37-24.[異世界側のお話です]妻の形見を持たせる(1)
昼食後、今度は場所を変え、リーディアとエスティアとリナの3人で集まっている。
基本、女たちは集まって話をするのは避けている。
※前回の乳比べも見張りの前でやってます。
”余計なことを企んでいませんよ”という意思表示だ。
疑われると面倒なので、集まる場合は兵を部屋の中に入れて、何をしているか見せてしまう。
とはいえ、女たちは暇潰しに2人集まるのはあたりまえ。
むしろいつも2人で居るような組み合わせは特に問題とされない。
例えば、ルルとテーラ、テーラとアイス、エスティアとリナであれば、さほど警戒されない。
元々この2人は一緒に居ることも多いからだ。
2人程度なら、ドア越し警備でも許される。
3人でも、メンバー次第ではなんとかなる。
アイスは何かを企むようなことは無いので、悪だくみという意味ではほとんど警戒されない。
例えば3人であっても、ルルとテーラとアイスが一緒に居ても、ドア越し警備が普通だ。
あまり警戒されることは無い。
※ただし、アイスさんが単独で脱走したりすることはあるので、
そういう意味では監視されています。
逆に、2人であっても警戒されるのがリーディアだ。
今ここに居るのはリーディアとリナとエスティアの3人だ。
リナは現在”石”を持っており、要注意人物になっている。
今現在、重要なアイテム”石”を持っているのがリナであることは見張りの兵は把握している。
エスティアをこの町から出すと、町から不満が出る。
それを知っているので見張りの兵も、エスティアの動向には注目している。
リーディアは元から要注意人物。
つまり、この3人の組み合わせは、最も危険な組み合わせの1つだった。
本来なら、部屋の中で話の内容まで把握しておく必要がある。
それでも、リーディアは、見張りが部屋に入るのを阻止した。
※本来あってはならないことですが、リーディアは事実上のトップであり、
4軍も逆らえない部分があります(逆らってトラブルになる方がダメージ大きい)。
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※解説は読みたい方のみ読んでください。
■解説:見張り
見張りは4軍と町の住人(軍以外)の2種類が存在します。
基本4軍と町は別組織であり、情報の共有は限定的です。
4軍とは、町をめぐって対立する4つの軍、【トート森】、【南マイト候領】、
【北マイト候領】、【ダルガンイスト要塞】を指し、
基本は4軍自体が、町と自分以外の3軍を監視するのが任務であることから、
兵の大部分が警備、監視の任についています。
室内で見張りができるのは4軍のみです。
さらに、屋内が許される兵は決まっていて、8人しかいません。
4軍から2人ずつで最大8人。非番もあるので同時に8人は動けません。
情報量に大きな偏りが生じるのを避けるために4軍で出せる人数を決めている都合です。
軍には代表者がおり、交渉の結果、屋内での見張りが可能になっていますが、
町の代表者は団結力に欠けるため、屋内まで見張りを付けることができませんでした。
そのため、屋内で見張りができる8人は、特別な存在です。
こういった”情報収集が目的の側仕え”は基本、聞いた話を漏らしません。
(誰と会った、どんな話をしていたという記録は残し報告しています)
そんなことをしたら職を失うので口は堅いです。
この者達から情報を聞き出そうとするのもご法度。
この8人も軽く警護対象になっており、単独での外出には多少不便があります。
情報を漏らさないことも大事ですが、本来の任務は”聞いた話を漏らさない”
では無く、”何かあればいち早く自軍に知らせること”ですから
”行動の兆し有り”、”深刻な問題を隠している模様”といった報告は即座にします。
現在は既に、リーディアに”行動の予兆あり”なので、
部屋の中で見張るのが普通です。
※部屋に入れる権利で4軍でもめるため、行動の予兆あり等の報告は4軍全体で共有されます。
そうしないと、部屋の中で見張る権利をめぐって戦争が起きてしまいます。
■解説:この時点での、主に城下町における女たちの評価
町では女たちの特徴が良く知られています。
ただし、勝手に作られた噂話が混ざっていたりするので、本人たちを正しく評価した内容ではありません。
このように特徴付けされて知られているという話です。
□リーディア
トルテラ不在時の城下町代表代行。勇者の鎧を持つ勇者。
(自称)トルテラの妻の中で唯一、まともに外交ができる。
頭が良く悪知恵が働く。扱いには注意が必要で油断ならない人物と見られています。
故意に話に嘘情報を混ぜたりするため、監視は大変です。
