37-23.[異世界側のお話です]3番目は誰だ(下)
少々気まずい事情があった。
あのときは、皆、”リーディアのせいでトルテラが死んだ”と思っていたので、リーディアに酷いことを言ってしまった。
あれは、あの状況では仕方なかったと思う。
気まずい理由の大きな部分は、その後にある。
トルテラの生存を知ってからも、リーディアに(トルテラの生存を)伝えなかったのだ。
意地悪でそうしたわけではないということをリーディアも理解しているが、しばらくの間、リーディアは、自分のせいでトルテラが死んだと思って過ごすことになった。
そのあたりの都合、わざと詳しく説明しなかったのではないかとエスティアは考えた。
だが、リーディアは、あまり気にしていない様子で話を進める。
「私は受勲を拒否しようと思っていた。
あの【蒼薔薇章】は軍でも特別のもので、通常の勲章ではない。
巨人を倒した者が受けるべきものだ。私は受け取れない。
巨人を倒したのは私では無いからな」
※蒼薔薇章は普通の勲章ではなく、おとぎ話に出てくるようなものです。
ダルガンイストの勲章に花は通常使われません。
勇者の持つものなので、中央の薔薇の上に鎧、さらに鎧に重ねて
ダルガンイストのマーク(ダルガンイストは盾がマークなので
鎧の上に盾になってしまっています)
※なお、蒼薔薇は伝説上の花で、実在しません。
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軍で立場が悪くなってもなお、リーディアは巨人退治の戦果を受け入れなかった。
ここまでは皆知っている。
※実際に巨人を倒したのがトルテラだとしても、そのときの指揮官である
リーディアの戦果になっても、特に不思議なことは無い。
なので、話の核心はその後にある。
「でも、勲章は受け取って、辞める時に置いてきたんじゃなかった?」
リーディアはある日突然辞めると言い出し、勲章を置いて軍を去った。
つまり、辞める前は持っていた。受勲しているはずなのだ。
「ああ。そうだ」
「なら、何の問題が?」
「私も何も問題は無かったと思っていた」
「今頃何かがわかったってことね?」
「ああ。キャロがジェローネに話した内容に問題があってな……
私が受勲を拒否しようとしていることを話してしまった。
私が受勲を拒めば、ジェローネの受勲も取り消しになる可能性がある」
「なんで取り消しになるんだ?」
「同じ戦場で戦ったものの武勲に順位付けをしているのに、
最上位の者が受け取らなかったら問題になる。
受け取る義務がある。
特に、それが【蒼薔薇章】ともなれば、辞退すれば授与式自体が中止になる」
受け取る義務があるというが、リーディアは拒否と言った。
「拒否って言わなかったか?」
「ああ。私も武勲に見合ったものなら受け取るつもりだった。
それなりの働きはしたからな。あの時の私はそう思っていた」
「あのときの?」
「なんだ??」
「石の記憶で見た。
あの戦いは、完全にトルテラが居たから死なずに済んだ者が多かった。
兵たちがそう思ったというだけではなかった。
確実にトルテラが皆を守ったのだ。
後からとは言え、真実を知ることができて良かった」
「どういう意味だ?」
リナが説明する。リナは一緒に石の記憶を見ていたので内容を知っている。
「トルテラは指揮官としても非常に優秀だとリーディアは評価している。
ダルガンイストの兵に死人が出ないように城壁まで巨人を誘導した」
”ダルガンイストの兵に死人が出ないように城壁まで巨人を誘導した”
これは皆が知っている情報だった。
リナの説明ではリーディアが何故、トルテラが指揮官として優秀だと言っているのかがわからない。
「兵を守りながら後退したのは知ってるけど、それが指揮官と関係あるのか?」
「ただ兵を守りながら撤退したわけでは無かったんだ。
兵たちが立て直す時間稼ぎもしてたみたいなんだ」
「よくわからないな、トルテラは何をしたんだ?」
リナはあのシーンを見た。トルテラは兵の動きを見て判断していた。
だが、具体的にどう凄いかは説明できない。
指揮に関しては、リナは詳しくないので、リーディアが続きを話す。
「戦場の中で、周りを見渡すのは難しいんだ。とても。
あのとき同時にデルデの軍も動いていたから、
トルテラはデルデの兵が来る前に立て直す時間を作った。
あれがなければ、ジェローネの立て直しができなかった。
迎撃準備ができる前にデルデが到達してしまえば、
またそこから退却することになったはずだ。
上層部は、あれを評価に入れていない。
ジェローネが報告上げていたはずだが、あまり重視されなかったようだ」
「どういう意味だ?」
「巨人を倒す以前の部分でも、最大の功績を上げたのはトルテラだったということだ」
「だからか。お礼を言いに来る兵が多すぎると思ってたんだ」
アイスは、兵たちがお礼を言いに来た理由として納得した。
「我々はあのとき撤退中で、トルテラの動きを追えていないのは仕方がない。
私は単にトルテラが巨人の進行を遅らせながら誘導しているだけだと思っていた。
