イルモ解放
正式にイルモの統治者・・市宰卿の座に就いたナガラン・ノン・ユラーク。
その立ち姿は、まるで・・闇を従える支配者のごとく。
鋭い眼光、威圧は周囲の人たちを無言で黙らせてしまうのだ。
もともと漂っていた悪役の風格が、市宰卿になったことで、より悪役感がましているのかもしれない。
イルモの城門前・・・
整列した兵士たち、そして沈黙のまま佇むキュウルーラたちが、厳粛な雰囲気で見守る中・・・
ユラークは正装に身を包み、ゆるやかでありながら揺るぎない足取りで、儀式の壇上へと進んでいく。
その先に立つのは、古の王女を思わせる!?ような衣装をまとったラトナ。
威厳と気品を兼ね備えたその姿は、まさに女神!? またはヴァラウの統治者としての威厳なのだろう。
ユラークはラトナの前で静かに杯を掲げる。
その所作は、悪役の風格をまといながらも、一国の王としての礼節を崩さない威厳を宿していた。
「・・・ラトナ様。
貴殿より受けた恩義、深く胸に刻んでおります。
この地位も、この勝利も・・すべて、貴殿の助力あってこそなのです」
低く響くユラークの声色は、胸に抱いた感戴をそのまま形にしたようだった。
ラトナもまた、領主としての気品をまとい、ゆるやかに杯を掲げ返す。
「私の方こそ、ユラーク殿
妾は・・ヴァラウの領主として、貴公が払った労苦と献身、
そしてこの地に刻まれた勝利の果実を、心より祝福する。
今ここに、貴公と盟を結ぶこと・・大いなる誇りとなるだろう。
両国の未来に、永き繁栄と安寧があらんことを・・・」
二人は杯を口に含んだ。
それは古来より伝わる盟約の儀式。
杯の中には、儀式のために屠られた牛の血が満たされていた。
それは荒々しく、重く、そして中世時代らしい・・誓いの象徴。
ラトナは最初こそ"うわぁ・・!"と思ったが、
ここは伝統。領主としての矜持で静かに・・・我慢したw
古からの習わしですからね!
それにしても、この杯の血の赤さ・・・
口紅のように唇を赤く・・鮮明に染めてしまうのだ。
ラトナにはよく似合う。すこし美人になったかもw
だが、ユラークのような厳つい骨格の男が赤い紅をつけていると・・・
一瞬、笑いがこみ上げる。
・・だが、これは儀式。笑ってはならない。
「ふふっ!」
ラトナは喉奥で小さく笑いを殺した。
ユラークには気づかれていない・・・と思いたいw
とにもかくにも・・・血の杯が触れ合う音は、
二人の新たな同盟が、確かに結ばれたことを告げるのだった。
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ちなみに・・会盟の儀が城門の外で行われた理由・・それはユラークたちが、ラトナへ配慮したからである。
そう、イルモの町は中世時代特有の不衛生さが色濃く残っていた。
下水も整わず、街路には臭気が漂い、風に乗って流れてくるその匂いは、町の外にまで届くほどだった。
200年前・・文明と文化が満ちあふれたパックス・ルシャーナ期から来たラトナにとって、
この時代の荒れた環境は、まさに耐えがたいほどの不快さであった
ゆえに、儀式は城門の外へと移された。
澄んだ風が流れ、蒸気魔導砲の影が伸びる場所で、
ラトナはようやく落ち着いて儀式に臨むことができたのである。
ヴァラウの領主・ラトナと、イルモ市宰卿・ユラークは壇上にて、固く握手を交わした。
続いて二人が盃を高々と掲げると・・その瞬間!
