30-12.ルルシアを助けに来た老人、その後(5) 神様の時間、人間の時間
この子が、昨日助けたルルシア?
こんなに大きくなかったと思うが……
昨日は、元気が無かったから小さく見えた?
もう一度見るが、お父さんとの背の比率が全然違う。
昨日は、抱っこしたとき、片腕で足まで収まるほどだった。
今のサイズじゃ、足が余る。
やはり、どう考えてもおかしい。
でも、見た目の雰囲気は、そっくりなんだよな?
でも姉妹なら、そっくりなお姉さんが居てもおかしくないとも思う。
名無しのおっさんは、すごく悩んだ。
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ルルシアは、どうやら、この巨大な老人の姿をした神様は、ルルシアを助けた時期が”昨日”だと思っていることはわかった。
「お父さん、昨日って?」
「あとで」
なぜ、そんなことになっているのか状況がわからず、父に訊くが、答えは”あとで”。
この様子だと、やはり父は、この状況を理解している。
後で説明してくれるようなので、それを待つことにする。
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一方で、名無しのおっさんの方は、大いに混乱しまくった。
「この子がルルシア?」
「この子がルルシア、妹がテリシアです。あなたに助けていただいたのは、この子で間違いありません」
この子とそっくりだけど、もっとずっと小さかった。
どこかに嘘がある。
「いくらなんでも、その話には無理があると……」
話が終わる前に、ガスパールが言う。
「時が流れたのです」
「時?」
つまり、あのときの子が、ここまで大きくなるだけの時間が経っている?
ここでは人によって時間の流れが違うんだったか?
そんなわけないよな?
記憶を辿ってみるが、そんな記憶は存在しない。
自分が誰だか忘れてしまったおっさんは、釈然としないが、
それを見ていたガスパールが補足する。
「あなたにとっての昨日は、私たちにとっては、ずっと長い時間だったのです」
時間の流れが違っていると考えれば、確かにつじつまは合う……が、成長速度を考えると、何年か経ってることになる。
何年も……もしかして、本当に時間が経ってるのか?
「はい。7期」
ん? 考えが読めるのか?
「心当たりがあるのです」
ガスパール(テリオス)は、そう答えた。
”心当たりがある”。まあ、この態度を見れば、そうなのだろうとは思う。
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ガスパールは、この巨大な老人の口から”昨日”というキーワードが出たのを聞いて、思い当たったことがあった。
テリシアの儀式に現れなかった理由は、これかもしれない。
テリシアの儀式に現れるのを拒否したわけではなく、時間が止まっていたから出てこられなかったのではないか。
ガスパールは、以前考えたことがあった。
テリシアは言っていた。
”神様は見つけてもらわないと出てくることができない”
これが真実だとしたら、見つけてもらうまでの間、見つかる以前、神様は何をしているのだろうか?と。
だが、”昨日”という言葉に意味を考えると、どうやら、その場に留まったまま、時間が止まっているようだ。
ガスパールは、そのように推測した。
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名無しのおっさんもまた、いろいろ考えを巡らせていた。
知らぬ間に、時間が流れることがあるのか。
まずい、ヒントも無しに数年経過してしまったのか?
くそう、時間の流れが変わることがあるのか!!
そんな情報覚えていなかった。
そこで気付く。
でも、この人は動じてない。
一晩で数期経過する人は偶に居るのだろうか?
「(一晩で数期経過する)そんなことって……あるのか?」
名無しのおっさんが尋ねると、ガスパールは答える。
「うちに、来ていただければ説明します」
何か理由があるようだ。
どうやらカギを握っているのは、このガスパールとルルシアの親子らしい。
何年も経ってるのか……と考えると、
逆に、”年月が流れる必要があったのではないか?”という疑問が浮かぶ。
時間が流れる必要があったとしたら、その間に何か変化があったのではないか?
先に、調べておいた方が良いかもしれない。
ルルシアは、あのとき助ける必要があったから、俺はあのタイミングでここに来た。
だが、他の条件は揃っていなかった。条件が揃うのに何年も必要だったのではないか?
