30-11.ルルシアを助けに来た老人、その後(4) あまりにも簡単な再会
ガスパール(テリオス)は覚悟を決めた。
行けば娘の運命と、ガスパール(テリオス)の寿命が決まってしまうかもしれない。
いや、逆だ。今の状況の方がおかしいのだ。
ガスパール(テリオス)は、役目を果たし、寿命で死ぬ。
そして、娘を受け取りに、竜が人になった神様、大鎧がやってくる。
その神様は、人間の女を愛でるので、妻を大事にするという。
もしかしたら、大鎧は既に来ているのかもしれない。
……だが、大鎧は、この世界にやってきても、誰かが、見つけてあげないと出てくることができない。
テリシアは、見つけることができなかった。
おそらく、見つけるのは、この子だから。
それが、テリオスの仮説だった。
「そうか、ルルシア。じゃあ行かなきゃならないな」
「行く?」
「ルルシアが会いに来るのを、待っているのかもしれないから」
神様は、ルルを待っているのだろうか? ルルシアは待っていて欲しかった。
「待ってる? ……私を?」
「神様は、妻が死にそうになると助けに来る」
「うん」
「ルルシアは、あのとき助けられた。そして、テリシアのところに現れていない」
これは、ルルシアも気になっていた。
”ルルシアが妻だったら良かったのに”。ルルシアは、そう考えたことも、何度もあった。
でも、妹のテリシアが妻だと聞いていた。
「私が妻?」
「もしかしたら、お父さんのせいかもしれない」
「お父さんの?」
ガスパール(テリオス)は、自分が失敗した可能性があると思っていたが、思い当たることが多すぎて、簡単には説明できなかった。
それもあって、ガスパール(テリオス)は、細かくは説明しない。
ただ、ルルシアの意思を確認する。
「会ったら、きっと妻にされてしまう。いいのか?」
「私は、あの人が良い」
ルルは、はっきりと答えた。
ルルシアの意思は明確だった。ルルは、あの男を選んでいた。
その気持ちは、ガスパール(テリオス)にも理解できた。
ラグベルに、とても良く似た女性の誘いをガスパール(テリオス)は断ることなどできなかった。
だから、今ここに居る。
やはり、ルルシアは、あの時既に、妻になることが決まっていたのかもしれない。
大鎧は、ルルシアの命を救いに現れたのだ。
大鎧は、妻の命の危険が迫ったとき助けに現れるという。
ルルシアが死にそうになったあのとき、ガスパール(テリオス)は、ルルシアを竜の妻として捧げても構わないから、生きて欲しい、助けて欲しいと願ってしまった。
ガスパール(テリオス)は、不思議と竜と縁がある。
ガスパールの願いは、竜に届いてしまうかもしれない。
あのとき竜が人になった神様を呼び出し、ルルシアを妻として捧げたのはガスパール(テリオス)かもしれないのだ。
だが、娘を大鎧の妻にするために、生涯をかけたシートの気持ちを考えると、ルルシアではなく、テリシアを選んで欲しかったと思う気持ちも強かった。
ガスパールが、竜に妻として捧げる娘を変えてしまった可能性がある。
ガスパール(テリオス)は、そう考えていた。
テリシアではなく、ルルシアに変わってしまったかもしれない。
それが、本当かどうかを確かめに行くのだ。
「そうか。それじゃ、探しに行こう」
「すぐに?」
「ああ。今日は、オーテル神殿跡地にでも行ってみよう」
「え? いいけど、神殿跡地には行くなって」
すぐに出かけることには同意したルルシアだが、行先には少々戸惑った。
神殿跡地への出入りは禁止。それがルルシアに課せられたルールだった。
ガスパール(テリオス)は、ルルシアが神殿跡地に行くことを禁止していた。
神様を見つけてしまうかもしれないから。
だが、今回はその心配は無い。神様を見つけても構わないから。
なので、今まで禁止していた理由を説明した。
「ああ、以前、猿に噛まれて毒が回ったとき、覚えているかい?」
「神様に会ったとき?」
「そうだ。テリシアのところに来るはずの神様が間違って、ルルのとこに来たんじゃないかと思って」
「神殿跡地に行くとどうなるの?」
ルルは、尋ねたが、理由はおおよそ見当がついていた。
「もしかしたら、ルルが来るのを待ってるかもしれないと思ったんだ。
あの時、お父さんには見えていなかったんだ。ルルが声をかけろとしつこいからやって見せただけで」