兵たちに人気があり、戦場でも頼りになる指揮官ですが、現在は軍属から外れています。
元はダルガンイストの職業軍人。
軍の職務上必要な爵位を持っているが、軍属から外れる今も爵位は継続して持っています。
単騎での戦闘能力も高く、一対一では絶対に勝てないほど強いと信じられています。
連合式の公文書作成ができるはずですが、自分ではやらないことが多いです。
□エスティア
ウグムの踊る聖人(マイト候領での勇者にあたる人物)。
ウグムの町では、トルテラの所有権はエスティアにあると考えられています。
ウグムの町以外でも各地でそのように認識されています。
(エスティア自身もそう思っています)。
踊りが非常に上手いということは無く、縁起物のような扱いです。
この土地では人気ありますが、この土地以外では偉い人には嫌われています。
特に連合外では、無礼で気難しく、怒らせると国を滅ぼされる可能性がある
危険人物だと思われています。
※一人で行動したら、実はとんでもなく空気読まないことが発覚しました。
軍に在籍したことも、軍のルールも知りませんが意外にも軍人から人気があります。
実は脳筋の人だからです! 筋肉は兵士には全然及びません。
ハスクバハル行き以降は、並みの兵士では全く歯が立たない剣の達人であり、
短弓の腕は世界一と言われています。※勝手に言われてるだけです
(短弓の腕だけで見れば、世界一ということは全くありませんが、敵から見ると
凄く嫌な相手です。短弓持ったエスティアが付近に居るだけで、行動に制約を
受けるくらいの脅威と考えられています)
□テリシア(テーラ)
森と竜から選ばれた妻(トート森から見るとテーラが勇者のようなもの)。
森にトルテラの子を連れ帰ると信じられており、森の人たちに人気があります。
今では父親のテリオスが【大きな竜・ガスパール】と話をしたことが知られており、
その娘としても有名です。
※テリオスの娘でテリシアとなれば、確実に父親の使命を受けついだ娘と考えられます。
グリアノスと意思疎通が可能なことも知られており、それが父親から受け継いだ能力だと
考えられています。
※実際は、グリアノスとの会話能力は母親から受け継いだものです。
□ルルシア(ルル)
”妻たちの中で、一番まとも”だけど権力を持たない人物だと思われています。
ただし、なぜか”カタイヤの娘説”が噂されています。
シートの娘ではないことが知られていて、さらには、テリオス(ガスパール)の
娘であることも知られています。
そこに、ラハイテスの噂が混ざってそうなってしまったのだと思います。
子供の頃にトルテラと会っていることを目撃した人も存在するため、
一部では、”目立たないが、実はトルテラとのかかわりがとても深いのではないか”
と考える人たちもいます。
妻たちの中で唯一戦闘は全くダメ(自衛もできない)と思われていましたが、
暗殺未遂の際に”矢を落とす女”であることが発覚しています。
気配察知のあるこの世界では、矢を落とす女が居ると、矢での暗殺が、ほとんど不可能と
考えられています。
ルルは(あんまり難しいものは無理ですが)連合式の公文書作成ができます。
(ちょっと上級な公務員みたいな仕事ができます)
□リナ
エスティアとともに、最初期からトルテラと行動を共にしていることが
知られていますが、エスティアの影に隠れてしまって、目立ちません。
ただし、トルテラとともにゲートを使って移動したことが有り、森の一部の人は、
本当はリナが一番トルテラと特別な関係にあるのではないかと思っています。
城下町には森から来た人も多いので、リナのことを重要視する人も居ます。
元冒険者(底辺野郎)であることは知られていますが、言葉遣いや行動から、
元は下層の人間ではないと考えられています。
※実際そうです
□アイス
兵士や冒険者とは仲が良いが、権力者や、護衛役、監視役にとっては厄介な人物です。
トルテラの妻たちの中では唯一下層言葉(むしろ一般人の言葉です)しか話せません。
護衛対象、町に滞在してほしい人物としての順位は最下位。
ただし、竜やイグニスと会話ができるなど、特技が多いことは知られています。
スワレン、ラハイテス、カヤハルと試合して全勝しているため、剣術は相当強いと
思われています。
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エスティアは、なぜ自分が呼ばれたのか見当はつく。
リーディアに、謎の【見えない毛】が生えた。
そのタイミングで”ヨコハマの呪いの女に鎧の話をしたリナ”と、”リナにヨコハマの呪いの女に鎧のことを話せと言ったエスティア”が呼ばれたのだ。
「で、話っていうのは?」
