37-26.[異世界側のお話です]妻の形見を持たせる(3)
リーディアがエスティアに問う。
「それはそうと、なぜ急にリナの絵(写真)が見えた?」
それはリナも疑問に思っていた。
----
そして、当のエスティアも疑問に思っていた。
エスティアは、この3人の中では石の特性を比較的よく知っている方だという自覚はある。
触れた期間が一番長いという程度のレベルの話ではあるが、おそらく現時点では一番よく知っている。
エスティアの知る限り、石の記憶は一度見えれば、次回以降見えやすくなる。
だから、一度見えたものを、再び見ることができることに不思議はない。
そして、石の記憶は2人で読めば2人に同時に同じものが見えることが多い。
3人で読めば、3人に同じ場面が同時に読める場合が多い。
だが、今度の場合、3人で読んでいたのにもかかわらず、最初の一回は、なぜかエスティアにだけ見えた。
その理由は、エスティア自身にもよくわからない。
ただ、エスティアがその場面を読もうとしたわけではなかった。
そもそもエスティアはリナの絵(写真)の存在も知らなかった。
「私は、あの絵があることも知らなかった。
だから、私があの記憶を探したわけではないと思う」
「探したわけではない……というと?」
エスティアの感覚では、自分で読んだという感じではなかった。
ヨコハマの女が見える記憶を探していたら、リナの絵(写真)が見えた。
見る内容をエスティアが選んだのではなく、石がエスティアに見せたように思える。
「リナの絵が見えた理由はわからない。
けど、探しているものが読めたんじゃなくて、石に見せられた気がする」
それを聞いてリナはあっさり納得する。
「ああ……たしかに、そんなこともあるな」
「…………」
リナとリーディアにも何か思い当たることがあるようだ。
エスティアは、話して素直に通じるとは思っていなかったので意外に感じた。
「思い当たることがあるの?」
----
”思い当たることがあるの?”エスティアはそう言ったが、もちろんある。
読むのに疲れて諦めた頃になぜか一瞬だけ大事な場面が見えることがある。
例えば、リナがラハイテスに何か大事なものを渡すシーンとか……
リナがその話をする前にリーディアが答える。
「ああ、ジェローネの件がそれだ」
リーディアもあの時一緒に見たはずなのに、ラハイテスの話ではなく、ジェローネの話の方をした。
ジェローネの件でも嘘ではないが、重要なのはラハイテスの話の方だ。
わざとごまかしたのだ。
隠した意図はわかる。
エスティアがあのことを知ってしまえば、調べるのが難しくなる。
つまり、リーディアはリナとともにランデルに行こうとしている可能性がある。
----
「ジェローネの話がそうだったの? ……なんで今頃ジェローネの……」
エスティアは、そこまで自分で言って気付いた。
ランデルが攻められる前に、リーディアがランデルに行く必要があったからだ。
「ランデルに行かせるため?」
「私もそう考えている」
ジェローネの件に関しては、そう思える。
気持ちの問題だけで、結果に影響が出るかは怪しい。
むしろ、”なぜその記憶がいまさら読めたのかに疑問を持て”とでも言わんばかりだ。
「石がタイミングを見計らって記憶を見せているのか?」
「自分の意思を持ってるってこと?」
「思考能力があるのかはわからないが、タイミングが良すぎる」
思考能力が無くてもタイミングを合わせることができそうな気がする。
何か知っている気がする。
3人とも気付いた。
「これがあの【フラグ】ってやつ?」
「ああ。過去にも何度かあった。狙ったようなタイミングにシートが現れる」
「あれは狙ってるんだろう」
「シートは狙って動いているが、狙いは外れることが多い。
シートが知っている情報と現状にズレがあるから。
ズレたところでシートが現れるタイミングで何かが起きる」
※リーディアさん、よくわかってますね。
「【フラグ】が立つと何かが起きるんだったな」
「それに操られているような気がしている」
「結局、その【フラグ】って何なのかしら?」
「【フラグ】についてはよくわからない。
私たちに何かしらの行動を起こさせるために、
時期を見計らって石が記憶を見せているのかもしれない。
フラグが立てば何かが起きるのだとすれば、
フラグを立てるための仕組みがあるのだろう」
「でも、リナの絵(写真)でフラグが立つの?」
あれを仕掛けた人物がいるとしたら、あの場面を見て我々が何をすると考えるか。
「私の絵がヨコハマに存在していることを見せて、何かをさせたい可能性か」
「リナの姿を知っていることを、私たちに知らせると私たちが何かをする?」
「顔が知られているからといって何もないように思うが」
「どうも、しっくりこない」
リナは何かが引っかかる。
「リナは”石が見せたいものを見せている”という説には納得いかないか」
「あれ? さっき思い当たることがあったみたいだったけど」
