30-14.ルルシアを助けに来た老人、その後(7) 神様は風呂に入りたがる
相変わらず、女たちがついてくる。
「なあ、どこ行くんだよ」
「付いてくるなって言ってるだろ」
と言いつつも、必要だから付いてくるのだろうか?などと考える。
お使いイベントとかだと、些細な人助けでフラグが立ったりする。
さっきの馬車で何かフラグが立っただろうか?
※大鎧が出たフラグが立ちました
……………………
少し進むとまた、ここでも馬車が嵌っている。
脱出を諦めたのか、応援待ちか。馬は離してあるが。
「またか」
「一昨日の雨で道がこれだからな」
ん? 一昨日の雨?
おお! ピンときた。
ああ。なるほど。俺が昨日来たとき、この道は、こんなにドロドロじゃ無かった。
昨日は、濡れていなかった道が、一昨日の雨でどろどろになっているのだから、俺の時間が飛んだのは確実なわけだ。
ガスパールが言っていたことは、正しそうだ。少なくとも、時間は飛んだ。
馬車イベントは、時間が飛んだことを、俺に実感させる仕組みか?
俺の察しが良ければ、瞬時に気付いたと思うが、昨日は、ガスパールたちと会うまで体が不安定で道のコンディションなんか気にしてる場合じゃ無かったし、会った後も少し歩いて終わりだったから、道のコンディションなんか、気にならなかったのだ。
まあ、確かに、こんなに酷くなかった気はする。
いやいや、明らかに違った。
おっさんが、そんなことを考えていると、早速、女たちが、馬車の持ち主らしき女と交渉を始める。
「手伝ってやろうか。安くしとくよ」
馬車の持ち主らしき女は、疲れ切った様子で答える。
「町まで辿り着けたら、コレ1頭やるよ」
「おお、いいじゃねーか。今日は宴会か?」
「悪くねぇ」
早々に盛り上がる女たちに、馬車の持ち主が、釘を刺す。
「町まで着けたらだ。まあ、まずは、この状態をなんとかしないとな」
馬車の持ち主は、この女たち5人では、簡単には脱出できないと思って報酬を設定したようだ。
荷を見ると、報酬は”鹿”っぽい。”鹿”でそんなに喜ぶか?
俺的には、森では、鹿はいつでも手に入るイメージだ。
……でも、一番マシだったイメージもある……思い出した。
そうだ。鹿は、ここで手に入る肉の中では、加工の手間に対して、味はマシな方だ。
だが、俺は、解体が嫌いなんだよ!!!!!
一度解体を見たら、もう食べ物に見えなくなるんだよ!!
だから、俺は、鹿はあまり好きではない。
だが、この女たちの反応を見ると、けっこう価値のあるものなようだ。
俺にとっては価値の高くない獲物だった。
俺が住んでいた場所は、ここから少し離れた山奥なのだろうか?
ここも十分深い森の中なのだが。
まあ、俺には関係の無いことだが。
すると、女が言う
「ははは、爺さん、やってくれ」
フラグってやつだ。関係無いとか思うと、巻き込まれるフラグ。
この世界にフラグがあるにしても、せめて、声に出していないことは見逃してほしい。
「俺は関係無いだろ」
「あんたなら簡単だろ」
さっきは、手伝うと何かああるか確認したかったが、同じことを2回やる必要は無い。
俺にメリットが無いが、だが、うまくすれば、こいつらを追い払うことはできるだろうか?
「手伝ってもいいけど、お前ら、もう付いてくるなよ」
「今夜は、コレ(鹿)だぞ。お前も来いよ」
俺は、鹿肉は喜んでついていくほど好きじゃないんだよ!!
……………………
ガスパール(テリオス)とルルシアが心配して見に来ると、あの老人は、だいぶ家の近くまで来ていた。
時間が止まったわけでは無いものの、また人助けしてるようだ。
神様というのは、人助けが好きなのかもしれない。
ガスパールは、勝手に誤解した。
そして思う。
放っておくと、ずっと人助けをやってそうだと。
「強引に来てもらわないと、ダメみたいだね」
「うん」
ルルシアは、あまり良く意味が分からなかったけれど、一刻も早く家に来て欲しかった。
ガスパールが声をかける。
「遅いので迎えに来ました」
「そんなに時間経ったのか」
名無しの老人、主人公のおっさんは、そう答えたが、まだヒント探しを何もしていない段階で、ガスパールが来てしまい、一人で行動することを諦めた。
昨日は、誰とも話せなかったが、人と話せるようになると絡まれて、自由に行動できないことを思い知ったのだ。
「急ぎではありませんが、明るいうちの方が良いでしょう」
「そうだな。じゃあ、行くか」
「なんだ? 行くあて有ったのか」
そう言いつつも、さほど執着は無いようで、女たちは、町まで馬車を補助しながら、帰るという。
馬車の持ち主が言う。
「あの爺さんは行かないのか?」
「爺さんは、行くとこあるんだってよ。町まで着いたら約束だからな」
「着いたらな! ち、値切りゃ良かった」
そのやり取りを見て、ガスパールはだいたい状況を理解する。
あの馬車は、ガスパールたちが家に帰るときも、あそこで嵌っていた。
そう簡単には脱出できないと思って、報酬を弾んだら、この老人があっさり解決してしまった。
「早速、たかられましたか」
「危ないって、そういうことだったのか」
この老人は、人間社会を良く知らないようだ。
自分の価値をまったく理解していないように見えた。
この神様は、人間に化けるのがあまり上手ではない。
それにしても、見事に泥だらけだ。
7期前に渡した荷物をそのまま持っている。
改めて実感する。
前回会って、今日ガスパールが動くまで、ずっと待っていた。
この老人を実際に見つけることができるのはガスパールでは無く、娘のルルシアだが、今日会うことを決めたのはガスパールだ。
そもそも、ガスパールが待っていたのが、この神様だ。
ガスパールがカギを握っている。
竜と会うために森に来た。そして、妻と娘たちと共に、竜を待ち続けた。
この老人は、おそらく竜が人になった神様。
ガスパールが待ち続けていた竜は、人間の姿をしていた。
ガスパールは、幼少期に1度、男子学校で1度。そして、いつか3度目、竜に会うと思った。
7期前会った。そして、ガスパールの寿命は尽きると思っていた。
なのに4回目があった。
ここまで長生きできただけで儲けもの。
そろそろ、話を進めよう。
「そろそろ、家に来ませんか?」
「そうだな。珍しがって、女がついてくるから、どうせ何もできないみたいだし」
「心配せずとも、探し物ならうちにあります」
「俺が何を探しているのか知ってるのか?」
「おそらく。私が持っています」
俺が何者で、何を探しているか、ガスパールが知っていたようだ。
前回会ったときは、探し物の話はしなかったはずだ。
前回会ってからの間に何か発見があったのだろうか?