そう考えると、一応変化が無いかを確認しておいた方が良さそうだ。
「今日こそ風呂……お湯だけですが」
ガスパールが言う。
すぐに用を済ませてしまうつもりのようだが、先に調べたいことがあるので、後で寄ることにする。
「ああ、じゃあせっかくだから、後で寄らせてもらうよ」
「後で? 何か用事が?」
「ちょっと、変化が無いか見てこようと思って」
何か変化が無いか調べてみよう。おっさんは、そう考えただけだった。
だが、ガスパール(テリオス)は、きっと探し物に行くのだろうと考えた。
昔、竜と会った、当時テリオスと名乗っていた少年が、今、この時まで生き延びた理由、使命がわかるような気がした。
竜のガスパールが、話のできる人間を探し、寿命を気にしていたのは、ここまで生き延びる必要があったから。
そして、もう生き延びる必要は無い。この神様が探しに来たものは、おそらく竜のガスパールから譲り受け、今ガスパールと名乗っている自分が持っている、あの石だろう。
ガスパール(テリオス)は、そう見当を付けていた。
「探し物は、おそらく私が持ってます」
「俺が何を探しているか知ってるのか?」
「おそらく」
ガスパール(テリオス)は、わざと石のキーワードを伏せた。
横で聞いていたルルシアは、がっかりした。
この老人は、生き延びて無事育ったルルシアを妻に迎えるために探しているのかと思っていたのだ。
名無しのおっさんは、後ほど家に寄るよう約束をして、ガスパールたちと別れる。
「危ないから気を付けて」
「ああ、後で行くよ」
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名無しのおっさんは、あの父娘2人以外の、この世界の人間と、話ができないかが気になっていた。
完全に話もできないのなら、姿も見えていなくても良いように思ったのだ。
自分からは見えて相手からは見えないというのも、妙な話で、何かしら意味があって見えているのではないかと思ったのだ。
それにしても、危ないのだろうか?
あのガスパールという男は、”危ないから気を付けろ”と言った。
俺は、この世界では、あまり危険な目に遭った記憶が無い。
忘れているだけだろうか?
確か、俺は熊くらいなら殴り殺せるくらいだったはずだ。
実際、ここの人達はとても小さく、力が弱そうに見える。
まあ、俺がでかいだけなんだが。
そう考えつつ歩いていると、どうやら、他の人間からも俺が見えていることが分かった。
遠目に凝視し、近付くとチラ見する。
特に危険は無さそうだ。……人から見えると危ないのだろうか?
それとも、人以外のものからも見えるようになってしまって危ないのだろうか?
そんなことを考えていると、暇そうな女が集まってくる。
「一人でどこ行くんだ」
おお!! 話しかけてもらえた!! なんか感動した。
”俺はもう、ぼっちじゃ無いんだ……”、そうじゃない。
やっとあの親子以外と話ができるようになった。
見えているのに無視されるのは、気持ちの良いものではない。
意思疎通は可能だろうか?
「一人だと変なのか?」
女は答える。
「一人は良くないな」
おお!! ちゃんと通じる。
それはそうと、これは何語なんだろう?
俺的には日本語なんだけど。
そんな、どうでも良いことが頭に浮かぶ。
さっきも、ガスパールたちと話していたわけで、言語の問題はその時既に有ったわけだが、今まで話ができなかった人たちと新たに話ができるようになると、なんだか外人と話しているような感覚になってしまう。急に話ができるようになったので、俺が新言語を獲得したような気になったのだ。
「護衛はいらんかね?」
護衛? 護衛が仕事になる世界か。
一人で出歩くのは危ない場所なのか。平和に見えるんだが。
だが、俺の初期所持金は0だ。
そして、ここは、何かを倒しても、倒した途端に何故か金が手に入ったりはしない世界だ。
なので、金が手に入る予定もない。
とりあえず所持金が無いことを伝える。
「護衛? でも俺金持って無いし」
「俺だって」
「勇ましいことで」
5人いた女のうちの2人が言った。
俺は何か変な言葉を使っているのだろうか?
言語能力に問題があるのかもしれない。
とりあえず、断っても付いてくる。暇つぶしに寄ってきただけっぽい。
昼間っから、暇人がうろうろしてるような、そういう世界だったか?
俺は、地形とかは覚えている割に、日常生活に関することはほとんど覚えていないのだ。
それはそうと、人と話せることはわかったから、コイツらには用無いんだけどな……などと薄情なことを考えてしまう。
お使いイベントみたいなやつだと、案外、こういうのも仕組まれたことだったりするしな。
念のため、よく観察する。
重要キャラなのだろうか?