「いや、そうではないんだ。石が見せていることは思い当たることがある。
そうではなくて、さっき見えた記憶で私が言っていないことを話していたんだ。
私は”子供がいる未来が確定する”とは言っていないと思う」
「ああ、ヨコハマの女に伝えた話の内容?」
「そうだ。子供がいる未来とはなんだ?」
リナは自分がそんなことを言うとは思わなかった。
そもそも”子供が居る未来が確定する”とはどういう意味かもわからない。
ところがリーディアはあっさり言う。
「私はわかるぞ」
「どういう意味?」
「簡単なことだ。神殿は竜の巣。竜の巣は子育てのためのものだ。
以前トルテラは人間と竜の巣を作ったことがある。
人間が相手でも竜の巣を作ることができる。ディアガルドが言っていた」
確かにディアガルドはそう言った。
だが、あのストーンサークルはエスティアとトルテラで作ったはずだ。
「私とでしょ。でも、子供なんていないじゃない。
それに、”ちゅうかまん”に壊されちゃったし」
「そこだ」
「そこだって何よ」
「確かに、言われてみれば、神殿跡地は竜の巣だったか。
だが、子供がいる未来が確定するというのは妙に聞こえるな」
「私は神殿ができれば子供がいる未来が確定すると思っていた」
「なぜそう思った?」
「竜は子育てのために巣を作る。だから、竜の巣があるなら子供が居る。
そう思っていた」
「私も竜の巣作ったんだけど」
「ああ。そのとおり。改めて考えて気付いた。
エスティアも巣を作ったが、子供は生まれていない」
「じゃあ、嘘ってことになるのかしら?」
「仮に、巣があれば子供が生まれるとして、
ヨコハマの人間はあの歳で子供を産めるのか?
私は、もう一人の方がトルテラの娘じゃないかと思ったのだが」
ヨコハマの人間の生態はよくわからないが、エスティアが見た限りでは、
トルテラは既にヨコハマでやるべきことを終えたから返すと言ったはずだ。
よく考えるが、どういう意味なのかよくわからない。
なぜリナは、自分があんなことを言ったのかがわからない。
そこでエスティアが妙なことを言い出す。
「あ、わかった! その話嘘なのよ」
「突然何を言い出すんだ」
エスティアがふざけたわけではないのはわかるが、意味はさっぱり分からない。
「噓を言っちゃったのよ。石には未来の記憶も入ってる。
だから、私たちが見たのは石の記憶で、あの場面はこれから起きるんじゃないかしら」
「そっちか!!」
「なるほど。そうか」
石から読めた記憶ではあるが、これから起きることかもしれないとエスティアは言っているのだ。
「リナは記憶を見ただけで話してないんじゃない?」
「言ったのは私かもしれない」
今度はリーディアが妙なことを言い出した。
「え? どういうこと?」
「私は子供の居る未来が確定するという言い方をするかもしれない」
「言ったの? いつ?」
「それはわからない」
いつ言ったのかわからないのに、リーディアは自分が言ったかもしれないと思っている。
なぜそう思ったのかわからない。
「あれを言ったのがリーディアであれば、私も納得できる。
私は子供のいる未来が確定するとは言わなかったと思う。
でも、それ以外の話は私がしたように感じている」
「なんでリーディアは、確定すると言ったの?」
「先ほど話した通りだ」
「ちがう、そうじゃなくて、”神殿を必ず建てろ”とかじゃなくて、
なんでその言い方なのかと思って」
「ヨコハマの女は、自分で神殿を立てると言っていた。建て方は知っているのだと思う。
だから、それを実行させようと思った……というのが理由だと思う」
「”理由だと思う”?、思うって?」
「私は、神殿を作れば子供は生まれるものだと思っていた。
だから、神殿の作り方を知っている相手に、神殿を作れと言うなら、
その言い方をするかもしれないと思ったのだ。
そして、実際に言ったような気もしている」
「でも、神殿を作れば子供の居る未来が確定するって、正しいの?」
「ああ。そうでも無さそうだ。
誤って、あの話をしてしまったのかもしれない」
「どうやって神殿建てるのかしら?」
「どうって、エスティアは竜の巣を作ったことがあるだろ?」
確かにあるにはあるのだが、あれは竜の巣を作りたかったのではない。
エスティアも巣から追い出されたのだ。
「あれは、建物の下敷きにならないようにトルテラが人間を
追い出すためにやったんでしょ。それで子供が生まれるの?」
「確かに……それでは子供は生まれないか。
エスティアの時も生まれなかった。
おそらく、追い出されないように巣を作る必要があるのだろう」
「どうやって?」
よくわかった。
確かに、まともに竜の巣を作る場合どうすれば良いのかという疑問を持つことになる。
「私は知らないが、ヨコハマの女は知ってそうだ」
リーディアは、そう答えたが、同時に気になることがあった。
ヨコハマの女には【見えない毛】があるのではないだろうか?
