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氷結の騎士は民を背に  作者: 蒼月
第十章~散りゆく命~
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第四百九十四話~英雄の先をゆく刃~

  ここまで戦闘のリズムは一定で続けられていた故に、急につけられた緩急はセヴランに隙を作らせる。ヴァンセルトの左拳はセヴランの氷剣を受け止め鈍い音こそしたものの、その価値は大いにあるだろう。セヴランは腕である氷が弾かれ、大きく仰け反ってしまった。


 ……しまッ――!……


 ほぼ残されていないセヴランの意識で、思い浮かんだのはその一言だけだ。そして思考をするよりも早く、その大剣がセヴランの胴を貫いた……。



「セヴランッ!!!」


「行かせるかぁッ!!!」


 セヴランがヴァンセルトに貫かれ、その力が失われていく様にその戦場の多くの者が気付く。セヴランに近かったラディールとモースは真っ先に反応するが、その道はリノームに遮られる。むしろ他の隊員達の方が、人数差もありセヴランの元にたどり着けるだろう。


「隊長ォォッ!!」


「貴様ァァッ!!」


 リターシャは百人を超える人数を相手にしている。その防衛は完璧とも言えるが、セヴランの姿に反応した数人が身を呈してリターシャの動きを封じ込め、二人だけがどうにかすり抜けた。二人共が手にしていた銃を一発ずつ放つ。駆け抜けながら放たれる弾丸だが、それは正確にヴァンセルトに吸い込まれるように進み――ヴァンセルトの服にかすることも無かった。


 ヴァンセルトはセヴランへと突き刺していた大剣を横凪ぎに払い抜き、弾丸を叩き落とした。ただ、その瞬間に二人は銃を捨て剣を抜き、ヴァンセルトにほぼ同時に斬りかかる。判断としては正しく、ヴァンセルト相手では銃は役に立たない。たとえ実力の差があれど、それ以外に彼らに出来ることはない。

 二人は常人からすれば圧倒的速さ、けれどセヴランの域に届かないそれではヴァンセルトの目には捉えられてしまう。斬りかかった二人は、何事も無かったかのようにヴァンセルトに攻撃をいなされ、次の二撃目を放つ前にその身が大剣によって折り曲げられた。


「……やめ……るんだ……もう……」


 呻き声で、地に倒れるセヴランは振り絞るように伝える。これはもう敗けだと、これ以上の命を失うことは無意味だと。けれども、それは仲間の耳に届くことはない。行動でしか、セヴランは示せない……ならばと立ち上がろうと…………そこで、セヴランは気付く。音は届く。が、見えないのだ。あるはずの景色は、黒か白か、もうセヴランの瞳は前が見えていなかった。魔力の消耗も、肉体の消耗も限界をとうに通り越してる。その反動が来ない筈がない。セヴランは、戦う力を失いかけている……。


 ……まだ、動ける。まだ、戦える……ヴァンセルトは、俺が……


 頼りになるのは音、今目の前で何が起きているか確証は持てないが、恐らくは仲間がやられたのだろう。それを止めるためにも、セヴランは立ち上がる。



「ほう、まだ立てたのか」


 これに最も驚きを見せるのは、セヴランをここまで追い込んだヴァンセルト自身。正直なところ、セヴランの力はヴァンセルトから見ても脅威的なことは確か。普通ならば死んでいる筈なのに、今まさに目の前に立っている。己の常識を覆し、折れぬ意思を持つセヴランに敬意を持たざるを得ない。

 一度大剣に付いた血を払い、セヴランへと向き直る。次こそは仕留める、そうでなければ次は自分の番だ。故に躊躇はせず、大剣を大きく振りかぶり――――



 ……俺は、何をしているんだ……


 揺れる意識、音さえも消えた空間。


 ……もう、休んでもいいんじゃないか?……


 その甘い囁きは誰のものか、けれどそんなことも関係はない。


 ……頑張ったさ、充分に。もういいだろう……


 剣を下ろすには充分、誰だって認めてくれる英雄になった。人を守る夢も叶った。


 ……あぁ、でも分かってるさ……


 しかし、これは求めた未来じゃない。セヴランが手にしたかったのは、こんな半端な死を選ぶ為の力ではない。セヴランがやるべきは、ただ抗うこと。その為の力、諦めることは許されない。今はまだ、剣を握り続ける。




 セヴランに振るわれた大剣…………これは斬るべきセヴランには届かなかった。代わりに、ヴァンセルトは一瞬だけ見た。セヴランがない腕で剣を握るような錯覚を。そして、ほんの、僅かな瞬間だけ、ヴァンセルトの最速をも超えて動いた事実を。そしてそれは形となり、ヴァンセルトの脇腹を貫いていた…………

どうも、作者の蒼月です。

さて、もうこの戦いは終わりそうですね。セヴラン達も頑張ってくれてますし、このまま平和に向けて万々歳――なわけありませんね、はい。とりあえずここの戦いをまとめて、今度は反対側のレギブスの話とかもあるんですよねぇ……これは長くなりそうです。


では、次も読んで頂けると幸いです。

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