城門前に集まった兵士たち、そして住民たちの歓声が、まるで大地を揺らすかのように轟きわたる。
「「市宰卿ばんざーい! ユラーク様ばんざーい! イルモばんざーい!」」
とりわけ声を張り上げたのは、聖教軍の圧政に苦しめられてきたイルモの住民。
彼らの叫びは歓喜であり、解放であり、そして未来への渇望だった。
その表情には、これから始まる新しい時代への希望が、はっきりと浮かぶ。
「「イルモの繁栄、我々に栄光あれ! 」」
そして、アユリーナもまた、急遽仕立てられた・・・
いや、正確にはキュウルーラたちが夜鍋wで作り上げた・・ルシャーナ帝国時代の正装に身を包んでいた。
一般庶民として育った彼女にとって、その豪奢な正装は・・どうにも場違いにしか思えない。
歩くたびに衣の重みが肩へとのしかかり、ドギマギしてしまう。
だが、彼女の役目は難しいものではない。
壇上に立つラトナのすぐそばで、儀式の節目に、"パチパチ"と拍手を送るだけの簡単なお仕事。
それでも、正装が放つ威厳と重みは、アユリーナの胸を高鳴らせ、いつもより少し背筋が伸びた気がした。
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会盟の儀が静かに幕を閉じると、
張りつめていた空気はふっとほどけ、城門前の広場には柔らかな雰囲気が広がりはじめた。
それはいわば、祭りの後の静けさ、騒ぎの後の清涼感なのか!?
さきほどまでの緊張が、ゆるやかに溶けていく。
その中で・・
アユリーナは慣れない帝国式正装の裾をそっと押さえながら、
ぎこちない足取りで会食の席へ向かっていた。
胸の鼓動はまだ落ち着かない。
慣れない衣装の重みと、儀式の余韻が、彼女の心をそわそわと揺らしていた。
そんな彼女の背に、ためらいがちに・・そっと声をかける人物。
「・・アユリーナさん。
その装い、とても・・似合っていますね」
振り返った先には、
どこか初々しい笑みを浮かべたルジャンが立っていた。
頬がわずかに赤く、
視線はまっすぐアユリーナへ向けられている。
彼はかつて、女神と称する"本物の魔法使い"ラトナに、半ばいじめられていたところをアユリーナに助けてもらったのだ。
ある種の吊り橋効果なのか!?・・ルジャンはアユリーナに恋してしまった。
「ルジャンさん・・! こんにちわ」
アユリーナは少し驚いたように微笑む。
彼女にとってルジャンは、"可愛い男の子"という印象で、好きでも嫌いでもない。
ただ、悪い気はしない。
ルジャンは勇気を振り絞って会話を続けようとしたが、
着慣れない衣装に緊張したアユリーナに余裕がなく、ただニコニコと頷くばかり。
沈黙が落ちる。
アユリーナから話題が出てこないことに、ルジャンは気まずさを覚えた。
「あっ、うっうう・・」
声にならない声が漏れ、会話はぎこちないまま・・
ルジャンの肩は落ち、落胆の色が隠せなくなる。
それでも、夕陽の中で揺れる彼の瞳には、まだ消えない想いが宿っているのだ。
そう、まだ機会はある。
ここから始まる恋も、きっとある。
がんばれ、ルジャン君w
・・・・などと、ラトナは少し離れた場所から二人を眺めていた。
「青春だね~! 私もあんなころ・・・あったかな!?」
イルモ解放祝賀会は・・なおも続く。
だが、その賑わいの裏で、戦いはまだ終わっていない。
逃げ去った聖教軍は、確かに大きく数を減らしたとはいえ、全滅はしていない。
残党がまだ残っているのだ。
しかも、ラトナがこの地にいるゆえに・・ヴァラウの防衛が心配でもあった。
いま、戦力のほとんど・・・キュウルーラたちがここにいるため、ヴァラウはほぼ無防備のままなのだ。
すぐにでも引き返さねばなるまい!
ラトナは静かに息を吸った。
「これからが・・・対聖教軍との、本格的な戦いとなるだろう」
その言葉とともに、ラトナの表情がわずかに獰猛へと変わる。
祝賀の灯りの中で、彼女だけが次なる戦いの気配を感じ取っていたのである。
-------------------- The story closes here, but the battle begins ヾ(^Д^ヾ)




