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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十二章~終焉の始まり~
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第五百二十九話~傀儡~

 キルは、ゆっくりとこれまでの経緯を語り始めた…………。




 時は遡り前日。パラメキア方面とレギブス方面、ブラッドローズが二正面作戦を展開している間、キル達隠密は情報収集の為に両国内部に潜り込み、両軍の動きを把握しつつ、終焉に纏わる情報をかき集めていた。けれども、有力な情報はほぼ入手出来ず、焦燥に駆られていた。

 そんな状況下でキルはパラメキア領内、辺境に位置するとある古い遺跡である人物を見つけていた。薄暗い洞窟と変わらない建物の中で、息を殺しつつ身を潜め


 ……何故あいつが……イクスがここに……


 キルの視線の先には、スタスタと何処かへと目指すように先を進むイクスの姿があった。イクスはこの遺跡を知っているのか、少しばかり入り組んだ場所であるのに、一直線に何処かへと目指すような動き。

 キルの役目は情報収集、その為に終焉に纏わる情報を求めてこの辺境の遺跡まで来ていたが、どうやら終焉に関わる情報があるという点では当たりを引いたようだ。しかし、キルとしてはこの状況は非常にマズイ。キルの戦闘能力は特別高くはない。奇襲や生存能力こそ高いものの、イクスと真正面から戦える程の戦闘は不可能。情報を持ち帰るのが仕事である以上、死ぬことは出来ない。けれど、ここでイクスをみすみす見逃す訳にもいかない…………


「追うしかないか……」


 イクスを追い、キルも遺跡の奥へと足取りを進めた。






 遺跡最奥、行き止まりとなった少し広めの部屋でイクスは歩みを止める。そこは所謂祭壇という場所。しかし長年使われていないのか、植物が生えている箇所もあり、手入れがされているとは言いがたい。


「ここまで巧妙に隠すとは。最後まで厄介な仕掛けをしてくれたな、デフランシア」


 中央の祭壇へと、イクスは手を伸ばし――――


「動くなッ!!」


 声と共に、イクスの背目掛け短剣が投擲された。しかしそれは、黒き壁のようなものに弾かれ地へ落ちる。


「……邪魔をしなければ、見逃してやってもよかったものを」


「何をするつもりだ」


「何故貴様のようなゴミに説明しなければならない」


「少なくとも、人類にとって益があることではないだろう。それを見過ごす訳にはいかない……」


「益?ふふ……何を馬鹿なことを。貴様ら人類がいることこそが、最もこの世界にとっての害だろうに」


 イクスの言葉に、キルは言葉を飲み込む様子。恐らくは、自身の過去の言葉か他の原初の五人辺りの情報から、この言葉の意味を探っているのだろう。


「何も知らぬか、愚かなる弱者よ……しかしそれももう終わる。この世界を浄化し、我らの魂を解放する」


「魂の解放?」


「そうだ、それで一度この世界に蔓延る邪を消し去る……あぁ、これであの方もお喜びになられる」


「まさか、邪とは人間のことか。あの方とはなんだッ」


「ふ、あの方は――ん、あの方……あの方…………私は、何を……うっ……お前、一体何をッ――」


 唐突な頭痛、何かが、おかしい。何だこれは。記憶が、ずれている。ナニか。オカ、シイ――キオク、シメイ…………




「何だ」


 イクスは頭を押さえ、動きが止まる。しかし何故だ、自分の言葉に何を悩んでいるというのだ。イクスという存在は謎が多いが、全くもって理解し難い。ただ、これだけ探しても具体的な情報が見えてこない終焉に纏わる何かが、恐らくここにはある。イクスという存在がここにあることが、その証明だ。


