特典は良いものでした
「ん……」
薄っすらとした暗さがある森の中で一つの影が動いた。
影の正体は168cm程の人間で、非常に中性的な顔立ちをしており、身に纏っている衣服もこの世界では見ることの無い変わったものだった。
「ここは……」
木々の隙間から僅かに射し込む光を瞼に受け、ゆっくりと目を開けた恭弥は先ず辺りを見回して地理を確認し、次いで近くに何者かの気配が無いかを探った。これは恭弥がかつてとある国で軍に追われた時に身に付けた技術であり、その精度は非常に高い。
「近くに人はいませんねぇ……それにここは森、ですか?」
恭弥は地理を確認した際に認識した情報を脳内で瞬時にまとめ、少なくとも今すぐ命の危険に晒される可能性は皆無だと言う結論に至った。その為今の内に出来る限りの事をしておこうと考え、神と名乗った老人の言葉を思い出す。
「神様は先ずステータスオープンと念じろって言ってましたっけ。ふふっ、あの神様には感謝しなくてはなりませんね」
恭弥はその整った顔を醜く歪めながらステータスオープンと念じる。
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狂井 恭弥 (キョウヤ・クルイ)
LV:1
HP:100/100
MP:80/80
STR:70
DEF:50
SPD:80
INT:70
MND:60
パッシブスキル
異世界言語
制限解除
超直感
魔力適合
全属性適正
消費魔力量激減
必要経験値激減
獲得経験値激増
状態異常無効
超速自動回復
天布の才
武技術の心得
スキル
超位隠密
超位鑑定
魔力付与
全属性魔法
加速思考・極
並列思考・極
総合武技術・極
限定突破
称号
(無し)
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「ほうほう、これがステータスと言う奴ですか。このパッシブスキルと言うものとスキルと言うものは地球で扱われている意味と同じだと考えていいんですかね」
地球でのパッシブスキルは常に発動し続けるもので、スキルが持ち主の任意で発動させるものという認識なのだが、どうやらこの世界でもそれらの認識はそのままで構わないようだ。実際、恭弥の頭には常に何かが発動している感覚があり、それが超直感による空間把握と気配察知であると言う事も何故か分かる。
「ふむ、こう見ると虹玉の特典と言うのはパッシブスキル寄りなんですね。スキルも素晴らしいようですが、パッシブスキルの方に遂目が行ってしまいます」
恭弥は自身のステータスを苦笑しながら見ている。その姿は野に咲く一輪の花を眺める淑女の如く美しいが、恭弥の放つ異質な雰囲気がその全てを台無しにしている。
「おや?これはなんでしょうか」
しばらくそうしていると、恭弥は何やら箱のような物を発見した。場所は恭弥が寝ていた際に頭のあった部分の真上。
「超直感で周囲の空間は把握していたつもりなんですが、やっぱりまだ不慣れですねぇ。こんな近くにあった物に気付けないとは」
恭弥はそう言いながらその箱を開けてみた。
「はて?これも特典の一つでしょうか」
中に入っていたのは腰に付けるタイプのポーチ一つに、一振りの短剣とそれがピッタリ入りそうな鞘。ポーチの方は茶色っぽい普通のポーチで、鑑定の結果マジックポーチと言う物であると判明した。
因みに鑑定を発動させたい時は、発動させたい対象を見ながら鑑定と念じると発動する事が出来た。これも大体恭弥の想像通りの結果であり、恭弥はそれに満足気に頷く。
「これも良くファンタジーものでみかける便利アイテムですね。効果も大体そのままです」
恭弥は苦笑しながらポーチを腰に付ける。すると不思議とポーチがぴったりと腰にくっつき、まったく動きを阻害しなくなった。
「ん?これも魔法の効果ですかね?まぁ便利ですし文句はありません」
次に短剣。これにも鑑定をかけて見ると以下のような結果が出た。
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呪怨の黒剣
此の世ならざる物質に数多の生物の怨念が固まって作られた短剣。斬った生物の魂を吸い取り、霊体や精神生命体など実体の無いものをも斬る事が出来るが、常に装備者の正常な精神を侵していく
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「おやおや、不気味な剣ですねぇ。まぁ僕好みではありますけど」
恭弥はそう言って呪怨の黒剣を掴んだ。その瞬間……
「おお?何か得体の知れないものが僕の中に入って来ますね」
呪怨の黒剣を通し、精神を貪るナニカが恭弥の中へ入って行く。だが恭弥はそれに慌てる事は無く、寧ろ楽しそうな笑い声すら上げている。
「アハハハッ、いいですねぇ。もしかしてこれが生物の怨念とか言う奴でしょうか?この言葉では言い表せ無い感覚、うーん、実に素晴らしい!ですが……」
しかし、次の瞬間には恭弥の中へ入って行ったナニカは一瞬で弾かれ、消滅した。
「残念でしたね、呪怨の黒剣さん。僕の精神は既に正常な物なんて存在しないんですよ。状態異常無効の効果もありますので、幾ら頑張ってもあなたの行動は無意味です」
恭弥は呪怨の黒剣の腹を撫でながら歪んだ笑みを浮かべて呪怨の黒剣に話しかける。
「ん〜、この剣は多分僕の前世での行動が形作った物ですかね。もしかしたら元々この箱に入ってたなんらかの物質に僕が殺した人々の怨念が宿ったんでしょうか。うーん、興味深い!」
恭弥は一人、黒塗りの不気味な短剣を愛でながら思考の海に陥る。
何分くらいそうしていたのか、恭弥の把握している空間内に何者かの気配が浸入して来た。そこでようやく恭弥は思考の海から戻って来、探知した何者かの様子を探る。
「おや?これは人ではありませんね。もっと小さい何か……ああ、もしかしてこれが魔物ですか」
感知の感覚としては先ず対象の持つエネルギー的な物が分かり、そのエネルギーから大体の大きさを無意識に割り出して、割り出した大きさと最初に感知したエネルギーから感知対象の形や正体を認知する。これがこの超直感で分かる感知であり、恭弥はそれにより相手の正体を割り出した。
「もしかしてこれがゴブリンでしょうか?ファンタジーではお約束の生物ですね」
恭弥はそう当たりを付け、気配のある方にゆっくりと移動を開始する。
「おっと、そう言えば超位隠密ってスキルがありましたね」
その際、自身が超位隠密と言うスキルを持っている事を思い出し、試しに発動をさせてみた。これも鑑定と同じように使いたいと意識すれば自然と発動するようだ。
(おや、これは凄い。慣れないと僕自身ですら僕の事を見失いそうです)
恭弥は発動させた超位隠密の高性能さに思わず再び思考の海に陥りそうになったが視線の先に生物の姿を確認し、頭を切り替えた。この切り替えの早さも前世で身に付けた技術の一つで、恭弥の強みの一つでもある。
「ほう、やっぱりこの気配の正体はゴブリンでしたか」
恭弥の視線の先にいるのは、薄汚い腰布を一枚纏い、醜悪な見た目をした子供程度の背丈を持つ人型の生物。髪の無い頭部からは二本の短い角が見えていて、その姿は地球でよく描かれるゴブリンそのものであった。
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ゴブリン
LV:5
HP:125/125
MP:30/30
STR:68
DEF:74
SPD:58
INT:20
MND:35
パッシブスキル
悪臭
スキル
鬼の断末魔
称号
(無し)
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鑑定の結果もこの通り、ゴブリンと出ている。つまり魔物で、殺しても問題無い存在。
恭弥はニヤリと不気味に笑い、音も無く駆け出した。