とりあえず・・女神は町を統治する
ザイラ城祭長は、齢70をとうに過ぎたとは思えぬ速さで、山岳地帯を駆け抜けていた。
息は荒い。それでも足は止まらない。
急ぎ、聖都ルゥーナへ・・・
聖教陛下に、この未曾有の事態を伝えねばならない。
ヴァラウを襲撃した魔族の軍勢。そして"神力"さえ跳ね返した、あの恐るべき存在。
人類の敵が、ついに動き出したのだ。
バベル教に深く信心し、生涯を女神への奉仕に捧げてきたザイラ城祭長は、
震える声で叫ぶ。
「これは・・・世界の危機だ。聖教陛下に急ぎ伝えねばならん!」
白髪の老人は、残る体力をすべてを振り絞り、その身を削るようにして、走り続けた。
使命だけが、彼を前へと押し進める。
現在、ザイラ城祭長はただ一人・・・
側近も護衛兵も連れず、険しい山岳地帯を駆け抜けていた。
本来なら、城祭長という領主に等しい地位であれば、随行する側近や部下がいて当然のはず。
だが、彼の背後には誰もいなかった。
理由は明白だ。
彼の側近や官吏のほとんどは、ヴァラウの現地採用の住民たち!
家族や兄弟を置いて町を離れることなど、できるはずがない。
ゆえに、ザイラ城祭長は孤独な逃走を選ぶしかなかった。
・・そして、もう一つの理由。
彼の走りについてこられる者など、そもそもいなかったのである。
齢70とはいえ、彼はただの老人ではない。
武道の心得を持ち、多少の"神力"を操れるのだ。
見た目だけでは分からないパワーを体内に宿していたのである。
道中では、襲って来ようとしていた盗賊たちを蹴り倒し、地に伏す!
さらに・・飛びかかってきた魔獣を、難なく追い払っている。
老体とは思えぬ鋭さと気迫、そして戦闘力!
ただし、彼は宗教家である。
むやみに命を奪わぬその姿勢は、まさに真面目そのもの。
だが、その真面目さゆえに、バベル聖教内ではどこか異質な存在として孤立しがちでもあった。
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ユラーク率いるイルモ解放戦線は、
ヴァラウの為政者・ザイラ城祭長を、完全に取り逃がしてしまう。
そもそもヴァラウの町には、まともな戦力など存在しない。
城壁もなく、防衛設備も乏しい。
抵抗する術がないと判断したザイラ城祭長は、戦うよりも早々に逃走する道を選んだのだろう。
そして、その判断は正しかった。
ザイラ城祭長という人物は、行政能力に優れ、状況を的確に見極める男。
だからこそ・・迷いなく、素早く姿を消したのだ。
イルモ解放戦線は、ヴァラウの町を掌握したものの、最も重要な"首"だけは取り逃がす。
その事実が、場の空気を重くしたのだが、同時に朗報もあった。
そう、ザイラ城祭長のもとで行政を担っていた官僚たちの多くを、難なく捕縛することに成功したのだ。
彼らはヴァラウ出身の者ばかり。
家族を置いて町を離れることに躊躇し、この地に残ったのだろう。
この報告を聞いた瞬間、ラトナの口角がゆっくりと上がった。
・・この町を領有する以上、行政に通じた人材は絶対に必要、絶対に欲しい。
ザイラ城祭長は逃げた。
だが、町を動かす"頭脳"は、しっかりと手元に残った。
ラトナの瞳に、わずかな光が宿る。
それは、確かな手応えを感じた者の微笑みだった。
そう、あとの問題は彼らの説得、いや! 脅迫して・・このラトナに従わせるのみ。
「少しというか・・かなり卑怯な手口だが、つかわしてもらおう」
その日の夕刻・・ヴァラウの行政を司っていた人たちの家々に、激しく重い音が鳴り響く。
ドンドンドンドン!
