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あの後。
大丈夫だろう、と思いつつ、病院に足を向ける気がしなかった。
見逃し配信は、ちゃんと見ることができた。
変わらずりりしいアレク様。
でも、手下の1人がやられて、完全敵対モード、スイッチオン。
怒る姿も悪くない。
3回ほど見て、後でもう1回見ようと思ったら、見れなくなっていた。
残り1人の手下がいなくなれば、ラスボスとしてアレク様が戦いに向かう。
そうなれば、2、3週のうちにアレク様は『退治』され、シャイニング・フローレは終わってしまう。
そう、丁度こんな気持ち。
見たいのに見たくない。
しかし、気になるのなら、行くしかない。
数日後、思い切って向かった病室には、誰もいなかった。
名札もない。
しばらく立ち尽くしていると、
「あら、相沢くんなら大部屋に移動したけど?」
看護師さんに声をかけられて振り返ると、
「…オランジュ?」
そう言った看護師さんは、慌てて手で自分の口を塞いだ。
…誰?
オランジュってことは、あの4人のうちの1人のはず。
でも、見たところ、似てる人がいない。
そもそも、年が違う。
「何であなた、そんな、そのまんまなの?」
何でって、
クスクスと笑いながら、
「私、ジョーヌよ」
まぁーっったく面影のない看護師さんに、唖然とした。
「うちの子が突然『お母さん、シャイニング・フローレになって』って言いだしたのよ。」
少し時間をとってくれたジョーヌと、話をした。
「夢に、変なおじさんが出てきて、5人正義の味方が現れたら、手術が怖くなくなるって言われたって。うちの子、盲腸だったのよね。」
盲腸…。
最初の、あの洞窟の中の赤いのとの戦いだ。
「半信半疑だったんだけど、その日の夢の中でなんだかシャイニング・フローレのヴィオラみたいな格好になってて、どうせなら年とか、顔とか、背とかもそうならないかな、って思ったら、結構希望通りになっちゃって」
まあ、ヴィオラはほんとは紫なんだけど、ヴィオラを黄色にしたら、ジョーヌっぽい。
そうか。どんな姿にもなれたんだ。惜しいことをした。
「夜勤もあって、勤務時間がまちまちで、何度か遅れてごめんなさいね」
なるほど、ジョーヌの遅刻はそのせいか。納得する。
「他の人も、この病院の中にいるんですか?」
「ええ。とは言っても私の推測だし、誰かは言えないけど。ルージュのところは複雑骨折で、前の病院の経過が悪くて再手術、ヴェールのところは脳動脈瘤で、急に病状が悪くなって、手術の日程が前倒しになったのよね」
そう言われると、どうしてああいう戦いになったのか、なんとなく納得がいく。
「ブルーのところは、もう長くがんと闘っていて、新しい抗がん剤を試してると聞いたわ。…少しでも効果があるといいのだけど」
4回目に私たちが戦ったものは、がん細胞。私たちの攻撃、あのシュワシュワが抗がん剤だったんだ。
ウノだから1番目に立候補したんだろうに、4番目まで自分の番を待っていたのは、手術のように一発勝負じゃなかったから…?
ずっと5人揃うのを待っていたのかもしれない。
相沢君の、「死神」という言葉を思い出した。
盲腸や骨折で死ぬ可能性は、まあかなり低いだろうけど。でも、助かりたいという気持ちは、確かにみんな持っていた。
そんな心を揺さぶる「存在」に誘われた親しい誰かのために、みんな魔法少女になったんだ。
「夢でも、大事な人を守れるヒロインになれるとしたら、みんな頑張るわよね。」
こくり、と頷く。
「あなたのところだけ結局戦いはなくて、力になれなくてごめんなさいね」
「いえ…、何というか…、こちらこそすみません。皆さんお忙しい中来てもらってたのに」
謝られても、ピンとこない。あの時点で事情を知らなかった自分には、どうも他人事としか思えない。
それに、ちゃんと5回目の戦いはあったから。
「今、あなたを見て、5番目が相沢君だって判って納得したわ。再発して、手術しても無駄だろうって、気持ちが諦めてたものね。戦う相手を見失って、真っ暗なあんな世界になっちゃったのね」
「…かもしれませんね」
「でも、手術前にはちゃんと覚悟を決めてたから、彼女の励ましが効いたのね」
…へ?
何でみんなそっちに行く?
「いえいえ、違います違います! ただのクラスメートのフローリアンです!」
「フローリアン?」
お子さんと一緒に見ていても判らないか。
「シャイニング・フローレのファン仲間です」
「やだ、あなたたち、高校生にもなって、まだ見てるの?」
あああああああ、出た! 無理解な、デリカシーのない社会の目。
我々フローリアンの心を踏みにじる、「にもなって」発言!
ええ、ええ。
高校生にもなって、ですよ。
高校生にもなって、フローリアンして何が悪い。
こちとら筋金入りのフローリアンですよ。
変身ポーズだけじゃない。変身後の決め台詞だって、全員分言えるし。
フローレのエンディング・ダンスだって踊れる。
アレク様のお言葉一つ一つだって逃さない。
その前の魔法少女シリーズも見てたし、
ちびっ子みたいに、最新シリーズしか覚えてないってこともない。
シャイニング・フローレだけじゃない。
ダン4のモンスターソングだって歌えるよ。
クロニクルの呪文だってそこそこ暗唱できる。
コスプレだって、したことはないけど興味津々で、いや、今回の魔法少女こそ、コスプレの極みでしょう!
ステッキの出し方だって、即座に反応できたから、あんな訳の判らない戦いも行き当たりばったりで何とかなったんだ!
そうだそうだ!
「だから、あの世界で順応力、高かったのねえ」
「魔法少女は、得意分野ですから」
自慢げに言ったところで、現実社会じゃ滅多に役には立ちませんけどね。
ジョーヌは忙しそうだったので、早々に退散することにした。
せっかく来たんだから会っていったら? と言われたけど、辞退した。
なんだかそんな気が失せた。
とりあえず、相沢君は手術も無事終わり、元気であることが聞けたので、充分だった。
ジョーヌに頼んで、ビデオのダビングよろしく、と書いた付箋を、相沢君に届けてもらうことにした。
手描きのガーベラさんのイラスト付き。結構似てる。上出来。
萌えキャラからの『お大事に!』で、少しは元気出るかな。
その後、相沢君は期末テストの時にテストだけ受けに来ていた。
終わるとすぐに帰っていたので、話す隙もなかったけれど、そこそこ元気そうだった。
しかし、ほとんど授業を受けていないはずなのに、さらさらと動くシャーペンは何なんだ。
ダークな心が芽生えるのを感じた。
…いやいや、こんなことでダークになるのは、小物だわー。
アレク様、どうか私を、正しき悪へとお導きください。
ケータイにメッセージが届いたのは、ずいぶん日にちがたって、2学期が始まる前日。
その日、私は失恋で泣いていた。
アレク様が、フローレどもにやられてしまった。
断末魔の叫びと共に塵となり、灰となり、この世から去ってしまった…。
それが運命と、判っていても、世界の平和が、これほどまで憎いと思ったことはなかった。
泣いたのは、オランジュの第5戦目以来だ。
そこへ届いたメッセージを読んで、地団駄を踏んで泣いた。
ダビングできた
アレクシオンの冥福を祈る
正義は勝つwww
くっそおおおおおおおっ!




