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加齢臭と転移する竜 (内容まとめ:おっさんが異世界に終活をしに行く話なのですが、なぜか『ほのぼの』と言われています)  作者: 黒長 二郎太
30章.ルルシアを助けに来た老人、その後

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30-15.ルルシアを助けに来た老人、その後(8) 川は増水中

だんだんと、終活の時期が近付いてきます……

挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)


「これじゃ家には入れないな。泥を落としてこないと」


「はい。井戸がありますが、沢の方が良さそうですね。

 近くにちょうど良い水場がありますので」


ガスパールの家に着くと、名無しの老人は、ルルシアを下ろし、こう言う。

「泥落としてくる」


「水場なら……」

「こっちだろ、知ってる」


ガスパールが、水場に案内しようとするが、案内する前から正しい方向に歩き出した。


水場の位置は知っているようだ。

このあたりの地形には詳しいのだろうか?


「わたしも」

ルルが追うが、老人は一緒に行くことに賛成しなかった。

「ルルは、着替えがあるなら、井戸と着替えの方が良いんじゃないか?」


だが、ルルシアは諦めない。

「私も沢で洗う」


ルルも付いていくという。

確かに、泥を落とすことが目的なら、ルルシアは、ここで井戸と着替えの方が良い。


とは言え、この老人から目を離すのも心配ではある。

ガスパールも行くことにする。

「ルルシア、水場に案内してあげてくれるかい」

「うん」


「水量増えているので、気を付けて」


”気を付けて”とは言ったが、少々増水しても、沢の水量は人が流されるようなレベルではないので、あまり危険は無い。


老人は、迷うそぶりも無く沢に向かう。土地勘があるように見える。


----


名無しの男は、水場の位置を知っていたので直行したが、見慣れない場面に遭遇した。


「あれ? 水溜まってない?」


「どうしたの?」


「ここに水が溜まっていて便利だった気がしたんだけど」

「これじゃ足りない?」


バーベキューの時、缶ビール冷やしておくくらいの水たまりスペースがあるだけで、ほとんどの水は、そのまま流れていくだけ。


まあ、これでも、野菜洗ったり洗濯したりはできるだろうけれど……


俺の知ってる風景だと、水量普通の時でも、ひざ丈以上の、もっと流れの弱い、水たまりがあったはずだ。


この水量じゃ、水に入って流せないじゃないか。


「どうしましたか?」 後から到着したガスパールが言う。


「ここに、もっと大きな溜まりがあると思ってたんだが……」


「いえ、以前から、ここに溜まりはありません」


「そうかぁ」

がっかりだ。間違って覚えていたようだ。これじゃ深さが足りない。


ここは支流の一つで、下に行くと本流がある。

下に行けば、本流には深いところはある。


泥を落とすのに、都合が良いかは別として。


下は危ないが、ここなら、ルルでも流される心配は無い。

「ルルはここで洗うと良い。俺は、もっと水量多いところで流してくるから」


「ええ? 私も連れてって」


「いや、下は流れあるから、ルルには危ない」


水というのは、大変に危険なものだ。

人は水に落ちると容易に死ぬ。


ガスパールにも伝えておく。

「俺は、下行ってくるから」

「いえ、下はもっと大きな川が流れていますので危険です」


「ああ、知ってる。危ないから、ルルは上で洗って、終わったら家に先に戻っていてくれ」


もたもたしてると、ルルが来そうなので、さっさと下に行く。


下と言うのは、50mくらい下ったところにある川の話だ。

この沢も、その川に合流する。


この沢は、日本で言うと山女や岩魚も登ってこないような小さな沢だ。


下の川は、けっこう良い釣り場って感じだ。

そんなに深くないが、けっこう大物と言うのは、そんなところに居たりする。

増水していないときは、それほど危険なことは無い。


もっと下は、さらに別の流れと合流した、けっこうな川になっている。

水量が多くて、平時でも死人が出てもおかしくない。

増水してると、落ちたら俺でも危ないかもしれない。


人は水に弱い。小さな水たまりでも案外簡単に死んでしまう。


まあ、落ちることに慣れてりゃ、水たまりは平気だが、流れのある川だと、俺でも危ない時がある。

そして、今日がその危ない時だ。


想像以上に、凄い流れになっていた。


凄く増水している。

いつもだったら、岩の隙間を水が落ちるのに、水位が上がってるので水面が妙な凹凸になっている。

水面の凸部分は、近くで見ると、けっこう迫力ある。水が持ち上げられるほどの力が働いてるのだ。


うーむ。俺はあの水面下にある大石の配置を知っている気がする。


見覚えがあるにしても、詳細に覚えすぎている気がする。

俺は、ここに何度も来たことがある?


流れが速いから好きだった?