「俺のことを知ってるのか?」
「はい。私は長い間待っていました」
まあ、確かに、俺が来ることを知っていたから、俺にこの子の名前を、テリシアだと言った。
「俺が何者だか知ってるのか?」
「はい」
有名人なのか……
俺は俺の名前がわからない。
俺の名前を教えてくれないだろうか?
でも、”俺の名前を教えてください”とか聞くのは、ちょっと恥ずかしい感じなのだ。
もうちょっとスマートに聞き出す方法は無いだろうか?
そのとき、足元で声がした。
「あっ」
「どうした、ルルシア」
見ると、ルルシアは、見えない深みに嵌ってしまったようだ。
ガスパールが手を貸して、立たせるが、右側腰まで泥だらけになってしまった。
「ああ、やっちゃったな」
「だいじょうぶかい」
「少し深い轍もあるし、子供には厳しいか」
その言葉を聞いて、ルルシアは閃いた。
今なら抱っこしてもらえないだろうかと。
7期前の、あの抱っこの感覚が忘れられず、いつかまた、抱っこしてほしいと思っていたのだ。
そんな機会は、容易には訪れない。
言うなら、このタイミングだ。
狙いつつも、さらっと言う。
「前みたいに、抱っこしてもらっていいですか?」
その言葉を聞いて、ガスパールは”良いわけ無いだろ!!”と思ったが、男は、気にせず、あっさりルルシアを持ち上げる。
ルルシアの泥が、男の腕にべちゃっと付いた。
前回は体調が悪かったから運んでもらっただけで、今回は、自分で歩けるし、そんなドロドロな体で、抱っこしたら、この老人がますますどろどろになってしまう。
ところが、老人はそんなことは気にも留めていないようだった。
そんなことより、ルルシアが元気になったことを確認して喜んでいるようだ。
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「おお、なんか、随分重くなったな」
「元気になったので」
「元気でこんなに重くなるのか。凄い元気だな。
でも、良かった。助けた子が、こんなに元気に育った」
あのとき助けた女の子だと思うと、なんだか自分の娘のように嬉しく思う。
俺にはどういうわけか、父性があるようで、娘の成長を嬉しく思うし、助けることができるなら、助けてあげたいと思う。
この世界では有り得ないことだが、俺の世界では、父と娘にこのくらいの年の差があっても普通だ。
俺の同級生にも、このくらいの子供を持つ人も多いと思う。
俺は、この子が死にそうになったから、助けるためにここに来たのかもしれない。
そんな気がした。
でも、死ぬはずの子を、他所から来た俺が助けたら歴史が変わってしまいそうだ。
そして、歴史を変えた反動は、俺が背負わなければならないような気もする……
※案外、このおっさん、勘が良い時がありますね!
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ガスパールは、大鎧が人間の女を愛でるという話は本当なのだと思い安心する。
傍から見ていて、この男に父性を感じた。
人間の女を愛でるというのは、父親のような視点での話で、人間の夫婦とは別の感覚なのかもしれないと思う。
それとも、成長したら妻として見るようになるのだろうか?
ルルシアは、どんな関係を望むのだろうか?
いずれにしろ、これが最後のチャンス。
ルルシアの希望を伝え、石を渡す。
人生最後の大仕事。まずは、家に連れて行き、歓迎する。
そう決意する。
一方のルルシアは、抱っこを堪能していた。
相変わらず、大きくて頼もしい。
こんな力強い存在をルルシアは他に知らなかった。
この人の妻になりたい。ルルシアはそう思う。
そして、すんすんにおう(匂いを嗅ぐ)
「匂いする」
「うわ、やめろ、風呂、風呂」
「そうですね」
馬車の救出で、馬糞まみれの泥が付いたので、その臭いがすると思って、名無しの老人は、すごく萎えた。
ルルシアは、その臭いのことを指摘したわけでは無かったのだが。
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泥は気にせず、匂いのことを言われると風呂に入りたがる。
神様は変なことを気にするのだなと思った。
風呂は無いが、なるべくたくさん湯を用意して、歓迎しよう。
ガスパールは、そう思った。




