31-9.神様の秘密を暴くのはやめてください(21) おっさんの恥ずかしい秘密 トリドールに追いつけ
ランデルとの戦いの前、老人は大軍を相手に1人で出てきて”無所属である”と言った。
それは嘘では無かった。
※大軍に対して、使者が極少人数で来る場合、何かしらの集団の代表として
出てくるから話に応じるだけで、老人1人で出てきて無所属だと言ったら、
通常、相手は話し合いに応じようとは考えません。
なので、わざわざ”無所属”だとは普通言わない。
男の老人では人質にもなりません(人質としての価値が無い)。
無所属ではあるが、むしろ、それが逆に恐ろしいことであるという、その意味が正しくランデルの兵に伝わるのには時間がかかった。
まず、そもそも、無所属と言うのが信じ難かった。
ランデルの兵から見て、老人はダルガンイストの一員に見えた。
連合と辺境国を隔てる壁が、難攻不落の要塞ダルガンイスト。
そこが通り道になる。
そのため連合側から来る者は、ランデルから見ると全てダルガンイストから来たように見える。
そして、老人は、連合の兵士を伴い、ダルガンイストと連携して見えた。
ところがそうではない。
リーディアがダルガンイストと関係あるだけで、老人本人は、どの領(国)にも属していない。
この事実を知ったとき、ランデルの兵や、ラハイテスは戸惑った。
考え方がわかれば理解しやすいのだが、普通では無いので、この時点では、そこまで思いついていなかった。
後からこの話を聞いた各国の調査団も、同じように驚いた。
老人と、ダルガンイストの微妙な関係を知ってようやく”ちゅうかまん”撃退の時の、違和感が払拭されることとなる。
一見、ダルガンイストの意向に従っているように見える老人だが、実は、老人はダルガンイストの宣伝に利用されているだけで、老人は、ダルガンイストをあまり重要視していない。
国家への帰属意識が希薄な存在だった。
※実際は、帰属意識はあります。おっさんは、自分を横浜市民だと思っています。
住民票がそこに有りますから。仕方ないですよね、異世界人ですから。
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一方で、おっさんを捜索に出た女たちはと言うと、この頃、城下町まであと一歩のところまで来ていた。
女たちは馬車なのに、むしろ歩きより遅いのではないかと思うほどに……とはいえ、今は荷物持ちのトルテラが居ないので実際に歩いたとしたら、このくらいの速度かもしれないのだが。
それでも、さすがに、ここまでくれば明日には到着する。
ところが、移動集団の規模が予想外の規模になっていた。
野営準備中だが、今まで見たことの無いような、凄い人数になっているのだ。
ちゅうかまん迎撃戦の見物客の人数と比べたら大したことは無いが、ダルガンイストの全軍出動状態に近い。
「凄い人数だ」
リーディアが漏らす。ポーズを付けていないので地だとわかる。
どう見ても、出発時と人数が違う。
「関所から来たのも加わったから」
テーラが答える。
ダルガンイストと城下町の間に、新通路との分岐があるが、新通路以降は、
ランデルの兵も多数加わっていた。
「関所を見に来て、そのまま城下町に行くから俺たちと行先が一緒なんだよ」
アイスが付け足す。これは正しい情報だった。
城下町到着直前での野営だが、どうにも、人を集めるのが目的なのではないかと思えるほどに人が集まってしまった。
新しく竜が作った関所を視察に行っていた集団が、関所を調べ終わると、こっちに合流する。
次々に合流し、もはや同行者の最大勢力が非公式調査団になっていた。
人数が増えすぎて、商人と一般人は、少し離れたところで野営している。
一般人にも、水は用意するが、食料は配布しないので、商人から買う。
そんなわけで、商人は食糧販売と荷物運びで小銭を稼いでいた。
一般人も、安く荷物運んでもらえて、食料も買いやすいと言うWIN-WINの関係だった。
そんなわけで商人、一般人も順調に増えていた。
「アイスは良く知ってるな」とリナは言うが、アイスがなぜよく知っているかは明白だ。
毎晩遊びに行ってるのだ。そりゃ、新しい情報も入って来る。
「なんだっけ。新しく、エプ、エプ?」
「エスプジアか?」
「そうそう、そのエプなんとかが追い付いたって。
外国がいっぱい来たんだ。あと、ロムベスタが10人くらいになった」
※エプなんとかじゃないですね。2文字目から間違ってます
「ロムベスタは連合だぞ」
「エプ何とかは?」
「そっちはタンガレア(連合外)だ」
「なんでどんどん増えるのかしら?」
「おかしいな」 リナが指摘する。
「なにが?」 エスティアはピンと来ていない。
リナが言ったのは、増えることに対してではなく、エスプジアやロムベスタの調査団が今合流していることに対してだ。
「アンバー要塞寄りの地域からも、もう追い付いてきた」 リナが答える。
「早すぎるってこと?」
「そうだな」
「ロムベスタにしろ、エスプジアにしろ、大急ぎで人を集めて派遣したとは考えられるが、
それにしても追い付くまでの時間が早すぎる」
「増援が間に合わなかった国が追い付いてきた」
ダルガンイストを出発したときには間に合っていなかった連中も追い付いてきている。