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リーディアが、この3人で話をしたいと思ったのには理由がある。
「この毛だが、今になって生えてきたのには理由があると思っている」
リーディアは、わざわざその話をするが、もちろんエスティアも見当が付いていた。
まあ、今朝から毛がどうだであれだけ騒いでいたのだ。
毛に関係があるであろうということは簡単に想像がつく。
※エスティアさんは、乳比べの刑にも遭っていて既に相当ウンザリしています
ただ、わからないこともある。
毛だけの話であれば、リーディアとリナの2人で話を進めそうに思える。
或いはルルを含めるはずだ。
町から出ないようにマークされているエスティアを話に加えると面倒なことが増える。
だから、それでもエスティアを呼ぶ理由があったのだとは想像できるが、その理由が何なのかがわからない。
「珍しいわね。私も呼んでくれるなんて。
知りたいのはヨコハマの呪いの女の話?」
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エスティアが何を思ったかは、だいたい見当が付く。
そこには触れず、リナが事情を話す。
「ああ。実は、相変わらずヨコハマの呪いの女が見えない」
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”ヨコハマの呪いの女が見えない”、これを聞けば何が目的でエスティアを呼んだのかは理解できる。
エスティアは、ヨコハマの呪いの女と直接話をしたが、ヨコハマの情報は読んでいない。
それに対して、リナはヨコハマのトルテラの情報をかなり読むことができる。
なのに、ヨコハマの呪いの女が見えない。そのことを言っているのだ。
これは、エスティアには不思議に思えた。
「リナはヨコハマの風景が見えるのよね?」
まあ、確かにヨコハマの景色も見えることはある。
だが、あれはヨコハマの景色を見ているわけでは無く、トルテラの記憶にヨコハマの景色が出てくるだけだ。
そのことを話す。
「ああ。風景というのかな? 私が見たのはトルテラの日常だな。
ただ、トルテラはいつも孤独だった」
リナはそう言うが、エスティアはヨコハマの景色を全く見ていない。
「私は、鎧に乗って空の上まで会いに行っただけで、
ヨコハマの風景は見えなかったから……」
リーディアは、大雑把な話は聞いて知っているが、明確化するために確認する。
「エスティアはヨコハマの景色は見ていないのだな?」
「ええ。この石の中にはヨコハマの記憶は入っていないのかと思った」
エスティアは、ヨコハマの記憶を見ることは無かった。
だから、石の中にヨコハマのことが入っているとは思わなかったし、入っていたところで読む方法は無いと思っていた。
「だが、リナにはヨコハマの日常が見えた……と」
これも、既に何度も確認していることだ。
リナはヨコハマの景色を見ている。
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リナは今まで通り、見たことを話す。
「私が見た記憶では、トルテラがヨコハマで孤独に過ごしていた。
ヨコハマの呪いの女はほとんど出てこなかった。
一度だけ話ができそうに感じた時があって、鎧の話を伝えた。
そのときは、呪いの女では無さそうな女も2人いた」
「話をしたとき、呪いの女はなんて言ってたの?」
「話しかけたんだが、よくわからなかった」
「どういうこと?」
エスティアは、あれが何語だったのかはわからないが、ヨコハマの女と会話ができた。
相手も普通の人間だった。
リナの言葉はヨコハマの女には聞こえていなかった、或いは、話の内容がうまく伝わらなかったのか。
「私にもよくわからなかった。
呪いの女は近すぎて顔もろくに見えなかった。
ただ、そのとき、正面に、呪いの女ではない女が2人いた。
その2人は貴族か何かに見えた。
片方は凄く太っていた。
たぶん貴族だと思う。平民で、ああいう肉の付き方は見たことが無い」
エスティアは”貴族”という言葉に違和感を持つ。
今までリナはヨコハマに貴族が居るような話はしていなかった。
そもそもトルテラはヨコハマには貴族は居ないと言い切っていた。
それはリナも知っているはずだ。
貴族かどうかを別としても、エスティアは、その人物に心当たりは無い。
「貴族みたいで、太っている人だったら、その人は、私が見た人とは違うみたい」
リナはもちろん、エスティアが会った女と別の女が見えたことはわかっている。
偶然あの場に居ただけなのか、それとも何か意味があるのか。
とはいえ、意味も無いのに出てこないだろう。