トルテラは、兵の動きを見て判断していた」
「そりゃ、周りを気にしながら被害者減らそうとしてたと思うけど」
「トルテラはデルデの動向と、ダルガンイスト兵の動きを見て判断していた。
トルテラはデルデの侵攻を知らなかったのにもかかわらず……だ。
ダルガンイストの士官であれば侵攻の可能性を予期できたが、
トルテラは知らなかった。
ダルガンイスト兵の動きを見て、巨人以外に敵が動いていることに気付いた。
それでいて、あれだけの的確な判断ができるのだ。
あれは、素人の考察では無いし、デルデの動きに気付いた後の行動も、
軍事に精通した者の動きだった。
あれができるなら、本人単独の武力が人並以下でも、
十分優秀な指揮官になる」
アイスは違和感を持つ。
トルテラは物知りではあるが、軍のことは知らない。
「トルテラ、軍とかぜんぜん知らないよな?」
アイスがそう思うのも無理は無い。
リーディアも、トルテラが軍に詳しくないことは知っていた。
「確かに、私が話した範囲内でも、全く知らない様子だった。
だがな、この世界の軍を知らないだけで、軍自体は知っているようにも思えた。
士官学校時代の参謀志望の同期があんな感じだった」
「参謀? 参謀ってなんだ?」
「実戦部隊ではなく、作戦を作る役割を持つ部署を指す」
「作戦? 戦争無いときは何やってるんだ?」
「日頃から備えていないとまともに戦うことはできない。
まあ、常時、参謀が忙しく働いているような軍は、世界中探しても
ダルガンイストを除いていくつあるか……
トルテラは参謀が日頃何をしているかもすぐに理解した」
「理解って?」
「城下町の拡張と似た感じだった。
専門用語は知らなくても、何が重要で、今やるべきことが何かはわかる。
そんな感じだった。
そういう意味では、おそらく参謀としての素質もあるのだろうな」
「ぜんぜんわからないな」
「普通はそうだ。
短い説明では、軍学を学んだ者でもなければ内容を理解するのが難しいはずだ。
ところが、トルテラは僅かな説明で理解できた。
元から知っている内容を、この世界に当てはめているだけではないかと考えている」
「トルテラは、ヨコハマでも軍にはかかわってないはずだけど」
「私もそれは疑問に思っている。
トルテラだけが詳しいのか、或いは、ヨコハマでは軍人でなくても軍学を学ぶのか」
「軍学を? 一般人が?」
「よくはわからないが、トルテラは30期(15年)以上も
学校で勉強したと言っていた。
トルテラだけではなく、ヨコハマの人間の多くが30期(15年)程度も
教育を受けると言っていた」
「そういえば、そんなこと言ってたかしら?」
「そんなに長い期間教育を受けることを考えると、
おそらく軍学もやっているのではないかと思う」
※やってません!
「一生学校に行ってるのかな?」
「ヨコハマの人間は160期(80年)も生きるんだぞ」
「ああ、それじゃ、30期学校行ってても、十分寿命は残るのか」
「この世界の男でも20期(10年)くらいは行くのだ。
その程度では寿命は尽きない」
「40期(20歳)くらいまで学校行ってるんだよな?
その間金はどうするんだ?
トルテラは働かないとすぐに住処を失うって言ってたよな?」
※おっさんは、親に出してもらいました。
「うむ。確かに、よく考えると謎が多いな」
「トルテラが戻ってこないことには、確認できない」
「戻ってきたら、そんなの聞かなくてもいいと思うけどな」
……………………
「食料の輸送でも変なこと言ってなかったっけ?」
トルテラは軍の話を聞いたとき、戦闘専門の人員が少ないことに驚いていた。
あまり、軍に詳しくは見えなかった。
特に輸送に関しては、かなり軽く考えているように見えた。
だが、説明したら納得した。
「兵站の話であれば、あれは、効率の問題のようだった。
輸送の効率が10倍以上違う世界から来ているのだ。
輸送に必要な人員を知れば、輸送の計画も立てられる」
「効率ってなんだ?」
「何人で、どのくらいの量の物資を運べるかだ。
荷車一台で運べる荷物の量と、何人でどのくらいの距離を移動できるのか、
知らなかったようだ。
運ぶ物資には、輸送部隊自体が消費するものも含まれる」
「トルテラ力あるからな。みんながあんな力持ってるの思ったのかな?」
そこにリナが口をはさむ。
「いや、ヨコハマは、人が大荷物を運ぶことはあまり無いようだ。
ヨコハマには、馬が引かずとも動く乗り物があるからな。
道も整備されていて、桁違いの量の物資を運べるようだ」
リナはトルテラのヨコハマでの日常を見ている。
馬が引かずとも走る不思議な車が大量に走っていることを知っている。
「そういうことだ。トルテラが知る輸送効率と、この世界の輸送効率に差があった。
荷車一台に乗る荷物の量と、兵の人数、1日の移動距離がわかればたちまち計算できる」
「ああ。輸送の計画とかは得意かもしれないな」
アイスはそう言いつつも、たぶんトルテラはめんどくさがってそんなことするより、