そして悲鳴と怒号・・・「出てこい!」「やめてっ!」「私たちが何をしたというの!」
イルモ解放戦線の兵士たちが、乱暴に踏み込み、彼らの家族を次々と拘束していく。
これは・・ラトナの指示。ある種の・・・悪役セオリー。
家族を人質にして・・行政官たちを無理やり働かせるという冷酷な策。
(三国志では、曹操が徐庶の母を人質にして劉備のもとから引き抜いた逸話のように・・・封建時代にはよくあった話!?)
ユラークもこの手のやり方に疑問を持っていたが、女神と称する魔法使いに反論できず、家族の捕縛を承認した。
ずばり言うと・・ラトナは手段を選ばない女であるw
・・・とはいえ、捕らえた者たちを粗末に扱うつもりはなかった。
むしろ、ザイラ城祭長の時代よりも・・家族ごと、手厚く遇する必要があるのだ。
ラトナ特製のポーションを惜しみなく彼ら行政官たちに無料配布!
多少なれども・・家族内に病気や怪我を抱える者もいただろう。
だが・・その小瓶一つで、大概の病気と怪我は癒やされていく。
そう、この時代にはない脅威の特効薬なのだ。
その恩恵を受けた者たちは、否応なくラトナの魔導力を知り・・バベル公姫への忠誠(信仰)を強めるだろう。
さらに、彼らに地位も与えねばなるまい。
ルシャーナ帝国の時代、
バベル公姫ラトナには"令史"という官位を任命する権限があった。
それは、公姫配下として・・行政を担う官僚に与えられる称号。
たとえ帝国が滅び、制度が失われた今であっても、
その官位を授けるのは、ほかならぬこのラトナ・・この女神が・・あたえるのだ!
ならば、この“令史”という地位にも、
かつての帝国にふさわしい威光が宿るはずだ(願望w)
「地位を与える者こそが、この町の上位者、王という印象を与えるのだよね」
そんなことを宣うラトナ。
かつての帝国ルシャーナを復活させようという意図もあったのだ。
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イルモ解放戦線を率いるユラークにしても、ラトナにしても、このヴァラウの町でゆっくり腰をおろしている暇などない!
それに・・この町は交易の拠点であれども、それといった城壁もなく防御施設もない町なのだ。
ここで敵を待ち構えるなど愚の骨頂!
おそらく、イルモ駐屯の聖教軍・・およそ1万がこの町の奪還を狙って進撃してくるだろう。
そして当初の予定通り、解放戦線は・・その進撃中の敵に対して奇襲攻撃をかける。
そのためにも戦力の増強は必要だ。
とはいえ、この町で徴兵するのは現実的ではない。
訓練も受けていない町人を戦場に立たせるなど無謀だ。
せいぜい雇えるのは、腕の立つ少数の傭兵といったところだろう。
頼みの綱は・・・ラトナが生み出した人型魔導兵器!
聖教庁から接収した資金と・・ポーション販売で稼いだ軍資金で"魔結晶"を買い込み、急ピッチで増産中。
"魔結晶"は宝石としての価値も高く・・希少ではあるが貴金属店でも手に入るのだ。
「それでも高い!・・200年前に比べて、明らかに高すぎる!? でも・・町の防衛のためだ! 目をつぶろう」
そう言い切ると、彼女は迷いなく購入の印を押した。
本来なら、鉱山を開発して自前で確保したいところだ。だが今は、そんな悠長な時間など・・どこにもない。
ちなみにキュウルーラの製造法は・・キュウルーラたちが自ら加工し組み立てを行う。
いわば・・自分たちで自分たちを作る。
完全オートメーション制、自己増殖ともいえた。
だが、その心臓部だけは別だった。
動力源となる核・・それだけは、ラトナの魔導なしには完成しない。
ラトナは、貴重なレアメタルである"魔結晶"を手に取り、
そこへ一線ずつ、丁寧に魔導術式(刻印)を刻み込んでいく。
その術式こそが、キュウルーラを動かす心臓部・・制御装置となるのだ。
「さぁ・・どんどん魔導術式を書き込んでいくよ。アユリーナ君も手伝って・・」
「はい・・ラトナ様!」
-------------------- To Be Continued ヾ(^Д^ヾ)