「我々の歩みが遅いことを知ってるということだな」
無理すれば、この時期に合流できることを知っていて、合流してきたように思える。
情報が伝わるには時差がある。
情報が素早く伝わる情報網が既に構築されているということを意味する。
アイスが答える。
「トリドールに追いつけって言ってたな」
”トリドールに追いつけ”それがスローガンになっていた。
そもそも、この世界にスローガンに対応する言葉や概念自体が無かったのだが、
今は情報収集が最優先課題となっていた。
この集団から得られる情報は必要不可欠。そう考えられていた。
「ダルガンイストが、故意にこちらに注目を集めている?」
「そうかもしれない」
「トリドール? それって?」
テーラは頷く。
「ルルとテーラが襲われた時から、我々はトリドールと呼ばれているようだ」
あの事件が”トリドール(暗殺未遂)事件”として広まるうちに、(自称)妻たちを指してトリドールという言葉が使われるようになっていた。
(主に、連合外の国の人々からトリドールと呼ばれている)
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非公式の随行団体には、食料が配布されている。
「これ以上増やす意味があるのか?」
「陽動に使われたか?」リーディアは、その可能性を考える。
食料を配っている時点で、故意に増やしているように見える。
リーディアは、注目をこの集団に集める目的があるのではないかと考えたのだ。
調査団は、トート森、或いは、(自称)妻たちに調査対象を移している。
これは、予想外に早かった。
リーディアは、この集団に人々の注意を引き付けておく理由があるのではないかと考える。
この集団が、いくらゆっくり進んでいるにしても、ダルガンイストからエスプジアまで連絡が届くのに何日かはかかる。
全て後回しにして、最優先で進めるくらいでないと、追い付けないはずだ。
そう考える。
(ただし、この中に、実際にエスプジアに行った者は居ないので、正確な距離は知らない)
何が起きている?
いったい誰が?(糸を引いている?)
女たちは、いったい何が起きているのかと心配した。
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だが、実は普通に”情報を効率的に集めることができる集団”として、噂が広まっていた。
現実的な理由だった。
元々、ちゅうかまん迎撃、及び、ランデル会見の少し後の時点では、ほとんどの国で、”トルテラと呼ばれる巨大な老人と、その(自称)妻たち”に関して、まったく調査が進んでいなかった。
簡単に言えば、おっさんの行動や、各国から見た立場があまりにも普通では無かったので、調査に苦戦していた。
(普通、有名な人は、○○領の誰々という、手掛かりがあるのだが、
おっさんは出自を追うことができない)
ところが、この集団の中では、実際に老人と戦った者も多く、莫大な情報が手に入った。
特に、口の軽いアイスが毎晩話をしに来ることで、その話題で盛り上がりやすかった。
要約:人が集まってくるのはアイスが犯人です
アイスが毎日同じ話をする。兵士も毎日同じ話をする。
初期から居た調査団には少々退屈ではあったが、遅れて来た者は興味を持って聞き出そうとする。
アイスは、トルテラが、ランデル軍を蹴散らす話をする。
すると、それに反応して、ランデル兵が話をする。
「一角が崩れたので、本気でやったのですが、気付いた時には空中に放り出されていました」
「私は、先に放り投げられたから、落ちてる槍を拾ってすぐに包囲に戻って一撃入れた」
「そのあとは?」
「2回、3回投げられたら、もうこれは絶対勝ち目無いって(思って)」
「ラハイテスが降参したのか?」
「いえ、トルテラ様が勝ったから言うことを聞けと」
これはわかりやすい。手加減されて一方的に負けたら、交渉の余地もない。
「それで降ったということか……」
「それが、トルテラ様は、邪魔をするなと言ったのです」
「どういうことだ?」
「黒い悪夢が来るから、その場所に近付くなと言いました」
だいたい皆、ここで引っかかる。
……………………
「どうやって配下になった?」
「一度ランデルに戻ったのです。
それでも、ラハイテス様は、トルテラ様に再度会うと言われ……」
妙な展開だったが、兵士の証言はだいたい一致していた。
完全に包囲した状態からの戦闘だったのに負けた。
2回も投げられると、勘の良い者は気付き始めた。
老人に害意は無いように見えた。誰も大怪我をしていない。
大将のラハイテスを狙いもしなかった。
怪我をしないように、全員の相手をしている。
ラハイテスを叩いたのは、最後の仕上げだった。
鋭い突きを出したラハイテスを盾で捕まえて圧し潰した。
とどめは刺さない。
戦闘が終わるころには、皆気付いていて、敵では無いと思った。
むしろ、自分たちの頭になってもらおうと思った。
※元々、軍勢が近付けば、トルテラは退くと思っていた。
人数で威圧することが目的で、戦闘になるとは考えていなかった。
元々、おっさんに対し恨みが無い。敵だとも思っていなかった。
(辺境の小国同士の小競り合いは、殺し合いを目的にしていないという文化もあります)
