表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/33

第7章「終焉災」2

 雪が降り続ける夜中の《神輿町》。その中心部に位置している駅前広場。

 いつもであれば多くの通行人で賑わっているその場所は、街頭や信号機がなぎ倒され、自動車が横転し、一部の建築物が倒壊して道路が陥没するといった凄惨な光景が広がっている。

 勿論人影は見当たらないが、ヒト以外の影はいくつも存在する。


「ぼちぼち数は減ったけど、そんでもぎょうさん残っとるなぁ《灰鬼(アッシュ)》。えらいしんどいわ……」


「……一時的に数は減っても新たな《灰鬼(アッシュ)》が次々と出現している。《終焉災》という原因そのものを取り除かない限り湧いて出てくるだろう」


 《不知火》のメンバー、(フェン)伏垓(フーガイ)(ヤン)玉鈴(ユイリン)は多数の《灰鬼(アッシュ)》と応戦していた。彼らを取り囲む《灰鬼(アッシュ)》の数は二〇ほどであり、刀や槍といった近接武器を持った者、大砲や弩といった飛び道具を持った者、鎧と盾で身を固めた防御役といった役割で別れており、それぞれ連携しながらふたりに襲いかかる。

 しかし伏垓(フーガイ)は目の前の《灰鬼(アッシュ)》を己の《葬装機(ブレイズ)》である《太極両儀四象八卦タイキョクリョウギシショウハッケ》で斬り伏せ、背後から襲いかかってきた別の《灰鬼(アッシュ)》の攻撃を剣先から生み出した膨大な水流の塊で防御し、遠くから砲撃を仕掛ける《灰鬼(アッシュ)》を風の刃で真っ二つにした。

 玉鈴(ユイリン)も同様に朴刀の《瑶池分景(ヨウチブンケイ)》で次々に《灰鬼(アッシュ)》を両断する。すると横合いから大柄で筋骨隆々の《灰鬼(アッシュ)》が目にも留まらぬ速さで分厚いガントレットに覆われた拳を打ち出してきたが、玉鈴(ユイリン)は軽々とその攻撃を回避すると逆に《灰鬼(アッシュ)》に朴刀の切っ先を向けた。するとその先端部からは炎の塊が生じ、《灰鬼(アッシュ)》の顔面に着弾すると盛大な爆発を起こした。顔面に強烈な爆風を浴びた《灰鬼(アッシュ)》は上体のバランスを大きく崩し、玉鈴(ユイリン)はその隙を突いてその太い首を刎ねる。

 こうして一気に大量の《灰鬼(アッシュ)》が消滅し、浄化を示す青い炎があちこちで燃え上がるが、倒したそばから別の《灰鬼(アッシュ)》が現れる。

 ふたりはこれをずっと繰り返していた。


「……八叉竜(やしゃりゅう)はんからここの防衛を頼まれたけどあとなんぼしばけばええんや? まだ住人の脱出は完了してないんやろ?」


「混雑を防ぐために道路は封鎖。電車も全ての避難民を乗せるには数が不足していて空路も風が荒れている為救助が滞っている。シェルターは《神律頂》の警備隊が守っているがそれもいつまで保つか……」


「……《灰鬼(アッシュ)》の襲撃なんて無くても避難民がパニックになってシェルター内部から自然崩壊……ってことにならないとええんやけどなぁ」


「……常に最悪の想定をするのは当たり前だがそれで勝手に弱気になってしまえば元も子もない。とにかく俺たちに出来ることは少しでも《灰鬼(アッシュ)》を倒すことだ」


「わかっとるで。しっかし一番の気がかりは神宮(かみや)(まつり)や。タイミング的にそろそろ《灰鬼(アッシュ)》化しとる筈……」


「……それに加え間もなく起こるであろう《終焉災》。神宮(かみや)(まつり)に関しては《不知火》の総力を以てすれば撃破できる見込はあるが、こちらが《核心》を確保していない以上あの災厄は食い止められん。最悪一〇年前以上の被害がもたらされる可能性だってある」


「いっそあの子が《核心》を見つけてくれれば全部解決するんやけどなぁ」


「そんな奇跡が都合よく起きるとは思えんが……む、新たな《灰鬼(アッシュ)》か」


「アカンアカン……ホンマ堪忍やで……」


 休むことなく《葬装機(ブレイズ)》を振るう伏垓(フーガイ)玉鈴(ユイリン)だが、戦闘が長引いていることもあって若干疲労が見える。しかし二人の苦境に構わず《灰鬼(アッシュ)》は地面から次々と這い出て闇の中を蠢く。一体一体の戦闘力は特筆するものではないが、こうして多数に常に囲まれていては消耗する一方だ。