アイスと一緒に小エビでも捕りに行く方が好きだろうと思った。
※思っただけです! もう話に飽きたんですね。
「(トルテラの)参謀としての才覚はわからないが、
大隊か、それ以上の集団を率いる能力がある。
ああいった人物は滅多に居ない。
城下町の整備を見てもわかるが、あの人は何でもできるのだ
(とリーディアさんは思っています)」
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※ダルガンイストの場合、大隊かそれ以上になると、物資の備蓄まで組織に
含まれます。輸送や病院機能まで自前で持っています。
要するに、遠征を独立して行う能力を持つのは大隊以上です。
中隊以下は、自前で消費する物資の備蓄量の管理ができれば良い。
大隊長になれるのは、通常は士官学校出の貴族に限られます。
貴族ではない優秀な人材は参謀になることが多い。
どれだけ戦闘が得意であっても、組織をまともに運用できない人物は
大隊長にはなれません。
(もちろん、例外はいっぱい居ます)
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「城下町の食料と生活用品の話はよくしてたわね」
エスティアはあまり興味が無かったが、トルテラをあちこち連れまわすと、
”こっちが手薄だ”とか、”そろそろここに道を作っておいた方が良い”
とか、そんなことを言っていた。
トルテラが不在になってから、トルテラの言っていた手薄やら、
道を作らなかったことによる問題が出たので、トルテラは、
そのあたり恐ろしく詳しいということはエスティアも知っていた。
※おっさん(トルテラ)が指摘していたのに誰も実行しませんでした。
おっさんは思ったことを口にするだけで、率先して都市計画に参加する気は
無いので、おっさんが指摘して、そのうち、それが実際問題になるという、
頭悪そうなことを繰り返してきました。
おっさんは新興住宅地で育っていますから、町の広がり方をよく知っているのです。
「尤も、1人で世界を相手にしても負けることが無いほどの力を持っているから、
大勢の兵を計画的に動かす必要が無い。
大隊を率いるだけの能力があっても、その能力を発揮する機会は無いのだがな」
リーディアが言い終わると、リナが付け足す。
「それを、石の記憶ではじめて知った」
「ああ。石で知ったのは現場での指揮能力の高さだ。
戦場での指揮能力だから、中隊規模を率いるのに必要な能力だな。
ジェローネが率いていた兵は中隊規模に近かった」
「小隊と中隊は何が違うんだ?」
※対巨人戦があった当時リーディアは小隊長だった。
「基本は人数だ。スワレンの部隊が中隊規模だ」
「中隊と中隊規模は違うのか?」
「ああ、ジェローネも私も当時は小隊長だ。中隊を率いることは無い。
ただし、あのときは、指揮官とはぐれた兵が合流して人数が増えていた。
結果として中隊と近い人数が揃っていた。
あの場に何人いたのかは正確にはわからない。
小隊よりは中隊に近い人数だったと思う。それを中隊規模と表現しただけだ」
この話だと、指揮官はあの場所にはいなかったことになる。
「はぐれた兵がたくさんいるなら、指揮官はどこ行ったんだ?」
「中隊長の指揮下で前線で戦っていた。
ジェローネと私のところに合流した兵は、指揮官と合流できずに撤退してきた兵だ」
※作戦の性質上、”戦線を死守せよ!”というものではないので、
孤立したら、近くの別の体と合流するか、それが無理なら
ダルガンイストまで撤退します。
ジェローネさんも中隊で出撃していますが、巨人が接近してきたため、
後退し、分断され、中隊と分断されてしまいます。
そして、即立て直さないと危険だったため、その場に陣を敷き、
敵を食い止めることにします。
「ジェローネが立て直す時間を稼いだのはトルテラだ。
だが、ジェローネが抵抗を継続していてくれたからこそ、
私が合流して敵を押し返すことができた。
だから、私はジェローネの戦功を高く評価している。
なのに、キャロが私が辞退しようとしているという話をした。
ジェローネは、私がジェローネの戦功をあまり評価していないと誤解した。
だから、真意を伝えに行かなければならない」
まあ、リーディアならそう考えるとは思う。
だが、今は行くなと止められている状況だ。
「止められてるのに?」
「伝えなければならないと思っている。
ジェローネがランデルに居るのは、元を辿ればトルテラを慕ってのことで、
トルテラの傍には常に私が居たから、ジェローネはトルテラと話をする
機会が少なかった。
おそらく私を避けていたのだと思う。
避ける理由が勲章の件であれば、トルテラ不在の今、
ジェローネがランデルで戦い、これで死んだら、
何のために死ぬのかわからない」
これを聞いた(リーディアを除く)女たちは、とりあえず、”リーディアは何が有ろうと行くつもりである”……という意味で受け取る。
※部屋の中で見張りの兵が今の話を全部聞いています。
それを知りつつ話しています。