水量の多さで思い出す。


そうか! ここは。直接的な記憶はほとんど消えてるが、これはわかる。

解体に使っていた川だ。

俺は、獲物の解体が気持ち悪くて、流れの強い場所でやっていた。

水量多くて流れが速いと、血が勝手に流れるので都合が良かったのだ。


なんだか、食べ物に苦労した記憶が蘇ってくる。

こういうことは覚えてるのに、俺は誰と一緒にその作業をやっていたのか全く思い出せないのだ。

誰かと一緒にやっていたことは間違いないと思うのだが。


ここは、中間地点だ。上の溜まりと、下の解体場所の真ん中あたり。

解体はもっと下でやってた。


もっと下だと増水してなくても流れが速いから解体には都合が良かった。


ただ、あそこは、増水してたら水浴びには向かない場所だ。

仕方が無いので、ここで洗うことにする。


いつもは、水深が浅いのだが、今日は、水が増えすぎて、普段は無い水の巻き(淵)ができている。

あそこなら流されずに洗える。


そうだ! 大事なことを忘れていた。

「なぁに、増水した川くらい、この体なら何ともないぜ!」


敢えてフラグを立てる。

こうしておけば、流れて死にそうになったとき、フラグのせいにできる。


これで流されても安心だ!


※熟練読者の皆様には、フラグの立つ音が聞こえたましたでしょうか?


奥の方は水が巻いてるので、あそこなら流されずに済むが、あそこに辿り着く前に流されそうだ。

少し迂回すれば、あっち側の流れに乗れそうだ。

戻るときはどうするか? 戻りルートを考える。


すると、気付く。ルルがこっちに向かってきてる。

ここは危ないから来てほしくなかったんだが。


少しすると、ルルシアが到着する。

そして言う。

「今日は、水が多いから危ないよ」


知ってるよ!!!!

俺は心の底から思った。


知ってるよ!!! だから来てほしくなかったんだよ!!


ガスパールもやってくる。足が悪いので、あの傾斜はきつそうだ。


「ルルシアが、追ってしまって」


まあ、状況はわかる。

心配してきてくれたのかもしれないが、ルルが居るので、ここじゃ無理だ。


「ルルは、ここじゃ危ない」


ガスパールは、老人は、川での水浴びを諦めて、上に戻るものかと思ったが、老人は言う。


「もうちょっと大人しい水たまりを探してみるよ。

 ルルは、ガスパールと一緒に来た方が良い」


ルルシアは、ガスパールを見る。


「わかった。でも、私が行くまで、待って」

「うん。わかった」


ルルが付いてくるようだ。

子供が居ると動きにくいのだが。


まあ、仕方が無い。

「ガスパールが来るまで、ルルは水に入れないから、安心してくれ」


流れが速いのに、まだ諦めないようだ。

少々困ったが、この神様は、水浴びに拘りがあるようだ。


ルルシアも、喜んで追ってしまった。

「ルルシアは、仕方ないな」


ガスパールは、今日こそ決着を付けようと思っているが、

ルルシアも、今日すべてが決まることを知っているのかもしれない。

或いは、単純に好いているからなのか。


ルルシアは、神様を捕まえようとしているのかもしれない。


シートも、神様を捕まえようとしている。

人は神を待ち、逃がしたくないと思うものかもしれない。


========


ルルでも安全に水に入れる流れの静かなところを探す。

川は生き物のように、その時々で流れを変える。


増水すると、川の流れとは別に、日頃は無い水たまりができることがある。

そんなところを探す。


少し歩くと、川幅が広くなっている場所がある。


あった。水たまり。

ちょっと狭いが、ここなら安全そうだ。


「ここなら安全じゃないか?」

「うん」


ここは、増水してるから水があるだけで、日頃は川の一部でも何でもない場所だ。

現在も、流れ無しの水たまり。カエルが卵産みそうなところだ。


幸い、今は水が入れ替わったばかりで、きれいなのでちょうど良い。


「ルルはここが良さそうだな。お父さんを呼んでくるか」


「あの……」

「なんだ?」


ルルシアは、この老人を、何と呼べばよいかわからない。

「名前がわからない」


「え? 俺の?」


ルルは頷く。


困った。俺は現在自分の名前を思い出していない。おそらく、思い出さないと思う。


老人は、少し考えこむと、こう言う。

「じゃあ、仕方ないな。ルルにだけ教えてあげよう」


----


ルルにだけ教えてくれる。そう聞いて、ルルシアはドキッとした。

「ええ?」


誰も知らない名前を、ルルにだけは教えてくれる。

名前は妻にしか教えられないような凄い秘密なのかもしれない。

ルルは、結婚しようと言われたような気持になった。


だが、その期待は裏切られる。


「俺、自分の名前がわからないんだよ」


”わからない”

ルルの気持ちはズドーーーーンと沈んだ。

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