 ふたりは懐から取り出した《霊薬(エーテル)》で減少した《霊子(マナ)》を回復させつつ《灰鬼(アッシュ)》の掃討を続ける。


 しかし膠着した戦場に変化が訪れた。


「……何だ?」


「いきなり《灰鬼(アッシュ)》どもが後退し始めた……? どういうつもりや?」


 伏垓(フーガイ)玉鈴(ユイリン)は眉をひそめる。

 ふたりを包囲していた多数の《灰鬼(アッシュ)》は突然、彼らに背を向け中心街とは反対の方角へ移動を開始したのだ。それはこの一帯の《灰鬼(アッシュ)》だけではなく、他の《不知火》のメンバーたちが戦う別の戦場でも同様で、周囲を見回すとふたりの背後から疾走してきた《灰鬼(アッシュ)》の大群は伏垓(フーガイ)たちには目もくれずにその横を通り過ぎていく。空を見上げても有翼の《灰鬼(アッシュ)》たちが大量に飛翔し、まっすぐ同じ方向へ向かっている。

 基本《灰鬼(アッシュ)》は群れで行動することなどなく、こんな現象は初めてのことだった。

 

「……どこを目指しているんだ奴らは」


「けったいやな……とにかく追ってみるしかないんちゃう?」  


 脇目もふらずに地面の雪を盛大に撒き散らしながら疾走する《灰鬼(アッシュ)》たちをふたりは追う。

 しかし伏垓(フーガイ)たちが駅前広場を出て川沿いの遊歩道に到着したのと同じタイミングで新たな変化が生じた。

 

「……地震か!?」


 突如巨大な地震が《神輿町》に襲いかかる。

 震度は七くらいだろうか、足場が上下に大きく揺さぶられ、周囲の建物が軋み、道路に亀裂が走り、看板や窓ガラスが落下する。目の前を流れる川も荒れ、大きくうねって津波のごとく巨大な波が生じた。

 

「風もごっつ強くなってるでー!」


 異変はそれだけに留まらず、まるで台風のような強い風が吹き荒れて荒廃した地上を一掃する。その強さはというと伏垓(フーガイ)のそばで横転していた自動車が転がっていくほどであり、隣の玉鈴(ユイリン)の小さな身体も風に捕まり、あっさり地面から足が離れてしまう。


「ちょっ嘘やろホンマアカンてこれ!! 飛ばされる~!?」


「……玉鈴(ユイリン)!」


 空中でじたばたと藻掻く玉鈴(ユイリン)の身体を咄嗟に伏垓(フーガイ)は捕まえ、彼女の身体に覆いかぶさるように地面に倒れ込む。相変わらず風は強いままだが身体を屈めることで投影面積を減らした結果なんとか地面にしがみついたままでいることは可能だ。しかし何やら玉鈴(ユイリン)は頬を赤くして気まずそうにもじもじしている。


「……伏垓(フーガイ)? そろそろ離れてくれんと……ウチ恥ずいわ」


「……不気味だから猫撫で声で喋るな。それに一体何と勘違いしている」


「冗談やってー。相変わらずユーモア欠乏症でかなわんわ……まっ、おおきにな」


 ムスッとした顔で伏垓(フーガイ)は横に退き、玉鈴(ユイリン)も今度は吹き飛ばされないように《瑶池分景(ヨウチブンケイ)》を地面に突き刺して立ち上がる。

 しかし街は酷い有様だった。

 《灰鬼(アッシュ)》の襲撃によって大きな被害を被った上、先程の地震とこの暴風で至るところに瓦礫が散乱し、火災の規模が広がっている。復興には時間が掛かりそうだ。

 もっとも、事態が収まるまでに住民が無事であったならの話だが。


「……しっかしえらいおった《灰鬼(アッシュ)》はどこ行ったんやろな。あっちゅう間にレーダーからは反応が消えたで」


「おそらくあそこだろう。見てみろ」


「めっちゃわかりやすい目印あるやん……何なんアレ?」


 伏垓(フーガイ)が指差す方を見るとそこには天に向って伸びる一条の赤い光があった。

 《神輿町》の郊外の更に向こう、川を越えた山間部の中から光は発生している。

 更に光が伸びた先には分厚い雲が幾つも渦を巻いており、絶え間なく赤い稲妻が一帯に降り注いで物々しい雰囲気を醸し出している。

 まるでベタなRPGに登場する魔王城のようだった。


「確かあそこには幽鬼守(ゆきがみ)(りん)の言ってた《境界神社》があるんやったっけ?」


「……神宮(かみや)(まつり)は《境界神社》の裏手にあるクレーターに強い関心を示していた……」


「つまりそこには何かが……例えば《核心》がある、と」


「……大慈たちに連絡しろ。これから全員であの場所に向かう」


「りょーかい。活路が見えてきたようでワクワクするで」


 伏垓(フーガイ)の指示のもと、特務機関《不知火》のメンバーは一斉にその場所を目指す。

 かつて《終焉災》が生じた因縁の土地。

 《此岸》と《彼岸》が交わる境界領域。

 その中心点で「ソレ」は静かに佇んでいる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