第五百九話~すれ違う思想~
オーガストは何かを企んでいる、それはリーナにも分かる。しかし、それが何かはまだ見えず、どう会話を切り出せばいいか分からずにいる。
……こういう時、セヴランならどうにかしちゃうのよねぇ……
リーナはこの戦場にいない、最も信頼するその名を思い浮かべる。こと戦闘においては、リーナはセヴランより実力は上。魔法による誤魔化しが行えないが、それでも純粋に真正面から打ち破れる程に。けれど、今必要なのは行動力だ。これまでも、セヴランは恐れて動けないことは避け、失敗があろうとなかろうと何かしら行動を起こした。リーナには難しい、対話という道。これまでのセヴランの対話がうまくいったかと言えば肯定は出来ないが、小さい成果はどこでもあった。こうして立たされてみると、リーナはセヴランのこれまでの苦労が途方もないと改めて感じる。
「今回は何が狙いなのかしら。私達の力を欲しているって風には感じられないけど」
「てめぇら雑魚は邪魔なんだよ。そんなことも分からねぇのか」
「雑魚……だとしても、それがなんで邪魔になるのかしら。どうせ終末についても分かっているのでしょう?その上で判断したのだとしたら、余計に分からないわ」
「考える頭もねぇゴミか?あぁ?」
オーガストから返ってくる答えは答えでなく、リーナは気が長くないため早くも苛立ちを覚えるが、この程度で思考を止めてはならない。
……この言葉には嘘がある。私達をただ消したいなら、こんな回りくどいやり方は必要ない。絶対に、何かがある。けど、それは何。今の言葉、雑魚は邪魔……私達が邪魔?パラメキアとレギブスでは考えに差があるのは分かっているけれど、私達の力は無価値なものでない筈。本当に分からないわね……
確信する事実もあり、リーナは急ぎ思考する。まとまらない考えを、考えるより先に言葉にしていく。いつまでもオーガストがこの会話に付き合ってくれるとは限らないのだから。
「貴方達だけで終末に対する策があるのね。でも、その策はまだ完成していない。少なくとも、ここで私達を消すことは必要……まあ、大口叩いたところで、パラメキアにも勝ててない国の言うことだものね」
「何も知らねぇ馬鹿は気楽でいいもんだな……自分達が無知で、無力ということを知らねぇ。だからてめぇらは世界の敵なんだよ」
「世界の……」
新しく見えてきた言葉、世界の敵とは何か。そもそも、終末というものに対しての定義があやふやだ。リーナ達が知る終末とは、この世界を閉じる霧の向こうから竜が攻めてくること。しかし、レギブスはどうなのだろうか。自分達の視点で見れば当たり前の情報も、相手と同じとは限らない。
竜という未知の、伝説上の存在と戦うとなると戦力は多いに越したことはないだろう。なのに戦力を削る戦い方を続け、徒に被害を増やすレギブス軍。矛盾したように思える行為の数々、そこに答えがあると考え……
剣を構えた。対話とは程遠いその行為に、流石のオーガストも困惑を隠せない。即座に拳を構えるが、リーナの動きに何かを感じ取ったのか……
「一体何のつもりだ。俺と話すことが目的じゃなかったのかよ」
「えぇ、貴方達との戦いを避けられたらそれが一番よ。でも、そんなつもりはないでしょう」
「たりめぇだろ。それで俺らにどんな利点があるんだ。言ってみろよ」
「私達と共闘出来れば、それだけ戦力になるでしょう。でも、どうやらその様子はないようだから…………今日はここまでね」
「なッ!」
言葉を終え、リーナは大きく後ろへと跳んだ。周囲を囲んでいた敵を越え、このオーガストとの相対距離から離れる為に。動きに迷いはなかった。オーガストも予想外の動き、不意を突いた形で戦闘からの逃走を成功させる。
「てめぇ、逃げやがるのかッ!」
「じゃあね~」
怒りを露にするオーガスト、リーナの挑発じみた言動に限界がきたのか。否、リーナは気付いていた。これまでのオーガストの動きの不可解さの一つに。
……理由は分からないけれど、私達をここに足止めする必要があるのね。だから、初めは戦いでこっちの気を引いて、私が望んだ対話を行って更に時間稼ぎを、ね。本当に酷い話ね、こんなに引っ掛かるなんて……
オーガストの慌てぶりから見ても、このリーナの考えに大きな間違いないだろう。そして今は、見えてこない敵の思惑に対し対抗するため、撤退することを急いだ。
どうも、作者の蒼月です。
さて、リーナにしては珍しく考えることを頑張っていますね。ただ、なかなかに難しいところです。オーガストはだいぶペラペラと語ってくれてますが、それがどういう意味かと理解出来ないので。レギブスという国が特殊だということもあるのですが……
では、次も読んで頂けると幸いです。
 




