第四百九十三話~届かなかった刃~
左腕を貫かれつつも、攻撃を受け止めたリノームは反撃に出る。自らの肉で剣を絡めとり、腕をラディールから離れる方向に動かすことで強制的に動きの主導権を奪う。ラディールもなにもしなければ武器を失うことになるが、ここで無理に固執する方が危険と判断し瞬間的に手を離したことでリノームに詰められそうになる距離を確保する。
ラディールの左腕、骨に当たる部位こそ回避しているものの、その神経はやられているだろう。今はまだ動くが、時間が経てば感覚を失ってしまう。そうなる前に対処する……リノームは足を踏み込み、前へと飛び出す。
「こっちを向け――」
「邪魔だ」
剣を失い後ろへと下がるラディールの援護とモースが飛び出すものの、リノームの流れるような動きから繰り出された回し蹴りに吹き飛ばされる。ただ、リノームも大きな動きで剣が刺さったままの腕へのダメージは大きく、その表情に余裕が無いことは確かだ。
ラディールも瞬間でも逃げることは無理だと分かる。目の前のリノームとは、そもそも実力の差が存在する。そんな敵が自身を逃がさまいと迫り来る……これが恐怖以外の何だと言うのだろうか。武器はないが構える、拳を、己の肉体という最大の武器がある。リノームの剣をラディールもまた腕で受け止め、互いに剣という得物が意味をなさなくなる。剣を振るう意味も無くなり、二人の間では拳が幾重にも交わされ始めた…………。
戦場から少し離れた方向へと場所を移したセヴランとヴァンセルト。この二人もまた、既に常識からは外れた存在同士として争い始めていた。セヴランはヴァンセルトと交戦する範囲全体の大地を凍らせ、加速をするための場を。ヴァンセルトはその中心から逃れようなどという素振りは一切見せず、セヴランの攻撃を真正面から全て受け止める構えだ。
セヴランの加速は既に最高潮、あまりの早さに完全な残像を伴い、同時に三方向から攻撃出来る程だ。けれども、その速度があってもヴァンセルトが屈することはない。一撃を剣で、残りの二撃は最低限の身のこなしだけで避けきる。どれだけ速度を上げようとも、攻撃とは所詮基礎の積み重ね。基本的な動きの型はあり、セヴラン程の速度ともなれば同時に出せる技の種類は限られる。
……弾く……
…………弾く…………
………………弾く………………
セヴランの一太刀たりともヴァンセルトには届かず、ヴァンセルトの大剣に弾かれる衝撃で腕と化している氷剣が砕け、再生し、また砕け…………同様のやり取りを何十と繰り返し、状況は着実とセヴランの不利に傾いていた。
何十と繰り返される攻撃のうち、その一回だ。セヴランが振るった腕、そこにヴァンセルトの大剣ではなく、ヴァンセルト自身の拳が当てられたのだった。普通ならばあり得ない行動……けれどもこの敵だからこそ、これは恐ろしい技として技能するのだった。
どうも、作者の蒼月です。
またしても遅れてしまい、誠に申し訳ありませんm(__)m
中々書く時間が確保出来ない状況が続いていますが、どうにか頑張っていきます。
では、次も読んで頂けると幸いです。