「老人を頭に?」
「戦闘が終わると多くの者は、配下に入りたいと思うようになって……」
言葉は違えど、兵は似たようなことを言う。
怪我も無く何度も蹴散らされると、配下に入りたいと思うようだ。
これは、数日前に合流したものは、既に信じていた。
恨みがあるわけでもない相手に、そういう負け方をすると、配下に入りたいと思うようになる。
だが、その場では、老人は「邪魔をするな」と言い、ひとまず帰ることになった。
そして、帰ったら帰ったで妙なことになる。
「それがどういうわけかカタイヤ様が、行きたいものは付いて行けと」
族長のカタイヤが、ラハイテスが老人の元に行くことを許し、何故か、行きたい者は行けと言った。
「それで、その老人の配下になったのだな」
当然、今日初めて話を聞いた者は、そう考える。
「それが、そこも少し変で、トルテラ様は”騙された”と」
「それが、トルテラ様はダルガンイストとは無関係だと」
「俺たちは喜んだ。けどラハイテス様が困った様子で」
兵たちは皆バラバラのことを言う。
「なぜだ?」
「俺にはわかんね(わからない)」
「トルテラ様は、どこの軍にも属していないから説明をしに行く必要は無いと言いまして」
※おっさんは、ダルガンイストに説明に行く気は無かった
「結局はリーディア様に脅されて」
「脅す?」
「まさか(老人には)弱みがある?」
「ランデルの兵が居ることを説明しないと、もっと面倒なことになると」
「もっと面倒?」
「そうしないと、城壁下に宿舎を建てられなくて」
「そりゃそうだ」
要塞の目の前に兵を置きたいと言う無茶な話だ。
その時点で、老人は100人以上のランデル兵を、ダルガンイストの城門前まで連れてきてしまっている。
要塞の目の前に他国の軍勢を駐留させる。
普通に考えて、相手が良いと言うわけは無い。
ところが、老人は、関係無いから話をしないと言った。
それに対してリーディアは、今話をしないと後々もっと面倒なことになると言った。
話をするだけで、済むなら御の字。そう考えるのが普通だろう。
老人は、それすら面倒がった。
恐らく老人は、国も要塞も多くの人間が関わり維持していることを何とも思っていない。
「なるほど」
なんとなく、老人の考えのパターンがわかってきた。
「今、通路になっているところだよ。
あそこの井戸が元々、宿舎の井戸だった」
今通路になっている場所。まさに、ダルガンイストの城門の目の前だ。
そんなところに宿舎を建てることができた。
情報収集していた連中は、真剣に考えていたが、アイスがばらしてしまう。
「リーディアが、話をしに行くって言ったら、
トルテラは面倒だからダルガンイストに話することにしたんだよ」
「面倒?」
「トルテラは、リーディアは脳筋だからって言ってたよ」
※このとき言ったわけでは無いと思いますが
「脳筋?」
「脳筋ってのは、なんでも力で解決しようとするやつのこと」
「力ならトルテラ様の方が」
「そうなんだよ。何回やったって、トルテラが勝つのにな」
「勝ったら?」
「リーディアが説明すればいいんだよ。軍人はリーディア。
トルテラは無職の老人で、どこにも属してないから関係無い」
「本当に無職なのですか? 地位は?」
「だって爺さんに職なんか無いに決まってるだろ。地位も無いよ」
アイスは、酷いことを言っていた。
「…………」
アイスの言っていることは意味がわからなかった。
トルテラは面倒だからダルガンイストに話をする気が無かった。
そのため、リーディアにダルガンイストに話をしに行くよう言われても、行くのを渋った。
なので、リーディアがダルガンイストに話をしに行くと言ったら、
トルテラが面倒なので自分で話をすることにした。
理由はリーディアは脳筋であるせいで、リーディアがダルガンイストと交渉すると面倒なことになるから。
意味が分からないまま、まずは話を聞くことにする。
「で、ダルガンイストに話をしに行ったのか?」
アイスはあっさり答える。
「行ったよ」
「ダルガンイストは何と(言った?)?」
「俺は知らない。でもリーディアが言ってた」
「なんと(言った)?」
「どうせ、トルテラを罰せるものは存在しないから、破る約束はできないって」
アイスは、理論的に説明することはできなかったが、大事なことを覚えていて話すことには成功した。
これでようやく状況がわかる。
「なるほど!」
「そうか。罰せない相手が約束を破ると困るからか!」
「……あ、そうか」
ここに至ってようやく、話を聞いた者が納得する。
老人は、そこに国や要塞があることを、さほど気にしていない。
特に気にする必要の無い些細な問題だからだ。
※興味が無いし、ランデルの軍勢を自分の配下の兵だと思っていなかっただけです
そのため、放置で構わないと思っている。
ところが、リーディアが行って中途半端に話をつけると、後々面倒になる。
一方でダルガンイストは、罰することができない相手に約束を破られると、かえって困ったことになる。
(ダルガンイストが、老人相手に敗北したことは知られている)
ダルガンイストでも無理なのだ。どの国も、トルテラを従えることはできない。
”神が人間の国に属するわけはなく、独立しているのだ”
そう考える。




