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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第四百九十七話~魂の叫び~

 およそ人間のものとは言えない咆哮が戦場に響き渡る。獣のごときそれは、含まれた尋常ではない殺気と相まってパラメキア兵、ブラッドローズ、両陣営の兵士達な恐怖を与え、武器が次々と手放されてゆく。それは決して戦意の喪失などではない。畏怖から体が、精神が、硬直してしまい武器を握る手に力が込められなくなってしまっている。それだけならばまだマシだろうが、呼吸がまともに出来ていない者が多い。ロイヤルガードの三人とラディールはどうにか耐えているものの、それでもこれまでの余裕は嘘のように消えてしまっている。


「これでもまだ、完全に覚醒をしていないと言うのか……底が見えないな」


「ヴァンセルト卿、そんなことを言っている余裕はッ……」


「私達でさえ、あれは手に余りますッ……」


「厳しいなら下がっていろ、足手まといを抱えて戦える敵ではない」


 三人はセヴランの放つ重圧に耐えてはいるが、そこには差異がある。ヴァンセルトはどれにも耐え、リノームとリターシャは呼吸は出来るが恐怖感を完全には封じ込めれていない。それは戦闘を行えば僅かな歪みとして形になってしまい、間違いなく悪い影響になる。それを見通しているヴァンセルトは、二人に対しある程度キツめの言葉を放って引きはなそうとした。

 けれど、二人はその程度で退く訳がない。自らも命を賭けて戦うと剣を構えてみせ


「ならあれの動きを僅かでいい、止めてみせろ」


 ヴァンセルトは構えていた大剣の剣先を下ろし、切り上げが出来るよう後ろへと構える。膝を曲げ、腰を落とし、セヴランを視界の中央に捉え――――踏み込む。


 大きく踏み込み、二歩目には速度を得て、セヴランへと一気に詰め寄る。速度に任せ大剣を下から切り上げ、セヴランに真正面から挑む。これまでのセヴランであれば、ヴァンセルトと速度だけは互角、力で劣るという関係。ここでの一撃は回避する手段を選ぶだろう。しかし、ここでのセヴランは違った。

 ヴァンセルトからの一撃を、セヴランは氷の腕で軽く受け止めてみせた。それまでのセヴランからすればあり得ない、異常な光景。ヴァンセルトは攻撃を弾かれ、即座に兜割り、横凪ぎ、突きと各方向からの連続攻撃に切り替える。ヴァンセルトは全力を込めて振るうが、そのどれもが簡単に防がれる。


 ……馬鹿な、奴の氷でこれが防げる筈がない。いや、それよりも……


 セヴランの氷の強度はこれまでの比ではない程強まっている。そして、セヴランの様子は更に変貌し、その瞳が変わっていた。紅く、吸い込まれるような色の輝きを放ち、それが魔力によるものだとヴァンセルトでも理解出来た。


「……ッ!」


 ヴァンセルトとセヴランの二人の攻防の隙にまずはリターシャが迫り、突きによる連撃を放つ。しかしそのどれもが、それまでに無かった突如出現した氷の壁に阻まれ、一つたりともセヴランに届かない。そしてその背後から飛び越え、氷の壁を超えて頭上からリノームはセヴランに迫る。けれども、その全力である速度にも関わらず、リノームは空中から出現した氷の柱に体を串刺しにされ、空中で動きを封じられた。


「リノームッ……くッ!」


 ヴァンセルトもリノームがやられたことにより反応を示すが、その一瞬の間にセヴランから蹴りを入れられ、大きく後ろへとのけ反ることとなってしまう。これまでとは一転して逆の立場に、セヴランの勢いは止まるところを知らない。