 ……危険だが、こいつから情報を……


 次の瞬間、気が付けばキルはその胸を横一閃に斬られていた。遅れて激痛のようなものが走った気がするが、それよりも先にキルは自身が大きく吹き飛ばされたことを理解する。

 壁へと勢いよく激突し、勢いが重力に負け地面へと落ちると同時に体勢を立て直す。周囲の確認を急ぎ、そして目に入ってくる。


「お前は……確か、セヴランの」


 キルも見たことはある者の姿。過去にセヴランとレギブス迎撃に加わり、後に姿を眩ましイクスと共に行動しているシン。キルからすればシンという人物の情報は決して多くはない。ただ、その様子は明らかにおかしく


「ウァ……アァ……ァァ…………」


 うわ言なのか、意味があるようには取れない言葉を繰り返している。ただ、その姿が異様なのは明らか。手に持っている――否、元は持っていた武器とおぼしきもの。棘が触手のようにうねり、右腕を飲み込み一体化している。敵意を隠すこともない、早々に対処しなければ自身が消されるという予感、それをキルはその身で感じ


「見逃がしてくれそうには、ないか」


 シンはキル目掛け、その棘の腕を伸ばす。何本にも分裂し、高速で迫るそれに対し、キルは握るナイフで一撃だけを弾き後方へと跳躍。そのまま影の中へと身を溶かし――――


「面白い……四属以外の属性は、まだ安定させなかった筈だが」


 キルが溶け込んだ影の内に、イクスの声が届いた。位置はキルの真後ろ、耳元で囁くように。そして影が切り裂かれた。

 何が起きているかを確認する余裕もない。即座に前後を避けるよう真横に跳び、追撃で迫る棘を防ぎつつ自身がいた地点へと目を向け


 ……まさか、影を飲み込んだ!?……


 そこにあったのは、黒い球体のようなもの。周囲の壁や床なども飲み込み、空間が消えていた。間違いなく危険、触れれば自身も消えるだろう。けれどもキルからすれば対処方法がない。数少ないキルの特殊な魔法としての、影へ潜む移動方法も破られてしまった。かつ、シンという敵までもが目の前にいる。

 けれど、やらなければならない。死の覚悟がない訳ではない……が、情報を持ち帰る必要がある。


「悪いが、まだ死ぬ訳にはいかなくてなッ――」


 キルは駆ける。祭壇を抜け、背を見せてでも全力で走り抜ける。薄暗い建物内に、その足音を響かせて…………。






 キルが走り去った祭壇で、イクスとシンはただ立ち尽くし、キルを追う様子を見せない。何かをする訳でもない……傍目から見れば意味不明だが、よく見れば分かるがイクスの額には汗が浮かび上がっていた。何かに苦しんでいるのか、うめきのような声も漏らしている。


「ぁ……はぁ…………ぁ、あぁ……」


『どうした、お前は憎いのではなかったのか』


「あ……あぁ…………」


『死したこの者も利用した。契約は未だ果たされていない……今のお前に許されるのか、逃げることが』


「あぁ……!ぁぁぁああぁッ!!」


『人類の試練の刻、我は既に世界の意思に縛られた。故に、終焉の刻を贈ろう。イクスよ、未来の為、世界の――彼女の為、役割を果たすがいい……』


 何か、明らかに別の意思が宿っていたシン。言葉が途切れ、意識が切れたように倒れ込む。そしてイクスも意識が戻ったのか、数歩後退り


「俺は……私は、何を……あぁ、そうだ。世界に、終焉を……」


 イクスはシンに向けて電気を撃ち、強制的にシンの意識を呼び戻す。手荒にシンを起こしたイクスはこれまで見せていた冷たさを取り戻し


「あの男を殺す必要がある。邪魔をさせるな」


 イクスはシンと共に、祭壇から姿を一瞬で消した。彼らが向かう先は…………

どうも、作者の蒼月です。

お久しぶりです。かなり遅れてしまいましたが、生きていました。投稿ペースに関しては、現状のところ努力をするとしか言えないですが、投稿は続けます(鋼鉄の意思)。


はい、という訳で内容ですが、あまりここの回想は長くする予定はないので、すぐに本編に戻りたいところです。それからが長いですからね……


では、次も読んで頂けると幸いです。

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