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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
37章.神殿再建(2)

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37-30.[異世界側のお話です]妻の形見を持たせる(7) エスティアの葛藤

挿絵(By みてみん)


部屋に戻って、エスティアは一人考える。


呪いの女の最後の一人。

それがリナであり、最後の仕上げに妻の形見を持たせる。

今の流れだと明日にでも達成できそうだ。


エスティアがゴネなければ、今頃成功していたかもしれない。


実際にどうだかはわからない。

けれど、エスティア自身はそう感じていた。


時間に余裕があるわけではない……ランデル侵攻前に終わらせてランデルに行かなければならないことを考えると、一刻を争う状況だ。

そんな中で、自分のせいで明日の朝まで、半日以上の猶予を貰った。

自分のせいで1日遅れた。そう思える。


おそらく明日何かが起きる。

そう思える理由があった。


鎧の意思はエスティアの想像を超えて、あまりにも明確だったから。


石の記憶は、中途半端にヒントが読めることが多い。

ヒントが読めても、それが何に繋がるのかはよくわからないことも多い。


ところが、鎧の記憶は繋がっていた。

何があって、その結果、鎧が何を望んだのか、どんな手段を使って、何を達成するのか。

まっすぐにつながっていた。


鎧はもともと1人の神様だった。

※この世界では神様の単位は柱ではありません。

 人と単位を分けることが無いため、単位は人としています。

 世界と書いてますが、神様は国や地域によっても変わります。

 なので、ハスクバハルやベリクハスタには単位が人では無い神様が居るかもしれません。


その神様は、この世界に来て、森の女たちに歓迎されて嬉しかった。

その女たちの神様になっても良いと思った。


だが、神様の半身はヨコハマに帰ってしまった。

ここに残ることを選んだ半身は鎧として女たちを見守る神様になった。


鎧は、はじめはその生活を気に入っていた。


だが、大きな問題が発生する。


鎧が愛でた女たちは寿命で死んでいった。

神様は女たちが死ぬたびに悲しんだ。


神様に寿命は無い。鎧も神様の分身であり寿命がない。

だから、寿命のある体に戻りたいと思った。

鎧は死にたいのだ。


そして、女を使って呪いをかけた。

その女たちが餌となり、異世界に去った半身を呼び戻す。


呼び戻すための最後の仕上げが【妻の形見】を持たせること。


……………………


トルテラは戻ってくる。

それは決まっているのだと思う。

エスティアは、トルテラが戻ってくることを望んでいる。


だが、あの鎧の記憶を見た後では、素直に喜べない。

鎧が半身であるトルテラを呼び寄せたい理由ははっきりしていた。

”今のままでは死ぬことができないから”

エスティアは、これが気に入らない。

結果として死ぬのは仕方がない。

でも、トルテラには、エスティアに会いたくて帰ってきてほしかった。

それが我儘なのはエスティア本人も重々承知している。


でも、嫌なものは嫌なのだ。


……………………


【妻の形見】とは何なのだろうか?

