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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十二章~終焉の始まり~
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第五百三十五話~根拠なき誓い~

 光に自身がかき消されると覚悟したセヴラン達だったが、気が付けば元いた部屋へと戻ってきていた。これまでの光景は夢だったのかとも思わなくもないが、既に魔力が枯渇し、体が取り戻し始めた痛覚がそれを否定する。乱れた息を整えようとするが、それよりも先にユグナーツへの不満が漏れてしまい


「おい……今のは一体……何だ」


 周囲では、重症のバーンズが倒れている。少なくとも、派手に暴れる状況ではない。まあ、暴れたところでユグナーツ相手に何か出来るとは思えないが。そんなセヴランの心の内を知ってか知らずか、ユグナーツは変わらずの笑みを浮かべ


「君達が戦う敵を、少しばかり教えてあげたのさ。結界が破られた今、竜の進行は止められないからね」


「……あれ一匹なら、まだどうとでも――」


「そんな簡単な筈ないじゃないか。セヴラン、君も分かっている筈だよ?」


 出来ることならば楽観視ぐらいはさせてもらいたいセヴランだったが、それは許されないとのこと。ならば、次に打つべき手を考える他ないが


「ならユグナーツ、教えてくれ。あれにはどう勝てばいい。あれの戦力は?何か情報を」


 素性も確かではない相手にこんなことをすがるのはどうかと、他将校がいればそういう指摘も入ったかもしれない。けれど、そんな見栄や余裕があるわけもない。なにせ、ここにいる三人は竜の力を知ってしまったのだから。

 ただ、ユグナーツはこれには笑み崩すことこそしないものの、いつもの軽口で答えを出さない。開いた瞳でセヴランを真っ直ぐと見つめ


「僕が全部を答えたとして、それは世界の為かな?」


「……それは、どういう」


「世界そのものがもたらす試練かこれは……いや、これは彼らがもたらす試練だね。だとすれば、やっぱり僕が口出ししていい訳ではないね」


「ま、まってくれユグナーツ。何を言っているんだ」


 セヴランはユグナーツの瞳が自分に向いているように見えるも、それが自分以外の何かを見ているのが分かる。それはあまりにも深い何かを覗いているようで、何故か足がすくんでしまう。


「いいかい、僕は君達が好きだ。それは世界の意思だ。それを忘れないでくれ」


 世界の意思、また大きな話が出てきたなと流すぐらいしかセヴランには出来ない。ユグナーツの言葉はあまりに難解、意図が見えてこないのだ。これ以上は直接的な助言をもらえることも無さそうだと判断し、おそらく最後になるであろう言葉を待ち


「今すぐにでも、戦力を合流させることを推奨するよ。決戦の地は、ラグナ平原だ」


 そう言い残すと、ユグナーツは光の塵となりセヴラン達の前から姿を消した…………。




 ユグナーツが消え、残されたセヴラン達は置かれた状況にそれぞれ、思い思いの反応を見せる。


「ふぅ……竜か」


「ねぇ、セヴラン……さっきまでのは夢かしら?それとも……」


「それは……」


「夢じゃあ、ねぇぜ」


「バーンズ……」


 意識を失っていたと思っていたバーンズは、どうやら目を覚ましていたらしい。現状、竜の攻撃を受けて重症と言っていい程だが、身を引き起こしてセヴランとリーナを見据え


「あれは夢じゃねぇ。前に、ヴァンセルトから聞いたことがある……竜の見た目、力、あれは確かだ。何て名前だったか……咆哮≪ブレス≫か、あれもお伽噺のそれと一致する……でだ、さっき戦った場所、覚えてるか?」


「あそこは……見たことがない場所だったわね。でも、このフィオリスの南だったってのは確かよね」


「そうだ、あそこはかなり昔に放棄した小国の土地だ。んで、あそこから王都までの距離はそうはない。あの飛翔の速さだ…………もって一日、それも楽観視してだがな」


「馬を本気で走らせて、少数ならギリギリか……」


「だとすると急がないといけないわね。正直考えたくはないけど、あれに対抗出来る人間はそうはいない。さっきだってユグナーツがいたから生きてるだけで、あのまま戦っていれば…………」


『………………』


 リーナの考えは、二人とも手に取るように分かる。竜一匹を相手に、三人がかりで手も足も出なかった。周辺の地形が生かせる場所ではなかったとは言えど、三人共あの時に出せる全力は出した。その上での――敗北。


「ブラッドローズの戦力だけでは足りないな……どのみち、殆どの民は王都へと避難している。両方面軍を王都に集結させるしかない」


「……いいのか、セヴラン。それをするとなれば、もう国を保つことは出来ねぇ……国の体制放棄を宣言して、疎開でもさせるか」


 それが正しいかは分からない。だが、セヴラン達が最も重要視するべきは


「必要ならばそうする。最優先は民を守ること、違うか?」


「ああ、そうだな。殺すよりは守ることの方が気持ちもいいからな」


「あら、うちの部隊に殺しを喜ぶような子はいないわよ、バーンズ」


「おっと、あまりにも当たり前過ぎた発言でしたかな?」


 セヴランも、リーナも、バーンズも、誰一人として守ることは諦めていない。まだまだ、やれることはあるはず。自分達が諦めてしまっては、続く者達に示しがつかない。


「ここはさっきのまでいた部屋とは違うな……セルゲノフ達ともう一度話し合う。早急に、竜への対抗策を講じる必要が出来たからな」


「おう」


「分かったわ」


 セヴラン達は立ち上がり、次の行動へと移り始める。だが、この時のセヴラン達の心の内に、竜の脅威を語りながらも考えないようにしている事実が刺さる。口でこそ守ると言えるが、本当に民を守れるのだろうか?根拠もなしに、一体何を約束出来るというのだろうか?

 自身の力の無さから目を背けるよう、セヴランは目先の問題に集中した…………

どうも、作者の蒼月です。

まただいぶ遅い投稿ですが、なんかここ最近はこれが当然のようになってしまっていますね……これはいけない。


と、さてさて、竜との戦いからどうにか生還こそしたものの、それはユグナーツあってのこと。正直言って、この三人で手も足も出ない竜相手に、一体どれだけのことが出来るのか…………


ここら辺から、特に読んで下さる方々に合わない内容も増えてくるかもしれません。一応ダークファンタジーというタグにはしてるので大丈夫だと思いますが、ここら辺の感覚って、個人差がありますからね。とりあえず、完結目指して頑張っていこうかと。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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