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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十一章~踊らされる運命の駒~
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第五百二十六話~終焉の訪れ~

 失われた感覚ではあったが、確かにリーナは感じる。懐かしさを感じる、感触、匂い、温もり。そして下へと流れていた視界は逆転し、浮遊感と共に宙へと舞い上がる。

 何が起きているのか、もう考える気力もない。ただ、そこにセヴランがいるということだけは理解する。


「待たせて悪かったな」


「……もう、遅いんだから……」


 頭を上げ、セヴランへと苦笑気味にリーナは安堵の感情を漏らす。気がつけば陽の光も落ち始め、辺りは落陽に照らされている。周りはどうなったのか、重症なのは自分だけではない。部下への心配から、周囲へと目を向け――


「安心しろ、生き残っている奴は全員助ける」


 リーナの心配は杞憂であった。強く、それは確かだとセヴランは行程するように、リーナに言い切って見せる。当然、リーナはまだ何も口にはしていない。けれど、そこは考えるまでもないと、その思考を読んでの答えだ。そんなセヴランの言葉には、リーナも信頼を寄せているため心配が一つ減る。

 そんなやり取りの合間に、二人は跳躍し飛んでいた空中から地面へと降りる。リーナはセヴランに抱えられてではあったが。




 崩壊し、巨大な穴――というよりは、地形そのものの変化。基地の三分の二を地盤から崩壊させ、その被害は計り知れない。その崩壊の縁、外縁部分に、セヴランを含む百名近いブラッドローズの隊員が次々に着地する。彼らは皆一様に負傷した仲間を抱えており、崩壊から仲間を助け出すことに成功したことを物語っている。


「ん、下ろして」


「いいのか?」


「平気よ、この程度」


 リーナはいつまでも抱えてもらう訳にはいかないと立ち上がるが、足を地につけた途端ふらつく。すぐにセヴランが支え倒れることはないが、既に立つことも困難な状態なのは異常事態であった。

 これで片がつけばいい。だがこれで引き下がる程、七極聖天が甘くはないことをリーナ達はよく知っている…………。




 崩壊した大地……埋もれた瓦礫が、リーナの予想に呼応するかの如く振動する。


「ブラッドローズゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!!!!」


 初めは小さく、そしてそこにいる誰の耳にも聞こえる程の怒号にそれはなり、周囲の注意を集めた。振動していた瓦礫の一部から、勢いよくその声の主が飛び出す。空高くうち上がり、その飛翔体はリーナ達目掛けて高速で落下してくる。

 リーナや、助けられたブラッドローズの隊員達は既に動けない。この場は、セヴラン達増援部隊が立ち塞がるように構え、それに警戒を向ける。



「やってくれたな……見直した、尊敬に値する。お前達の力、それはこれからの戦いに必要なものだ……だからこそ再び伝える、我々に協力しろ」


「……………………ハインケル」


 落下の勢いで巻き起こった煙の内から姿を見せるハインケル。しかし、その姿は血を流し、土に汚れ、普段の余裕を見せている姿はどこにもない。しかし驚くべきは、この崩壊に巻き込まれまだ動ける点だろう。

 セヴランも正直なところ、この戦場に到着してすぐで状況の把握は出来ていない。おそらく、リーナ主導の作戦だろうということだけが分かる。しかしそれでも、ハインケルの異常な生命力、力には驚愕するほかない。


「どうした、答えを聞かせてもらおうじゃないか。我々はお前達を高く評価している。その力であれば、うちの正規兵が何千と集まるより価値がある」


「そこまでしてまで、力に拘る必要性が分からない。力を求めるのならばこそ、より多くの者で協力すべき――」


「違うな、弱者は世界を殺す。それは弱者を守る強者をも殺す。俺も、お前も。セヴランだったな、お前のその力で、今までどれだけのものを守れた。どれだけ力を持とうと、一人が守れる命など限られている。お前は、守れない命までもを抱えて、守れる命までもを殺すのか?」


「そんなこと――そんな、こと……」


 セヴランは言葉に詰まる。ハインケルの言葉は正しい、それが違うと否定仕切れない。力は所詮力でしかない。事実、セヴランが守れた人間の数などしれている。ハインケルの言うとおり、今の戦いを続けていては死人を増やす。