「あれが誰なのかは私にもよくわからない。
ただ、全く無関係の人物が見えたとも思えない。
エスティアが誰と何を話したのかもう一度教えてくれ」
「ええ(了解の意味)」
エスティアは、あのときのことをよく思い出しながら話をする。
……………………
「誰と話したかと言われても、呪いの女。2人居た。
あの女の向こうにトルテラがいるのはわかっていたから。
その2人は、前にも話した通りで1人はジョシュアと
同じくらいの歳(25歳前後)で、もう一人はトルテラに近いくらいの
歳(50歳前後)だと思うけど、もっと若いのかもしれない。
その人がヨコハマの妻。
私が話したのは妻の方で、若い方とは話していない。
”鎧は集まったの?”と聞かれた。
私は”鎧は集めなくても、はじめから揃ってる”と答えたはず。
それに対して”既に集まってるの?”と訊かれた。
呪いの女は、鎧が既に集まっていると聞いて違和感を持ったように見えた」
※エスティアは何を伝えたのか、正確に知りたい人は
”35-20.絶叫作戦(117)接触(69)ヨコハマの呪いの女と鎧の呪いの女(2)”参照
以前聞いた話と同じだ。
リナが見た2人は見ていないようだ。
「ほかに何か無いか?」
「うーん、そうね、いろいろ話したような気もする。
そういえば、雨漏りの宿舎で何をしているのか気にしてた?」
「雨漏りの宿舎が見えたのか?」
「ええ」
「でも、(ヨコハマの女には)何をしているのかはわからなかった。
ヨコハマにはシールド魔法(雨除けの魔法)が無いから」
トルテラはヨコハマには魔法は無いと言っていた。
確かに、トルテラが雨漏りを防いでいたことは理解できないのかもしれないと思う。
「なんで、その場面が見えたかわかるか?」
それには心当たりがあった。
「トルテラの帰りを待っている人がたくさんいることをわかってもらうためだと思う」
「なるほど」
確かに、そう解釈すると筋が通る。
「それは伝わったのか?」
「ええ。たぶん。トルテラが大事にされてたことはわかってくれたと思う」
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リーディアは、わざわざ神様を返すと言ったくらいだから、理解してもらえたのだろうと考えていた。
その割には戻ってきていない。何か条件が足りていない可能性がある。
「エスティア、再度、神様を返す条件のことを教えてくれるか?」
これはエスティア自身が少々混乱していた。
何度も話をするうちに、どれが自分で話した言葉で、本当に聞いた言葉が何だったのかが、だんだん混ざってわからなくなってきてしまったのだ。
「それが……何度もその話をしているうちに、
なんて言われたのか正確にはわからなくなってしまって……
そもそも、何か変なのよね。言葉が曖昧に思えて」
それはリーディアも認識していた。
エスティアがその話をするとき、記憶が曖昧であるとエスティア自身が認識しているに見えた。
「覚えてる限りで良い。以前聞いた時のこともメモしてある」
重要な内容なので、ある程度メモしてある。
その時聞かなかった、漏れでもあればと考えただけだった。
すると、エスティアが妙なことを言う。
「石から見えないかしら?」
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それはすでに何度も試している。いまさら言いだす意味が分からない。
「何度も試して無理だったじゃないか」
リーディアは、良い案だと思ったが、リナはあまり乗り気ではないようだ。
一応、試してみることを提案する。
「試してみる価値はあると思うのだが」
「今まで読めなかったのに?」
即答だった。リナはすでに何度も試した結果ダメだったから、そう言っているのだ。
「今、この3人なら読めるかと思って」
エスティアはそう言うが、以前にも誰と誰で何が見えるかを試したことがある。
3人以上では、まともに成功したことすら無い。
普通に考えたらうまく行くはずがない。
それはエスティアも知っているはずなのだ。
だが、石から読もうと言っている。
「何か新しい方法でも思いついたのか?」
「新しいことは特に……」
「今まで何度もやってできなかったのに?」
「ええ。もちろん読めないかもしれない。
でも、今なら読めるかもしれない。
今3人の読みたいものが一致しているから」
既にやってできなかったことを、エスティアは再度やろうと言っている。
根拠は無いが勝算が無いとも感じていなさそうに見えるのだ。
リナとリーディアは目で確認する。
”とりあえずやってみる”
「やるだけやってみよう」
……………………
3人で石を握る。
