水守の祈り ― 聖樹の光はまだ遠く
〈帝国東領・ブルーリヴァー峡谷〉
戦場を包んでいた黒い霧は、ゆっくりと晴れていった。
水の聖樹が再び脈動を取り戻し、
冷たく濁っていた川は青白い光を湛えて流れ始める。
勝利の声は上がらなかった。
静寂だけが、谷を覆っていた。
――レイヴンの腕の中、リスティアが眠っている。
その顔は穏やかだが、頬に残る黒炎の痕が痛々しかった。
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ティル=アクエラが跪き、祈りを捧げる。
「水の聖樹よ……この娘をお救いください。
彼女の心はまだ、この地を想っています。」
聖樹の根元から、やさしい光が流れ出し、
水の粒となってリスティアの身体を包み込む。
その光は、温かく――まるで抱擁のようだった。
ミュリオ:「……脈が、安定してきたっす。
でも意識は……まだ戻らない。」
ヴェイル:「まるで眠ってるみたいだな……長い夢を見てるみたいに。」
ティル:「彼女の魂は、まだ聖樹の加護の中にいます。
完全に戻るまでには……時間が必要です。」
レイヴンは唇を噛みしめ、静かに頷いた。
「時間なら、いくらでも待つ。……あいつが戻るまで。」
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焚き火の音だけが響く夜。
レイヴンは眠らず、リスティアの傍に座り続けていた。
ミュリオが小声でつぶやく。
「レイブンさん……もう少し休んだほうが……」
レイヴン:「いい。……俺は、目を離したくない。」
ティルは水瓶を手に、焚き火のそばで祈りを続ける。
「水の流れが、彼女の命を少しずつ洗っています。
今はただ……信じるしかありません。」
ヴェイル:「あの娘、ほんとに強かったな。
お前を守るために、迷いもなかった。」
レイヴン:「ああ……だからこそ、俺が守らなきゃならない。」
彼の声は震えていた。
けれどその瞳の奥には、確かな決意が灯っていた。
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やがて、夜が明け始める。
朝霧の中で、水の聖樹が蒼く光を放つ。
その光がリスティアの胸の上で、淡く瞬いた。
ティル:「……反応があります。
生命の循環が、戻ってきています。」
ミュリオ(涙をぬぐいながら):「ほんとに……助かるんすね……?」
ティル:「ええ。でも――奇跡のような時間が必要です。」
レイヴンはその光を見つめながら、
彼女の手を優しく握った。
「……焦らなくていい。
ゆっくりでいい。
お前がまた笑えるその日まで、俺たちはここにいる。」
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昼が訪れ、ブルーリヴァーの流れは完全に澄み渡った。
帝国兵たちは戦の傷を癒やしながら、聖樹の下に祈りを捧げている。
ヴェイル:「この谷、もう“死の地”じゃねえな。」
ミュリオ:「ええ。いまじゃ“命の流れ”っすね。」
ティル:「水の聖樹は、彼女の勇気に応えています。
だからこそ……この地を見守ってあげてください。」
レイヴンは頷き、聖樹の方へ目を向けた。
風が吹き抜け、枝葉が静かに揺れる。
それはまるで、聖樹が言葉を返しているようだった。
> “この娘の魂は、水と共にある。
焦らずとも、流れは必ず還る――”
レイヴン:「ああ……わかってる。」
彼は小さく呟き、再びリスティアの手を握りしめた。
水面に反射した光が二人を包み、
その静かな輝きは、まだ見ぬ明日への希望を示していた。
いつもありがとうございます。また明日に更新します。次回、紅蓮の道 ― 炎帝の国へ