 しかし、ならば見捨てるのが正解なのか?守れる命だけを守れと、他は切り捨てろと?そんなことはあり得ない。それでは、この世界はこれまでと同じだ。


「それだと、この世界は変わらない。それじゃあ、俺達が目指してる世界からは、遠のくんでな」


「あくまで考えは変わらないか……なら、ここで死ぬといい。この世界を守るのに邪魔だ」


「その状態でか?周りが見えてないみたいだな、この状況で勝つつもりか?」


 ハインケルとセヴランは対面し、互いに剣を構える。そして形勢を見るならば、セヴランの方が有利なことは間違いないだろう。セヴラン達は戦闘での負傷はなく、まだ数十人が戦える。対して、ハインケルは負傷した上で一人。だが、ハインケルは一切臆することなく、何が可笑しいのか高笑いをあげ


「ハハハハッ、その足で動けるのか?見たところ、殆どの連中は動けるかどうかといった様子みたいだな」


「…………」


 どういうことかと、リーナはセヴランの表情を覗く。そして気付く、セヴランの額には僅かながら汗が浮かんでいる。そして視線を落とせば、確かに震えているのか、足の様子が万全には見えない。そして、こうして冷静になったからこそ理解する。セヴランが何故、これ程までに早く自分達と合流出来たのかを。


 ……セヴラン、貴方達全員走り抜いてきたのねッ……


 国を移動する際、最速で移動するなら馬に走らせるのが一番だ。ただ、馬とて数日間走れる程化け物ではない。ただ、セヴラン達ブラッドローズであれば、身体強化を全力で行えば国を走りきることが出来る。もし最高速を維持出来るのであれば、馬よりも早く移動出来るだろう。そんな馬鹿なことをするとは普通は思えないが、状況から見るからにその予想は当たっているだろう。




 リーナの予想は的中している。セヴラン達はアイゼンファルツ基地を出るときのみ馬に走らせ、馬の限界が来た時点で自走を行った。既に丸二日近く走り続け、体は限界を迎えている。身体強化を解けば、今この瞬間にもセヴランは倒れるだろう。だが、それがなければリーナ達は全滅していただろうことから、それが間違ってはいなかった。

 人間、やれば出来るものだなということを再認識し、ならばあと一踏ん張りと無理やりに足を動かし


「余裕さ、お前一人倒す程度はなッ!」


 セヴランの踏み込みと、ハインケルの踏み込みはほぼ同時…………ハインケルとセヴランの刃が振るわれ、一閃が交わり――――――





「ウオオオォォォオオォォォォッ!!!!!!!!」



 耳をつんざき、体を震え上がらせ、世界を揺るがす轟き。二人の動きだけではない…………世界が、パラメキアもレギブスもフィオリスも、生きる生命全ての動きは止まる。そして、何かが弾けた。分からない、何かは分からない…………しかし確かに、何かが変わった。それを、誰もが理解した。





 空高く、空中に漂うイクスは、この時がきたと腕を平げそれを呼ぶ。そして、その頬に一筋の涙を溢し


「もう、失わなくていい。誰も傷つかなくて良い…………さあ、終焉を始めてくれ」


 流れた涙の意味は、イクスにも分からない。もう、何も感じない。何も持たないイクスは、注がれた意思に従うのみ。その内に秘めていた、かつての想いを忘れ…………

どうも、作者の蒼月です。

長々と投稿しておらず、申し訳ありませんでした。投稿に関しては、現状仕事都合上書く余力がないのが実情の為、努力するとしか言えず、重ねてすみませんm(__)m


内容ですが、遂に大きく話が動きます。何度もキーワードのように出されていた終焉。その時がやってまいりました。色々と情報が増えそうですが、最悪中間で解説回を挟むなどしていこうかと思っております。

私の構想上、物語は大きく三つに分かれています。セヴランが力を得るブラッドローズ、リーナとの再開までが書かれたレギブス防衛戦まで。

次が今回までの、各国の英雄と戦い、進むべき道を見つけ、対立していく戦い。

そして次から始まる、終焉に纏わる戦い…………


これから彼らが進むべき道は過酷です。決して楽なものではないです。ただ、諦めることなく歩み続ける彼らの姿を、是非ともご覧下さい。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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