貧乏そうな身なりの女たちだ。冒険者の格好をしている。
鎧を装備しているわけではなく、作業着的な実用的な服を着た女たちだ。
俺の記憶では、定職を持たない貧乏な人たちの格好……
この世界で言う冒険者とは、そのまま冒険者、底辺野郎的な意味合いだ。
べつに、冒険者に限らず、既得権益を持たない人は皆、底辺野郎なのだが。
俺は、冒険者の言葉を日本で思い出したとき、なんで冒険者なのかと思ったが、悪い意味で冒険しなくちゃ食って行けない職業の意味で、翻訳都合でそうなっているのかと考えていた。
女の一人が、あんまり興味無さそうに聞く。
「どこから来たんだ?」
これを聞かれると凄く困る。俺はリアルな嘘ネタを持っていないのだ。
嘘を混ぜる情報すらないので、こう答える。
「遠いとこだ」
少しくらいは、突っ込み入るかと思ったのに、スルーしたまま話が進む。
「どこ行くんだ?」
「特に目的地は無い。景色を見ながら散歩してるだけだ」
「ここいらに面白いものなんて何も無いよ」
「まあ、確かに特に面白いものは無いな」
俺が何を答えても、あんまり関係ない。珍しいから寄ってきたとか、そんな感じに見える。
この調子じゃ、話は延々続きそうだ。
あの親子以外とも、話しができることはわかった。
それで十分だ。
「おまえら邪魔だ。俺は金持って無いぞ」
「金も持たずに一人で何してんだ」
追い払おうとするが、よほど暇なのか去る気は無さそうだ。
どうやって追い払うか考えていると、道を馬車が塞いでいる。
馬車が泥濘に嵌って動けなくなったようだ。
「馬車が嵌ってる」 女の一人が言った。
それは見ればわかる。
脱出に失敗して嵌ったパターンだ。
一軸(二輪)の馬車だ。馬車が片輪だけ嵌ったとき、この構造だと、ある程度傾くと、馬は踏ん張りが効かず脱出できない。
……なんで俺はそんなこと知ってるんだ?
知識の偏りに腹が立つ。
荷馬車の持ち主らしき人が言う。
「動けなくなって、困ってるんだ。手伝ってくれたら、これやるよ」
手には赤い果実を持っている。
俺にまとわりついてきた女たちの一人が言う。
「何個?」
「一人1個」
「こりゃ無理だ。1人5個だな」
「そんなに取られたら、利益出ねぇよ。じゃ、2個でどうだ」
「じゃ、2個で手打つか」
おお! 安ぅ。
なんか懐かしい感覚がした。日本だと、この程度は無償が普通。
報酬を受け取るときは、一気に高額になる。こんな赤い実なんか100個買えそうな金額だ。
5人も来たら凄い金額になる。
「おまえ、そっち、リンはそっち」
「あいよ」
さっそく女たちが、脱出にとりかかる。
この女たちは、こういう、些細な仕事をして生計を立てているのだろうか?
俺は見てて良いのだろうか?……とは思うものの、こんなんやったら、泥だらけになってしまう。
一応聞いてみる。
「俺は?」
「じじいは、役に立たねぇ」
ぐふっ(エア吐血)
”俺はじじいか? 俺はじじいなのか?”
とか思いつつも、何か懐かしい感覚を思い出してきた。
そうだ、俺はお年寄り枠なのだ。
だが、見ていると、どうも手際が悪い。
人の配分も良くない。嵌った車輪を持ち上げるところが足りてない。
柄を浮かせる方に、人の力を割いて、馬で引いた方が早そうだ。
「それじゃダメだな。柄を人が支えてる間に馬で引っ張った方が良い」
持ち主が答える。
「綱が無い。それに、馬がもう、だいぶバテててな」
仕方ないので、手伝う。
「じゃあ、お前らこの棒支えてろ」
「支えてどうすんだ?」
「押す方は俺がやる」
「押しても、どうにもならねえよ」
ダメだ。ぜんぜんやる気が無い。
俺が動かせるという証拠を見せないと、動かないようだ。
こんなの、こいつらが柄を持ち上げている間に、俺が押せば良いだけなんだが。
柄を持ち上げていてくれないと、柄がつっかえ棒になって脱出できない。
嵌ってる車輪のところに行くと、凄い泥だし、なんか馬糞とか混ざってそうで萎える。
「爺さん、腰抜けるぞ」
爺さんだと!!