その話は、ルルも、過去に聞いいたことがあった。
「うん」
「それに、テリシアの儀式に来なかった。
神様が待っているのは、テリシアでは無いのかもしれない」
ルルは、神様はどこかで待っているかもしれない。そんな気がしていた。
ずっと前から、そう感じていたが、今では、その思いは確信に近付いていた。
テリシアの前に姿を現さなかったから。
子供の頃ならともかく、ルルもこの歳になると気付いていた。
あのとき、ルルシアが死にそうになったとき、テリシアのかわりに、ルルシアのところに神が来たことに。
どこかの時点で、役割が入れ替わってしまった。
ルルは口には出さなかったが、テリシアを羨ましく思っていた。
あの神様は、ルルシアではなく、テリシアを連れていく。
それを羨ましく思っていた。
だが、あの神様は、テリシアではなく、ルルシアを選んだのかもしれない。
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その神様だと思われている男の方は何をしていたかと言うと、特に、行く当てもなく、神殿跡地に戻っていた。
「腹減ってきた。そういや何も食べてないもんな……俺には飢え死にする機能は付いているのだろうか?」
名無しの男は、妙な独り言を口ずさんだ。
”結局何も、わからなかった。今日は、女の子の命を救って終わり”
ルルシアを助けただけで終わってしまった。
俺はここで何をすれば良いのだろうか?
どこに行けば良いかわからず、結局、最初に居た神殿跡地に戻って、何も無いまま夜を明かす。
……………………
本人は気付いていないが、それから7期(3年半)の時間が流れていた。
朝起きると、また独り言。
「腹が減った。今日は何か食うか」
腹が減るのは良い事だ。ようやく体調も戻ってきた。
「芋でも焼いて食うか」
普通は茹でて食うが、鍋が無いので仕方が無い。
時間かければ上手く焼けるが、難しいので茹でた方が安心なのだ。
まあ、生でも食えない訳では無いが、野性味が強い。
ガスパール(テリオス)に鍋借りるか。
後にトルテラと呼ばれるようになるこの名無しの男は、行くあてないので、オーテル神殿跡地で一晩過したつもりで居た。
気付くと、新しい服が置いてある。
いつの間に?
せっかくなので、新しい服に着替える。
服は新しいのは綺麗だ。だが、体が……
体を洗いたくなったが、どうせ短期で帰る。
今日帰れなかったら、明日は体洗いに行くか。
そんなことを考えつつ。何が目的だったか思い出すために、歩き回ることにする。
また周囲をウロウロするが、相変わらず、人からは見えていないようだ。
つまり、あの親子としか話ができないようだ。
やはり、ヒントはあの親子にあると考えてよさそうだ。
「あの親子としか話ができないってことは、また話さないとダメか」
独り言を言う。
なにかヒントでも出ないかと思ったが、何も無い。
※稀にヒントが降ってくるので、本人はゲーム感覚で進めています。
幸い揺れは収まっているので、スムーズに歩ける。
他にも話のできる人が居るのだろうか?
そう考えるが、ピンとこない。
やはり、昨日の親子が鍵を握ってそうな気がした。
なんだろう? また会うような気がする。
他の人間とは、話ができないのかもしれない。
あの子は何だったのだろう。
テラを助けてはいけないという妙なヒント。
テラ以外の誰かを助けろってことだとしたら、
あの子は、テラではなかったから、既にクリアできたと思うのだ。
フラグが立って、行ける範囲が広がるとかありそうなもんだが。
そんなことを考えつつ歩き回っていると、やはり居た。
早速ガスパールの気配がある。ルルシアも一緒だ。
だが、どうやら、連れている子はルルシアではなさそうだ。
ルルシアではない、もっと大きな子だ。
片方はガスパール。昨日のお父さんだ。
だが、もう一人は昨日と違う。少し大きな子だ。
今日はお姉ちゃんを連れているようだ。
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ルルシアが反応する。
「あれ? あの人、なんで、こんなところに?」
ガスパールは驚きつつも、予想が当たっていたことに気付く。
「見えるのかい」
「見えて……ないの?」
そう言いつつ、思い出す。
神様は、見つけてあげないと出てくることが出来ない?
