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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十二章~終焉の始まり~
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第五百二十八話~絶望を伝えし者~

 二度目となるレギブス防衛戦は、フィオリスの勝利で幕を閉じた。しかし、これを勝利と言っていいのだろうか。結果だけ見れば、フィオリス側の死者はせいぜい二百人程度で、対するレギブス側は数千人は下らないだろう。無論、広大な土地と付随する基地の大部分の喪失、加えてブラッドローズの身体強化を使える隊員の被害、総合的な価値で考えれば一概にどちらが――といった答えはすぐに出せないのが分かる。

 ただ、セヴランには分からなかった。多くの血が流れ、確かに国は守れた……けれど他はどうだ。これでいい筈、この力を求めてきた筈だった。なのに、何かが違う。それが何かは、今のセヴランには理解することが出来ない。


「これで、良かったんだ……そうだ、守れたんだから……」


 言い聞かせるように呟き、眼前の集められた死体に目を落とす。未だ全体の被害規模は不明。人手が足りず、死体の回収もままならない。特に、時間稼ぎで最後まで戦っていたブラッドローズの被害は確認が遅れ、崩落した部分は手が回らない現状。

 こうなることが、想像出来ていなかった訳ではない。この基地崩落を含めた作戦の決断はリーナに任せていたし、許可も出していた。なのに、いざ目にしてみると、自身の決意が何だったのか……ぐるぐると、セヴランの試行が回ってしまう…………


「隊長、バーンズ将軍が呼んでいます。急ぎの案件とのことですが」


「分かった、すぐ向かう」


 試行が遮られ、お陰で今すべきことを得る。バーンズがわざわざ呼ぶと言うのだから、何かしら重要な話だろう。崩落した穴を後にし、セヴランはバーンズの元へと急いだ…………




 残された基地部分の兵舎の一室、最早まともに使える建物は多くはなく、殆どを負傷者の収用に使用しているため、指揮官と言えど贅沢は出来ない。手狭ではあるが、そんな一室にブラッドローズのリーナ、バーンズ、エメリィの三人。方面軍指揮官のセルゲノフ、ラムス、ファームドの三人。そして、一人ニコニコと笑みを浮かべ、部屋の中央に置かれた机に並ぶ椅子に腰かけるユグナーツ。

 部屋の中に流れる空気は、微妙なもの。セルゲノフ達からすれば、ユグナーツの素性は不明で、この呼び出しがどういう目的かも分からない。ただバーンズがいる以上、ユグナーツが敵ではないことは最低限保証されている。故に、状況を見極めている…………といったところで、静寂に包まれていた部屋に音が生まれる。


 生まれた音の方、軋む音を立てて開かれる扉へと視線が集まる。姿を見せたのはセヴランで、視線が集まったことから自分が最後なのだろうと把握した。故に集まっている者に遅れたことに対し頭を下げてから輪に加わわり


「これで全員か?」


「おう、お前さんで最後。んで、呼んだのはこいつだから、仕切りは任せるぜ」


 セヴランの確認に、バーンズはユグナーツを指差す。ああ、成る程と。ならばその本人の言葉を待つしかないと、セヴランも含めた全員の視線がユグナーツに自然と集まり


「ん~それじゃあ皆集まったみたいだし、話を始めようか」


 へらへらとしているイメージの強いユグナーツだが、正直その底知れない闇にセヴラン達は気を抜けない。けれど、警戒ばかりをしている訳にもいかない。


 ……まったく、原初の五人に関わると録なことがないな……


 セヴランは内心悪態をつきつつも、ユグナーツの話に注意を向ける。何が起こるか分からない、何が起きてもおかしくはない…………と、話が始まるのだろうと誰もが思った時、何かが落ちるような音が部屋に生まれた。そして同時に皆が感じる。その鉄臭さ、何かの液体のようなものが落ちたものに付随する音。無論、視線を向けない訳がない。

 そしてセヴラン達の目に映ったのは…………全身から血を流し、息絶え絶えとなったキルであった。


「……キル?キルッ!?お、おい!何があったッ!!」


「こりゃあひでぇ……単純な斬撃だけじゃねぇ、何で斬られたらこうなるんだ」


「急いで治癒魔法が使える奴を――」


「その心配はないよ」


 焦るセヴランを制し、ユグナーツは虚空から出現させた杖をキルに向けたかと思うと、キルの体が光に包まれる。それが何かは想像するしか出来ないが、回復魔法の類いであることを祈るしかない。

 そしてセヴランとエメリィの二人は、ユグナーツに向けて敵意を含めた視線を向けて


「おい、これはどういうことか説明してもらおうか……」


「ことと次第によっては、ここで殺させてもらうわよ」


 無論、これは本気ではない。セヴラン達からすればユグナーツを殺せるなんて気は一切なく、あくまでもここで情報は隠さず、全て話せよと釘を刺している程度のことだ。特に状況が掴めていないセルゲノフ達からすれば、この会話に入ることもままならない。故に、セヴランはユグナーツ相手にある程度は話の主導権を握っておく必要があった。


「ああ、勿論だとも。けれど、まずは彼から直接聞いたらどうだい?その為に、わざわざ助けてあげたんだから」


「…………成る程、そういうことか」


 セヴランはおおよそ理解する。キルには、各国を含めた終焉に纏わる情報を集めさせていた。その為単独行動の許可を与え、こうして今の今まで状況を把握出来ていなかった。それはセヴラン側の落ち度であり、対してユグナーツはそれを監視した上で助けることまで出来た。それだけ、原初の五人とは力の差もあり、自分達の甘さを突かれている。今のやり取りだけで、ユグナーツからも図に乗るなよと釘を刺された形となった。

 ならば言われた通り、キルから話を聞くことで全てが始まる。喋ることが出きるのか、それさえも怪しいが、話してもらうしかない。


「キル……何があったか、教えてくれるか」


「ああ……あぁ…………セヴラン、この世界は、もうじき終わる……竜に、人間は勝てない……」


 まるでこの世の終わりでも見てきたかのような、キルの言葉。彼が何を見てきたのか、その絶望が何を指しているのか、決意を固めたセヴランにゆっくりと語られ始める。

どうも、作者の蒼月です。

お久しぶりです、なんか少しだけ説明回を入れようかという流れですね。まあ、ここ最近姿を見せていなかったキルの回収をしたかったというのが本音ですが。

けど、いつまでもお話というわけにもいきませんからね。竜と人間の戦い、早く書きたいものです(頑張ります)


では、次も読んで頂けると幸いです。

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