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白龍と狐  作者: こう
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本当の望み

「分かってくださいますか?」

『……ええ、私には貴女だと一目見ただけで分かりますよ。成長しましたね、いなり』


白は龍神から人型へと姿を変え、いなりに対面する。


「もう、会うことは無いと思っていました」


数か月前と変わらない白の姿と声にいなりの胸には熱い感情が込み上げ、それを冷まそうと短く息を吐き出した。


「私は……っ、お会いしたかったです、ずっと……」

「…………っ」


白は心臓がジリっと熱く締め付けられるのを感じて胸を押さえる。


「ですが、私のその気持ちが白様を苦しめていると気が付いたのです。ですから、諦めがつくまで……白様が望む私になるまで会いに行かないと決めました。でも、」


いなりは少し項垂れながら呆れたような、困ったような笑みを白へ向け、胸に手を添えた。


「やっぱり駄目です。白様が目の前にいらっしゃるとここが煩くて、熱くて、貴女の望む私じゃいられなくなります」

「いなり……」

「貴女は一度私を許してくださいました。ですが、私は最後まで貴女の期待に応えることはできなかった。命を救われた恩を仇で返す恩知らずをお許しください。そして、最後にお願いがございます。どうか、諦めの悪い私がまた貴女にお会いしたいなどと思わないようにもう来るなと言って欲しいのです。これで最後だと突き放してほしいのです。どうか……っ」


わんわん泣いていた頃が遠い昔のようにいなりは美しい涙を流した。


たった数か月。白にとっては悠久の時のほんの一瞬のことだが、いなりにとっては少女から女性へ成長するほどの長い時間。共有しなかったことは後悔してもしきれない。


(でも、それができなかったのは……)


「私は、龍神です。生物を理へと導かなければなりません。」

「っはい……、今は、理解しています」

「それが私の存在意義でもあるのです」

「はい……っ」

「………………なのに、何故こんなにも苦しいのでしょうか」


白はいなりから視線を外し、目を伏せる。


「貴女がつがいといるところを空から見ました。それは喜ばしいことであるはずなのに、私は恐怖しました。貴女は私が存在しない生涯へ踏み出したのだと。待てば戻ってきてくれた貴女はもういないのだと。その瞬間白はいなくなったのです。白という存在は貴女しか知らないのですから」


自分の独白が恐ろしくなり白は両手で顔を覆う。白は龍神に有るまじき思いを目の前の女性に吐き出そうとしている。


「貴女はかつて自分には私しかいないといいました。ですが、それは違います。私の方がいなりしかいないのです………!

だからっ、いなくなれなどと言えるはずがありません!これでっ最後なんて、そんなこと……私の方が耐えられません……!

雨が止まないのです!雲が晴れないのです!なのに「白様……!」


抱き寄せられたその背は、白と変わらないほどになっており、いなりから太陽の香りはしなかった。


「私は……いなりに、傍に居て欲しいのです……」

「っ……!」


昔に抱き着いた頃より小さく感じるその体を抱きしめる腕に力が入る。


「ですが……、ですが私の想いと貴女の想いは……」

「この想いを愛と言わずして何を愛というのです……?」

「!!」


いなりは白の言葉に目を見開いた。そして、自分の尾を下敷きに白を押し倒す。


「貴女は!私が恋慕の情だけを持っているとお思いですか?!傍にられるだけで満足すると……」


白の白い手がいなりの頬に触れる。いなりの涙で濡れた白の顔に浮かぶ表情は優しかった。


「好いた相手から与えられるものならば、喜んで受け入れましょう」


白の色素の薄い唇といなりの血色の良い唇が触れる。そして、白がゆっくりとその唇を離せば、追いかけるようにいなりの唇がその薄い唇をはんだ。




――――――――――――――――――――――




青天の空の下、白は複雑な面持ちで湖の傍らにある岩に腰かけていた。


「人間たちの中では、生贄が効いた……ということになるのでしょうか」


いなりはひりひりする額を擦りながら白の隣でうーんと唸る。


「そうなりますね」


先ほどまでお互いがまだ知らない身の上話をしようと楽しく盛り上がっていたのだが、白に貢いだ黒曜石が母の形見だという話をすると白に叱られ額を叩かれた上に石を返されてしまった。


「これから生贄を捧げる習慣が根付かなければいいのですが」

「もし、また生贄を捧げられたらどうしますか?」


唐突な質問に白は首を傾げる。


「返しますよ?」

「もし、気に入った場合はどうしますか?」

「気に入り……はしませんよ」

「それは分からないですよ」


はてと白はさらに首を傾げる。これは嫉妬だろうか。しかも未来の起こるか分からないことに対しての。


(これは質が悪い。それに……)


「私の心配をする前に、貴女にはお気に入りのつがいがいるではないですか」

「!!違います!あれは師匠です!妖狐になる方法を教えてくれた方です!」

「ふむ、そうですか。まぁ、真実は当人にしかわからないことです」

「なっ!」


いなりは白へグンと身を乗り出す。


「信じてくださらないなんて、酷いです!私がどれほど……!」


喚くいなりの唇を白の唇が塞ぎ、白は愉快そうに笑った。


「信じていますよ。ですから、いなりも私を信じてください。貴女の恋人としてのお願いです」


冷たい風が二人の頬を掠める。もうじき冬が来る。そうして巡る季節をこの人と生きようといなりは心に誓った。




お終い

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