ。

 この前も思ったけど、ミーナの手はすごく冷たい。


「ダイジョウブ?」


 目は腫れてるけど、ミーナはもう泣いてない。


「うん。もう大丈夫」


 そんな風には見えないんだけど。


「ウチ、イク」

「家?」

「ソウ、イッショ、イク」


 人差指でボクとミーナを交互にさして、中指と人差指をミーナの家に向けた。ジェスチャーで会話するしかない。


「送ってくれるの?」

「……」

「私、帰らない」

「カエラナイ?」


 どうして?こんな時間に外にいちゃダメじゃないか?

 そうか!九条に何かされたんだな。この前、少し話して安心してしまったが、やっぱり九条も変態なんだ。


 どうにかして聞き出したいが、言いたくないかもしれない。

 いや、たぶんさっき、ミーナが訴えてた事はそれなんだ。ボクが日本が分からないばっかりに……


「一緒に帰る」

「カエル?」


 あれ?帰るの?帰らないの?

 頭が混乱する。


「アナンと一緒に帰る」

「ボク……ト……?」

「うん。アナンの家に、一緒に帰りたい。Take me, please.」


 なんだって?

 ミーナ……それは男に言っちゃいけないやつだよ。



 ◆



「お邪魔します」


 ミーナが部屋に入る。


「すごい、一人暮らし大変じゃない?」

「ダイジョウブ」


 何を聞かれてるのか、何に大丈夫と答えているのか自覚がない。


 Take me, please.Take me, please.Take me……Take me……Take……


 本当に奪っていいのか?

 ミーナは本気でボクと……いいのか?


「アナン?」

「ハイ」


 狭くて暗い部屋に、ほんわりと輝きを放つミーナ。美しい。


「一緒に寝ていい?」

「エ?」

「Let’s sleep」


 恥ずかしそうに笑っているけど、意外と積極的なんだな……


 小さなシングルベッドで、枕も掛け布団も一組しかない。


 ミーナがベッドに腰掛けて、隣をポンポンと叩いた。


 心臓が口から飛び出してきそうだった。


 ボクもミーナの隣に座った。


「おやすみ。あ、Good night」


 ミーナはそう言って、奥の壁際にぴったりと寄り添って、こちらに背を向けた。


 まさか……このまま……?


 ボクは一応、仰向けに横たわる。


 いつミーナが振り返ってもいいように、意識をミーナに集中させて。


「……」


 やっぱり、ボクの勘違いなんだろう。


 ミーナは微動だにせず、うんともすんとも言わない。


 触ったらマズいのは分かっている。


 でも、アクシデントはあり得るよな?



 ◆



 一睡もできなかった。

 残念ながら、アクシデントは起きなかった。


「Good morning、アナン」

「Good morning」


 すっきりとした笑顔で、一段と綺麗になっている。


「あのね、アナン、私、もうあの家には帰りたくないの」

「カエリタクナイ?」


 こくこくと頷くミーナ。


「でもね、必要なものがあっちにたくさんあって……取りに行きたいんだけど、一緒に来てくれない?迷惑かけてごめんね。でも、私、アナンの力が必要なの……」


 きっとミーナは九条さんに困らされてるんだろう。

 ボクに何ができるのか、ミーナの言葉を注意深く聞く。


「あ、ごめん。分かんないよね。えっと……I need you」

「エ……」


 I need you.って言ったか?

 戸惑っていたら、手を握られた。

 冷たいミーナの両手に、ボクの手もハートも鷲掴みにされている。


「I need you, アナン」


 イチコロだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