エスティアは【妻の形見】が何で、何をすれば良いのかは、思い浮かばなかった。

だが、鎧は未来がどうなるかを知っているのだと思う。


もう一度、鎧の記憶を読めばわかるのかもしれない。


エスティアはてっきり、リナがヨコハマの女に鎧と神殿の話をするのかと思っていたが、鎧は【妻の形見】を渡せば終わりだと思っている。

もしかしたら、ヨコハマの女に、鎧と神殿の話をすると、結果として形見を渡すのかもしれない。


おそらく、エスティアが合意の上で進めるか、エスティアを除いて進めるか、どちらであっても明日何かが起こり、トルテラが帰ることが決まる可能性が高い。

トルテラを呼び寄せるための呪いなのだから。


エスティアは悩んではいるが、答えに悩んでいるのではない。

自分自身を納得させる理由を探すのに悩んでいるだけだ。


トルテラを呼び戻すための儀式にエスティアが参加しないというのはあり得ない。

エスティアは、正式にヨコハマの呪いの女から神様を譲り受けたのだから。


……………………


エスティアは元から、トルテラを自分のものだと思っていた。

実際に引き取ったのがエスティアだったから。


キノセ村で、誰もが引き取りを拒否したからだとはいえ、エスティアはあの時点で、トルテラを最後まで世話しようと思って引き取ったのだ。

村の皆は気付かなかったかもしれないが、エスティアは、トルテラは見た目ほど老化が進んでいないと思っていた。

なんだかんだで、自分の足で村まで辿り着けたから。


歩みは遅かったが、足腰が弱っているわけではなく、なんとなく、不整地を歩くのに不慣れな感じに見えた。

だから、家周辺、身の回りのことは自力でできる程度には元気だと思っていた。


ところが、回復したら、体格に見合う怪力の持ち主であることが分かった。

予想していたより元気だったのでエスティアは喜んだ。

想像していたより、さらに楽に生活ができそうだったから。


ただ、実際は、エスティアの想像は外れていた。


エスティアは、身の回りのことは自分でできて、多少なりとも家事が手伝える程度の体力があれば十分だと思っていたのに、次元が違っていた。

最強の軍勢を一人で蹴散らすほどの力を持っていたのだ。


エスティアが引き取った時点では、自力で生活できない老人だったことは確かだった。

そう思って引き取った。

それは誰が何と言おうと事実でしかない。


あのレベルだったら、エスティアが占有できたと思う。

少なくとも、エスティアとリナで占有できた。

3人で暮らしていた頃のことは、今でもエスティアにとっては大事な思い出だ。


ところが、トルテラが大きな力を持つことがわかると、トルテラを慕う女が増えて、誰のものかよくわからなくなってしまった。

引き取ったのはエスティアだから、人間の基準で言えばエスティアの所有物だ。


人間の問題であれば、それが通じると思った。


ところが、エスティアの知らないところで呪いがかけられていた。


神様のルールはエスティアにはわからない。

人間に理解できなくても仕方ないだろう。


その呪いには、5人、或いは6人の女が使われている。

エスティアもその中の一人ではあるが、神様がエスティアのものかと言われると、本当は誰のものなのかわからない。


長らくそんな状況で過ごしてきた。


でも、今は違う。


次にトルテラが戻ってきたとき、トルテラの所有者はエスティアだ。

ヨコハマでのトルテラの所有者……おそらく、トルテラを作り出してしまった女が、エスティアに譲渡したのだから。


ヨコハマの女は知っていた。

”神様は、誰かの願いを叶える間だけ存在できる”


普通の生き物とは違うのだ。

少しずつ年を取って、老いて死ぬわけではなく、願いを叶えるまではいくらでも生き続ける。

おそらく神様本人の視点では逆だ。願いを叶えるまで死ぬことができないのだ。


エスティアは、ヨコハマの女のことを思い出す。

石は、会話だけでなく気持ちを伝える力もある。

会話も、言葉が通じているわけではなかったのだと思う。

ただ、石を通すと、直接言葉が通じなくても意思疎通が可能になるだけ。


ヨコハマの女は、自身で生み出してしまった神様の最期を自分の目で見届ける気でいた。

だが、その役を、エスティアに託した。

なぜだろうか?

神様は願いを叶える間だけ存在できる。

だとしたら、エスティアに譲渡されるのは妙に思える。

エスティアの願いは既に叶っている。


エスティアは、イノシシに襲われた時死んだ。

あのとき、大きな存在に守って欲しいと願った。

その願いが叶って、結果として今も生きているのだ。


だとしたら、なぜ、ヨコハマの女はわざわざ異世界にいる人間にトルテラを託したのだろう?

オーテルがトルテラを呼びに行った理由は、呼びに行かないと【ちゅうかまん】を滅ぼすことはできず、オーテルも生まれないから。

【ちゅうかまん】の排除は【大きな竜・ガスパール】の願いであって、エスティアの願いではない。


なぜ、ヨコハマの女は、エスティアに神様を託したのだろうか?


神様の最期を見届けることがエスティアの願いであるなら成り立つが、

それはルルが義務だと思っていることで、エスティアの望みではないように思う。


だけど、エスティアが受け取ったのに、エスティアの知らないところで勝手に消えてしまったら嫌だ。


トルテラは特別だから、普通に寿命で死なないのかもしれない。

でも、知らぬ間に死んでしまって、最後を見届けることができないよりは、最後まで見届けたい。


エスティアは神様の最期を見届けるという約束で、神様を譲り受けた。

見届ける義務がある。

最後の所有者が見届けることができる。


見届けることができる時点で幸せなことなのかもしれない。


ルルは言っていた。”最後まで見届ける”と。

当時は何を言っているのかよくわからなかったが、今ならわかるような気がする。


目的が”最期まで見届けること”ではない。

最期まで見届ける義務がある。神様の所有者に発生する義務だ。

ヨコハマの女は、そう言ったのかもしれないと思う。


エスティアは、死ぬために戻ってきて欲しいとは思えない。


それでも、神様の最後の所有者であるエスティアが、神様の最期を見届けないという選択はあり得ない。


トルテラは死ぬ目的で戻ってくる。

エスティアは最期を見届ける義務がある。



トルテラが来なければエスティアは既に死んでいるはずだった。

トルテラはエスティアの意志に反したことはしない。


エスティアは死にたくなくて、トルテラに助けを求めた。

鎧で空を飛んだ後に生まれた記憶で知っている。

エスティアは、死ぬとき、大きな存在に助けを願った。

大きな存在が本当に現れて、身代わりになって助けてくれた。それがトルテラだ。

今ではその因果関係も理解できる。


ヨコハマの女から譲り受けたのは私なんだから、私が最後を見届ける約束で譲り受けたんだから、辛くても逃げることはできない。


実際に口に出して言ってみる。

「私が神様の最後の所有者なんだから、最期まで見届けないといけない。

 それが、ヨコハマの女との約束だから」


神様のことは人間がどうこうすることはできない。

おそらくは、エスティアがやり遂げることを知っていたから、ヨコハマの女はエスティアに神様を託したのだ。


エスティアは誘拐された先で、空の上にいる神様に鎧に乗って会いに行った。

どう考えても、常識で語れるような内容ではない。

誰もが絶対におかしいと言い切れるようなことが実際に起きた。


おそらく結果は決まっている。


だとすると、エスティアはトルテラの尻尾に乗る機会が訪れる。

尻尾に乗った後、猫が来る。

おそらく、ルルが石から読んだ内容は予言のように事実になる。


おそらくそれも確定している。他の女たちも尻尾に乗る可能性が高い。

今まで尻尾に乗って出かけたのはリーディア一人だけ。


そう考えると、トルテラが滞在する期間は、おそらくそれほど短い期間では無いように思える。

ディアガルドとグリアノスが待てる期間も限られるから限度はあるだろうが、10期(5年)くらいは待ってもらえそうな気がする。竜にとって10期(5年)はさほど長い期間では無いだろうから。


トルテラが居なくなるまでに、やらなければならないことを考えておく。


そして、明日は、全力でトルテラを連れ戻すために頑張ろう。

エスティアはそう誓った。

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