第四百八十四話~決死の足掻き~
立ち上がるセヴランに、無視出来ない脅威とリノームが一番に飛び付く。最早両腕共に使えず、ここまでくればセヴランを恐れることなどない。これ以上ない好機、少しでも時間を与える方が危険だと、一直線に剣を突き出し……その一撃は、セヴランに届くことは無かった。
圧倒的、あまりに速かった。リノームの突きの先にいた筈のセヴランは、それを受ける前に姿が一瞬消えた。しかも同時に、リノームの剣が宙に舞ったのだ。この事態にリノームは驚愕すると共に、その腹部に強い衝撃を受けて後ろへと大きく後退ることとなる。
「ッ!何故ッ……」
「リノーム、上よッ!」
鋭く響いたリターシャの一言。これにリノームの思考は無為な回転から状況の理解に至り、上という言葉から回避の選択を取る。そうして空いた空間に、頭上から降ってきたセヴランの一撃が叩き込まれる。右腕を失い、左腕も使えないセヴランが何故攻撃が出来たのか、その答えはセヴランのない筈の右腕にあり――
「腕を氷で再現したのかッ」
リノームの視線の先、セヴランの腕には氷が伸びていた。決して人間の腕の形をしているなどとは言えない、無骨な形。しかし、鋭く刃のように伸びるそれならば、充分に脅威足り得る。リノームは更に警戒をした上で、剣を構え直し…………その足を斬られていた。
「ッ!!」
リノームは飛び退くが、既にセヴランが目前まで迫ってきていた。ここにきてリノームでさえ追うのが難しい速度を出してきたセヴラン。どうにか振るわれた氷を剣で弾くが、その隙にセヴランは移動を済ましている。綺麗に死角である右斜め後方に回られ、リノームからすれば対処不能ではなくとも面倒な攻撃だ。
ただ、ロイヤルガードは一人ではない。リノームの死角からの攻撃は、余裕をもって動けたリターシャが防御を行った。セヴランはそれでも攻撃を行うが、流石に二人相手には圧倒出来ない。速度こそ圧倒的になれども、実力差のある二人を相手に技量で押される。その差が明確に現れ、どうしてもセヴランはじり貧だ。いや、ここまで戦えている事実を考えれば、充分過ぎるのだが。
「何をやっているッ!早く後退しろッ!」
セヴラン達の攻防は過熱し、既に並以上の者でも介入するのは難しい状況となり、ラディールも同じくそこの戦いだけは見ているしか出来ない。無論、一人で少しでもとパラメキアの大軍を足止めしているために手を貸す余裕などないのだが、それでもセヴランの現状が危険なことぐらいは分かる。
……くそッ、ここでセヴランを失えば確実に戦線は突破される。そうなれば、もうフィオリスは……
ラディールの懸念は、恐らくそう時間を必要とせずに現実のものとなるだろう。そうなってしまっては、もうどうにもならなくなる。フィオリスは陥落し、敗北だ。本来であれば、全軍を動員して戦うのが良いのだろう。若い兵などは、恐らく今の現状に不満を抱いていることだろう。けれども、それが出来ないのには理由があるのだ。
通常、戦いは数であり数的有利な側が勝つことが多い。しかし、その常識を覆す存在が、この世界にはいる……英雄だ。一人で数多くの者を屠り、圧倒的力を持つ存在。その中でも頂点に立つような存在であるロイヤルガード、彼らは個人でありながら一騎当千。これまで戦ってきた国の中には、文字通りヴァンセルト一人に破れた国さえある。これをよく知る者ならば、パラメキアの万に及ぶ軍よりも、下手をすればロイヤルガードを相手にするほうが危険だと分かるのだ。
今回、セヴランがブラットローズを下げさせたのは、主にそれが理由だ。例えパラメキア兵が大隊で挑んで来ようとも、ある程度は戦い抜ける。しかし、ロイヤルガード三人相手に戦えば、少しの消耗をさせれたとしても全滅は免れない。そんな無駄な消耗をするぐらいであれば、まだ基地に立てこもり、白兵戦に持ち込む方がマシだ。そう選択の結果がこれだが……
……ここまで耐えれないものとはな。ここが終わりが……
ラディールも、既に満身創痍であった。既に百人近くを殺し、数千人に囲まれている状況を考えればよくやった方だろう。そう考え、ラディールはここからは長く戦うよりも、最後の足掻きに入ろうとしていた。それが、自分に出来る最後の仕事だと考えたからだ。剣を向け、牙を剥き、敵にまだ諦めてなどいないぞと見せ…………何処からともなく聞こえてきた銃声に合わせ、ラディールを取り囲んでいた兵の幾らかが撃ち抜かれたのだった
どうも、作者の蒼月です。
今回は文字数はなんとかなったのですが、全然描写が足りず申し訳ありません。そろそろ、1回あたりの文字数を増やさない限り、水増しみたいなふやけた話が増えすぎて駄目ですね……どうにか頑張りたいとこですが、時間がないのはどうしたものですかね。
内容も、ラディールの戦闘描写がカットされてる挙げ句、セヴランの戦いもきちんと書けていない始末。申し訳ないとしか言えません……m(_ _)m
時間が欲しいかぎりです。
では、次も読んで頂けると幸いです。




