第五百二十二話~英雄に追い付きし者達~
先陣はリーナが切る。再び加速し、ハインケルへ向け一直線へと。目に捉えることも難しい、神速の領域。だがハインケルはそれを見切る。突撃してくるリーナを剣で受け流し、何もなかったかのように涼しい顔を見せる。
けれど、無論この程度で終わる訳がない。リーナは受け流され宙を飛んだままだが、そこから体を捻り動きを下へと向ける。そして地面へと激突したかと思うと、速度を落とさず地面をするようにハインケルの横へと回り込み、次の突撃を行った。これも、ハインケルは受け流すが…………次の瞬間には、リーナが別の角度から攻め始める。右へ、左へ、前、後ろ、上から、際限なく加速してゆくリーナに、ハインケルの対応も余裕は減っていく。そしてこの状況は、リーナにとって有利に働く。
……やっぱり、竜の聖獣は動かさないのね……
加速した世界で、リーナはハインケルの従える聖獣が様子こそ見ているもののリーナ達の戦闘に入る様子はない。むしろ、他のブラッドローズのメンバーの戦いに入りそうである。これはこれまでにも見られた傾向だ。何故か、七極聖天達の聖獣は、戦う時と戦わない時がある。その差がどう決まるのかは知らないが、ハインケルと一対一で戦い抜ける今なら、時間稼ぎ程度は出来る。
「はああぁぁああぁぁぁッ!!!!」
雄叫びと共に突撃したリーナは衝撃で地面を打ち砕き、巨大な粉砕音と共に二人は爆風に姿を消した…………。
生まれた爆風のすぐ上、空中では赤髪の魔女が複数の敵を相手に戦い抜いていた。
空中に留まるエメリィの周囲に展開された七つの魔法陣、それぞれが上級以上とされる魔法を放ち、眼下で対峙する英雄を相手を抑え込む。
「穿て、雷ッ!!!」
「灰塵とかしなさいッ!!!!」
エメリィからは複数の落雷が落とされ、またマリーンはエメリィの眼前に巨大な火球を生み出し爆発させる。二人ともがそれぞれ対応するように更なる魔法で打ち消し合い、戦いは拮抗。だが、それだけならば魔法の展開数で勝れるエメリィの勝ちは決まったようなものであった筈であった。それが叶わないのは…………
「さあ、耐えてみなさいッ!!!!」
「ッ!!!!」
空中を飛ぶエメリィに、青白き炎の塊が突撃する。エメリィは空中での姿勢は風魔法で制御している為、どうにかこれを避ける。しかし、それはすぐさま反転し、エメリィ目掛け突撃を繰り返す。
それは不死鳥の聖獣。戦場から離脱したオーガストの従える聖獣で、オーガストとは違い戦場に残っていた。どういう命令で動くのかはエメリィの知るところではないが、今ある事実はエメリィはこの聖獣の相手もしなくてはならない点だ。そして…………その顔に、血が走る。
「このッ――――」
エメリィに向けられた光の矢。それはもう一人の七極聖天、タリシアだ。これまで戦場での戦う姿は殆ど見られていない女性。しかし、今回はエメリィに対し攻撃を行ってきている。レギブスとしても、それだけ本気ということなのだろう。
エメリィは向かってくる矢に対して、同じく光の壁を作り出して対処する。けれど、多重展開できるエメリィの全ての枠を使いきっている状態で、マリーンに対して有利をとることは出来ない。それどころか、三対一という圧倒的不利な状況だ。常識では勝つことなどあり得ない。けれど、エメリィとてフィオリスの誇る英雄。そして、この時まで姿を隠していたのは臆病だったからでもなく――――
「やれるものならやってみなさいッ!!!」
ソフィアから伝えられた知識を元に、常識を越えた力を磨いてきたエメリィ。今の彼女に、負けるという概念は存在していなかった…………。
変わって第二防壁付近。ライラとライルの従える死神の聖獣。これと相対するのはバウルだ。
バウルは全力で走り、死神へと距離を詰める。身体強化を用い、ブラッドローズ内でも圧倒的身体能力を持つバウルは、中でも強化による恩恵が大きい。戦ってきた回数こそ他国の兵に比べれば劣るかもしれないが、戦ってきた全てがギリギリの戦いであったブラッドローズ、その誰もが実戦の中で実力を驚異的な程に伸ばしてきた。今のバウルであれば、雷による加速を行っているセヴランにさえ追随するだろう。その速度をもってして、最速かつ最高の一撃を叩き込み
「おらぁッ!!!」
しかし、死神側はそれでも尚平然と鎌で受け止めきる。それどころか、バウルの影からもう一体の死神が影を伸ばし
「うおっとッ――」
振るわれた鎌を体の捻りだけでどうにか避け、着地と同時に空中へと大きく跳躍する。そしてそのまま体を前転するように回転させ、落下も用いた一撃を狙う。対象はライラとライルの二人。今の跳躍で死神の頭上は越え、ここならば防げないだろうと。
「もらったぁぁぁッ!!!」
高速回転し、とてつもない破壊力で突撃していくバウル。しかし、その一撃はいつの間にか二人の前に立ち、二対が一対となった死神の鎌によって受け止められる。受け止めた鎌からは硬く、鈍い鈍重な音が響き渡る。
青く燃える聖獣とバウルの攻防は、バウルの怒濤の猛攻で有利に傾いていく。だが、まだまだ安心など出来ない。そもそも、ここでバウルが有利に戦えないと、今回の作戦に成功はあり得ないのだから…………。
どうも、作者の蒼月です。
お久しぶりでございます、生きてました。二週間も投稿止めていましたが、投稿は当然止めませんからね~(宣言)
さて、言ってしまえば今回の話は次回のと合わせて、本来は一話ぶんだったのですが、多少長くなりそうだったので分割しました。
その上で、内容として言えるのはリーナ達の成長が著しいという点でしょうか。不可思議なレベルで、彼らの成長が早すぎるんです。まあ、別に大したことではないですし別に問題ないのですが、不思議ですね~
次回は早めに投稿しようと思います。
では、次も読んで頂けると幸いです。




