紅蓮の監視下 ― 火の谷キャンプ
〈帝国領南部・ヴァルハイド近郊 “火の谷キャンプ”〉
昼でも空が赤く染まる、灼熱の大地。
火山灰が舞い、遠くでは熔岩の滝がゆっくりと流れていた。
その谷間に、鉄杭と魔導陣で囲まれた前線拠点――
帝国軍野営地〈火の谷キャンプ〉が築かれていた。
レオン一行は、砂風に吹かれながらその門をくぐる。
空気が焼け、靴底がじりじりと焦げる。
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帝国監視下での行動
「――アルヴィス王国からの協力者一行、入場確認。」
鋼鉄の鎧に赤紋章を刻んだ兵が敬礼した。
クラリスが控えめに礼を返す。
「帝国使節団筆頭、ライゼン・ヴァルハルト卿の命により、
我々は“帝国軍監視下での調査行動”を許可されています。」
兵士は頷き、魔導刻印の印章を確認する。
「確かに。ヴァルハルト卿の印章に間違いなし。
――ただし、ここから先の行動は“司令部の許可”が必要です。」
「……やはり、自由には動けませんね。」
アリアが低く呟く。
イリナは肩をすくめて笑う。
「まーまー! “監視下”とか言っても、ワタシたちが変なことしなきゃ大丈夫っしょ!」
セリオが震える声で言う。
「イ、イリナさんが一番“変なこと”しそうなんですけどぉぉぉ!!」
クラリスはため息をつきながら整然と告げる。
「お静かに。……帝国は“敵”ではありませんが、味方でもありません。
ここでは一挙手一投足が、信用に繋がります。」
レオンは静かに頷く。
「彼らにも彼らの使命がある。
――だが、我々の目的も同じ“聖樹の保護”だ。衝突は避けたい。」
アリアが思い出したように言った。
「アストリアでの話……“同行条件”。」
イリナが指をパチンと鳴らす。
「あー、あの堅物の人でしょ? “帝国軍の監視下で動け”って言ってたやつ!」
セリオ:「あと、後ろにいた赤い目の魔導士さん、ミュゼさん? めちゃくちゃ怖かったですぅ……」
クラリス:「彼女の気配は鋭かったですわね。……あのような方々が、帝国の中枢にいるのです。」
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火の谷キャンプの内部は、規律そのものだった。
整然と並ぶ鋼鉄製の天幕、兵士たちの無駄のない動き。
蒸気を噴き上げる魔導機関が中央に据えられ、
周囲には浮遊監視球が静かに巡回している。
「……すごいねぇ。全部“動く砦”って感じ!」
イリナが目を丸くする。
「この国、マジで全部機械でできてるヨ!」
セリオ:「ど、どこ見ても鉄と煙ばっかですぅ……空気が焦げてる……!」
クラリスは眉を寄せ、
「文明の発展は素晴らしいですが……どこか、“息が詰まる”場所ですね。」
アリア:「魔導技術がここまで進むと、自然との調和は難しいのかもね。」
レオンは焚き火のような赤い空を見上げた。
「……それでも、この地の人々は生きている。
火の中で、炎と共に。」
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その時――
彼らの背後から、重い足音が響いた。
「アルヴィス王国の宮廷画家ノエル殿」
振り向くと、漆黒の軍装を纏った男が立っていた。
額には帝国の紋章、胸には深紅の徽章。
「帝国軍第四監察官、ガイル・エストレイン。
貴殿らの行動を監督する任を拝命している。」
クラリスが一歩前に出る。
「監察官殿、我々は貴国に害意はございません。
ただ“炎の聖樹”の異変を調査し――」
「その言葉、信じるか否かは私次第だ。」
男の声は冷たく、だが理知的だった。
「我々も“紅炎の脈動”の原因を追っている。
貴殿らの協力は歓迎するが……“命令系統”は帝国にある。」
アリアが低く呟く。
「……完全に監視下、ってわけね。」
イリナが腕を組み、ふてくされた顔で言う。
「ヤな感じ~。でもまぁ、監視でもなんでもイイよ。
レオン様の剣とアタシの槍で、ちゃんと結果出せばいいだけっしょ!」
レオンは小さく笑い、
「結果が全てだ。
――それなら、見せればいい。」
ガイルはしばし沈黙し、やがて短く頷いた。
「……よかろう。明朝、前線へ出る。
貴殿らにも同行してもらう。」
赤い空の下、焔がゆらめく。
その奥で、地鳴りのような唸り声が響いていた。
アリアが振り向き、
「……感じます。“影の根”が、地脈の奥で蠢いてる。」
レオンは剣に手をかけ、
「――ならば、封じるまでだ。」
焔のような風が吹き抜け、
彼らのマントがたなびく。
そして、火の谷の夜が――
ゆっくりと牙を剥き始めた。
いつもありがとうございます。また明日更新します。次回、紅蓮の空路 ― 炎の国を越えて