「今日はまだ3人とも元気だから、疲れて見えないことは無いはずだ」
そうリナが言うが、エスティア的には元気な気がしない。
「朝からあんなことされて、元気なわけないでしょ」
※無理やり毛が無いか調べられたり、乳比べさせられたりしています。
(リナさんも一緒ですが)
リーディアは、凄い勢いでスルーした。
「そうか、ならば、元気を振り絞って読んでくれ。
何を探せば良いか教えてくれ」
リーディアがそういうのを待っていたかのようにエスティアは答える。
「私が鎧に乗って空の上に居るヨコハマの呪いの女のところまで上がった。
”最期を見届けて”って言ってたはず」
今までその場面を見たことは無いものの、話は何度もエスティアから聞いていたので、イメージは沸いていた。鎧で空高く上がる場面だ。
高く高く上がっていくイメージを持って石の記憶を探していく。
何かが見える。
以前は、この場面の話を聞いても何も見えなかった。
「リナ」、「ああ、何か見えているのか?」
見えた。確かに、エスティアは空高くを目指している。
そこにいる呪いの女に石を渡そうとしているのだ。
「「何かが見える」」
……………………
……………………
『あの人の最期を見届けて。
それが私があなたに神様を渡す条件。
あの神様は私が作り出してしまった。私はそっちには行けない。だからあなたに託したいの。
それが無理なら、私はこの世界で神様を消し去る。あの人には恨まれるかもしれない。
でも、ジン君は私のもの。納得できない相手に譲る気はない』
『神殿を作って、神様を返します。
でも、神様は願いを叶える間しか存在できない。
だから、いつか手放さなければならない時が来る。
そのときは、笑って見送ってあげて』
……………………
……………………
それだけだった。見えたのは、ほんの僅かな時間だった。
だが確実に見えた。
「見えた!」
エスティアの言ったとおりだった。確かに見えた。
だが、今の言葉を記録したい。
「少し待ってくれ、書き記しておきたい。キャロ、書記を頼む」
リーディアは正面を見たまま言うが、どこからともなくキャロが現れ、リーディアの話を記録していく。
「あの人の最期を見届けて。それが私があなたに神様を渡す条件……」
見えた時間は短かったが3人ではじめて石の記憶を読めた瞬間だった。
快挙と言って差し支えない偉業だった。
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キャロの書記が終わると再度話を進める。
「凄いな、まさか3人で、あんなピンポイントで読みたい情報が読めるとは思わなかった」
「話に聞いた場面でも、読みやすくなるのかもしれないな」
リナとリーディアは浮かれていた。
なぜ急にエスティアがあんなことを言いだしたのか聞いてみる。
「エスティアは、なんで読めると思ったんだ?」
「え? もう、記憶が曖昧になったから、直接読んだ方が早いと思って」
これは、読めると思った理由ではない。
読めると思ったから読んだ方が早いと思った説明だ。
エスティアは読めると思った。そして実際に読めた。それが事実だ。
突っ込みを入れるでもなく、次の話題に入る。
「エスティアは見届けることに同意したんだよな?」
「わからない。返事をしたかわからないけど返してくれるって言った」
ヨコハマの妻は、最期を見届けるなら、神様を譲渡しても良いと言った。
そして、エスティアに神様を渡すと言った。
エスティアが同意したから、神様を譲渡することを決めたはずなのだ。
別に、勝手に最期を見届ける約束をしたことに文句を言う気は無い。
「問題ない。私も覚悟はできている」
そう言ったリーディアに対し、エスティアはこう答える。
「私は手放すなんて言わなかったと思う」
エスティアが言わなかったとしたら、なぜ、ヨコハマの女は渡す約束をしたのだろうか?
そこは疑問だが、最期を見届けるのは普通のことでもある。
「”いつかは手放さなければならない時が来る”。
ヨコハマでは男も160期(80歳)まで生きるからこう言っているが、
私たちにとっては男が早死にするのは普通のことだ。
気にするほど重要な問題ではない」
そう。エスティアは、勝手に手放すことを決めるのは良くないと思っていたが、リナやリーディアにとっては、帰ってきて欲しいというのが第一であって、トルテラが死ぬまで一緒に暮らすことを求めるのは強欲すぎると思っていたのだ。
※長年の読者の方には説明不要かと思いますが、この世界の男性は30歳くらいで、
こちらの世界の60代から70代くらいの体年齢まで老けることが多く、
女性より遥か先に死にます。
なので、男が先に死ぬのは普通で、特に悲しむようなことではありません。