ぬう。お前らは知らんだろうが、俺は、俺の世界では、年金貰えるのまだまだ先なんだよ!!!!!
まだまだ、ずっと、ずっと現役なんだよ!!!!!!
俺の世界の常識が通用しないのはわかるが、爺さん爺さん言われると腹が立つ。
「一回持ち上げて見せるから。持ちあがったら手伝えよ」
だいたいこの世界の人間には、実際やってみせるのが手っ取り早い。
「でかいからって無理」
「うおりゃ! ああああ?」
「おお?」
馬車は一瞬大きく持ち上がったが、足が地面に埋まった。
「力あっても、足場がこれじゃだめだ」
「1人でこれ持ち上げるのか。あんた凄いな」
「これなら、行けそうだ」
一気に女たちがやる気を出す。
「それより足場だ。大きな石とか無いか?」
「取ってくる」
女たちが戻ってくるが、手に持っているのは細い枯れ枝とかそんなもので、とても支えにならない。
「そんなんじゃだめだ」
「ここに、手頃な石なんか無いよ」
「あとは、こんなのしか」
そう言いつつ、足で倒木をガンガン蹴った。
直径30cm、長さは5m以上ある。こんなに長い必要は無いが、ほかに見当たらないので仕方が無い。
「いいよ、それで」
「持ち上がんないよ」
いろんなものが引っかかっているので、簡単には持ち上がらない。
「もっと短いのが良いんだけどな」
そう言いつつ、無理やり持ち上げる。
バキバキといろんなものが折れた。
「なんだ、すげー、バカ力だな」
嵌ってる方の車輪の後ろに置いて、足場にする。
「そっち、いいか?」
「いいぞ」
片足分しかないので無駄に力を食う。
「オラ」
「押せ押せ!」
ズボっという感じで、車輪が泥濘を抜ける。
だが、俺は足がどろどろで大惨事になっている。
「おお、助かった」
「凄い力だな」
持ち上がるのは力だが、押すのは力だけじゃだめだ。
「ああ、こう言うのは、体重が大事なんだよ。踏ん張り効かないだろ」
「体重の問題か?」
「体重軽いと力あっても押せないだろ」
そんなことを話しつつ、行動の意味を考える。
成り行きで、泥に嵌った馬車を救出した。
これは俺がやるべきことだったのだろうか?
RPGとかだと、人助けやお使いでイベントが進んでいくのだが。
何かフラグが立ったりしたのだろうか?
「ありがとう。この辺じゃ見かけない人だな」
馬車の持ち主に礼を言われる。
「その歳で、こんなに力あるのか」
女の方は、俺の怪力の方に興味が向いたようだ。
俺は、日本に居る時の体では、こんな怪力は出ない。
俺的には、年齢の問題では無く、この体の特徴だと思うのだが。
「そうだ、お礼」
「ああ、俺はいい。その女たちに」
倒木を元の場所に戻す。
すると、馬車の持ち主が言う。
「あんたら、凄いの連れてるな」
「俺はこいつらとは……」
そこで突然思い出した。
あ……れ???
ここでの男は、女の持ち物だった気がする。
俺はいつかこの世界で暮らしていた時、誰かが俺の所有権を主張していた気がした。
「はは、良い拾い物だった」
そうだ。やはり、俺は誰かの所有物にされてしまう。
ガスパールの言っていた”危ない”は、これのことだったか!!
野生の男は、捕まって家畜化されてしまうのだ。きっと。
今頃思い出すタイミングの悪さにガッカリしつつ、否定することは忘れない。
「いや、連れじゃない」
「もう連れだ」
「連れじゃ無いから」
俺は、大事なことなので2回言った。
「お礼、1人2個」
荷馬車の持ち主が、話を逸らせてくれた。
その間に退散する。
「付いてくんなよ」
と言ったが、言った傍から、5人ついてくる。
「あんたスゲーな」
「うち来るか。食うには困らないよ」
なんか、こんなこと以前にもあった気がするな。
なんか懐かしい気持ちが蘇った。
俺は昔、ここで、どんな暮らしをしていたのだろうか?
※おっさん主観では”昔”となっていますが、時系列的には数年後のことです。
1章の時点で、ガスパールさんは故人。
ルルシアさんは、さらに立派な、ち〇こ見る子に成長しています。