【見えない毛】がある者とであれば、トルテラは巣を作ることができるのではないだろうか?
リーディアの考えたことに、エスティアとリナが気付く。
「あ、あの毛が関係あるの? あのときの私にはあの毛が無かったから?」
リーディアの思ったことが石を通してエスティアとリナに伝わったのかもしれない。
そこまで知られてしまったので隠さず答える。
「根拠は無い。だが、この毛は普通の人間には無い」
エスティアは、それが真実のように感じた。
ルルに毛があってよかった。リーディアだけに生えていたら心配するところだった。
ヨコハマの女はおそらく神殿を建てることができる(とエスティアとリナとリーディアは思った)。
「鎧と神殿の話をしている場面が、石の記憶を読んでるだけだとしたら、
この石を使って、ヨコハマの女に伝えることができるかもしれない」
「あの言い方で伝わるから、あの話を伝えろと石は言っているのかもしれないな」
「きっとそうよ。
石が、あの記憶が見せた。
ヨコハマの呪いの女に憑りついて、そして、あの言葉を言わせる。
そうしたら、トルテラが帰ってくるんじゃないかしら?」
「石がわざと見せた説だな。
では、私の絵(写真)がヨコハマにあることを見せたのはなぜだ?」
「石が見せたい記憶を見せていることを教えるためじゃないかと思う」
「ああ……確かに、あれを見て石が見せたいものを見せている可能性に気づいたからな」
「もし、これから伝えるのであれば、子供の居る未来が確定すると伝えよう」
「正しくても間違っていても、そう伝えて、その結果トルテラは戻ってきたのよね」
「そうなるな」
確かにそうなのだ。
……………………
……………………
3人の出した答え。
あの場面が存在して、結果としてトルテラは戻ってくる。
あの話の内容が正しいかどうかは関係なく、あの場面が存在することによって、結果としてトルテラは戻ってくる。
だから、間違っているかどうかと関係なく、あの内容を伝える必要がある。
この結論は一見危険にも思える。
だが、石の記憶として存在する以上、あの場面は存在する。
だから、あの場面を再現する必要がある。
話の内容が間違っていたとしても、あの場面を再現できれば、トルテラは戻ってくる。
--------
今日は、平衡感覚がなくなるほど石を読んだわけではないが、相当長時間相談していて疲労している。
「今日はもう無理よね」
「そうだな、今日は疲れた」
「今やっても成功しないだろう。だったら、力は明日のために温存した方が良い」
「そうね、明日」、「ああ」
3人の気持ちは一致した。
おそらく明日が決戦の日になる。
「続きは明日にしよう」
そう言って解散する。
----
見張りの兵は、見守るだけで口は挟めない。
見張りの兵は見たことを報告する義務があるが、今何があったのかを細かく聞くことはできないため、”トルテラが女たちの存在を思い出した結果、リーディアとルルの体に変化が起きた”と認識した。
そして、アイスから体の変化が、肉眼では見えないが、トルテラのしっぽの毛と似た手触りの毛が生えたという変化であることが聞き出され、結果として、トルテラが戻るという噂が兵の間で広まり、それはわずか数日のうちに城下町全体に広まることとなった。
※こうなると、だいたい事実のように扱われます。
なので、そろそろおっさんが戻ってくるということで、
それはいったい何日後だろうなどと噂されています。