 ……完全に意識が途切れているな。……魔力の暴走に、我々に対する殺意だけで動いているのか。あれでは、最早人とは呼べないな……


 ヴァンセルトはセヴランの現状を冷静に観察しつつも、余裕はなくギリギリのところでセヴランからの攻撃を防ぐ……が、それが限界。普段ならば防ぐと同時に反撃を行うが、それが出来ない。一瞬の間で十を超える攻撃が迫ろうと、ヴァンセルトは対象しきるだろう。けれど、今のセヴランは百に届くのではないかという神速の攻撃を繰り出している。同時にこれだけとなると、反応するのでさえ不可能だ。今ヴァンセルトが防げているのは、潜り抜けてきた実戦の数々からなる経験則と、セヴランの攻撃に思考がないからに過ぎない。もしセヴランの意識があり、思考をもってこの速度で攻撃を繰り出されたとすれば、その時はヴァンセルトの敗北する時だろう。


 だがそれは今ではない、攻撃を完全に防げないなら、致命傷となる攻撃を見定め防ぐ。全力で防御にあたる。そしてその隙に、まだ動くことが可能なリターシャに攻めさせる。再び、今度はセヴランの背後から攻めかかる。ヴァンセルトとの攻防に集中させ、リターシャからは完全に意識を反らさせた。死角からの攻撃……けれども、セヴランは反応してしまう。地面から土の杭を穿ち、リターシャの足元から攻撃を行い不意を突く。仕掛けた側がやられ、リターシャは間一髪で後方に回避こそするものの、二人の間には障害物が残る形となる。

 ここで回り込み、再び攻撃となると時間が僅かだが必要。その一瞬は今のヴァンセルトにとっては長すぎる。故に、リターシャは普段は片手で持つ剣を両手で持ち、右後ろに構え――即座に全力で振り抜いた。それは普段、ヴァンセルトが行う剣圧を飛ばすそれ。横に凪ぎ払われた剣圧は土の杭、セヴラン、そしてその先の氷の杭とヴァンセルト達全員へ襲い掛かる。当然、セヴランもヴァンセルトも跳躍し上へと回避する。だが、これにより二人の戦闘の流れは完全に切れ、もう一度一から流れを作る必要があるだろう。

 しかしそこに、新たな風が吹き込む。氷の杭が砕かれ、貫かれていたリノームは宙から大地へと降り立った。そしてその身を貫いていた氷の杭を勢いよく抜き、大きく振りかぶりセヴラン目掛けて投擲した。それだけならセヴランも回避をしただろう。けれど、その援護は視界にないはずなのに、ヴァンセルトはタイミングを完璧に合わせてセヴランへと大剣を振るった。空中に避けているが故に、セヴランも回避か防御、どちらかしか出来ない。そして現状の驚異度で言えばヴァンセルトの大剣が勝り、防御をとった。その隙を晒したセヴランの身には氷の杭が穿たれ、空中という足場の無さもあってセヴランは体の制御を失ってしまった。

 この時点で、結果は決まっていた。だが追加しておくとするならば、意識があったならば気付いただろう。ヴァンセルトの一撃は少しばかり軽かったと。その理由は、ヴァンセルトはそもそも空中での一撃でセヴランに致命打を与えられるとは想定していなかった。故に、セヴランに大剣を叩きつけたのは、前へと大剣を振り下ろす力で自身に前回転の力を与え、その次、二撃目でセヴランに回し蹴りを叩き込むためであった。意識があり、そこまでの思考が出来たならばセヴランにも勝機はあっただろう。だが、地面へと叩きつけられ、完全に不利な状況へと追い込まれた。


「■■■■■■■■■ッ!!!!」


 言語なのか、それさえも不明な叫び。本能、殺意だけとなったセヴランはまだ動いた。地面に叩きつけられるなり、即座に受け身から踏み込み、跳躍へと――――出来なかった。セヴランの足はその瞬間完全に砕け、支える力を失い地面へと突っ伏すことになった……。




 そう、このヴァンセルト達の粘りこそが、勝敗を決めたのだった。

どうも、作者の蒼月です。

またまた投稿遅れてしまい申し訳ありませんでした。本当は昨日中にあげれる筈だったのですが、色々まとめていたら時間が間に合わず、今日まで引っ張ってしまいました。

その分内容はだいぶまとまったので、ここで一区切りつくかなと(この章は長くなりすぎました、すみません)。


すぐに時章に移る訳ではないですが、この章の主な内容は終わりと思ってもらえれば。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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