私が見つけないと、出てこない? テリシアではなく、私を?
ルルシアは、本格的に運命を感じる。
「やはり、ルルシアを待っていたようだね」
「私を!」
もうルルシアは涙目だった。ずっと、仲間外れにされてきた。
候補から外されていた。そう感じていたのに、神様が選んだのはルルシアだった。
その反応を見て、ガスパール(テリオス)は、本格的に、ルルシアの意思を知る。
やはり、この子は、選び、選ばれていた。
神様と人間の恋愛というのは、そういうものなのかもしれないと思う。
ガスパール(テリオス)には、姿は見えないが、気配がしてきた。
目には見えないが、そこに居るはず。竜が人になった神様が。
そう思った次の瞬間、大男が現れた。
この男は、ルルが見つけないと現れない。
神様は、見つけないと出てくることが出来ない。
テリオスは確信した。
この男が、大鎧だ。
大鎧の呪いはルルシアにかかっている。
ところが、大男が妙なことを言い出した
「ルルシアは元気になりましたか?」
「え?」
目の前に居るルルシアがわからない?
この大男にはルルシアが見えていないのか?
そう考え、焦る。
「ルルシアには、お姉ちゃんも居たのか」
お姉ちゃん? 大鎧はやはり、上の子のことを知っている?
ガスパール(テリオス)は、そう考えたが、そうではないことがわかる。
「ルルシアは私です」
「え? ルルシア?」
ルルシアは頷きつつも、心配そうな顔をする。
「テリシアって言う妹が居る?」
「はい」
ガスパール(テリオス)は、そう答えつつも、疑問を持つ。
ルルシアの上の子を知っているわけではなく、ルルシアがわからないようだ。
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ルルシアの気持ちは一気に沈んだ。
待ちに待ってやっと現れた、この大男はルルシアではなくテリシアを探していた。
もうルルシアは、死んでしまいたい気持ちになった。
そして、一方の名無しのおっさんも、心の中は修羅場を迎えていた。
”なんてことだ!昨日助けた子はテラじゃないか! 失敗した!!!”
「それじゃ、昨日の子は……」
昨日?
一瞬驚いたが、ガスパールは気付いた。この神様にとって7期前のことは昨日のこと。
おそらく、ルルシアと会わなかった期間、ずっと時間が止まっていたのだ。
そこで、話を合わせる。
「あのときは、助けてくださってありがとうございました」
ルルシアの背中をトントン押して促す。
「あ、あの……ありがとうございました。
あの時助けて貰わなければ、私は今ここにはいなかったと思います」
「俺は、この子も助けたのか?」
そこでルルシアは、勇気を振り絞って言う。
「あの、あの時助けてくださった方ですよね?」
「猿に噛まれた毒だって言ってたっけ?」
「そうです」
確かに、こんな感じの子だが、昨日は小学生になったばかりって感じに見えた。
この子はもっと上に見える。
あの時? 昨日をあの時とは言わないよな?
この名無しのおっさんもまた、正解に近付いていた。
わざと、時期を言う。
「昨日、ルルシアという子、もっと小さな子が調子悪そうで」
ガスパール(テリオス)は確信した。やはりそうだ。
見つけられるまで、神様の時間は止まっているのだ。
「ああ、そうですね。わかりませんか、この子がそのルルシアです」
「もっと小さい子だったと思うんだけどな」
神様は見つけてもらうまで出てくることができない。
見つけることができるのは、妻だけで、大鎧が待つ妻はルルシアだったのだ。
ガスパール(テリオス)は、なんだか報われた気持ちになった。
この日まで生きることができて良かった。




